ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

マクドナルドの開けてしまった消費税のパンドラの箱

こんにちは、らくからちゃです。

政府は「あーれれー?消費税の駆け込み需要が無いぞぅ(´・ω・`)」と嘆いているそうですが、弊社カスタマーサポート部門はコミケとコミティアが同時に来たような大忙しでございます。人のことは言えませんけど、登校日前に宿題の存在を思い出した小学生みたいな会社員が多すぎです┐(´д`)┌

やっと消費税に関する最終的な対応が報じられていることからも、外部の人からもドタバタっぷりはなんとなーく伝わっているかなあと存じます。特に今回同時開催の「軽減税率」なる摩訶不思議アドベンチャーなイベントについては「やっと決めたんかい」という話がチラホラと出てくるようになりました。例えばこんなのね。

www3.nhk.or.jp

マクドナルドの消費税に関する方針の概略

本記事の内容について、もう少し噛み砕いてみましょう。

軽減税率の適用対象は、自宅で飲食するケースに限られ外食の場合は対象外とされています。よってマクドナルドのような店内飲食も、持ち帰りも出来るような業態の場合

  • 店内飲食・・・通常税率10%
  • 持ち帰り・・・軽減税率8%

と相成りますね。じゃあ支払いをするときに「持ち帰りますわ」と言っておいて、「やっぱ気が変わったー」とその場で食べちゃったらどうなるんだろね?追加で消費税分だけ払うの?みたいな話が出るわけですよ。

で、それに対する今回マクドナルドの決めた方針は下記の通り。

【1】分かりやすく利便性を重視した価格設定・価格表示の継続

・ 「店内ご飲食」と「お持ち帰り」の税込価格は、これまで通り統一
・ 税込の価格表示を継続
・ 税込価格は全商品で10円単位を継続
【2】約3割の品目で税込価格を引き上げ、約7割は税込価格を据え置き、全体では加重平均※1で税抜価格の引き上げとならないよう設定

【3】お客様にお得感・納得感のあるバリューメニューを、これまでと変わらない価格でご提供

消費税率引き上げおよび軽減税率制度の実施に伴う対応につきまして | McDonald's Japan

まず値段は店内でも持ち帰りでも同一の金額になります。じゃあ税率は10%固定になるのかというと然に非ず。あくまで顧客の申告に基づいた税率で計算されるものの、

  • 店内飲食の場合は税抜単価を引き下げ
  • 持ち帰りの場合は税抜単価を引き上げ

を行うことで、店内飲食であれ持ち帰りであれ支払金額は同一となる仕組みです。

会社の経費で落とそうと思っている場合はさておき、一般の消費者が飲食するぶんには、店内飲食でも持ち帰りでも金額は同じなので「とりまテイクアウトってことにして店内で食ったれ」みたいな不正(?)は出ないでしょう。

じゃあこれ、結局消費者は得をするのか損をするんでしょうか。

基本税率が上がるわけですから、商品レベルで店内飲食されるものは税込価格を引き上げ、軽減税率対象となる持ち帰りされるものは御値段据え置きであれば、全体としてはプラマイゼロです。

今回は「税抜ベースでみた加重平均価格は変わらないようにする=便乗値上げではない」を重視して価額調整をしているみたいなので、実際に持ち帰られる可能性が高いかどうかはあんまり気にしていないようですが、見ていると低価格帯商品は値上げ、セット商品は御値段据え置きとするみたいですね。

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とはいえ「税抜価格ベースでみた金額は引き上げない」を是に考えると、税込価格は一律で10%上がるわけですよね。でもテイクアウトで注文するお客さんはいるわけですので、総合的に見れば「値上げ」ということになりそうなんでしょうけど、いかがなんでしょうか。(詳しい内部の計算式がわからないので良くわかりませんが)

また今後長期的なことを考えると、お客さんが「テイクアウトで」と言うと、消費税が2%分下がるわけですけど、これで得するのはお客さんじゃなくて店舗側のほうになるんですよ。

そうすると軽減税率導入の前提となった「低所得者層の食費に掛かる消費税を軽減したい」という建前が崩壊してしまいますよね。

また導入当初の現時点では「軽減税率を選んでくれれば店舗側は得をする」状態ですが、裏返しにすれば「軽減税率を選んでくれないと店舗側は損をする」ことになります。さらに言えば「店舗で食べる場合(外食扱い)の消費税は店舗側が負担する」とも解釈できるわけです。

これに対して、ずっと国民に対しては「消費税は消費者の負担」として示されてきましたが、これで消費者はこう思うかもしれませんね。

消費税って消費者が負担する税って形式を取ってるけど、もしかして店舗側負担する税なんじゃないのか?

消費者からみた消費税と業者からみた消費税

「我々はレシートに書かれた"消費税"って金額を負担していて、それが納税されるんでしょ?」が一般市民の感覚でしょうけど、実際の徴税事務はだいぶ異なります。

www.yutorism.jp

レシートに書かれた金額を全部払うとなると、消費者の手許に届くまでに経由する企業の数(言い換えれば発行された領収書の枚数)分だけ、税額が増えることになります。例えば消費者の手許に届くまでに2社経由する必要のある商品の場合下記(税率10%と仮定)

  1. A社→B社 売価 100円 + 税10
  2. B社→C社 売価 200円 + 税20
  3. C社→消費者 売価 300円 +税30

これで合計60円を払うのではなく「受け取った消費税 - 支払った消費税」を税務署に納付することで、最終的に消費者の負担した30円を原資に、B社は10円、C社は20円を納税出来る!というのが財務省の理論です。

ご丁寧に図まで用意してくれていますが、この図は後ろから見ていけってことですね。最終的に消費者の負担した税が、それぞれの事業者のところに落ちていって、売上 - 仕入の差分に税率をかけたものを収めればよいでしょ、ということを言いたいらしいです。

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(出典:消費税に関する基本的な資料 : 財務省)

でもこの図、シンプルに見てもじっくり見ても「消費者が負担するっつうより、業者の利益に掛かっている付加価値税」に見えません?

その税は誰が負担するのか

「消費税みたいな庶民いじめの税をあげるよりも、法人税を上げろよ!!儲かっている会社から金取れ!!」みたいな声はよく聞きます。

まあでもそれは大企業の株主が、「うええーん、増税されちゃったよう。悔しいけどちゃんと払わないとなあ」と言いながら、自分が貰えるはずだった利益を削って納税することを想定してますよね。でも開き直って「え、税引き後利益減るの嫌だよ。売値を上げるか、労働者の賃金減らそうぜ」と言い始めれば、その増税分は消費者や労働者に転嫁されてしまいます。

結局増税分を誰が負担することになるのかは、各々のパワーバランスで決まります。

消費税も2%の増税分を粛々と消費者に転嫁できることを前提に考えることも出来ますが、消費者が受け入れられない場合、税込み価格を固定して増税負担分は事業者の利益を削って収めることになるケースも考えられます。

「租税帰着」に関する議論の一旦になるわけですが、そのへんは下記にまとめてみましたのでご興味があれば是非。

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本来自由な競争をするのであれば、最終的に増税分を引き受けるのが誰になるのかは、取引のなかで決まります。しかし消費税に関しては、お上から"確実に消費者に負担させるべし"というお達しが出ているんですよね。

その例として「増税分はウチで巻き取ります!」みたいな言い方をするのはNGと明白に示されています。

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これを見た方の中には「あれだけ消費者イジメの税として悪名名高いのに、なんでそんなことするの?」と思うかたもいらっしゃるでしょう。理由をざっと上げると

  1. 消費税は事業者側から見ればメチャクチャ重たい負担の税
  2. 消費税は事業者側の協力がなければ成り立たない税
  3. 消費税は間接税であって痛税感はいずれ薄まる税

みたいなものがあげられます。

消費税を事業者側の負担となる税として考えてみましょう。我が国の法定実効税率(法人税やその他利益に掛かる地方税)は35%ほどと言われています。でもまあこれは、あくまで諸々支払ったあとの利益に掛かる税ですね。

一方、消費税を事業者負担の「付加価値税」であると仮定すると、売価の2%の税になるわけです。小売業の売上総利益(粗利)率は、だいたい27%だそうなので、計算しやすいように25%で考えてみましょうか。

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例えば、売上高4000万円だとすると、粗利率25%で粗利は1000万円ですね。そこから家賃だの光熱費だのの諸経費を引いて800万円くらい手許に残るものとしましょう。この会社が2%の消費税負担を引き受けると負担総額は80万円になります。税率10%で利益の1割が吹き飛ぶ計算です。となるとオーナーや従業員のお給料の原資も1割ぶっ飛びます。

消費税を「粗利に掛かる税」と考えると、「所得(最終利益)に掛かる法人税」と比べるとかなりの重税になります。故に、競争力のない中小企業にとっては、増税分を取引先・消費者に転嫁できないことは死活問題に繋がります。

また広く言われるように、消費税は徴税効率の良い税制ですが、事業者の協力があって初めて成り立つものですから、事業者が嫌がるような仕組みであってはならないわけです。

また課税主体側としては、「消費税の痛税感はいずれなくなる」という思惑もあります。

法人税や所得税などの直接税は、最終的に自分の支払う金額を目にするので「高いなあ」という感想を持つこともあるでしょう。(所得税については、源泉徴収の仕組みで上手にごまかしてますけどね)でも日々の支払いの中で生じる消費税については、小さく・細かく集めるため、総額でどの程度負担しているのかは、中々気づきません。導入当初は「高っ!」と思っても、いずれ皆慣れます。

以上の事由により、消費税は「消費者に押し付けられるべき税」と当局は考えているんですよね。

マクドナルドの開けてしまったパンドラの箱

ところがどっこい「軽減税率とかもう面倒くさくて付き合ってられんわ」を錦の御旗に、今回マクドナルドが「勝手によしなにやるで」と宣言してしまったことで「あれ、消費税ってもしかして自分たちの払うべき税じゃなくて、向こう側でよしなにやってくれれば良いんじゃない?」と思うようになれば、次に来るのは「消費税の増税分を消費者に押し付けるなよ。企業努力で回避しろよ」なのかもしれません。

今回のマクドナルドの判断は課税当局からしてみれば、諸々耐え難い内容を過分に含んだ物であり、激オコにさせる可能性も十分にあるでしょうに、よくぞやりやがったなコンチクショウ、みたいに思っている人も多いやもしれません。

個人的には、そもそも「外食=贅沢=軽減税率対象外」って前提が間違いな気がするんですけどね。

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 それはさておき、今回の決定は、将来的に有る種のパンドラの箱を開けるものにつながる可能性もあるんじゃないのかなー、なんて傍目からは心配しております。そこに希望が残っていれば良いんですけど、残っているのは絶望だけかもしれませんけどね。

ではでは、今日はこのへんで。