こんにちは、らくからちゃです。
2019年10月1日開始予定の消費税増税に向けて、各社システム対応の動きが(やっとこさ)活発になってきました。特に今回は、軽減税率なる百害あって一利無しのオマケまでついてくるため、現場の混乱は必死です。日々こんな思いで仕事をしております。
議員二告グ
— らくからちゃ (@lacucaracha) 2019年3月12日
一、今カラデモ遅クナイカラ軽減税率ハ辞メロ
ニ、支持スル者ハ全部逆賊デアルカラ落選サセル
三、オ前達ノ選挙区民ハ国賊トナルノデ皆泣イテオルゾ
毎日、議事堂の方に向かって「頼む...止めてくれ...!!」と拝んでいるのですが、残念ながら今のところ効果はありません。このままの流れだと、リアルガチで実施されそうなので、泣きながら過去に導入されたシステムの状況を分析しております。
さて2019年10月の消費税増税ですが「消費税率は食品は8%、その他は10%となる」というのが、皆様の一般的なご理解かと思います。システム屋としては、この手の乗率が登場する計算をするシステムを開発・改修する場合、どういったタイミング・単位で端数処理を行うのか?が結構重要なポイントとなったりします。
でもそんな話、普通はくっっっそツマンナイ話にしかなりません。ただ消費税の端数処理に関しては、消費税がどういう設計思想になっているのか?と割りと密接に絡み合っていて、「なるほど、そういうことか」と、誰かに話してみたくなるような内容でしたので、ちょろっと書いてみたいと思います。
なお筆者は税理士資格保持者ではありませんし、本稿はあくまで個人的なメモにしか過ぎず、内容については保証しかねます。だいたい雰囲気で書いてます。その前提で聞いて頂ければ幸いです。
消費税の基本的な仕組み
まず「そんな事は知っとるわい」と怒られそうですけど、消費税の基本的な仕組みについて復習しておきましょう。
例えば下の絵は、消費税率8%を前提として、75円で仕入れた野菜を、100円で消費者に売った場合のケースです。生産者のひとには、本体分の75円に加えて6円分を支払います。お客さんからは、本体分の100円に加えて8円を受け取ります。税務署には、受け取った8円 - 支払った6円の差額の2円を納めますよね。
じゃあ、端数がでるような場合ってどうなるんでしょうか。
例えばものすごーく極端な例として、本体価格1円で商品を売ったとしましょう。これをマジメに計算すると、
- 本体 1円
- 消費税 0.08円(8銭)
となりますわな。現代日本では、1円未満の単位の法定通貨はありませんので、端数分は支払う手段がありません。じゃあこれを四捨五入すると、消費税はゼロ円!この取引を1万回繰り返しても、お客さんから消費税を取らなくても済むし、税務署にもお金を払う必要はありません!!
とはなりません。
消費税の原則は総額表示&割戻計算
買い物の際に、あれーA店とB店だと、B店のほうが随分安いぞと思ったら、A店は税込表記で、B店は税抜き表記だった、なんて経験がある人は少なくないと思います。金額を比較するときには、「税込価格」なのか「税抜価格」なのかは結構重要なポイントですよね。
表記がバラバラだと混乱が発生しちゃいますので、政府は2004年から「総額表示(税込価格)」で表示することを求めています。まあ税込表記のほうが、国民に消費税額を意識させることがなく、痛税感も低いと思っているのやもしれません。
ただ小売店側としては、
- 価格を少しでも安く見せたい
- 自分たちの責任範囲外のコストは含まず表示させたい
- 増税時の対応にかかる手間を減らしたい
などなどの理由で、税込価格で表示を求めてきました。そしていつの間にやら、諸々の簡単な条件を満たせばしれっと特例として認められ「隣の店が外税なんだったら、うちも外税にしておかないと高く見えるじゃん」と、なし崩し的に大半の小売店が外税表記に戻ってしまっているのが現状です。
それはさておき「総額表示」というの考え方は、いまの消費税の考え方のベースにある「割戻方式」と比較的相性の良い考え方です。
たぶん皆様の頭の中にあるのは「税務署に収める消費税額は、税抜価格に税率をかけて計算した消費税額を合算して収める」というイメージかなあと思います。レシートの上に「消費税分」と書かれた金額を積上げて納税するような考え方は「積上方式」と呼ばれます。
一方、現在採用されている考え方は「割戻方式」と呼ばれるものです。
これは総額表示を前提として、取引された税込価格の合計額から、割戻計算(いまの税率だと8÷108)をした金額が、消費税額だという考え方です。税込価格に消費税額を足して考えるのではなく、年間の取引総額から消費税額をはじき出すといったイメージになります。
総額表示&割戻方式のほうが、取引ごとの誤差が含まれず、より実際の税率に近い徴税ができます(言い換えれば、意図的に端数を調整されることを回避できます)し、事務処理としてもシンプルです。
これから消費税で起こること
で「軽減税率導入にあたって何か端数処理に大きく変わることがあるのか!?」という点については、現時点ではあまりないんですよね。最終的に税務署に提出する書類としては、こんな塩梅です。
消費税の軽減税率制度に関する申告書等の様式の制定について(法令解釈通達)第3-(2)号様式 より加工
ちょっと注意しておきたいのが、現在の8%と軽減税率適用対象の8%は別々に分けて管理しなければなりません。消費税というのは、そのうちのいくらかが地方消費税として、地方自治体に分配されます。地方への分配率が、消費税増税と同時に上がったこともあり、若干内部的な税率に差が出てるんですよね。
- 現行 :国税 6.30% + 地方税 1.70% = 8.00%
- 新一般税率:国税 7.80% + 地方税 2.20% = 10.00%
- 新軽減税率:国税 6.24% + 地方税 1.76% = 8.00%
経過措置対応(諸々の条件を満たした上で、受注が10月1日より前で、10月1日以降に販売されたもの)の対象となるケースなどもありますので、単純な税率だけでは判断がつきませんけど、課税計算としてはそれぞれの税込売上高がわかれば、税務署への申告はできるはずです。
対お客さん向けの請求書等については、当面は区分記載請求書等保存方式に則ったものを発行せにゃならんようになります。(注文書や見積書等については、法的には対応不要のはず)
ポイントは、
- 軽減税率対象の品目等を明記すること
- 軽減対象・対象外の取引総額を明記すること
この2点です。軽減税率の対象になるかどうかの判定については、イートインはどうするだの、オマケのほうが価値が高そうなビックリマンチョコはどないするんやとか、色んな論点がありますけど、請求金額そのものの計算への影響はありません。
「総額表示」&「割戻方式」の原則は保たれますので、それを対象税率ごとに集計できれば事足りてしまうんですね。
ところがどっこい厄介なのは2023年より開始予定の適格請求書等保存方式に対応した請求書の作成への対処です。
いまの方式だと、消費税のかからない免税事業者からの仕入額も、しれっと消費税を支払ったことにできてしまい、消費税のちょろまかしができてしまいます。それを避けるため、ちゃんとした登録された事業者からの仕入かどうかの記録を残しとけ、という趣旨で始めるようです。
各所で「日本版インボイス」なんて呼ばれ方をしていますけど、インボイスナンバーの付番は必要なく登録番号さえ書いとけばオッケー( ̄ー ̄)b という代物なので、インボイスを名乗るにはちょっと残念なレベル感のような気もします。
じゃあ何が厄介なのかというと、消費税に関する基本的考え方が「総額表示」&「割戻方式」から「外税表示」&「積上方式」に変わることなんですよね。
割戻方式だと、消費税額は一番最後に売上高・仕入高から計算しますので、極端に言えば請求書上の消費税額は参考情報程度の位置づけとなります(もちろん法的な枠組みはありますし、実務上、そこの金額にこだわる会社は往々にしてございますが...)。
積上方式では、請求書上の消費税額は、納税額にダイレクトに影響します。そのため、法的にも端数処理のルールはガチガチに定められてくるわけですし、その金額をしっかり会計上も反映しなければならなくなります。
消費税の端数処理に関するルールも、
- 請求書単位で計算して端数処理すること
- 各税率単位で計算して端数処理すること
となります。
こうした処理をシステム側では想定していないケースも結構あり(そもそもそんな前提じゃなかったですし)、大掛かりな改修になる場合もあるのですが、そのへんがよくわからない偉い人から見れば「帳票の項目ちょっと増えるだけなら、2023年の作業も前倒ししてやっとこうぜ」とかるーい気持ちでお願いされてしまい、内定者の手も借りたいくらいパンパンの現場の負荷が更に増すことになります。
ぶっちゃけた話、考え方というか発想としては、軽減税率の導入以上に、適格請求書等記載方式の影響のほうがデカくない?と思うことすらあります。
たかが端数処理されど端数処理
端数処理なんていうのは、随分と細かい枝葉の部分になるように思いますけど、案外おっかけていってみると「もともとこういう設計思想だから、こうすべきである」という話に行き当たることも多く、掘り下げてみると中々面白い場合もあります。
ただそうした「なぜなに」の部分についての"物語"を独学で理解するのはとても大変です。消費税に関しては、岩谷先生の下記の本が、かなりしっかり分かりやすく書かれておりましたので、消費税に関連するシステム開発・改修に携わるかたには、ご一読をおすすめいたします。
(弊ブログの下手な解説よりも、よっぽどしっかりとしたプロによる解説がコッテリ記載されております)
まあ最後にもう一度だけ、文字を大にして言っておきますけど
軽減税率は百害あって一利無しなので止めろ
現場からは以上です。