ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

消費税は本当に弱い者いじめの税なのか

こんにちは、らくからちゃです。

そろそろ気がつけば、2019年も後半戦に差し掛かろうとしておりますが、皆様進捗いかがでしょうか?基幹業務系のお仕事をしていますと、10月に迫った消費税の対応が目白押しで、精神と時の部屋が欲しい状況です(ヽ´ω`)

私のようないち会社員は、粛々とお仕事をこなすだけすが、こうも「弱い者いじめ」と悪評高い消費税に関わる仕事をしていますと、まるで首切り役人にでもなった気分です。

ご承知の通り、消費税が弱い者いじめと言われるのは、高所得者でも低所得者でも必要最低限の消費に対しても税が課されるため、収入に対する税の比率では低所得者のほうが高くなるためです。いわゆる逆進性の問題ですね。

ただ消費税のお仕事を長らくやらせて頂いておりますと、否が応でも消費税というものに対する見え方が変わってきます。そうすると、消費税の問題=逆進性の問題とそう簡単に結論づけて良いのかなあと思うこともあります。

で、タイトルのようなことを考えながら、色々な資料や論文を眺めていたんですよね。

世の中にはタイトルだけ読んで「消費税が悪税なのは言うまでもないだろ」と、鼻息荒く議論をする余地すらなく食って掛かってくる人もいらっしゃいますので、先に個人的な見解をまとめておくと、

消費税は確かにイケてないけど、それって逆進性云々の話だけじゃないよね。

ってところです。確かにその問題はあるのですが、一旦脇において、むしろ「消費者の負担は増えない」と仮定して考えてみると、また別の問題が見えてくるような気がします。

なお本稿は、素人の勉強ノートのようなものであり、記載のレベルについてもその程度のものとご理解ください。好きなこと書いて良いじゃない。ブログだもの。

逆進性とはなにか

まずは「逆進性」ってなんだっけ?ってところからおさらいしましょう。

一般に、収入が応じて使うお金の金額は増えます。しかし食費や光熱費などの支出は、お金の有無に関係なく発生します。貧乏なひとでも生きていくためにある程度は使いますし、逆にお金があるからといって電気代を無駄遣いしようにも限度があります。

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(家計調査2018年分より筆者作図)

直近の家計調査の結果から、年収を10段階にランク分けして整理してみると、一番低い平均126万円の階級ではほぼ100%が消費税の掛かる消費に使われています。ただ一番高い平均1311万円の階級では37万円にしか過ぎません。

ちなみに、外食費が収入に占める割合も、年収が上がるにつれて下がっていきます。改めて、軽減税率の対象から外食費を外す意味がよくわかりませんな。

www.yutorism.jp

 消費税は、この消費支出に一定の税率をかけて計算されますので、低所得者ほど収入に占める税率の割合が高いのは、このグラフからも明々白々です。次にちゃんと考えなきゃいけないのは「消費税って本当に消費者が負担する税なの?」ってところだと思うんですよね。

消費税は誰が負担するものなのか

この問題を考えるにあたって、改めて消費税の仕組みを振り返っておきましょう。

消費税は、ものを買った人・企業が、その金額に一定の割合をかけた金額を預けて、その金額が税務署に納税されるというふうに理解されています。レシートに書いてある「消費税」の金額を、消費者が負担したというイメージですよね。

税を負担すべき人=消費者と、税を収めるべき人=納税者が異なっている「間接税」の一種であると教科書にもバッチリ書いてあります。

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消費税の税率が上がれば、消費者の負担が増えて逆進性の問題が発生すると考えるのは、あくまで消費者が増税の負担を被ることが前提です。消費税が上がったときのシナリオを整理すると

  1. 貯蓄に回す分を減らして支払額を増やす
  2. 消費を減らして支払額は増やさない
  3. 売り手側がその分の値引きをして利益を削る

の3パターンが考えられます。

1や2のケースだと、消費者がダメージを受けることになり、低所得者ほど収入に対して被る負担感は増えます。ただ3のケースに着目して考えて思考実験してみると別の世界観が見えてくるんですよね。

例えば、酒税について考えてみましょうか。

チマチマと酒税が上げられるたびに小売価格の見直しが行われますが、「酒税が10円上がったんで、小売価格も10円増やします」と、その全額が常に消費者に転嫁されるとは限りません。企業努力の名の下、生産性を改善したり、新しいなにか別の飲み物を生み出したり、利益を削ったりすることで対応が行われています。

法律の上で、誰が税負担を担うのかなんて、名目的で一時的な話に過ぎません。

例えば、大企業に対する法人税が増えたとしましょう。一時的にそれを負担するのはその企業であり、間接的にはその株主です。しかし株主が「税引き後でこれだけしか利益か残らへんなら、別の中小企業に投資するで」と圧力をかけられれば、頑張って生産性を改善するか、従業員の給料を削るか、あるいは販売価格を引き上げるしかありません。

結局、最終的な税負担がどこに帰着するのかは「租税帰着問題」という中々興味深い議論があるんですけど、関係者のパワーバランスにもよりますので、そう単純な話ではありません。

消費税に関しても単純に「消費者の負担が増える」とみなして良いのかどうかは一考の価値があるわけです。

消費税は本当に間接税なのか

レシートに書かれた消費税の金額を見るたび「高いなあ」とため息をつく日々ですが、少なくとも現状において、実はその金額には大した意味がありません。

例えばどこかのスーパーが、毎月20日と30日は消費税ゼロデー!みたいなセールを行ったとしましょう。しかしレシートに記載される「消費税」の金額がゼロになったとしても、スーパーは税務署に消費税を収めねばなりません。

そもそも消費税って「割戻方式」で計算するんですよね。

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一般消費者のイメージは、外税表示された「消費税部分」を積み上げた金額を税務署に納めるんでしょ?だと思います。実際の納税額は、原則としては税込みの総額分を、税率で割り戻した金額を税務署に納めるルールとなっています。

例えば「税込108円で売買した」ことを前提に、8/108した8円相当分を税務署に収めることになる。勝手に100円にしたら、約7.4円が消費税になるだけです。

実際の納税額は、ざっくりいうと売上高 - 仕入高、つまり売上総利益に近い金額に税率をかけた額を納めることになります。

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売上高から別の企業への支払いを差し引いた金額を「付加価値」といいますが、海外では消費税について「付加価値税」と呼んでいる通り、事業者側の立場で見れば消費税とは付加価値に対して課される税であると考えることができます。

こうなると法人税と同様に直接税のようなもんになります。じゃあ付加価値に対する税と法人税を比較するとどうなるのかというと、

  1. 償却費は生じず取引時に一括処理される
  2. 仕掛品や原材料の期間按分がない
  3. 人件費、金利、地代にも税が掛かる

のように言えます。1・2は期間按分の話ですので、小さくはありませんが本質的な話ではありません。一番問題になるのが、人件費に対して税がかかっている点かなあと思うんですね。

例えば、A社とB社の2種類の会社があったとしましょう。

A社は、他社から仕入れてきた原材料を自社で雇った技術者できちんと加工して他社に販売しており、企業としての利益は少ないものの、しっかり人件費を負担している。一方B社は、アルバイトに検品だけさせて納入しているので利益額は大きい。

この2社に対して課される付加価値税は、前者のほうが高くなっちゃうんですよね。

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先程述べたとおり、課税額は一時的な負担であって、最終的な負担は関係者のパワーバランスで決まるものですが、インセンティブ設計として利益がまだ出せるフェイズになっていない会社への負担が大きいのってどうなのよ?との感覚もあります。

消費税って本当に効率的なの?

ただ「消費税が消費者の負担になるとは言い切れない」なんて言われても、納得いかない人も多いでしょうし、実態として消費者の負担は必ず増えます。消費税が企業の負担にならず、消費者に確実に負担されるよう、ずーっと頑張ってきた背景があるからです。

事業者からの反発を回避するため、外税表示を認めて「消費税が上がったんだから売価が上がって当然だよね」というふうに誘導してきました。一時的に総額(内税)表示には移ったものの、消費者が負担する税であるという形式はずっと継続してきました。

仕向地主義があるため税還付の処理が必要などの理由もありますが、一旦消費税を「付加価値に対する直接税」として捉え直すと、それはそれで別の問題が見えてきます。

消費税を評価する理由として、「ヤクザでもコンビニには行く。消費税はヤクザからもお金を取ることの出来る税だ。」という主張があります。

でもそれ、消費税の負担者が消費者である間接税であることが前提じゃない?

付加価値に対して課せられる直接税だとすると「ヤクザの経営する店から消費税を取れるか?」という話になるのですが、それは税務当局の努力次第じゃね?ということになります。

また「消費税は法人税と比べてシンプルでわかりやすい仕組みだ」との主張もよく耳にします。

確かに法人税は、減価償却やら売上原価の計算やら、何かと七面倒臭い費用の期間按分の手続きがあり、諸々ごまかしもしやすいシステムなのも確かです。だったら中小企業にこそ消費税(付加価値税)をきちんと払って貰って、所得税(法人・個人)は一定規模以上の会社だけにしたら?と思っちゃうんですよね。

消費税は、課税売上高が1000万円以下の会社には納税義務がありません。

シンプルで分かりやすい仕組みだというのなら、彼らにこそキチンと納税してもらい、逆に手間の大きな所得税はパスするような方が、理にかなっているような気はします。その分、人件費分は除外するなどのケアは必要でしょうけどね。

まだまだ調べていく都度、「あれ?」と思うことが湧き出してくるのですが、税の負担そのものは確実に増えます。ただそれを、誰がどのように負担していくのかは、しっかり考えて行かなきゃなあと思う次第であります。

ではでは、今日はこのへんで。