ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

インボイス制度導入は何がヤバいのか

こんにちは、らくからちゃです。

消費税増税から気づけば2週間近くが経とうとしていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。弊社では、予想通り予想外の自体が頻発しておりますが、なんとか生き延びております。

今回の増税&軽減税率導入にあたり、企業向けシステムでは「区分記載請求書」への対応が、ひとつ大きな対応課題でした。これで全て片が付いたのかといえばさにあらず、2023年度導入予定の「適格請求書」への対応が控えております。

何がちゃうん?と言われますと、区分記載請求書には①税率別の売上高②軽減税率の対象となる品目の明記が必要です。適格請求書には、上記に加えて③税率別の消費税額④発行元の登録番号(法人番号) の明記が求められます。

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(画像出典:消費税の軽減税率制度とERP(第2回)――適格請求書等保存方式(インボイス方式)とは

この「適格請求書」が、俗に「日本版インボイス」と呼ばれるものです。

インボイスとは、請求書のことです。海外では、請求ごとに一意となるインボイスナンバーが付されたインボイス(請求書)が発行されます。これが税務上「確かに支払った」「確かに受け取った」ことの証明となるため非常に重要な書類です。

会社が税務署に納める消費税は、お客さんから受け取った消費税から他の会社に支払った消費税の差額になります。2023年度以降は、この請求書が無いと他の会社に支払ったと見做されなくなります。

よく考えたら日本の請求書には、発行元を一意に特定できる情報もなく、こんなん適当に発行し放題の状態でした。そこで「ちゃんと誰から買ったかハッキリ分かるようにしとけや」ということとなったわけですね。(個人的には、インボイスナンバーも無いものをインボイスと呼称するのは気が引けるのですが...)

ちゃんと記録を残すのは良いことですが、その煽りを食う形で、今まで消費税を払っていなかった免税事業者への支払いが、仕入税額控除の対象から外れることになります。影響が直撃する免税事業者は大問題だと大慌てしていますが「今まで消費税をちょろまかしてきた人たちからも、ちゃんと払わせるようになるだけやろ」という見方するひともず居ます。

確かにそういった考え方もありますが、免税事業者を悪者にするのはどうなんだろうなーと思うんですよね。

消費税はどんな税金か

皆様御存知の通り、消費税とは消費活動に掛かる税金です。

税率が10%の現在、100円のものを買うと、10円分の消費税を加えた110円をお店に支払います。

じゃあお店はこの10円を税務署に納めるのかというとちょっと違います。

このお店が商品を60円で仕入ていたとしましょう。するとこのお店も別の会社に6円の消費税を払っています。この6円分は、仕入れた取引先が税務署に払ってくれるはずですよね。よってこのお店は、差額の4円分を納税額します。

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こうして全ての事業者の払った「受け取った消費税 - 支払った消費税」の差額を合算すると、消費者の支払った消費税と一致します。

仮に、支払った消費税を差し引けないと、取引の段数が多いタイプの商品ほど、多額の消費税を払うことになります。そうすると取引の方法に政府が介入することになりので、それを避けるためにこうした仕組みとなっています。

なお余談ですが、アメリカには消費税がない代わりに売上税という税金があります。最終消費者に販売する段階だけで税を取る仕組みですので、仕組みは大きく異なりますが、結果的には割りと似たような仕組みです。

消費税を負担するのは誰か

消費税は、実際に税を負担する"担税者"と、税務署に納める"納税者"が異なる「間接税」です。

でもいくらレシートに「○○円分は消費税です」と書いてあったとしても、消費者が負担したのかどうかについては、コインの裏表みたいなもので、この金額をどう見るかで変わってきませんか?

例えば「送料は出品者が全額負担!!」と書かれていても、うわああ!メッチャお得やんけ!!と思うより、普通は送料は支払金額に含まれてるんだなと判断して、送料別+送料を足した金額と比較してから買いますよね。

消費税についても一旦、事業者側の視点でみれば、また別の見え方が出来ます。

消費税は、売上高 ✕ 税率で受け取った消費税から、仕入高 ✕ 税率で支払った消費税の差分で求めます。言い換えれば(売上高 - 仕入高) ✕ 税率になるわけですね。

この売上高 - 仕入高を会計学では「売上総利益(粗利)」、経済学では「付加価値」なんて言い方をします。厳密には、販管費扱いの経費なども仕入に含めなきゃなりませんし、在庫調整等の話もありますから、こんなシンプルな話ではありませんが、一旦このイメージで話をすすめていきましょう。

そうすると、事業者から見た消費税ってこんな図のイメージになります。

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事業者側からみると、消費税は付加価値✕税率が課される税という感じにも見えるんですね。

付加価値は、ある経済実体が生み出した経済的な価値の総額です。付加価値から、賃金や地代、配当金などが支払われます。中小零細事業者で、粗利=利益となる企業からすれば、消費税とは「賃金✕消費税率」と読み替えることすら出来ます。

そのへんの考え方については、下記記事もご参照ください。

改めて補足すると、消費税はあくまで消費者が最終負担する税として制度設計されています。事業者負担だとすると粗利の10%近くが課税対象になる事業者にとってものすごく重たい税になります。

視座を変えて見てみると、また景色が違って見えるよね。みたいな話をしているのに「何を言っているんだ、消費税は消費者が負担する税だ」と言われると、なんだかこんな気分になります。(なかなか味わい深いコメ欄だった)

消費税は本質的に消費者負担の税なのか、それとも事業者負担の税なのかという議論は、普段の状況では特別重要なトピックスではありません。本件が一番問題になるのは、通販の送料もですが、値上げ(増税)時にどちらが負担を吸収するのかという状況になったときです。

 免税事業者とは何か

以上の話を踏まえた上で、消費税の免税事業者という仕組みを改めて考えましょう。

消費税の免税事業者とは、諸々の条件はありますが売上高が1000万円未満であれば、消費税を収めなくても済む制度です。概要は下記が分かりやすいかと思います。

keiei.freee.co.jp

「駄菓子屋さんは消費税を払わなくても良い」と聞いたことがあるひとも多いと思います。例えばメルカリで物を売った時も、いちいち税務署に消費税収める必要があるとしたら大変ですよね。免税事業者は、消費税において「個人」として商売が出来る制度と考えたら分かりやすいかな。

同じ110円の商品を買ったのに、そのうちあるお店は消費税を払っていない。なんて聞くと「なんかズルい」「じゃあ消費税分は取らず値引きしろよ」と言いたくなりますよね。

感情論はさておき、買った相手が消費税を払ってなかろうと、あなたが損をしたわけではありません。また税務署に消費税を収めなくとも済む一方、自らが支払った消費税を控除することも出来ませんので、消費税分丸儲けって訳でもありません。

ただやはり「全ての企業が売上と仕入の差分に税率をかけたものを収めれば、消費者の収めた税を納税できる」という趣旨からすれば、ふしぎな制度です。

なんでこんな制度あるんだ?ってところですが、一応「消費税の事務手続きは色々面倒やん。せやから零細企業は免除したるねん」ということになってますけど、いまいち腑に落ちません。法人所得時の減価償却だのなんだのと比べたら、消費税なんて売上から仕入を差し引いて税率をかけるだけなんで、俄然簡単じゃないっすか。

財務省の「ホンネ」は、特に消費税導入当初のころ、中小企業が消費税を要求することが難しく、実質的な付加価値に掛かる直接税となる例を回避するってところが大きかったんじゃないのかな、と思うんですね。

でもね、いまとなっちゃ害の方が大きくなってる気がするんですよね。

導入当初は3000万円未満で免税事業者になれ、税率は3%でした。でもいまや1000万円を超えたら、いきなり10%の税率を負担してもらうようにお願いするのか、それとも自分で被るのかの選択が求められます。

誰がズルをしているのか

また消費税が10%にもなったことから、税務署としても、いままで有耶無耶にしてきた免税事業者からの仕入額の扱いを適正化する必要が高まってきました。

消費税の考え方に則ると、仕入額にかかる消費税相当分は、仕入先が支払ってくれるので、特に納める必要はありません。この考え方に則ると、仕入先が免税事業者の場合は、売上分と相殺するのはおかしな話になります。 

ただこれは、現在国税庁から公式に認められています。

消費税の納付税額は、課税期間中の課税売上げに係る消費税額からその課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額(仕入控除税額)を控除して計算します。
この場合の課税仕入れとは、事業のために他の者から商品などの棚卸資産の仕入れのほか、機械や建物等の事業用資産の購入又は賃借、原材料や事務用品の購入、運送等のサ-ビスの購入などをいい、その課税仕入れに係る相手方が課税事業者であることを要件としていません。

No.6455 免税事業者や消費者から仕入れたとき|国税庁

これはどういうことかというと、売り手が消費税を収めていないのに、買い手の消費税から売り手納税分を差し引いて処理できちゃうということです。f:id:lacucaracha:20191011233120p:plain

課税事業者が免税事業者と取引すると、その分の税額を吹っ飛ばすことが出来るということです。税率が低いうちはお目溢しいただけたのかもしれませんけど、10%にもなれば、ちゃんと対応してもらわないと消費税制度そのものへの信頼が揺らぎます。

それを避けるために、ちゃんと課税事業者だけが適格請求書(インボイス)を発行できるようにして、白黒はっきりさせようというのが狙いになります。

しかしこのままインボイス制を導入すると、免税事業から仕入れていた会社は、いままで出来ていた控除が使えなくなり消費税相当分の負担が発生しますね。そのまま買い手に負担して貰えればよいのですが、「飲めないよ」と言われれば、免税事業者としては

  1. 免税事業者を返上して消費税を支払い、適格請求書を発行する
  2. 免税事業者は継続するが、買い手の負担分を被る

といった選択を取らないと、取引相手として選ばれなくなります。どちらを取るにせよ、インボイス制度が導入されると免税事業者は売上の10%の手取りが無くなる計算になります。

とはいえこれ、冒頭であげたように「本来収めなきゃならない製造会社が消費税分をちょろまかしていた」のでしょうか?少なくともルール上は何も問題あることはしていませんし、現実には「御社消費税掛からないんだからまけてよ」と飲まされていた可能性もあります。

そうすると悪いのは買い手か?というと、こちらもルールに則り適切に処理してただけです。また免税事業者なんて零細企業から調達している企業は、そもそも小さな会社であることが多いでしょう。「免税事業者に負担を押し付けるな」と言われても、こちら側も吸収できる余力があるのかどうかは怪しいところです。

考えてみると、免税事業者の制度は、零細企業との取引への補助金になっていたと言われても仕方ないでしょう。その補助金をそろそろ廃止しようね、という見方も取れますが、何にせよ額が大きいのでインパクトは絶大です。

特に痛いのが、フリーエンジニアなどのフリーランサーです。

ほぼ売上高=個人所得のフリーランスの場合、免税事業者を返上すれば使えるようになる仕入税額控除もほとんどなく、実質的に10%の単金減額と同じ効果になります。ぶっちゃけ駄菓子屋よりもヤバい状況です。

インボイス導入後に起きるかもしれないこと

これだけインパクトが大きなルール改正ですので、経過措置として免税事業者からの仕入税額控除も初めの3年間は80%、その後の3年間は50%を認めることになっています。

インボイス自体は海外では当然ですし、インボイスなしの免税制度自体、過去の政治的な妥協を引き継いだ負の遺産でしかないと思いますので、その導入自体は是非すすめる必要があると思います。ただ本当にこの期間の間で消費税額を誰が負担するのかについて決着つけられるのかなーと思うと、どうなんだろうねえと思わざるを得ません。

2%の増税でもすったもんだしてるのに、10%分の負担増についてどういう綱引きになるのかは、やってみないと分からない箇所も多いでしょう。

個人的には、免税事業者制度は廃止し全ての事業者を課税事業者とした上で、一定額まで消費税の支払額を法人所得税から直接控除できる仕組みにするとかのほうが、スッキリしてて良いような気もします。(赤字企業はどないするねんという話はまた考えにゃなりませんが)

どんな大企業であっても、必ず零細企業だった時代があります。また地域にしっかりと根ざして、コミュニティの核として頑張っている会社だって多数あります。

インボイス制度の導入は、必要なことだと思いますが、極めて慎重に行わないと、日本の未来も、地域経済も根こそぎ破壊する恐れがあります。また我々も、この政策を適切に評価するために、改めてひとりひとり「消費税」という仕組みについて、じっくり考えなきゃならないのかもしれません。本記事がその一助となれば幸いです。

ではでは、今日はこのへんで。