ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

QRコード決済がクレジットカード・非接触型決済に圧倒的に勝っている部分

こんにちは、らくからちゃです。

なんだか巷では、paypayが1日限りの20%還元キャンペーンを企ててみたものの、アクセスが集中しすぎてダウンした話で盛り上がっているみたいですねー。

togetter.com

20%還元と言っても、キャッシュレス還元事業のぶんも込みで20%なんでしょう。実質は15%〜18%やん。d払い/QuicPayの残高も残ってることだし別にいっかーと思ってスルーしましたけど、巻き込まれた人はご愁傷さまです。

さて最近は、経済産業省が旗振り役となって「キャッシュレス還元事業」が進められるなど、話題に事欠かないキャッシュレス界隈ですが、色んな人から

『QRコード決済なんて面倒くさいだけで全然使えないよ。店舗側の導入費用は安いのかもしれないけど、クレカやSuicaの普及した日本じゃ全然不要だね。すぐにポイント還元率も下がって、誰も使わないようになるよ』

的な意見を耳にします。

まあたしかにねー。毎日なんたらpayを使ってますけど、わざわざスマホを立ち上げて、アプリを探して、QRコードを表示させてというステップを踏まねばならない点に関しては、イラっとする部分が多いのは全く同意です。

それに導入費用云々といっても、最近はカードリーダだって、Squareあたりがタダみたいな金額(いまなら実質無料でしたっけ?)で配ってますし、そこが優位性になるとも思えない。

うーん、でもだから「QR決済は滅ぶ」のかと言われれば、何かもっと違う見方が出来ないのかなーなんて思うんですよね。

違うのは「決済方法」なのかな?

そもそも、いわゆるQRコード決済とクレジットカード決済や、SuicaやEdyなどの非接触IC型決済って何が根本的に違うんだろうねー、というか、我々がQRコードを読み込んだり、クレカを機械に通したり、おサイフケータイを端末にかざすときにやっている行為って何なんだろうか?改めて再定義してみると、アレって「利用者の特定と認証作業」なんじゃないでしょうか?

つまり、一時的に利用者と事業者をペアリングする方法が違うってことなんだと思うんですよ。

 そう考えてみると、Suicaなんてザルにもほどがありますよね。もちろん犯罪なのでダメですけど、落ちているカードを拾っちゃえばそのまま使えちゃう。利用者=所有者のごくシンプルな仕組みです。

クレジットカードだって実に危うい仕組みです。確かにカード自体に4桁のパスワードが付いたり、ネットショッピングの際には3Dセキュアによる認証を求める仕組みは出来ましたが、未だにカードを通してサインするだけ、ネットショッピングの場合はカード表面上に記載されている情報だけで「本人」と認められてしまう。あとあの暗証番号入力、店員さんは一生懸命隠してくれますけど、全く安心感ないですよね。

そういう視点で眺めてみると、QR決済って結構優秀ですよね。

現在一般的に普及しているQR決済の仕組みは、スマートフォンにログインして利用することが前提です。どこまでマジメにスマホ管理するのかはユーザーに依存しますが、そこさえキチンとされていれば相当セキュアですよね。

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最近発売されているスマホには、指紋認証はほぼ標準装備と言っても良いくらいつくようになりました。物によっては、顔認証だの虹彩認証までついています。

昔は毎回パスワードを打つのが面倒くさくてパスワード設定していなかったひとも沢山いました。しかしセキュリティ意識の高まりに加えて、認証の手間が減ったことにより、かなり多くの人がスマートフォンにパスロックしている状態で利用しているものと思われます。

あと大量に発行されたクレジットカードが一枚なくなっても「あれ、家においてきちゃったかな」くらいに思ったあとで忘却の彼方に押し込めるひとも、スマホを失くしたら大騒ぎしますよね。

クレジットカードの不正利用額は、保有者の増加に伴い年々増加しています。

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(出典:クレジットカード不正利用被害の集計結果

基本的にクレジットカードが不正利用されたときの損失を利用者は被らなくてもよいようになっています。しかしそれは逆に言えば、他の誰かがこの費用を負担しているってことです。

全体の決済総額が70兆円くらいあるらしいので、割合からしたら大したこと無いでしょうけど、予防や対応のためのコストは全て手数料や価格に跳ね返ってきます。また闇に消えたお金がこれだけあるのは社会的にもよろしくないでしょう。

その時間を活かす方法

あとセキュリティ面の話だけじゃなくて、QR決済のその「面倒臭さ」がメリットになるシチュエーションもきっとあるんじゃないかなーって思うんですよね。

例えばよく耳にする話ですけど、こんな小咄がありますよね。

話の舞台は、ある大きなオフィス・ビルである。

 そのビルの支配人は、最近、「ビルに設置されたエレベーターの待ち時間が長い」と店子からクレームを受けることが多くなっていた。

 何人かの店子は、

 「エレベーターが改善されなければ引越もやむをえない!」

 と支配人を脅した。

 困った支配人は、エレベーター・システムの設計の専門家をよんで、「事情」を調べさせた。

 専門家たちは、エレベータシステムの動作やキャパシティを子細に分析し、シミュレーションを行った。その結果、下記の解決策を見いだした。

 1)エレベータを増設する
 2)エレベータの機種変更を行う
 3)新たに開発されたエレベータ制御装置を新設する

 要するに、専門家たちは、大幅なコストをかけて、エレベーターを増やすか、取り替えるか、関連する装置を新設しないかぎり、店子から寄せられたクレームの問題解決は行えないことを明らかにした。
 また、同時に彼らは損益分岐計算を行い、そのためにかかる費用は、このビルの収入からすると大きすぎることを発見した。
 かくして、エレベータシステムの改善を行うという問題解決は、完全に「デッドロック」したかにみえた。

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 絶望的になった支配人は、やけになって、部下を招集し、事態を相談した。
 早速ブレインストーミングの会議が開かれ、多くの代案がだされた。しかし、結果として、満足のいく解決策は提案されなかった。
 議論のペースが落ち、話の切れ間にきたとき、それまで口を開かなかった人事課の新人で若いアシスタントが、おずおずとひとつの提案を行った。

「各階のエレベータの前に、大きな鏡を置きましょう。それで問題は解決するのではないでしょうか」

 支配人はじめ、ブレインストーミングのメンバーは、皆、その提案に同意した。

 2~3週間後、エレベータシステムに対するクレームは、一件もなくなった。

NAKAHARA-LAB.NET 東京大学 中原淳研究室 - 大人の学びを科学する: 問題解決にとって重要なこと

いわゆる有名な「エレベーターホール問題」ってやつですね。

エレベーターホールの待ち時間が長い!!と怒れる顧客が居た場合、普通はエレベーターの速度を何とか上げる方法を考えます。顧客が怒っていたのは「待つ」時間が長いことであって、その時間を別の目的に使えるようにしたら良かっただけだった。という話です。

案外「決済のためにスマホを立ち上げなければいけない」というのも、こういう話で解決できたりしないのかなー、なんて思うんですよね。

例えば、

  1. 決済完了と同時に、次回使えるクーポンを表示させる
  2. お店や店員の接客の評価をレビューしてもらう
  3. 家計簿アプリと連動させて予算の状況を表示する

などなど、決済をトリガーにスマホの画面で何らかの情報を提供する、あるいは作業をさせる行為につなげるための活用のアイデアは、わたしのような素人でもドサドサ湧き出します。

スマホと決済が紐付けば何が出来るんだろう

そういや最初にQR決済を触った周囲のひとたちが感動していたことに「利用時の通知が即飛んでくる」というものが有ります。

何度説明しても「不正利用が怖い」というひともいますし、家計簿アプリに連携させたら現金より分かりやすいやろと言っても「何に使ったのかわからないのが怖い」というひともいます。そういう人にとっては、通知が即時手元のスマホで見れるのは「画期的なこと」だったようです。

でもこれ、何もQR決済ならではって訳でもないと思うんですよね。

クレジットカードでも設定さえちゃんとすれば、すぐに通知を飛ばしてくれる会社はありますので、技術的な課題ってわけじゃない。

じゃあ何が違うのかというと「QR決済はスマホありき」なんですよ。

端末と決済との紐付けという面倒くさい部分は、もう終わってるので、ちょっと手の込んだサービスも気軽に使って貰いやすいですよね。

例えば、ハンバーガー店向けの「事前注文サービス」みたいなものを作ってQR決済で受け取れるような仕組みを作ったとしましょうか。

  1. 事前にメニューを見て注文する
  2. 受け取りの店舗・時間を指定する
  3. QRコードを見せて引き取る

こんな感じかな。別にコレ、最後の部分がアプリに紐付けたクレジットカードでも成り立つんですよね。一番わかり易い例が、飛行機のクレジットカードでの発券かな。あれみたいな感じの仕組みにしようと思えば出来なくはない。

でも

  • ユーザーレベルでしか認識できず個別の処理には対応できない
  • ユーザーがクレカを紐付ける必要がある
  • クレカ番号を吸い上げて利用できるアプリを作らなきゃならない

などなど、ほんのりと壁が上がります。

その小さな壁が「便利さ」を周知するためには、深い溝になったりするケースって結構多いんじゃないかなー、なんて思うんですよね。

こんな感じのアプリも色々と作ろうと思えば考えられますよね。例えば、購入明細を電子レシートとして送ってみたり、外食で注文した内容からカロリーを計算してみたり、以前買ったマンガの続刊が出たら教えて貰ったり。

繰り返しになりますが、クレカやSuicaを紐付けて同じ様な仕組みが出来ないわけじゃない。

こうした仕掛けをQR決済でやる利点は、その場でアクションを促すことが出来ることです。例えば「決済してから30分以内にインスタに投稿してくれたらポイントあげるよ」みたいな仕組みを作りたいとき、紐付けたクレカやICカードをトリガーに発火するようにしても、それに気づくのは家に帰ってからかもしれません。まさにスマホを操作中に次のアクションを促せるのは、QR決済方式の大きな利点のように思えます。

逆説的かもしれませんけど、現状のQR決済が既存のクレジットカード決済や非接触型決済に圧倒的に勝っているのは「ユーザーに決済時にスマホ画面を操作させる」というアクションを強制させられるというところにあるのかもしれません。無論、手間が掛かる分、それに見合った「ご褒美」は必要になります。残念ながらいまは使用時のキャッシュバックくらいしか有りませんが、考えればネタは多そうです。

QRにも決済にもこだわる必要はない

さてこうやってあれこれ考えてみたら「スマホでユーザーの紐付けをして認証もしちゃう」ところがキモであって、もはやQRだの決済だのにすらこだわる必要はないような気もしますね。

QR決済って、ざっくり

  1. 店舗側が発行したQRを利用者側読み込む
  2. 利用者側の表示したQRを店舗側が読み込む

の2種類があると思うんですがね。2はとにかく、1ってそもそも「QRコード」である必要すらないですよね。

飲食店なんかに多いタイプですけど、わざわざQRコードを読み込まなくても、GPSで位置を特定して、近隣店舗の一覧を表示させて、それを選んで決済させるだけでも十分機能するはずです。

そう考えると特に不正利用の多いネット決済なんかにはもってこいですよね。決済アプリを立ち上げさせて、承認してもらうだけでOKです。

あと何も必ず「支払」を伴う必要もない。

Suicaのロッカーキーみたいに、利用者に確実に紐づくことを保証できるのであれば、入退室の管理なんかにも便利かもですね。Suicaよりも認証が一手間かかるぶん、より安全でしょうし、生体認証まで取れないケースなんかには良いかもしれませんね。

こうやって考えていくと、随分と夢が広がります(笑)。

結局、コネクションを取るところは何だって良いので、QRの部分がNFCに変わり、Apple Payみたいな方式が覇権を取るのかもしれませんけど、これから色んな部分で「インフラ」として活用されていく例はあると思います。

例えばいま、「おーいお茶」にQRの抽選券がついてますけど、こういうプロモーションをやるためのハードルも下がっていくでしょうしね。だからこそ、今回みたいなシステムダウンが起こらないように、しっかりやって貰いたい次第です。

ではでは、今日はこのへんで。