こんにちは、らくからちゃです。
昨年末に、全自動エスプレッソマシンを買ってから、牛乳の消費量がかなり増えました。豆は、値段も味も、色んなお店で吟味しながら買っています。その一方、牛乳はどこのスーパーで買っても、金太郎飴みたいに同じ値段で売ってますよね。
いままでは「ふーん、変なの。どっかが安く売ってくれりゃいいのに」くらいにしか思っていませんでしたけど、先日テレビ東京で放送されたガイアの夜明けにて取り上げられた酪農業界の実情を拝見いたしまして
闇深すぎじゃね?
と思いましたので、掻い摘んでまとめさせていただこうと思います。
バターは何故高い?
牛乳もですが、牛乳から作られるバターやチーズもなかなか良いお値段がしますよね。実際問題、ここ最近の価格推移ってどんな感じなのかな?と思って調べてみました。
下のグラフは、統計局が発表している消費者物価指数時系列データより1970年を100%としてその後の推移を整理してみました。牛乳・チーズ・バターに加え、米・卵も図に加えてみました。
こうやってみると、米は94年の米騒動でピークをつけたあと、95年の規制緩和以後一貫して下落傾向に入っています。卵は「物価の優等生」と言われるだけあって、比較的物価は安定しています。牛乳の価格は、80年台以降ずっと安定してきましたが、チーズ・バターは2000年に入ってから高騰し、チーズで24%・バターで35%も上昇しています。
なんでこんなことになるんやろ?と調べてみたところ、加工のコストがかかるチーズやバターより、牛乳のままのほうが利益率良い。そこで、儲かる牛乳から需要を埋め、余力でチーズやバターを生産しているため、供給量の減少がダイレクトに影響するんだとか。
酪農家も「なり手不足」が深刻化していますし、ある程度は仕方ないのかな?と思うところもありますが、よく考えてみてください。足らないなら、海外から輸入するって手もあるじゃないですか。バターの輸入は実質的に政府の管理下に置かれ、輸入品には実質360%を超える関税が課されていると主張するひともいる。
そこまでして保護してるのに、どうして酪農家は増えないのか?間に入っている誰かが、何かをしているんじゃないのか?そう思いません?
牛乳が家庭に届くまで
牛乳の商流は、他の農作物よりもやや複雑です。
酪農家の生産した生乳は、農協を通して、地域ごとに定められた全国に10ある指定団体へと販売されます。その後、乳業メーカーに販売され、パックに詰められたり、パターやチーズといった製品に加工され消費者の元へ届きます。
(出展:指定団体制度の概要)
牛乳という「商品」は、
- 生物であり生産者での保管が効かない
- 輸送に特殊な設備が必要で参入障壁が高い
ため、生産者が乳業メーカーと一対一で取り引きをしても交渉力が弱くて負けてしまう。そうすると安定的な供給が行われず、社会全体の損失になる。そうした考えのもと、全国10の指定団体を窓口にしているわけですね。
(出展:指定団体制度の概要)
この考え自体は分からんでもないのですが、地域独占の組織をおいてしまうと、生産性の改善が遅れ腐敗が生じるのは、経済学における自明の理です。電話会社も、電力会社も自分で選べるのが当たり前のいま、当然、納入先だって自由に選べるべきですよね。
でまあ自由化してみたのは良いのですが、「これってどう考えても嫌がらせじゃね?」としか思えないアレコレが噴出している状況みたいなんですよね。
1.売ってなくても金は払え
まず最初のケースは、自由化によって新規参入したMMJに対して生産者が取り引きをしようとしたケース。図にするとこういうケースですね。
新規参入したMMJは、設備投資や固定費を圧縮することに寄って、指定団体よりも生産者から高く買取る体制を整えます。
その額キロあたり6円。6%近く高く買い取ってもらえるため、生産者によっては数百万円から、多いところでは数千万円の増収になるのだとか。真っ当な経営者なら、当然検討しますよね。
よっしゃー!と喜び勇んで契約を進めていたところ、農協側から「不可解」な1キログラムあたり0.5円の「賦課金」の支払いを求められます。契約を進めていた生産者にとっては年間120万円近い負担になります。
なぜ、売らないのに金を払わなければならないのか?
耐えかね、公正取引委員会まで駆け込んだところ、さすがにこれには公取もおこになり、書面での注意を出すことになりました。
2.すぐ金を払え
不可解なケースはこれだけには済まないようです。お次は、加工業者がMMJに対して取り引きを開始したケース。
福島県の従業員30人の小規模な乳業メーカー、福島乳業。震災後の風評被害にも苦しむなか、MMJの力を借り起死回生の一手としてブランド牛乳の製造を計画します。
ところが、そのことが新聞で報道されるや否や、取り引きのあった指定団体から、圧力とも思えるような動きが始まります。
当時同社は、指定団体に対して一億円を超える負債を抱えていました。それを理由として、前金でなければ取り引きをしないと一方的に通告を行います。当然、小売店からの入金までにはタイムラグがありますので、これでは資金繰りが厳しきなって当然。
更に、小売店からの支払いに担保設定を行い、直接指定団体側がキャッシュを抑えるような動きまで行います。
追い詰められた同社は、半年とたたずに工場を閉鎖。
指定団体側は、「債権をすべて回収しきれていない。こちらも被害者だ」と言いますが、資金繰りに直接打撃を与えるようなことをすれば、どうなるのかくらいは分かるはずでしょう。
これじゃあ、反逆者への見せしめと思われても致し方ない。
3.規約上売れない(ことにした)
これだけでも十分お腹いっぱいなのですが、まだあります。
少しでも農協との対立を避けるため、直接MMJと取り引きをするのではなく、農協から一部をMMJへもおろして欲しいと。そういう風に持っていこうとした例もありました。
そうすると帰ってきた答えは「販売規約上、農協系統外へは取り引きができない」という答え。
しかし改めて規約をじっくり読むと、「販売は原則として系統機関に委託する」と謳っているものの、「系統機関外に販売するときは予め取引先を選定し、取引制度及び取引条件等を定めと行わなければならない」との記載もあり、規約上禁止されているわけじゃあない。
それでもなお「原則は原則。例外はそういう風に使えるもんじゃない」と農協側は要求を突っぱねてきますが、売ってもいないのに賦課金を徴収するように変えてきたことを思えば、なぜそこは頑なに規定を遵守するのかと、疑念を抱かざるを得ない状況です。
そもそも、誰のための農協なんだと。農業協同組合法の第一条にはこうあります。
農業協同組合法 第一条
この法律は、農業者の協同組織の発達を促進することにより、農業生産力の増進及び農業者の経済的社会的地位の向上を図り、もつて国民経済の発展に寄与することを目的とする。
原則というのであれば、この大原則に背いていないのか。しっかり胸に手を当てて考えてほしいもんです。
あなたも部外者じゃない
牛乳に関しては、もっぱら飲むのが専門で、作ることも加工することも売ることもズブの素人ですので、正直状況がしっかり理解できているとは言えません。TV東京側は「自分たちの既得権益のために生産者や消費者にしわ寄せがきている」と主張していますが、その主張がどこまで妥当なのかは吟味が必要でしょう。
とはいえです。やはり、いち消費者としては、今までに無かったものにチャレンジする人たちは応援していきたいじゃないですか。
放送を見ていて、素晴らしいなあと思ったのは、ただコストを削減していくだけじゃなく、新しい商品をきちんと作ろうとしているところなんですよね。そりゃあそうです。指定団体を通さない取り引きが一般化していけば、あとは大資本の殴り合いになります。その中で生き延びるためには、何よりも周囲の支持が必要になります。
既存メーカーよりも安く、そして美味しい。そんな商品を作ろうと日々奮闘しているようです。
貿易の自由化によって、酪農も世界的な競争の中に晒されていきます。コスト競争では、大陸の大規模な事業者と真っ向勝負することはできないでしょう。しかし、味や品質ならばどうでしょうか。世界でも最も食品の品質に厳しい日本において、鍛え上げれば、日本の乳製品の未来はきっと明るいものになる。
その未来を作るのは、消費者ひとりひとりである。そのことを忘れちゃいけない。そんな風に思う今日このごろでございます。
ではでは、今日はこのへんで。