こんにちは、らくからちゃです。
資産運用をするならインデックスを買え。iDeCoを使えば節税にもなってなお良いぞ。なーんて話は、近頃小学生でも知ってるんじゃねえの?と思うくらいによく耳にするようになりました。
とにかくいろんな人が「iDeCoは節税になる」と言っているわけですが、改めてよく考えてみると、どうも腹落ちしないところがある。
もう少し深掘りしてみると、節税どころか税負担が増える可能性だってある仕組みだってところを、ちゃんと理解して使われているのだろうか?とふと疑問がよぎったので、整理も兼ねてまとめたい思います。
iDeCoの節税効果って?
まずiDeCoはすごい節税効果がある!!といわれている仕組みについて振り返っておきましょうか。
そもそもiDeCoって何かというと、確定拠出年金と言われるものの一種になります。
毎月掛け金を支払い、証券会社の提示している金融商品の中から自分で好きなものを選んで運用を行う。拠出したお金は60歳以降にならないと引き出せません。将来に備えて自己責任で運用できる自分用年金が作れる仕組みですね。
それだけの話だと「お母ちゃんにお年玉を預かってもらう」ようなもんで、わざわざ必要になったときに使えないように不自由にしておくメリットはない。
でも「iDeCoは良いぞ」と言われるのは、税制上の仕組みを使えるからですね。よくiDeCoには以下3つの税制上のメリットがあると言われます。
- 拠出時:掛け金が全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)
- 運用時:運用益が非課税
- 受給時:退職所得控除 or 公的年金控除
おさらいがてらにそれぞれ見ていきましょう。
1.拠出時:掛け金が全額所得控除
iDeCoで拠出した掛金は、全額所得控除となります。
みなさんお給料から所得税や住民税といった税金が天引きされていますよね?あの金額は、皆さんが受け取ったお給料に応じて決まります。所得控除とは、その金額を税金の計算上ノーカンにするってことです。つまりiDeCoに積み立てた金額は、貰っていたお給料から貰っていなかったことにする。よってその分の税金が下がるってわけです。
住民税は一律約10%ですが、所得税は所得の金額に応じて段階的に税率が上がっていきますので、どれくらい税金が減るかは人により異なります。それでも、少ない人でも15%、一番多い人なら55%も税金が返ってくる計算になります。
所得税や住民税の計算方法については、以前懇切丁寧に書いた記事があるので、よければこちらをご参照ください。
楽天証券にてシミュレーションがあったので試してみました。
大卒で22歳から入社し60歳まで38年間、平均年収は500万円で積み立て上限額の23,000円拠出した想定にしてみました。
な、な、なんと。
年間55,200円、38年間合計で210万円近い節税額になるそうです。
2.運用時:運用益が非課税
通常、銀行預金の金利や株式の売買益や配当金、投資信託の分配金には、約20%の税率がかかります。
老後資金は、長期間の運用をするお金です。しっかり複利の力で運用していけば、相当な利益が生まれます。その20%は結構バカにならない金額になります。
先程の楽天証券のシミュレーションで、毎年3%のリターンが得られる想定で計算すると、38年間で支払った元本1050万円は、1950万円になり900万円近いリターンを得られる計算になりました。
これに20%課税されれば180万円近くの税金を払わなければなりませんが、それが無くなるのも魅力的ですね。
3.受給時:退職所得控除 or 公的年金控除
iDeCoで運用したお金は、60歳以降に一括でまとめて受け取るか、分割して受け取るか、あるいはその両方を組み合わせて受け取るのかを選べます。
銀行口座からお金を引き出すには、ATMの手数料はかかるでしょうけど、そこで税金が掛かることはありません。iDeCoは「年金」として運用するものですので、受取額には所得税・住民税がかかります。
といわれると、ゲッっておもいますが、ご安心を。受け取りの際にも手厚い控除がつくので実際のところ税金はそれほど気にしなくても大丈夫!受け取り方に応じて
- 一括:退職所得控除
- 分割:公的年金控除
が使えます。
退職所得控除は、運用期間に応じて
- 20年目までは毎年40万円
- 21年目以降は毎年70万円
ぶんが割り当てられ、更に残った金額の半分が控除されます。38年間拠出すると2060万円の所得控除枠が割り当てられますので、税金を払う必要がありません。
というわけで拠出時と運用時の節税額の合わせて約400万円をゲット出来る!
すごい!強いぞiDeCo!というのが基本的なストーリーです。
iDeCoの3つの嘘
じゃあ何が気に入らないんだてめえはというと、このストーリーって実はすごく無理のある話なんですよ。
まずは拠出時の節税効果と言われているもの。
iDeCoというのは、つまり「お金を受け取るタイミング」を、現在から将来に付け替えているものです。将来の税負担が増える分、いまの税負担は減らさないと筋が通らないので減らして貰える。それだけの話しで、節税と言われるとちょっと違う。
次に運用益が非課税と言う話も怪しい。
1000万円を拠出してその分は控除されるが、受け取る1900万円に対して課税が行われるということは、900万円の含み益にも税金がかかっているということです。表面上は非課税でも、二重で税金を取ることないだろうということで免除されているだけに過ぎない。更に言えば、通常の金融所得課税は(いまのところ)一律約20%ですが、iDeCo受給時の税率は総合課税です。よって最大55%が課税される可能性すらある。
実は最後の受給時に退職所得控除が使えることが、iDeCoの節税効果の正体なんです。
将来に所得をつけかえるが、その将来では退職所得控除があるから課税されない。含み益も、割の良くない総合課税の対象になるが、されもすべて退職所得控除でカバーされるから税金はかからない。こう考えると、全て辻褄があいます。
なら良いじゃねえか。何を心配しているんだ?と問われたら、回答はシンプルです。
何十年も先にiDeCoの受給額は退職所得控除を受けられるのだろうか。
です。
退職所得控除が使えなければどうなるのか
退職所得控除の仕組みは、定期的にその是非について議論が行われる仕組みです。
21年目以降に枠が増加するのは同じ企業に勤務し続けるフルタイムの無期雇用者への税制優遇であり、働く会社を固定させ働きかたの強制になっているとの批判は常にあります。また勤続期間枠を差し引いて残った金額を更に半額にするのも、いまよりもずっと累進課税の度合いが強かった時代の仕組みの名残であり、もう要らんやろとの意見もあります。
さらに言えば、よしんば退職所得控除が維持されたとしても、今後の貨幣価値の変動に合わせて増やして貰える可能性も少ないでしょう。
いきなり廃止!なんて乱暴なことはしないでしょうけど「退職金は個人年金勘定として受け取ったときだけ非課税とし退職所得控除は実質廃止。公的年金控除だけ認める」なんてロジックなら、いまの貯蓄から投資への動きにもマッチします。
更にiDeCoについては「iDeCoってもともと"確定拠出年金"やん。そろそろ退職金の代わりをさせるのは辞めて、公的年金控除だけ認めるべきでは」との声を耳にしたこともありますし、同じような動きを取る可能性もあります。
でその「公的年金控除」も年寄りのもらいすぎ批判から、縮小の方向にあります。
(出典:Chapter1 個人所得課税---平成30年度税制改正 : 財務省)
いまは年金以外にも1000万円の所得があるウルトラ高所得者しか影響がありませんが、今後はこの基準も引き下げられる可能性があります。
あとこの枠は、厚生年金等との相乗りですから、現役時代にいっぱい頑張って働き沢山年金を納め、iDeCoでコツコツ積み立てをして、株式を中心にリスクを取った運用をしてきたひとほど、ガッポリ課税される可能性があります。
ぶっちゃけいまの50代くらいのひとは、退職所得控除の枠に駆け込みセーフで逃げ切れると思うのですが、そこから先どうなるのかはかなり不透明です。
節税効果の正体
ここまでの議論を改めて整理しましょう。
拠出時の所得控除は、将来への税の後回しであって本来節税と言えるものではありません。また運用益の非課税も、受給時の課税額の中に加味されていることを考えると、表面的なものでしかない。
じゃあ何の意味もないのかというと、改めて考えると、iDeCoによる節税効果って
- 受給時の控除による節税
- 受給時の税率低減効果
- 課税繰延の時間価値
じゃないのかなあと思うんですね。
ただし、受給時より大きな控除が受けられることを節税効果と呼ぶことはできます。また仮にこれが無かったとしても、500万円の収入より100万円の収入に掛かる税率は低いためその分の負担軽減効果もあります。また課税が繰り延べられることによる時間価値も無視できません。
なおiDeCoの議論でよく話題に上がる「特別法人税」とは、3の価値に対してかけられるものですが、金利も低い状況ですので、ずーっと凍結されています。積立金額の1%近くと、中々ヘビーな税ですので、その復活を恐れる声はよく耳にします。
ですが、本当に怖いのは、1の裏付けとなっている「退職所得控除」の廃止でしょう。
これがなくなれば、分割受け取りをせざるを得なくなります。そして公的年金の受給額とセットになれば、「高額所得者」とみなされる可能性も生じ、2の効果も怪しくなります。
ここまでの話は、すべて「仮定」の議論であり、将来どうなるかはわかりません。しかし、いま謳われているiDeCoの節税効果も「仮定」の話でしかなく、本当にその価値があるかどうかは、受け取ってみるまで分からず、受給時までは常に税制リスクを伴うことになります。
そもそも保有資産額の少ない人向けの節税を全面に出している「つみたてNISA」などの仕組みと比べると、iDeCoの本来の目的は「老後の備え」です。
その点において、iDeCoに拠出した金額は自己破産したとしても差し押さえの対象にならなかったり、生活保護受給資格の判断からも除外されるなど、資産を保全する仕組みとしては優秀です。
そのあたりに価値を感じられるかどうかをベースに検討したほうが良いんでねえの?と思う次第です。