こんにちは、らくからちゃです。
なんだかここ最近、東芝の株価が大変なことになっているみたいですね。
バンジージャンプかな?
不適切会計問題に一旦蹴りをつけ、なんとか株価467円台を回復したのも束の間、258円まで半値近くへ一気に急降下。シャープにまで時価総額を抜かれてしまった状況です。
ことの発端は、大納会も迫った2016年12月27日に、東芝より発表されたこの文章。
取得価格配分手続では、承継した資産と負債をWECが公正価値で評価するために、買収完了後にWECがS&Wの資料等に基づき、改めてWECとしてコストに影響する主要項目を評価しながらプロジェクトにかかるコストの見積もりを行っております。取得価格配分手続は継続しており、必要なのれんの計上額も引き続き精査中ですが、これらの試算を当社グループとして総合的に評価している中で、コストの大幅な増加により資産価値が当初の想定を大幅に下回り、必要なのれんの計上額が当初想定の約87百万米ドルを超え、現時点で数十億米ドル規模(数千億円規模)となる可能性が生じました。
のれんについてはWEC及び当社連結決算(第3四半期決算)で減損テストを実施いたしますが、その結果、その一部又は全部を減損する可能性があり、その場合WEC及び当社が損失を計上する可能性があります。
何やら小むづかしいことが沢山書いております。
結論から申し上げますと、『東芝ヤベェ』ことには間違いないのですが、この文章の意味は、中々理解しづらいところもあるかなあと思いますので、ざっくり説明させて頂きます。
『のれん』とは何ぞ
まず一般の方が、最も理解できないキーワードはこの『のれん』ではないでしょうか。『のれん』と聞いて皆さんの想像するものって、こういうものだと思います。
会計用語における『のれん』とは、企業を買収した際に計算される仮想的な資産です。のれんの金額は、買収した企業の保有する資産の時価評価額と、取得価格の差で計算されます・・・って言ってもなんか良く分からないと思いますので、図で説明しますね。
例えば、工場かなんかを持っている会社を買収したとしましょう。取得した工場は、新しい企業の資産として貸借対照表に載ることになりますが、土地や設備などの金額は、時価評価で計算します。
普通、企業買収は資産価値に幾らか割増した金額で行われます。100万円の価値のものを『100万円で売って下さい!』って言われても面倒なだけですもんね。例えば『20万円上乗せするので売って下さい!』となると、120万円で買収が成立します。
ところが、100万円の資産が増えて、120万円の現金が出ていってしまうと、20万円分『損』をしてしまいます。でもこの20万円は『いずれそれを上回る価値(超過収益力)が発生する』と思ったから支払った金額ですので、単純な『損』ではありません。
ではなぜ、資産の価値を超えた収益が発生するのか?
それは企業が今までに培ってきたノウハウやブランドなど、目には見えない価値があり、そこから価値が生じるからです。ですので、企業イメージを象徴するものとして、『のれん』という言葉が使われるんですね。
『のれん』と『減損』
ざっくりのれんの概要がわかったところで、今回問題となっている
"コストの大幅な増加により資産価値が当初の想定を大幅に下回り、必要なのれんの計上額が当初想定の約87百万米ドルを超え、現時点で数十億米ドル規模(数千億円規模)となる可能性が生じました。"
の意味について考えてみましょう。図にするとこういうことです。
買収した後、実際に資産の価値がどれくらいあるのか、改めて調査した結果、現在建設中の原発に係るコストが想定よりも膨らみ、買収した会社の資産の価値は思っていたより少なかったことが分かりました。
既にお金は支払っていますので、資産の価値が減れば『のれん』の金額が大きくなりますね。
でも『のれん』は、その金額以上に利益に貢献してくれることを前提として計算された仮想的な資産です。
この会社、おもったよりも儲からなさそうだな、というのであれば適切な金額に価値を減らさなければなりません。この処理を『減損』といいます。減損は、損失として処理され、いままでに蓄えた利益を減らすことになります。
東芝は債務超過になる?
実際に減損すると、かなりの損失の発生が予想されます。資産の価値が減ったとしても、借金が減るわけではありませんので、資産の金額が負債の金額を上回る『債務超過』状態になるのではないか?という声が上がっています。
図にするとこういったところでしょうか。資産の価値が減ると、その分は、株主が出資した資本金と、そこから生まれた剰余金などで構成される純資産が減ってしまいます。それでも賄いきれないと、債務超過と呼ばれる状況になります。
負債の金額が資産の金額を上回るというと、倒産か!とも思えてしまうのですが、まだそこまでは悪い状況ではありません。会計の世界において『赤字』というといろんな概念があります。
(参考:会計の『赤字』についてまとめてみた - ゆとりずむ)
『債務超過』は、相当まずい状況ですが、それだけでは『倒産』にはなりません。会社が倒産するのは、借金を返すことが出来なくなったときです。借金は期限までに支払えれば大丈夫ですので、直近の支払が間に合えばOKです。
では、直近の状況について見てみましょう。
直近の2016年度第二四半期財務報告書から、東芝の財務状況について整理してみました。会計の世界では、1年以内に換金できる資産を『流動資産』、1年以内に返済しなければならない負債を『流動負債』と呼びます。
直近の財務データを見ると
- 流動資産・・・3兆4,585億円 (うち現預金9,697億円)
- 流動負債・・・3兆0,720億円
となっており、直近では4,000億円近くの余裕があります。例え、固定資産である『のれん』の価値がおおきく下がったとしても、即倒産することは有りません。
家計に置き換えると、『住宅の価値がおおきく下がり、ローンの残高>資産総額となったが、クレジットカードの支払は手持ちの資金で行うことが出来る』みたいな感じでしょうか。その辺の話は下記でも書いてみましたので、よろしければ是非!
ただ債務超過になると注意しなければならないことがあります。それが上場廃止のリスクです。
東芝は上場廃止一歩手前?
さて先程のグラフですが、東芝の前に大変な目にあっていたシャープと、東芝との合併案の話が少し出ていたNECとを並べて見てみます。
全くの余談ですが、
- 東芝・・・米国基準
- シャープ・・・日本基準
- NEC・・・IFRS
で作られております。細かい点では直接比較できないのですが、今回はざっくりですので良しとします。
ここで見比べて欲しいのが一番下の部分です。東芝は、濃い緑色の"株主持分"がかなり小さく、濃い青色の"のれん・無形資産"より小さくなっていますね。
東証のルールには以下のような記載があります。
上場廃止基準
債務超過の状態となった場合において、1年以内に債務超過の状態でなくならなかったとき(原則として連結貸借対照表による)
債務超過の状況が続くと、上場廃止となり、自由に株の売り買いができなくなってしまいます。自由に売買できなくなるのは、投資家にとっては大きな打撃です。
ここで先程の数値を見てみると
- のれん・無形資産・・・5,726億円
- 株主持分 ・・・ 3,632億円
と、既に計上されているのれんが減損されてしまうだけでも、株主持分を上回り、上場廃止基準に該当してしまいます。これに更にのれんの額が増える可能性があるんですよね...
連結会計では、子会社の資産・負債は全て合算して計算します。しかし子会社には別の株主がいる場合があります。特に東芝のように、上場子会社を抱えている場合、直接支配の及ばない純資産の金額が『少数株主持分(非支配持分)』大きくなります。
上場廃止の判断は、あくまで親会社の株主持分で判断されますので、減損額によっては、かなり危険な状況です。過去には、サンヨー電機がパナソニックに吸収されてなくなった事例もありますし、気づけばシャープも二部上場企業になってしまいました...
大企業とはいえ、何が起こるか分からない時代ですので、これからも注視していきたいと思います。
ではでは、今日はこのへんで。
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そんなこんな言っている間にいろいろ大変なことになっているみたいですね。この流れはしっかり注視していきたいと思います。