こんにちは、らくからちゃです。
アメリカの大統領選や、韓国の大統領不正関与問題など、海外の話題におされて随分扱いが小さくなってしまっていましたが、我々の生活にも影響する『国民年金法等改定案』が衆院厚生労働委員会にて強行採決されました。
強行採決に至った背景として、年金額が大きく減る可能性があり、民進党からは『年金カット法案』なんて呼ばれ方もしていました。本法案は、そのことだけが対象ではなく、年金に関する諸々の制度変更を伴う改正になりますが、『年金が減る!?』となると、いま貰っているひとは勿論、払っている人も気が気じゃないですよね。
民進党からは、新しいルールに置き換え、過去の数値に当てはめ計算すると
- 国民年金・・・年間4万円・月3,300円
- 厚生年金・・・年間14.2万円・月11,800円
減少する!という試算も出ています。
(引用元:「年金カット法案」で、国民年金は年4万円、厚生年金は年14万円も減る?|たまき雄一郎ブログ)
金額だけ見たら大変なことですが、でも逆に考えて下さい。
いま払う年金が減るということは、将来受け取ることの出来る年金の財源を遺す
ということです。とはいえこの話、『年金だけで考えられない根深い点』も含んでいると思いますので、ちょっとまとめてみたいと思います。
年金の金額ってどうやって決まるの?
年金の基本的な仕組みに関しては、過去こちらの記事にまとめさせて頂きました。できる限りざっくり・読み易くまとめたつもりですので、よろしければ是非!
上記の記事では、ひとりひとりの年金額がどういった風に計算されていくのか?についてまとめました。今回のお話は『計算式そのものの決まり方』です。例えば国民年金は、年間78万円を加入期間の比率に応じて受け取れますが、この『78万円って金額をどうやって計算するんだ?』という話になります。
大事な数字なので、適当なさじ加減で決めているのではなく、きちんと法律で定められたルールで計算して決められています(ということに少なくともなっています)。大きく分けて、68歳未満と68歳以上のひととで若干異なりますが、
- 68歳未満・・・物価×賃金×可処分所得
- 68歳以上・・・物価
の増減に応じて、受け取る年金の額も増減します。ただ、色んな例外規定があって、この計算式の通りには計算されていません。本法案で手が加えられるのは、まさにその『例外』の部分です。法律の条文で見てみましょう。
新 | 旧 |
---|---|
第二十七条の三 受給権者が六十五歳に達した日の属する年度の初日の属する年の三年後の年の四月一日の属する年度(第二十七条の五第一項第二号及び第三項第一号において「基準年度」という。)以後において適用される改定率(以下「基準年度以後改定率」という。)の改定については、前条の規定にかかわらず、物価変動率(物価変動率が名目手取り賃金変動率を上回るときは、名目手取り賃金変動率)を基準とする。 |
第二十七条の三 受給権者が六十五歳に達した日の属する年度の初日の属する年の三年後の年の四月一日の属する年度(第二十七条の五第一項第二号及び第三項第一号において「基準年度」という。)以後において適用される改定率(以下「基準年度以後改定率」という。)の改定については、前条の規定にかかわらず、物価変動率を基準とする
2次の各号に掲げる場合における基準年度以後改定率の改定については、前項の規定にかかわらず、当該各号に定める率を基準とする。 一 物価変動率が名目手取り賃金変動率を上回り、かつ、名目手取り賃金変動率が一以上となるとき名目手取り賃金変動率 二 物価変動率が一を上回り、かつ、名目手取り賃金変動率が一を下回るとき一 |
(出典:公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律案新旧対照条文)
(´ε`;)ウーン… 文字で見るとよくわかりませんね。
年金カット法案は何がどう変わるの?
今回影響を受けるのは、物価の上昇率が賃金の上昇率を上回るときの取扱です。
現行のルールでも、『物価が上がっても、賃金の上昇が追いついていない場合、年金は賃金の上昇分しかあげませんよ』というルールになっています。
ただ今までは更に例外として、『とは言え賃金の上昇がマイナスになったとしても、年金をマイナスとして扱うことはしませんよ』という規定がありました。この部分がなくなります。
今後受け取ることの出来る年金の増減率が、『いままで』と『これから』でどう変わるのか。シナリオで整理するとこんな感じになります。
物価 | 賃金 | 今まで | これから | |
---|---|---|---|---|
賃金は+ | 2% | 1% | 1% | 1% |
賃金は− | 1% | -1% | 0% | -1% |
さて皆さん、どう思いますか?
物価の上昇に合わせて年金の金額は増やして貰えないと、年金生活者の暮らしが厳しくなります。とは言え、年金を収めるひとの賃金が増えない状態で、支給額だけ増やしてしまうと、年金財政は破たんしてしまいます。
デフレ環境でもマクロ経済スライドを実現するために
またマクロ経済スライドのルールについても調整されます。
マクロ経済スライドとは、平均寿命の伸びなどを受け、現行の物価や賃金だけを基準とした価格決定では、年金の制度が保たないことが判明たため、平成16年度から導入された『今後100年間の年金の収入と年金の支出を一致させるように、金額を調整する』仕組みです。
物価や賃金が上がったとしても、将来の支払額を遺すために、100年間維持可能な仕組みになるまで年金支給額の伸びを抑えます。ただし、物価や賃金がマイナスの場合には、それ以上に年金改定率を引き下げるようなことは行いません。
(出典:マクロ経済スライドってなに? | いっしょに検証! 公的年金 | 厚生労働省)
ただそのルールを設けていたために、ここしばらくまで『マクロ経済スライド』は発動されずにいました。このままでは『100年安心』構想が崩れてしまいます。それを解消するひとつの手立てとして考えられたのが、今回の改正案に盛り込まれた『キャリーオーバー方式』です。
(出典:年金改革法案に対するQ&A)
必要な調整ができなかったのであれば、その分は翌年移行に持ち越して調整が可能になるような仕組みです。今回の改正は、先程のものも含めて『賃金が上がらないデフレ環境でも、マクロ経済スライドを着実に実現していくこと』を主眼においています。
マクロ経済スライドが適切に実施されていけば、将来世代の給付水準の低下を抑えることができ、より現実に即した年金を実現することが出来ます。
(出典:民進党の「年金カット法案批判」は見当違いだ | 政策 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準)
社会保険と公的扶助は分けて考えよう
こうやって聞くと、年金を払っている世代からしてみれば『悪く無いじゃん。民進党は何をごねてんだよ。さっさとやれよ』という気分になりませんか?
さきほどの、民進党のたまき議員のサイトには、こんな資料が載っていました。
(引用元:「年金カット法案」で、国民年金は年4万円、厚生年金は年14万円も減る?|たまき雄一郎ブログ)
お年寄りは、年金じゃ生活出来ない!!これ以上減らされたら大変だ!!
確かにそうかもしれません。ただ年金についていば、最優先してほしいのは、年金の制度をきちんと維持できるようにすることです。年金の制度について『低所得のお年寄りは切り捨てていくのか!?』と噛み付いてくるのは、ちょっと筋が悪い気がします。
本来、年金とは『保険』です。低所得者の生活を支える『公的扶助』では無いはずです。そこを混同して考えてしまうので、ややこしいことになるんじゃないでしょうか。
だけど、生活できないお年寄りが増えてしまうと、行政コストの非常に高い生活保護の受給者が増えたり、犯罪に走るひとが出てくる可能性が上がります。何も、年金単体だけで考えられる問題では無いのです。
年金に手を加えるとすれば
ただ年金という側面からみても、かなり制度的な問題を多く抱えているように思います。そもそも『最低限の生活』が保証出来ない年金になんの価値があるのでしょうか。
個人的には『年金の制度』としては、以下の3つのポイントを中心に考えていくべきじゃないのかな、と思っています。
1.支払期間・支給開始年齢を70歳に変更
年金とは、『長生きのリスク』に備えて掛ける保険です。ところが現在、支払期間も支給開始年齢も平均寿命を大きく超えたところに設定されています。ここに本来の趣旨との矛盾があるわけですね。
今後は支給開始年齢だけでなく、支払期間も平均寿命に合わせて伸ばしていかなければなりません。『若者の職場がなくなる』と危惧するひとも多いのですが、人口が減りゆくなかで、若者だけを働かせようとすれば、当然ひとりあたりの負担が大きくなります。
長く生きることが出来るようになった分、長く働かなければなりません。女性だけでなく、高齢者の社会進出も進めていかないと、人口が減り続ける社会を維持することができなくなってしまいます。
2.遺族年金の見直し
年金には、老齢年金だけでなく、障害年金や遺族年金もセットになっています。
遺族年金は、『遺族』が居る人と居ない人とで大きな差が生まれますし、『働いていない専業主婦の受け取る遺族年金と、働く女性の受け取る厚生年金との間で差が殆ど無い』といったことも今後よりいっそう問題になっていくような気がします。
ある種、『過剰保険』の状態にもなっているように思います。この件については、また今度じっくりと考えてみましょう。
3.所得再分配の強化
厚生年金について言えることですが、高所得者の受け取る年金を引き下げ、低所得者の受け取る年金を引き上げる対応を行い、『生活が立ち行かなくなる人』が発生するのを抑える対応も必要になるでしょう。
直接、年金制度に手を加えるのではなく、税制を使って、高額年金受給者の税率を上げ、国庫負担分を増やすような対応も考えられます。
高所得者からは不満が出そうですが、『保険』であることを理解してもらい、再分配の強化にも協力して貰うしか内容に思えます。
まとめ
年金について、制度として重要なことは『維持可能性』と『公平性』だと思います。その範囲の中で、貧困に陥る高齢者が出ないようにするのは重要な事です。ただその枠の中で対応できないのであれば、一般財源を元に、社会を維持する仕組みを考えなければなりません。
今後将来に渡って、安心して払い続けることが出来る年金であって欲しい。切にそう思います。
ではでは、今日はこのへんで。