ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

ここ20年の日本経済の成長率を購買力平価GDPで見てみる

こんにちは、らくからちゃです。

生まれてこの方、「景気が良い」というのを実感する状況になった試しがありません。いまはどうやら景気が良いらしいと言われても、なんだか騙されているような気がしております。さて先日、こんな記事を読みました。

各国の成長率ランキングは

  • 日本は、断トツの最下位
  • 唯一の衰退国家(マイナス成長)
  • つまり過去20年の日本の経済政策は「世界最悪」

各国の「成長率」ランキングがすごいと話題に:哲学ニュースnwk

中々手厳しい評価ですね(;´Д`) やっぱ、世界と比べても日本って全然ダメだったのね・・・と思ったものの、よーく資料を見てみると「1995〜2015までの20年間の名目GDP成長率」と書かれております。

記事へのコメントを見ていると「日本経済は、ずーっとデフレやったんやから、名目GDPで見たらアカンやろ」といったものが多く見受けられますね。じゃあ、その他のGDPで比較したらどうなるんじゃろ?と思いましたので、ざっと調べてみました。

色んなGDPで見るここ20年の日本経済

そもそもGDPってなんやっけ?といった話については、以前こんな感じで書いてみました。

www.yutorism.jp

 雑に言えば、GDPとは対象となる地域が1年間で生み出したモノ・サービスの価値の総額です。技術革新によって食料の生産量が増えたり、機械化が進んで失業した人が新たなサービスを生み出したりすることで、社会が豊かになることによって増加します。

「三面等価の原則」により、

  • 生産された価値
  • 支出された価値
  • 分配された価値

は同額になりますので、ざっくり「お給料の総額」と考えてみれば分かりやすいかもですね。(厳密にはちゃいますが・・・)で、先程の記事に合わせて1995年~2015年のGDPの推移を見てみましょう。データは、毎度おなじみのIMFのWEOを使用します。

じゃじゃーん。

f:id:lacucaracha:20181018010128p:plain

名目GDP(円建て)

まずシンプルに、特に調整が行われていない名目GDPで見てみましょう。ここ20年間で我が国の名目GDPの増加率は、たったの4%です。CAGRを求めると毎年0.2%ずつしか伸びていません。なんかもう、ベッドの隙間から発掘された輪ゴムくらい伸びません。

ただそれでも、一応マイナス成長じゃないんだよね。

じゃあ記事の中で出てきた「マイナス20%」って数値はガセ?と結論付ける前に、別の数値も見てみましょう。

実質GDP(円建て)

実質GDPは、色々なモノやサービスの値上がり・値下がり分を除き、「量」で言えばどれくらい成長したのかな?ということを図るモノサシです。細かな計算式はググって貰うとして、20年間で18%、CAGRは0.8%の成長ですね。

つまりここ20年間、ほとんどお給料は増えなかったものの、物価自体が下落したため生産・消費量自体は2割近く増えたってお話ですね。まあ「だったら良いじゃん」と思えるかどうかは、人によりけりでしょうね。

預金を沢山持っているひとや定額収入がある高齢者や大企業フルタイム社員、地主なんかにとっては、実質的な受け取り価値が増加するため、デフレはウエルカムでしょうけど、借金の重みはドンドン増えていくため、奨学金を抱えた若者や、新規ビジネスに挑戦したい経営者にとっては「実質GDPが増えても・・・」という想いはあるでしょうね。

名目GDP(ドル建て)

次に名目GDPをドル換算した数値で見てみましょう。2015年は1995年と比べ20%近く下落しています。

1995年、1ドルは約100円でした。2015年には約120円となり、1ドルを手に入れるのに必要な円は2割り増えました。円建てのGDPが殆ど変化していない状況と合わせて考えると、元記事の2割下落という数値はこの値を使っていそうですね(書いてないけど)。

国際比較をする場合、ドル換算して比較するのは合理的なようですが、頻繁に海外へ行く人でなければ、普段使うお金が「円」である以上、円建てでの経済成長率が重要です。マイナス20%という数値も、日本経済は確かに良くないと思ってたけど、それほどかなあと感じる方も多いんじゃないでしょうか。

とはいえ国ごとの生活水準の比較するには、為替の要素も加味したほうが良いでしょう。しかし為替レートというものは、必ずしも生活実態を反映するものではありません。

購買力平価GDP

モノのやりとりが完全に自由であれば、世界中ドコにいても同じ金額でモノが買えるようになります。仮に1ドルが100円なら、アメリカで3ドルの商品は、日本では300円で買えるはず。もし日本で150円で売っていたならば、ドルを売って円を買い、その商品を買いに走るので、1ドルの価値は下がり、ドル建てでの物価差は解消されます。

「購買力平価説」というのですが、現実にはそうじゃないですよね。

「ビッグマック指数」なんていう、世界中で売られているビッグマックの価格をもとに、物価を比較した指数があります。2018年2月時点で、日本のビッグマックは380円、ドル換算すると3.43ドル。アメリカでは5.28ドルだそうで、アメリカのビッグマックは約1.54倍高い。

ビッグマックを作っている労働者は、簡単には国境を超えられませんし、金融政策などの影響により為替レートが生活実態と乖離することは往々にして起こります。こうした物価差の調整は、各国の物価指数の比で計算します。日本の物価が1割下落し、アメリカの物価が1割上昇した場合、円の価値はドルの価値に対して20%近く上昇したと考えられます。下記で求めた「相対的購買力平価」でGDPを評価すれば「購買力平価GDP」となります

基準時点の為替レート×A国の物価指数÷B国の物価指数

購買力平価GDPを使うと、より実際の豊かさに近い比較に活用できます。日本のここ20年での成長率は+73%となります。

購買力平価GDPベースでみた世界

これまでの数字と比べると、ずいぶんと景気の良い数値です。でも「案外日本もイケてるんじゃねーの?」と答えを出すには、他の国と比較してみたほうが良さそうですね。2015年時点の購買力平価(PPP)ベースのGDP総額を比較してみるとこんな感じ。

f:id:lacucaracha:20181018012918p:plain

世界全体では、約3倍くらいに増加している中、日本の増加率は1.7倍。その他の国はこんな塩梅ですね。

国名 2015年時点(総額) 1995年時点(総額) 倍率
China 19698.23 2254.64 874%
United States 18120.7 7664.05 236%
India 8020.96 1426.35 562%
Japan 5114.65 2965.54 172%
Germany 3874.37 2033.76 191%
Russia 3822.19 1389.47 275%
Brazil 3216.58 1306.76 246%
Indonesia 2850.16 849.679 335%
United Kingdom 2700.97 1224.05 221%
France 2668.98 1337.64 200%
その他 45020.103 15689.987 287%
合計 115107.893 38141.926 302%

 中国は約8.7倍、インドが5.6倍伸びているのもそうですが、他の先進諸国と比べてみてもあまり良い結果たは言えない感じですねえ。そして日本は、1995年時点では2位につけて居たものの、いまや中国が1位、日本は4位です。

中国の「物価」にどれくらい信憑性がおけるのかといった問題もありますし、文化や政治システムが大きく異なる国同士の比較に適しているのかと言われれば、微妙な点も多く残しております。ただ一つの目安として、比較の材料にしてみるのはおもしろいかな、と思いますけどね。

日本の豊かさってどれくらい?

まあそもそも、中国やインドとは、人工の規模がまるで違いますので「豊かさ」を比較するには1人あたりになおしてみないことには話になりません。

ただ1人あたりで比較すると、ルクセンブルグのような欧州の小国が上位にやってきて、分析しづらくなります。2015年時点のPPPベースGDPベスト30ヶ国で、19995年から2015年までの一人あたりGDPを見てみたいお思います。

f:id:lacucaracha:20181018233747p:plain

1995年当時、我が国のPPPベースでの1人あたりGDPは世界第6位でした。

f:id:lacucaracha:20181018233809p:plain

2015年には、世界第10位まで下落していますが、まだまだ前方集団にはいるように思えます。

f:id:lacucaracha:20181018233819p:plain

ただ、ここ20年間での一人あたりの成長率でみると、30ヶ国中28位なんですよね。同じ先進国でも、欧米各国が190%近く成長している一方、日本は170%しか成長していない。成長率で見ると、かなり間を開けられてしまった感じがします。

ご近所さん同士で比較してみても、香港にはとうに抜かれてますし、台湾にだって2008年には抜かれました。このペースだと韓国にも近い将来抜かれそうです。中国に関しては、貧しい農村地帯や山岳の少数民族なども含まれているため低くなっていますが、沿岸地帯に限定すれば、大差ないところまで来てるんじゃないでしょうか。

f:id:lacucaracha:20181019000348p:plain

(参照:一人当たりの購買力平価GDP(USドル)の推移(1980~2015年)(日本, 韓国, 香港, 台湾, 中国, 北朝鮮) - 世界経済のネタ帳

いろんな数字を並べてみましたけれども、じゃあこれで国の豊かさを図ったり比較したり出来るのか?と言われれば、どれも単独では難しいですよね。生産性をみるなら、労働者数や生産年齢人口を分母に持ってきたほうが良いでしょうし、生活の余裕を見るなら格差や社会保障による再分配の状況も見ていかきゃならないでしょうしね。

何にせよ、数字に興味を持っていろいろと比較すれば、気が付かなかったことや思いもよらなかったことを知ることも出来ると思いますので、皆様いろいろ調べてみるのもよいのではないでしょうか。

ではでは、今日はこのへんで。