ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

フィデリティ・USハイ・イールド・ファンドを再評価してみる

こんにちは、らくからちゃです。

早いもので2014年に始まったNISAも今年で5年目を迎えました。この制度で取得した株式や投資信託は、投資から5年間の配当・売買益が非課税となります。5年目の今年は、売却するのか、それとも継続保有(ロールオーバー)するのかを判断する節目の年となります。

「毎日値動きをチェックしてきました」という人もいれば、「5年も前に買った銘柄のことなんてすっかり忘れたわ」という人もいるでしょうが、皆さんいかがでしょうか?

わたしの場合、アイドルのCDを買うが如く個別株への投資をしておりましたので、内容が重複しないよう、

  1. 枠いっぱい使い切れるよう投資信託とする
  2. 株式以外を対象とする
  3. 分配金は出さないファンドとする

という条件で選んだのがこちらの「フィデリティ・USハイ・イールドファンド(資産成長型)」です。

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米フィデリティ社の運用している米国の高利回り社債への投資を行う投資信託ですな。同社商品を中心に扱っている直販証券会社では、NISA口座を開設すると、購入時手数料はゼロになります。ただ信託報酬等は当然かかりまして、その経費率は

税込で1.62%

いわゆる「手数料ボッタクリのアクティブファンド」になるのでしょうか。近年人気のETFや米株投信が0.01%レベルの血で血を洗う戦いを繰り広げていることを考えれば、ずいぶんと高額な手数料です。

現在のトレンドからは随分と離れたファンドですが、未だに7000億円近い純資産額を誇り、純資産ランキング上位10位に食い込んでいます。「5年目になるけどどうしようかな」「ぶっちゃけ切ったほうがいいのかな」と思っている人も多いと思います。

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近頃の傾向からは、とことんズレたファンドのため、ネット上での評判はあまり芳しくありません。ただ「○○さんが言っていたから」と全て鵜呑みにするのもダサいよねと思いまして、自分なりに本ファンドへの意見を整理してみました。

フィデリティ・USハイ・イールド・ファンドってどんなもの?

本ファンドは、分配金を出すか?為替ヘッジを行うか?のマトリックスで4種類に分かれて設定されています。一番人気(純資産が多い)は分配金有・為替ヘッジ無の無印ですが、本記事ではわたしの購入した資産成長型(分配金無・為替ヘッジ無)をベースに比較してみます

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本ファンドは名前の通り「ハイ・イールド債」と呼ばれる米国の高利回り社債に対して投資するものです。

1 米ドル建て高利回り事業債(以下「ハイ・イールド・ボンド」といいます。)を中心に分散投資を行ない、高水準の利息等の収入を確保するとともに、値上り益の追求を目指します。

2 格付けに関しては、主に、Ba格(ムーディーズ社)以下またはBB格(S&P社)以下の格付けの事業債に投資を行ない、一部、格付けを持たない債券や、米国以外の国の発行体の高利回り事業債を組入れることもあります。

 これらの債券は別名「ジャンク(ゴミクズ)債」なんて失礼な言われ方をすることもありますが、公社債などと比べると倒産して紙切れになるリスクもあるため、利回りは高いものの慎重な銘柄選びが求められる銘柄群ですね。

と聞くと、随分ヤベェものに手を出している感じがするかもしれませんが、比較的皆様にも馴染みのある会社の社債もこのクラスで発行されています。

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(出典:フィデリティ・USハイ・イールドファンド)

S&Pの格付けでは、BBB以上が「投資適格」BB以下が「投機的」となります。じゃあ、これらの会社の社債への投資ってどれくくらいのリスクがあるんでしょうか?

日本企業の格付け別にデフォルト(支払えなくなった)割合を整理した資料をS&Pが出していましたが、こんな塩梅になるようです。投機的のクラスの会社の1年間のデフォルト率は2.83%。10年保有しても12.46%くらいですね。

優良とは言えないものの、事業債への投資としては、特殊なクラスではありません。

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(出典:日本の発行体格付け遷移調査 2017 年版

金融未開国ジャパンと異なり、資本市場の発展した米国では、そこそこクラス以上の規模の会社が資金調達をする際には、積極的に社債市場が使われます。現在、総額で130兆円くらいの市場規模があります。

東証一部全部の時価総額が、現在600兆円くらいと言われてますので、その2割くらいといえば、スケール感の大きさが分かるかと思います。

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(出典:フィデリティ・USハイ・イールドファンド)

こうした市場の中から、フィデリティはどんな会社の債券を保有しているのかと言うと、合計491銘柄のうち組入上位10銘柄では、こんな会社を対象としているそうな。どこもクーポン(利息)は5%を超えていますね。通信周りが目立つ他、金融・医薬・公益などにも手広く組み入れていますな。

全体で見ると、最終的な利回りは6.7%で、デュレーション(保有期間)は4年ほど、平均格付はB格といったところでしょうか。

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(出典:月次レポート2018年10月

フィデリティ・USハイ・イールド・ファンドの評価

本ファンドがどんなものかわかったところで、フィデリティ・USハイ・イールド・ファンドの評価について考えてみましょう。

本ファンドは、全世界で9兆円近い残高を運用する専門家チームを抱え、手数料もガッツリ高い今の御時世ではかなり評判の悪い運用スタイルを取っています。多くの人は「経費を掛けるよりも、市場平均に投資する低コストのインデックス投資に切り替えるべきだ」と言うことでしょう。

ハイ・イールド債市場にも、ブラックロック社の運営するHYGや、スパイダー社の運営するJNKといった低コストのインデックスETFが存在します。手数料はそれぞれ

  • HYG・・・0.5%
  • JNK・・・0.4%

と株式のインデックスETFにしては割高ですが、少なくてもフィデリティより1%近くも低いのです。これだけ聞くと、フィデリティ・USハイ・イールドなんてさっさと投げ捨ててしまえ!という気にもなりますよね。

ところがどっこい、フィデリティ・USハイ・イールドのパフォーマンスは、低コストなインデックスETFよりも高いパフォーマンスをあげているんです。

銘柄名 経費率 資産残高 1年 3年 5年
フィデリティ 1.62% 7000億円 3.77% 5.52% 8.12%
ブラックロック(HYG) 0.50% 1.6兆円 3.48% 4.97% 7.38%
スパイダー(JNK) 0.40% 1兆円 2.87% 4.58% 6.97%

 この数値は、2018年9月末時点で、税金を一切考慮せず分配金をひたすら再投資した際のそれぞれのリターンです。

HYG/JNKのリターンは、下記モーニングスターサイト(HYGJNK)から拝借しました。数値の提供が四半期ベースでしかないので、フィデリティについては9月末時点の数値をトータルリターンの計算方法に従いわたしが算出したものになります。

1年であればまぐれかな?と思うんですけど、5年リターンでも差をつけているところをみると、割りとガチでフィデリティUS・ハイ・イールドはETFに勝てていると言えるような気がします。

さらに言えば、

  1. HYG・JNKは分配金を非課税で投資した前提のため実質リターンは更に劣る
  2. HYG・JNKは購入時の為替手数料が係る
  3. HYG・JNKはETFのため株数単位での投資しか出来ない
  4. フィデリティUS・ハイ・イールド(資産成長型)は(現在取扱のある証券会社では)実質ノーロードで手数料が掛からない

なども考慮すれば、更にフィデリティ側が有利になります。

ハイ・イールド債券市場はインデックスには不向き?

フィデリティ・USハイ・イールドに対してよく出される批判として「ベンチマークにすら勝てていないじゃないか」というものがあります。これは確かに事実です。過去の成績を見ても、ほとんどベンチマークに基準価格騰落率は勝てていません。

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(出典:2018年運用報告書

ベンチマークに勝てない理由として真っ先に考えられるのは、経費率の高さです。指標には人件費が存在しませんからね。更に、ベンチマークは常に資産を100%運用状態に出来ますが、ファンドには現金として寝かせる期間が出てしまいます。特にアクティブファンドであれば、常に投資先が存在するわけではありませんので、自ずと現金として保有する期間が長くなります。

更に見逃せないのがフィデリティ社がハイ・イールド市場での存在感が大きすぎる点ですね。130兆円の市場で諸々合わせて9兆円、つまり7%近い資金を握っていると、その一挙手一投足がインデックスに反映されやすくなります。その環境で、これらのデメリットを埋め合わせるだけの運用は至難の業でしょう。

じゃあインデックスが良いのかというと、素人考えですが、ハイ・イールド市場ってインデックスで運用するには難しいんじゃないでしょうか?

株式は、倒産するか買収されるかして上場廃止にならない限り永遠に市場に残り続けます。しかし債券は、満期日まで倒産しなければ償還され、定期的に新発債が発行されます。株式市場であれば、常にIPOがあるイメージかな。

新規に債券を発行するプライマリーマーケットでは、売買履歴が無いため、猿にダーツを投げさせるわけにもいかんでしょう。また市場を介さず直接引き受けるケースもあるでしょうし、そうした環境では「美味しい銘柄」をみつける企業分析力が活きることになります。

その後、必要に応じてセカンダリーマーケットに転がりこんで来る際には、「適正価格」、つまり「特別美味しくはない銘柄」が、おこぼれとしてやってくることが予想されます。

こうした株式と債券の性質の差も含めて考えてみると、ハイ・イールド債市場では、「インデックス万能説」は当てはまらないような気がするんですよね。

フィデリティ・US・ハイ・イールドは解約すべきか

これらを加味して考えてみると、米国のハイ・イールド債への投資をしたいのであれば、検討の対象には入ると思いますよ。

でもねえ、そもそも米ハイ・イールド債って、ポートフォリオに必要です?

債券をポートフォリオに組み入れる一番大きな目的って、株式の価格が下落したときに補完することが目的だと思うんですよね。ところが近年、米国ハイ・イールド債と株式との相関係数は上昇の傾向にあり、相関係数は90%を超えるようなシチュエーションも生まれてるんですよね。

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(出典:Junk bond ETFs are sending an important stock market signal

SPY(S&P500連動のETF)とJNKの値動きを比較してみるとこんな感じ。確かにリーマン時はストッパーとしての役割を十分果たしてくれていましたが、ここ最近はほぼ「劣化版株式」なんですよね。

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(画像生成:Chart ETF Returns & Volatility - ETFreplay

ハイ・イールド債が、国債や公社債のように安全資産と同じように扱えないのは当然です。しかし市場規模も大きくなり、企業の大きな資金調達源になった。というか、なりすぎてしまった。

ここ最近の発行目的を見ても、7割近くが借り換え目的であり発行期間も長期化しているわけです。期間が伸びれば、リスクは高くなり株式に近い存在になります。こうなると、もはや積極的にハイ・イールド債券をポートフォリオに組み入れる意義は低下します。

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(出典:米国ハイ・イールド債券市場の見通しについて)

あとフィデリティUSハイ・イールドが、インデックスよりよい成績を出しているとしても、経費率は市況が良くとも悪くとも不変であることを考えると、もう少し良いパフォーマンスを出してくれないと評価としては微妙ですね。

ただNISAの減税効果や、多少なりとも下げ耐性があることを考えれば、積極的にNISA残存期間の残っているものまで解約するかは、判断に迷うところです。

個人的な結論をまとめると、

  • フィデリティ・USハイ・イールドファンド自体はそれほど悪くない
  • ただしハイ・イールド自体が微妙
  • 積極的に解約していくほどのものでも無いが、敢えて選ぶほどの魅力もない

といったところでしょうか。

勿論、これはド素人がチラシの裏にまとめたメモレベルの結論です。皆様の大事な資産の運用方法は、ぜひ皆様でお考えください。銀行や証券会社には騙されない!と言いながら、見も知らぬブロガーの意見を真に受けるほど間抜けなことは有りませんからね(笑)。

ではでは、今日はこのへんで。