こんにちは、らくからちゃです。
会計の世界では、複数の中から方法を選べる処理があります。その中のひとつが、棚卸資産の評価方法です。税務上は、以下6つの方法が認められています。
- 個別法による原価法
- 先入先出法による原価法
- 総平均法による原価法
- 移動平均法による原価法
- 最終仕入原価法による原価法
- 売価還元法による原価法
具体的な処理方法について解説した本やウェブサイトは多数ありますが、それぞれの計算方法の優劣や採用上の注意点について触れたものは、あまり無いような気がします。特に基幹業務システムを導入する際に、どの方法を採用するか?は導入時のコストを左右する重要なポイントです。
今回は、経理の現場で見聞きした話のごく一部を掻い摘んでまとめてみたいと思います。
棚卸資産の評価方法とは何なのか
そもそも、なぜ複数の種類の『棚卸資産の評価方法』があるのでしょうか。そもそも棚卸資産の評価方法ってなんだっけ?というところから振り返って見たいと思います。
例えば、同じ商品を上記のように売買していたとします。ひとつひとつきちんとロット管理して、残っている在庫の仕入単価がきちんと分かるのであれば、その金額で在庫金額を計算すれば済みます。
が、そんな会社まず無いですよね(笑)。
仮に、仕入時に一意となるロット番号で管理していたとしても、在庫と仕入単価を紐付けるのはメチャクチャ面倒ですし、全く同じ商品ならばいちいち仕入単価と紐付ける必要性もありません。
なおこの方法が『個別法』ですが、実務上利用されることは殆どありません。
先入先出法の特徴とメリット・デメリット
で、『そんな面倒くさいことやってられっか!』と生まれたのが先入先出法。現場では古いものから順番に使っていくんだとすると、仕入実績を日付順に並べ、在庫評価額は残った数量分、後ろから数えていけばええやん。という方法です。
こう書くとなんか大したことなさそうに思うじゃないですか。ところがこれ、システム化しようとすると結構厄介なんですよね。内部的な処理としては
- 入荷日順に入荷実績を並び替え
- 在庫数を満たすまで、最終入荷日から再帰的にカウントする
- 金額を集計する
こんな感じ。個別の商品ごとにこの処理を繰り返さなきゃならないと結構たいへんですし、値引きや返品はどうすんのか?など結構面倒くさいことになりがちです。そのため、標準機能として対応していないパッケージも多く、カスタマイズが必要になるケースもあります。
あと会計的にも、よろしくない場合も多いんですよね。
例えば定価は100円だけど、決算セールで今だけ半額!なんてやられちゃうと、その月だけ在庫の評価金額が半分になってしまいます。
在庫評価額が実質的な個別法での評価結果に近い値になりやすいというのはメリットですが、それゆえに実際に処理されたデータの影響を受けやすく些細なことで評価金額が変動し易い点はデメリットです。
総平均法の特徴とメリット・デメリット
で、そうしたイレギュラーケースに強いのが総平均法です。『すべての買ってきた時の金額から平均単価を計算して金額を評価する』方法です。
システムで対応する場合、いちいち取引順序を考慮する必要がないので結構かんたんに実装できます。また、たまたま発生した実績の結果も、全体の中で吸収するので影響は限定的にできます。
ただこの方法、経理の人には嫌われている部分があります。
まだコンピューターが無かった時代に、この方法で計算するのは非常に大変でした。全ての仕入実績を集めてきて、全部足して全部割って、もし途中で漏れや追加があれば、また最初からやり直してと、手作業でやっていたときは非常に煩雑な手順を伴う方法でした。
しかしシステム化された現在では、むしろ先入先出法よりも簡単で確実な方法になっている点は、しっかり認識してもらいましょう。
ひとまず総平均法で間違いない
ちなみにその他の方法についても簡単に触れますと
移動平均法
止めておきましょう。倒れる人が出ます。
在庫金額がリアルタイムで把握できるというのはメリットになりますが、すでに計上済みの実績より前に、新規の実績が計上されたときなど、その処理は煩雑の極みに至ります。参考情報として画面表示するくらいならさておき、これを基幹業務システムで実現するのは正気の沙汰ではありません。
最終仕入原価法
税務上認められる最もいい加減な処理方法。
まー、基幹業務システムを使っていない会社では、一番普及している方法です。ただ基幹業務システムまで入れるのに、この方法で在庫計上するのは、なんともカッコ悪いですし、逆に対応しているシステムのほうが稀かもしれません。
売価還元法
教科書的には、デパートなんかで使うことになってますが、製造業で製品単価を計算するのにもっともポピュラーな方法です。
これも、単品別の在庫管理を行うにあたっては、残念な方法ですが、原価計算の仕組みを導入できない以上は、継続して使用することになる場合もあります。下記に製造業向けのざっくりとした概要を記載しておきましたので、参考になれば幸いです。
いろんな方法がありますが、余程のコダワリがなければ、基幹業務システム導入時の在庫評価方法は、総平均法にして貰うのがベストです。
『会計基準を変えようとすると、会計士がうるさくて』
なんて言ってくるお客様もいらっしゃいますが、会計士が在庫評価方法の変更にNGを出すことはそんなにありません。"忖度”しているだけか、続けていた業務を変えられるのが嫌なのかのどちらかの場合が多いです。
というかですよ。よっぽど価格変動が激しくない限り、先入先出法でも総平均法でも結果はそんなに変わりません。
会計基準の変更を伴う変更は、経営判断に関わるところですので、いちコンサルタントから口出しをするのは難しい点ですが、きちんと生じうる事象、コスト、利便性を整理した上で、お客様にとってベストの提案をできるように最善を尽くせるかどうかはコンサルタントとしての腕の見せどころです。
皆様のお仕事のお役に立てば幸いです。
ではでは、今日はこのへんで。