ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

通勤手当がなくなれば年金はどれくらい減るのか

こんにちは、らくからちゃです。

東京ではコロナ感染者数が200人を超えるなど、また事態が厳しくなってきました。

通勤での感染も絶対あると思うのですが、接触確認アプリとかまどろっこしいものを使う前に、感染者が利用していた路線・時間帯を公表するくらいすれば良いのにな―と思うのですが、何か出来ない理由があるのでしょうか?(すっとぼけ)

弊社では、緊急事態宣言が出て以降、ずっとテレワーク体制が続いています。一時期は、出社には役員への報告と事前承認が必要という「実質出社禁止」状態でしたが、若干緩和されて「来たい人だけ来れば」みたいな基準になりました。

こんなご時世ではありますが、健康診断やらなんやらで大手町のオフィスに出社してみました。まあ見事に誰も居ない笑。約30名の部署ですが、出社してたのはわたしの他1名だけ。ランチに外を出歩いてもこの状況です。

気づけば、通勤電車にすし詰めになっていた日々は遠い昔の話のことのようです。しれっと定期券も解約しちゃいました。1ヶ月10,000円分くらいは浮いた計算かな。 

さて世の中では「もうこれずっとテレワークで良くね?」と考え始めた会社を中心に、定期代の支給をとりやめて、代わりに在宅勤務手当に切り替える動きがはじまっています。

www.jiji.com

通勤しないから定期代は要らんやろ、というのは分かる。自宅で作業するぶん、光熱費や通信費は要るやろ、というのも分かる。「在宅勤務手当」の妥当な金額の計算は難しそうですが、正確に計算できたなら経費の種別が変わっただけで損も得もしないように見えます。

と思いきや、実は見えづらいところで損をする可能性があるんですよね。それが、税金と年金です。

通勤手当の税金と年金

給与明細を見ると、実にいろいろな項目が引かれていますが、ものすごくザックリ分けると

  • 税金(所得税・住民税)
  • 社会保険料(健康保険料・年金保険料・雇用保険)

に別れます。

税金も社会保険料も収入に応じて支払額が決まります。ただそれぞれ基準となる金額が異なります。今回の点に関して言えば「通勤手当を収入に含めて考えるかどうか」に差があります。

税金は「通勤手当は収入に含めない」考え方です。

厳密に言うと、限度額はあるのですが、一月最大15万円(!!)もあります。ちなみに新大阪から名古屋までの新幹線定期が139,160円なので、それでもイケちゃう計算になります。

www.nta.go.jp

社会保険料は「通勤手当も収入に含める」考え方です。

各社会保険料は、4月から6月のお給料をベースに、以後1年間の保険料を計算する前提となる「標準報酬月額」が決まります。勿論多いほどたくさん取られるので、この期間は残業しないほうが良いよーというのはそれが理由です笑。

在宅勤務手当は、国税庁からの明言はありませんが、今の考え方に則ると「税金も社会保険料も掛かる」と考えるのが妥当でしょう。

掛かる税率は所得によって異なります。年収650万円のひとが、通勤手当1万円の代わりに、在宅勤務手当5千円を貰ったら、という前提で試算してみました。

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この年収なら実行限界税率(給与が1円あがるごとに生じる税率)は、所得税・住民税合わせると20%になります。このあたりの考え方は、よければ下記も合わせてご参照くださいまし!

いままで通勤手当には掛かっていなかった税が在宅手当では掛かることが予想されるので、5000円手取りが減ってるのに、更に1000円課税されます

年金・健康・雇用保険に掛かる保険料は半分になりますが、会社との折半(厳密にいうと、健康保険は組合ごとに違いますし、雇用保険は折半ではありませんが額は小さいので一旦まるっと折半ということにしておきます)ですので、会社側の負担は5000円の手当減額に加えて722.5円をあわせた5722.5円の減となります。

通勤手当が無くなると年金が減る

世のため人のために使われるとはいえ、税金は払う側からすれば、取られたら取られっぱなしの存在です。一方、社会保険料はお世話になる機会は少なくとも、たくさん払えばその分だけ多くサービスを受けられます。

、雇用保険を受給するときの金額は、交通費も込みで計算されます。また健康保険から出る「出産手当金」「疾病手当金」も交通費込みで受給額が決まります。そりゃ払うときが交通費込みなら、貰うときも交通費込みでもらわなきゃ辻褄があいませんもんね。

しかし一番大きいのは「年金」でしょう。

会社員の加入している厚生年金保険は、現役時代に支払った金額に応じて増える仕組みです。払うべき金額は通勤手当も含んで計算されますので、1万円の通勤手当から5千円の在宅手当にかわると、将来受け取ることの出来る年金は減ります

じゃあ気になるのは、どれくらい減るのさ、ってところですよね。

将来に受け取ることの出来る年金の額なんて、鬼が笑い死にしそうになるくらい先の話になりますが、ちょっとシミュレーションしてみました。いまの金額をベースにしてるので、将来の物価水準次第ではどうなるかは分かりませんので「雰囲気」程度にとらえてください。

22歳から65歳まで働く想定で、一旦ボーナスはなしとして、標準報酬月額ごとの報酬比例部分の年間額をこちらで調べてみました。

  • 40万円→116.3万円
  • 41万円→119.21万円
  • 42万円→122.12万円

ざっくり月収が1万円あがるごとに、年間2.91万円貰える金額が増えるみたいですね。つまり月収が1000円減るごとに、一月あたりの年金額が242円減ります。なので例に上げた通勤手当1万円が在宅手当5千円になった例だと、1,210円一ヶ月あたりの年金が減る計算になります。

勿論これは「平均月収」が増減した前提ですので、今まで払ってきた分や、これからまた復活する分は加味しなきゃいけません。

また年金の支払う金額は、月額2万円刻み程度の「等級」で決まります。よって所得が増減しようと等級が変わらない限りは支払額=受給額は代わりません。ただ今回は、そのあたりは一旦保留して、計算してみました。

いずれにせよ「それなりに年金は減る」ということは言えるかと思います。

在宅勤務手当は非課税にすべき

通勤手当は、「会社が必要な経費を立て替えているだけ」というふうに捉えるひとは多いでしょう。ただ、社会保険ではこれを「従業員への現物支給的なもの」と考えて、収入扱いで考えています。よって通勤手当の減少は「報酬の削減」とみなされます。

そもそも通勤手当なんて、そのひとの仕事の内容や役割と無関係に会社が負担するのも、おかしな感じがしますね。会社の近くに住んでいるひとの中には、不公平に感じているひともいるんじゃないでしょうか。

どうして通勤にかかる費用を会社が全部持ちするケースが多いのか。そこを改めて考えると、つまり「住む場所を自由に選べなかった」ことが根本的なところにあるんじゃないのかなあ、なんて思うんですよね。

いまでこそワークライフバランスが多少は大事にされるようになりましたが、「全国転勤の可能性あり」みたいなお仕事はまだまだたくさんあることでしょう。また雇用の流動性が極めて薄く、会社の拠点が廃止されることに伴って転職、なんてこともしづらい社会ですと、自ずと「交通費は会社が負担して当然」「それに税金がかかるなんておかしい」という考え方になりますよね。

一方で社会保険料については、その労働者が受け取っている報酬全額相当分を保険にかけるべきという観点にたったため、諸々ちぐはぐな感じになっています。

個人的には、「通勤手当の非課税」は、企業による労働者のプライベートへの過剰な介入を産みかねない仕組みなので、さっさと廃止の方向にもっていくべきではとも思うのですが、すでにそれがあることで住居を選んでいる人もいるでしょうから、十分な議論が必要なポイントでしょう。

むしろいま議論すべきは、「在宅勤務手当は課税扱いとするや否や」という点です。いかに実費相当であれ、通勤手当から在宅手当に切り替えることにより収入が減り、更に課税額も増えるのであれば労働者にとっては「不利益変更」にほかなりません。

国税庁サイトによりますと、以下のような記載があります。

2 手当
 役員や使用人に支給する手当は、原則として給与所得となります。具体的には、残業手当や休日出勤手当、職務手当等のほか、地域手当、家族(扶養)手当、住宅手当なども給与所得となります。
 しかし、例外として、次のような手当は非課税となります。

(1) 通勤手当のうち、一定金額以下のもの
(2) 転勤や出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの
(3) 宿直や日直の手当のうち、一定金額以下のもの

No.2508 給与所得となるもの|国税庁

 以前「そういや出張時の日当って、支給額がそのまま振り込まれとるけど、非課税扱いでええんやろか?」と思って調べたときに知ったのですが、出張手当は「通常と異なる環境になって生活スタイルがかわることへの補填だからオッケー」という理屈だそうです。

ならば在宅勤務手当も非課税にしましょうよ!!

国税庁さんは、確定申告の期限比較的早期に後倒ししてくれた実績があります。本件についても「通勤手当と同時支給じゃなければ非課税にするで」と宣言してくれれば、テレワークをしない企業に対しても、良いメッセージになるんじゃないでしょうか。

ぜひご一考のほど、よろしくお願いいたします。

ではでは、今日はこのへんで。