こんにちは、らくからちゃです。
ボーナスシーズンもそろそろ一段落した頃合いですが、御社の各位はいかがでしょうか??支給される前に『みんな良く頑張ったから、今回はちょっとだけ増やしといたったで』との社内通知が出てたので、ドキがムネムネしながら支給通知を拝見いたしました。
ほんまにちょっとやんけ
やったー!増えてるー!!
額の話はさておき、増えたのはありがたい話ですなあ。ここ最近は、ニュースを見ていても、景気の良い話が多いですね。
経団連は14日、2018年夏賞与の1次集計結果を発表した。大手企業の平均妥結額は前年比6.71%増の96万7386円で、1959年の調査開始以来で最高。好業績を背景に建設や自動車がけん引し、2年ぶりに増えた。90万円の大台を上回るのは4年連続。政府がデフレ脱却に向けて経済界に賃上げを要請した動きも追い風になった。
ちょっと分けてほしいですね。
特に今期は、働き方改革で業績が向上した企業を中心に、浮いた残業代をボーナスとして支給するといった動きが加速しました。
ただ色んなコメントを眺めていると『ボーナスじゃなくて基本給を上げろよ』とか『減った残業代に比べて少なすぎる』といった声を多く見ました。こういう話を聞くたびにね、高校生の頃にちょろっと遊びに行っていた会社が、
『社員の平均賃金を100万円上げる!』
こと目標に掲げ、その後4年で達成した話を思い出します。
この話は、一緒にインターン(のようなこと)をしていたメンバーの中から、その後同社に就職した友人から、地元に帰ったときに聞いたまた聞きの内容になりますし、恨みつらみ大国ニッポンで不利益を被らないよう特定を避けつつ書かせていただきます。まあ、ナルドでのJKの会話か、バックスでのJDの雑談程度に受け取っていただければ幸いです。
楽園の限界
わたしが遊びに行っていた会社は、割とどこにでもある地場のシステム屋でした。
某大手電子機器メーカーで技術者として働いていた社長が『もっとシステムの利用者に近い仕事がしたいなあ』と、友人たちと一緒に起業し、社長の実家が経営していた食品メーカーの社内システムなど、企業向けシステム(会計システムとか、受注の管理とか)の開発運用をを中心に事業をスタート。
地元でツテのある企業を中心に、順調に取引を広げ続けた上、ITバブルの崩壊・リーマンショックの際に経営が傾いた同業他社を、捨て猫を拾うかのごとく買収した結果、事業規模は毎年増加しつづけていました。
その一方で、増加する仕事に対し要員が追いついていない状態だったそうです。地元の商業・工業高校からの新卒採用も始めたりと、人材の確保は積極的に進めてきた上に、社長みずから、ヘッドハンティングを行うこともありました。しかし、それまで順調に確保できていた人材が、あるころからさっぱりと集まらなくなります。
職場の働きやすさには魅力を感じるんだけど、さすがにそのお給料じゃちょっと・・・
と。確かに、残業時間を1桁台にしたり、有給取得率を90%にしたりするなど、働きやすさに関しては、同業他社と比べると非常に良い環境になりつつありました。また理不尽な客に悩まされることも、社内でムダにマウンティングし合うことも無い、働きがいのある仕事という点にも重視している自信がありました。
でも年収に関しては、残業時間が短いこともあり、かなり低かったみたいなんですよね。もちろん職場の環境は重要です。ただそれだけでついてきている人数には限界があります。それまで、社長と親しい『働きがいのある職場が一番!』みたいなタイプの人を中心に声をかけてきた結果、なんとか新規戦力を確保できていましたが、それにも限界があります。
この状況を受け、社長はごくシンプルな決断を下します。
よし、社員の給料をあげよう。
使う人も作る人も幸せに
その日の役員会のテーマは、給与報酬に関する諸規定の再整備でした。
参加していたのは、社長の他、販売・開発・導入のそれぞれの部門長、そして管理業務全般担当の専務(社長の奥さん)の計5名が参加していました。冒頭で、社長は考えてきたプランを伝えます。
社員の給料を100万円上げたいと思う。
一同( ゚д゚)ポカーン...
社長が調べた結果、当時の同社の平均年収は、同業他社と比べて50万円ほど安かった。なので、逆に50万円増やすために100万円増やしたい。というわけです。
この突拍子もない発表に帰ってきたのは「社員の給与を増やすべきというのは分かるが、多すぎやしないか」「どう考えても、いまの経営状態では無理がある」「10万円くらいでも効果はあるのでは?無意味に増やすのは経営リスクを上げるだけでは?」などなどの意見。
次第に言葉数が少なくなる中、「わたしからもよろしいでしょうか」と、会社の金庫番でもある専務が手をあげました。
「まずは我が社の現状をしっかり考える必要があります。
現在、一人あたりの経常利益は30万円程度に過ぎません。つまり一人30万円以上年収をあげると、我が社は赤字となります。また現預金月商比率は、なんとか2ヶ月分を確保しています。経費や賞与、社会保険に充てる分がありますので、売上=月給ではありませんが、手許の余力についてもだいたい2ヶ月分くらいしかありません。
つまり利益も過去の貯蓄も全て吐き出したところでも、100万円増やす余力は無いのです。」
会社の中の全ての数字を知り尽くし、ボールペン1本の値段にまで厳しい専務の言葉は、他の誰のものよりも重く、説得力がありました。参加者全員が「そうだよなあ」とため息をつき始めた瞬間、専務はホワイトボードの前に移動し、いくつか数字を書き始めました。
「まずは、一人あたりの付加価値を増やす必要があります。例えばですが、5年間を目処に、必要な利益水準の確保を行いながら進めるのであれば、このような計画になります。皆さん、いかがでしょうか?」
社長を含め、みんなが反対すると疑わなかった専務の予想外の提案に、一同がフリーズする中、専務は続けます。
「皆さんや付いてきてくれた社員のおかげで、我が社は当初の想定よりずっと早いペースで成長し続けることができました。ですが、このままでは今後の成長は望めません。
今一度原点に立ち戻って、お客様にはより一層価値のあるサービスを提供し、社員にはより多くの給料を還元して、更に優秀な人材を集める。このサイクルを回していきましょう。お客様も社員も幸せにしない浪費は1円たりとも認めません。しかし、これは我が社の本来目指していたところに辿り着くための手段のひとつです。
どうでしょう。チャレンジしてみませんか?」
その言葉に、のこりの4人全員から自然と賛成の声があがりました。
「専務にそこまで言われたらチャレンジするしかないよね」「できない理由は沢山あるけど、やらない理由は一つも無い。できる理由は探せば見つかるさ」「じゃあみんなで分担を決めますか」と。
年収100万円向上計画「使う人も作る人も幸せに」は、全会一致をもって役員会で決議され、同社の経営基本戦略の一部として採択されました。
意外な反対者
計画の内容は、ごく基本的な部分しか決まっていませんでしたが、なるべく早めに社員とも共有しておいたほうがよいよね、との判断から各部門内ミーティング等で経緯と内容についての簡単な説明が行われました。
しかし全会一致で決まった役員会とは異なり、社員側の反応は様々でした。
当時の同社の社員は、ざっくり以下の3つのタイプに別れます。
まずは創業時のメンバーや、創業メンバーとも親しいベテランのメンバー。次に、新卒採用されたり中途採用で入ってきた比較的若いメンバー。最後に、経営破綻しかかっていたところを買収され参画したメンバー。
歴史の授業風に言えば『親藩』『譜代』『外様』みたいな感じでしょうか。
最も反応が良かったのは、意外にも給料よりも"やりがい"が大事と言って憚らない『親藩』の人たち。本人たちは「会社としてより価値のある仕事にチャレンジしていくってことだろ?良いことじゃん!」「友達が誘いやすくなって助かる」などと、あまり給料そのものへの関心はなかったみたいですけども、とにかくすぐに賛成の立場をとりました。
反応に困っていたのは、社会経験の少ない『譜代』の人たち。「残業が増えたりすることは無いの?」「労働環境が悪くなりそうで怖い」「そもそもそんなに増えることが想像できない」と大いに困惑したそうです。労働条件は悪化させない前提と伝えると、半信半疑ではあるものの受け入れてくれたそうです。
予想外の反応をとったのが、普段から「前の会社よりも手取りが減った」と不満げだった『外様』の人たち。給料アップ計画に大喜びするのかと思いきや「そんなもん出来るわけ無いだろ」「また無茶なことを社長が言い出して会社が倒産するのか」「どうせ平均が上がったとしても俺らには関係ない話なんだろ」と他の誰よりも強い拒否感を示したそうです。
まあこの時点ではかなりザックリとした計画だったみたいですし、具体的にどんな方法で昇給するのかもきちんと決まってなかったので、心配するひとが多かったのも仕方ないでしょう。
こうしたヒアリングの結果を受け、次に具体的な給与報酬制度の改正案が練られることとなりました。
誰が給与を決めるのか
もともと同社の給与規定は、有名無実化しており、人事担当者と役員の判断によって、わりと『雰囲気』で決まっていたそうです。そのため、100万円アップ計画にあわせて、きちんとした規則を再設計することとなりました。
100万円相当の給料アップをどうするのかに関して、諸々検討した結果、以下の割合で割り振ることとしたそうです。
- 職能給:20万円
- 業績給:20万円
- 基本給:60万円
職能給
それまで雰囲気で行われていた昇給制度を一旦リセットし、それぞれの社員を、仕事の能力に応じて以下5つのランク×上・中・下の15階級に割り振り、それぞれに対応した賃金テーブルとなるようになりました。
技師補 | 業務の補佐が出来る。 |
---|---|
技師 | 業務が遂行できる。 |
上級技師 | 難易度の高い業務が遂行できる。 単独で業務が遂行できる。 業務の指示が出来る。 |
主任技師 | より難易度の高い業務が遂行できる。 業務の計画を立案できる。 業務の指導が出来る。業務の事業化ができる。 |
主幹技師 | 非常に難易度の高い業務が遂行できる。 大規模な業務の計画を立案できる。 長期的な研究・指導の指針を決定できる。 大規模な業務の事業化が出来る。 |
どことなく職位名が某社チックなのはさておき、まずは誰がどれくらいの位置づけにあるのかをキチンと見える化するところから始めたっってことですね。
制度としてのポイントは、
- 『能力』をベースとした
- 管理職にならなくとも高い技術力があれば昇給する仕組みとした
- 指導できるのか?事業化できるのか?も評価項目とした
ってところでしょうね。
へーと思ったのは、一番重要な『どの職位になるのか?』については、具体的・明確な基準は設けず、自己申告制としたってところ。
毎年最低1回、平社員から社長に至るまで『かくかくしかじかの理由で、自分の職位は○○であると考えます』という申告書を提出させる。内容は全員が確認できるファルダに格納され、特に異論がなければ、担当役員に受理され承認されるって感じ。
申告書には『応用情報技術者の資格を取得した』とか『AugularJSの案件において実装フェイズを担当した』とか、割と何を書いてもOKなんだそうですが、この条件を満たせばこの職位、っていう具体的な基準は無いらしいんですね。
そんじゃーみんなどうして決めてんの?と聞いたところ、要は相対評価だと。
社内序列として、○○さんとはだいたい同じくらい仕事が出来るはず!みたいな比較で考えて申告してるらしいんですね。
上から一律で評価する場合には、明確な基準が必要になります。でも細かい基準を作ると、その枠組の中で拾え無いひとや、不公平・不平等を感じる人が出てきます。そうすると『なんだコレじゃ頑張る意味ないな』と不貞腐れるひとが出てきちゃう。そこで各自勝手に自己申告し、上司・同僚・部下全員にレビューしてもらって決めちゃってよ、と。したわけですね。
初めて聞いたとき、そんなもんでよく回るな!と唖然としたんですけど、案外これでうまく回ってるみたいなんですね。
むしろ基準が複雑化されすぎた結果、ブラックボックスの中で決まるほうが「あってないようなもの」じゃないかと言われて気がついたんですけど、確かに機能しない評価制度にするよりかはこっちのほうが良いのかもしれないですな。
ただ職位が上がったことによる昇給額は、敢えて大きな格差に繋がらないように設計されました。
この制度って直接の職務とは紐付かないので、実際の売上の金額と連動したりするもんじゃないんですよね。なのでここのウェイトをあまり大きくしちゃうと経営のバランスが悪くなる。職務と連動する『職務給』を採用する選択肢もあったわけですが、その場合、能力が高くともそれを実現するポジションが割り当てられない人は評価されないし、職務を解くことが難しくなる。
まだまだ小さな会社である分、社内での人材の流動性は高く保つ必要もあったため、職務給ではなく職能給をベースにしたってことみたいですね。あとお給料の不満って『お給料が○○万円しかない』ことより『同じような仕事をしている××さんのほうが多い』ことで生まれやすいんですよね。
主にそうした不公平感の解消をメインとした制度設計なんでしょうね。
業績給
それとは別に、頑張って目標を達成した分は、賞与のうちの業績連動部分に加味される。
それ自体は珍しい制度では無いのですが、「チームプレイで動いている以上、個々人の業績を図ることなんて不可能」との前提のもと、業績は全て所属している部門の業績で判断され個人業績みたいな考え方は持ち込まなかった。
凄いなあと思うのは、それを徹底するために経営管理の基本的なところまで見直したらしいんですよね。具体的には、
- 事業部制の導入
- 四半期ごとローリング予算の採用
- 投資管理・業績管理のオープン化
などなど。
これまで、販売・開発・導入といった機能別に分かれていた部門を、事業分野別の事業部単位へと再編した。そのため、各社員は同じ釜の飯を食う事業部の仲間たちと事業計画達成を目標に動くことが出来るようになった。
また予算に関しても、年間でざっくりと決めていたものから、四半期ごとに見直すローリング方式を採用。簡単に説明すると、第1四半期(4月から6月)が終われば、翌年の第1四半期以降の予算を計画し、第2四半期(7月から9月)が終われば、また翌年の第2四半期以降の予算をを計画することによって、常に切れ目なく、未来の計画を建て続けていくようなイメージですね。
年度予算方式では、年度末に慌てて仕事をしたり、予算を使い切ろうとする動きが出てきてしまいます。常に四半期の単位で切れ目なく行えば、そうした波はかなり抑えられます。このへんの考え方は、下記の本が結構くわしいので、ご興味がある方はぜひ。
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また、事業全体の計画や評価の行い方もガラッと変わることになりました。
各事業部長は、4半期が終わるとすぐに、事業報告書と1年間以上の事業計画書を提出します。それを受け、役員会にて過去に提出された事業計画と事業報告の内容をもとに、各部門の業績評価が行われます。合わせて、新しい事業計画の内容を検討の上、承認が降りれば要員配置が計画される。
業績評価に関する討議内容は、きっちり発言者つきで、一説によればアクビの数まで記録される議事録に残され、社員の誰もが見れるようにしとるそうです。賞与額は、その結果をもとに四半期単位で、各事業部1人あたりの金額を算出し、半年ごとに支給を行うって感じみたいですね。
話を聞いていると、業績評価制度をちゃんと運用しようとすると
- 自分の仕事が関与する範囲で
- 比較的短いスパンで
- 誰がどのような基準で判断を下したのか
が、きっちりと分かるものじゃなきゃダメなんでしょうね。
基本給
そしてここまでしっかりとした『職能給』『業績給』の仕組みも整えたのに、100万円アップ計画の半数以上は『基本給の増加』で実現する計画となりました。
そりゃまたなんで?一律に給料をあげてしまったら、タダ乗りするフリーライダーが発生して、社員のモチベーションは下がるのでは?と、同社に残った社員が企画した「同窓会」で、社長に聞いてみたことがあります。
「我が社の場合、ポテンシャルの向上に関しては、給与よりそれが職場できちんと認められる仕組みさえあればよかった。また部門のパフォーマンスの向上についても、賞与にその額を反映するよりも、みんなが一生懸命目標に同じ目標に向かって取り組める仕組みさえあればよかった。両者とも、きっかけ作りにしか過ぎない。
じゃあ、みんなが給料に求めていたものは何だったのか。
それは、安定・継続して上がり続けること。社内の誰かではなく、去年の自分よりも多くもらえ、生活が豊かになるという確証。それが社員みんなの求めているものだったので、全社員一律の昇給へのウエイトを大きくした。」
なるほどー、でも基本給あげるのってリスク大きくない?
「例えば月給を1000円あげるとする。年間賞与額が3ヶ月分として、1年間で1万5000円。10年間で15万円の支出になるわな。この15万円を一律でボーナスとして貰うのと、1000円の昇給ならどちらが良いか?その答えは人によって違うと思う。ただ、
- 10年たった後、15万円賞与が増えたことなんて忘れてる可能性が高い。
- 基本給なら10年間分を分割で払えるので、財務的な負担が小さい。
- 10年間ずーっと1万5000円分は同業他社より年収を多くできる。
ということを考えれば、決して悪くない選択肢じゃない。もちろん40年間払い続けることになるかもしれんけど、それだけ会社が長続きするくらいなら十分出せるさ。インフレしてるかもしれんしね。」
と言われ、うーん、よその偉い人は面白いこと考えるなあと思ったもんです。。この話を聞いたのは、社会人になって数年たった頃でしたが、今でも良く覚えている部分があります。
「給料に対する社員のモチベーションはひとそれぞれ。1円でも増やしたいと思っている人もいれば、そこまで強いこだわりがない人も多い。一部のやる気のあるひとにだけウケが良い制度を導入し、大多数のノンビリやりたいと思っている人の意欲を沿いでは、角を矯めて牛を殺すようなもの。組織は沢山の"働かないアリ"で成り立っている。一見すると、他の人と比べると成果を上げていないように見えても、誰がそれを断言できるのか。まず会社が社員を信用せずして、社員はついてくるものか。」
過去、弊社でも給与制度改革のようなことが行われていました。耳障りの良い言葉は沢山でてきましたが、どうも違和感があった。どうやらその理由は、業績主義の名のもとで、社員を信用しないものだったからなんですね。
そのことがわかって、随分とすっきりした記憶があります。
誰が為に金は成る
さてさて、新しい制度も整い、社員のモチベーションもアップし、順風満帆。初年度から大幅爆益!!
・・・とは残念ながらならなかった。
計画実現のために迷走したこともあり、売上も利益も前年割れ。計画通りに給料をあげると、赤字スレスレのラインとなる有様。みんな「やっぱりダメか」と諦め半分になる中、社長は「計画の実現はオレのけじめ」「利益が足らないなら役員報酬を返納する」と言って譲らなかったため、計画そのものは継続することになります。
ただ社長が男気を見せただけで、利益が出るほど世の中甘くはない。計画の実現には何はともあれ先立つ利益が必要です。ところが、この『利益を出す』ってことに、みんなまだ慣れてなかったんですよね。
「簡単な仕事でお客さんからお金を毟り取るようなことはできない」「コストを減らして品質も下げるようなことはしたくない」という考えを引きずっている人が多く、儲けること自体に拒否反応を示す人すらいたんですよね。
そのマインドを変えることになったのが、新しい人事制度でした。
一律でお給料が上げられている以上、自分だけが知恵を出さないわけにはいかない。みんな徐々に「簡単な仕事でも、お客さんがそれでハッピーになるなら沢山貰ってなんの問題もない」「お客さんにとって価値に繋がらない箇所の品質を上げるより、もっとお客さんに喜んで貰えるものを作るための時間に充てようよ」と声を上げ始める人が出てき、徐々に状況は好転していきます。
その後、何個か「ヒット作」を生み出すことに成功し、ビジネスを作り出すノウハウが社内に蓄積されていきます。追い風を得て、2年目は1年目の遅れを取り戻し、3年目は当初の予定を上回り、4年目には5年目で達成する計画の予定を達成したため、当初5カ年で立てられた計画は4年で達成されました。
当初目的としていた幅広い人材の確保にも成功し、いまも修正された箇所は多いものの基本的には「使う人も作る人も幸せに」に沿った人事制度は踏襲しているそうです。
もちろん社員全員が納得しているわけではないでしょう。
ただ、良いお仕事をして、沢山お給料を貰って、更に優秀な仲間を増やして、もっと良い仕事をする。そのことの重要さについて、みんなが共有していることは、同社の大きな強みになっているようです。その背景には、折に触れて、現在の給与制度が生まれた経緯を「昔、こんな話があってなあ」と語り継いできた人たちの存在があるようです。
人口減少社会に突入していく中、多くの企業が人手集めには苦労していると耳にします。人材の確保は全ての企業において経営戦略の根幹を成すものです。まずは、きちんと語れる人材戦略を作る。そこから始めたほうがええんとちゃうのかなあと思う、今日このごろです。
ではでは、今日はこのへんで。