ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

犯罪統計からグラフの読み方について考えてみる

こんにちは、らくからちゃです。

先日、こんな記事を読みました。

いやー、殺人事件の件数が減っているのは大変良いことです。

印象論ではなく実際のデータをもとに議論することは大切なことです。でも『マスコミに騙されている人が沢山居るゾ!』みたいなコメントもよく見ますが、それって印象論じゃねーの?そっちはデータないの?と思う時があるんですよね。

少なくともウチの周りには『最近治安が悪くなった』なんて言っている人を見たことは有りません。ただこれも、自分の観測範囲圏内での印象論にしか過ぎないわけです。と言うわけで興味本位でその辺のデータを漁って見ることにしました。

日本は安全・安心な国か?

 まずは、ちょっと古い統計にはなりますが治安に関する特別世論調査というものの中に『治安への意識』という項目がありました。こちらから見ていきたいと思います。文中では和暦ですが、西暦に直すと

  • 今回調査:2012年
  • 前回調査:2006年

となります(分かりづらいから併記して欲しい・・・)

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我が国は『治安がよく、安全・安心であるか?』という問いに対し『そう思う』と答えた人の割合は、13ポイントも改善し、過半数を超える結果となりました。この結果を見る限りでは、『治安は良くなっている』と感じている人が多いと言えるかと思います。

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一方『あなたは,ここ10年間で日本の治安はよくなったと思いますか。』という問いに対しては、8割近くの人が『悪くなったと思う』と答えています。大多数のひとが治安が悪くなったと思っているのに、安全・安心な国だと思う人の比率が増えたのは随分と不思議な結果です。

もうちょっと最近のデータも見てみましょう。2015年実施の少年非行に関する世論調査からデータを持ってきてみました。『実感として,おおむね5年前と比べて,少年による重大な事件が増えていると思うか?』という問いに対する回答結果がこちら。f:id:lacucaracha:20160928005814p:plain

前回(2010年)実施時よりも『増えている』の比率は74%から78.6%に増加しています。そもそも『少年非行に対する印象論』みたいなものを調査して何がしたいねんやろ、と思うのですが、実際のところってどうなんでしょうか。

少年による重大な事件は増えているか?

では少年犯罪の発生件数についてみてみましょう。数値は犯罪白書の値を見てみます。検挙数や人口比で見ると、昭和60年前後(1980年代末)をピークに下がり続けています。

http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/62/nfm/images/full/h3-1-1-01.jpg

 

戦後すぐの頃より、昭和60年台のほうが少年犯罪の検挙数・人口比が増えています。とすると『戦後すぐの頃のほうが犯罪が少なかった』ということでしょうか?

データの内訳がこちらのサイトに有りました。

ざーっと眺めて頂ければ分かる通り、全体の比率の中で、『窃盗』の占める割合が非常に大きく、昭和60年頃に件数もピークを迎えています。じゃあ万引きがブームになったのか?とも考えられますが、検挙数って、発生数✕検挙率となるわけですな。犯罪の発生数が変わっていなくても、お巡りさんの処理能力が上がれば数値は増加します。

この件については、どちらかというと警察の検挙能力が向上した結果かな?というような気がします。このデータ、眺めているだけでも中々面白いですね。

  1. 強盗・詐欺の増加は、ひったくり・オレオレ詐欺?
  2. 性犯罪は一貫して減少。
  3. 殺人の件数は1975年以降は増減があまりない。

などなどの結果が見られるような気がします。なお殺人に絞って少年の検挙人員数を見てみるとこんな感じ。

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(平成27年版 犯罪白書 第3編/第1章/第1節/3 を元に筆者作図)

そんなに居たんだなあとちょっと驚きもありますが、ここ最近の傾向としては概ね50人前後で推移しています。これくらいの人数になれば『誤差の範囲』だと思いますが、『増えている』はいませんが『減っている』わけでも有りません。

設問の『重大事件』を『殺人』と読み替えると、『変わらない』が正解になりそうです。

犯罪が多いと誤解するのはテレビのせいか?

じゃあ『少年による重大事件』の数は変わっていないにもかかわらず『増えている』と感じるのは何故なのでしょうか。2006年の治安に関する世論調査の結果の中に、『自分や身近な人が犯罪に遭うかもしれないと不安になるとき』というデータがありました。

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年齢層別のデータが有りましたので、年齢別にまとめてみました。概ねどの年齢層でも、

  1. 凶悪犯罪やテロ行為がマスコミなどで報じられたとき
  2. 身近な場所で犯罪が発生したとき

がどの年齢層でもツートップとなっております。マスコミ報道は、かなり大きな影響を持っているようですが、同じくらい『身近な場所』で起こった犯罪について反応が大きいことがみられます。また両者とも、40代をトップとし、それ以降は比率が下がっています。

次に都市規模別のデータについてもまとめてみました。

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人口集中地であればあるほど、『マスコミ報道』『身近な場所』が影響を持っています。単純にマスコミの報道が増えたというだけでなく、都市部の人口密度が増加した結果、普段訪れるエリアで犯罪が発生する可能性があがったことも、『犯罪が増えた』と感じる理由なのかもしれません

また年齢についても、テレビばっかり見ている年寄りが過剰反応しているというよりも、家庭があって職場で接する人の多い働き盛りの世代の方がより敏感、という背景もあるのでしょう。

またインターネットの普及についても考えるべきポイントは多いような気がします。定期的にいわゆる『事案』が話題になることがありますが、ネットの普及により、以前よりも身近な情報を手に入れやすくなりました。またSNSの普及で、『身近な人』の範囲も広がったように思います。そういった点からも、『犯罪を身近に感じる』機会は今までよりも増えているのかもしれません。

グラフの読み方について思うこと

個人的にいろんなデータを眺めるのが好きなので、統計情報はよく見ます。特にグラフがあれば、ビジュアルにも分かりやすくなりますが、グラフを使った説明というのは(本稿も含め)文章を書いた人の主観が多く含まれることについては考慮が必要じゃないかな、と思います。

統計データというのは、ひとつの風景画のようなものであり、それをどういった視座で見るのかによって見えてくるものは随分と代わります。ただ幾つかの『コツ』があるような気がします。

思い込みを捨てる

データを見るにあたって仮説を立てることは理解を深めるためにも重要なことです。ところがそこに拘り過ぎてしまうと、何か大事な物を見落としてしまうことがあります。

詳細を見る

内訳の情報があるのであれば見てみましょう。全体像に影響を与えたデータについて何か分かることがあるかもしれません。

データの成り立ちを確認する

データを収集したもとになった定義がどのようなものなのかを確認しましょう。特に、世論調査などのアンケート方式のものについては、『どのような質問文』で『どのような選択肢』だったのかは最低限抑えるべきポイントです。加えて、調査対象となった人や、調査全体のコンテキストがどういったものだったのかも回答に影響を与える可能性があります。

統計やグラフというものは、何かを主張する際には大変強力な武器になります。ただ、新しい何かを得るためには、読み手の姿勢が問われます。本稿も色々と穴だらけなので、是非実際のデータを見ながら、色々と考えてみて頂ければ幸いです。

ではでは、今日はこの辺で。