ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

『解体屋ゲン』から学ぶプロとして大事なこと

こんにちは、らくからちゃです。

世間は、羽生結弦選手2連覇のニュースでもちきりですね。2018年平昌冬季五輪は丁度今日で折り返し地点。様々な種目のスケジュールが残っていますが、今回いろいろと注目を集めているボブスレーは、本日2/18からの予定だそうです。

誰が良いとか悪いとかはさておき、『下町ボブスレー』を無理に持ち上げようとして、引っ掻き回してしまったことについては、ジャマイカの皆様に真摯にお詫びしなきゃいけないなあと思う次第です。

同時に、下町で汗を流している職人さんたちに対しても大変失礼な話です。実際に怒っている人もチラホラと見ましたが、大事に守ってきたブランドが、外野の人たちのせいで壊されるのは、黙っていられないでしょう。

我々システム屋にも職人芸の世界はあります。そこでは、志の高い先人たちの手で沢山の価値のあるものが生み出されてきました。しかし、プロフェッショナリズムがなぜ重要なのか?について、説明される機会は少ないのが現状です。

今日は、働く人全員にとって大事な『プロとしての自覚』について、大変分かりやすく説明してくれている書籍があるのでご紹介いたします。こちらです。

 

プロが守らなければならないこと

いや、一度紹介したかったんですよね『解体屋ゲン』。

これはですね、ビルや工場、民家といった建物の解体を請け負っている ゲンさん こと朝倉巌と、彼の経営する会社の愉快な仲間たちによる、いわゆる『お仕事系』のマンガです。

主な想定読者は、"ガテン系"の皆様だと思いますが、現場の濃ゆい話に限らず、元請けと下請けとの対立、産休育休などといった社員の働き方、そして中小企業の経営者としてどう振る舞うかといったところまで描かれ、この業界に全く知識のない人間とっても中々読みやすい作品です。

週刊漫画TIMESで連載中なのですが、長らくコミック化・電子化がされておらず"幻の作品"の状態でしたが、いまなら39巻中37巻がKindle Unlimitedで読めます。だいたい16,000円相当分が500円で読めちゃいますのでぜひ!!(宣伝)

 語弊を恐れずに言えば『ガテン系の島耕作』みたいな作品なので、読者層にウケの良さそうな勧善懲悪系の話も多い一方、読者層にとっては耳の痛い『談合との距離のとり方』『どうやってお客様に価値を理解してもらうのか?』といった部分にも、逃げずに真正面から挑んでいるところは好感が持てます。

製造業と建設業、その間には大きな差はあるでしょう。でも守るべき『プロとしての意識』は、業界問わず共通する部分もあると思います。

例えばこんなシーンがあります。

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ゲンさんのライバル、ジョージが派手に人を集めて行った解体イベントの中で、ゲンさんは彼らの大きなミスに気が付きます。大失敗になるになってしまうため、何度忠告しても聞き入れられなかったため、勝手に助けた場面での一コマです。

日本の爆破解体は十年逆戻りしちまう

このセリフ、作中で何度も出てきますが、まさに『プロが高い職業倫理を守らなければならない理由』を端的に表現したセリフだと思うんですよね。

素人にはプロの仕事の価値は良くわかりません。プロが行う仕事には、過去の様々な経験のすべてが反映されています。しかし、そうしなければならない理由をすべて説明出来るわけではありません。

我々システム屋の世界に置き換えていえば『コーディング規約が存在するのは何故か?』『テストコードを書く理由は?』『そのドキュメントはどうして必要か?』。そんな話でしょうか?

目に見えない部分について、お客様は細かく評価はできません。『きっと上手くやってくれるだろう』と任せて貰うことになります。それがプロとしての仕事の価値です。

素人からみたプロの仕事はまさに魔法のようなもの。お客様を騙すような仕事が行われ、信用が失われれば、当事者だけでなく、プロフェッショナリズムの価値がまるごと否定されてしまうのです。

プロが、お互いの記述を共有したり、困ったときに助け合ったりするのは、ただ仲が良いからというだけでは無いのです。外部からの信頼を勝ち取りる、より専門性を高め、自分たちの価値を高めるためでもあるんですね。

浪花節みたいな論調で語られがちですが、プロフェッショナリズム守ることは、ただの精神論ではなく合理的な行動なんです。その辺についてもう少し掘り下げたお話を、本作から2話ほどご紹介したいと思います。

※ネタバレありますのでご注意を!

プロは何と戦っているのか

第5巻の『社長失格』というお話からです。

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本作でゲンさんたちは、製鉄所の溶鉱炉の設備の解体に挑みます。さーて、酒でも飲みながらどうするか考えるかなーと思っていたところに現れたのが、ゲンさん永遠のライバルのジョージ。

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ジョージたちは、火薬を使った爆破には固執せず、最新鋭の設備を使った解体方法を提案します。これなら巨大な設備の解体が安全に出来ます。一方、ゲンさんお得意の爆破による解体は、うまくいく保証はなく、作業員への危険も伴います。

完全に読みが外れたゲンさん。この絶体絶命のピンチを乗り切るべく、考え抜いた結果、ある方法にたどり着きます。

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均等に圧力が掛からないのが課題なら、中に水を注入し、その中で爆発を行い均等に圧力をかける方法を持ち出します。しかし大成功したにも関わらず、その表情は冴えません。

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このシーン、実に『職人らしい』シーンだと思いません?

相手に負けたことを悔しがっているわけではなく、自分の仕事がベストではなかったことにたいして腹をたてているんです。

プロの仕事の価値は、プロにしか評価できないんですよね。高度で専門的であればあるほど、その評価は本人にしか出来ない。なので、様々な環境や状況をすべて勘案した上で『どうだ、これが俺の仕事だ』と胸を張って言える水準に達していなかった。そのことに対して腹を立てているんですよね。

でももうひとつ重要なことは、その評価軸が単なる自己満足に収まってしまっちゃダメなんです。次にご紹介したいのは、そんなお話です。

プロの仕事の価値とは

お次にご紹介するのが、第9巻から10巻にかけての『海堡爆破』というお話からです。

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このお話でゲンさんたちが挑むのは、戦時中に作られた砲台(海堡)の跡です。本作では、第5海堡というどこにも記録にない砲台の跡を撤去の話が持ちかけられます。何の記録にもないため、国は存在すら疑っているような有様。でもこれがあるせいで、港には観光フェリーが入港できない。そこで海堡を作ったひとの曾孫が、曽祖父がこっそり遺していた記録と、なけなしのお金を引っさげやってきます。

でも資金的にこれではさすがに無理がある。そこに手を差し伸べてくれたのは島のリゾート開発を狙う業者でした。ただこれが、後にひと波乱を起こします。

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この撤去工事に大して、島民たちは一致団結しているわけではなく、なかには今の環境を変えることに抵抗のあるひとたちだっています。

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まさに島を真っ二つにぶった切る議論に陥りかけた中で、ゲンさんは、かつてこの海堡を作った技術者の遺した記述の中から、驚くべき記載を発見します。これだけ大きな設備の解体にも関わらず、なにもリゾート業者の支援なしでも実現できる!そう言い始めるのです。

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どういうからくりなのかといえば、この海堡は、平和な時代になれば不要になることを見越して、最初から解体の手順も踏まえて設計されていたのです。

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これぞまさに、職人芸だと思いませんか?

 

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ちょーっと引用多めかもしれませんが、お許しください。でもわたし、フィクションだとわかっていても、この話、すんごい好きなんです。これ、プロが仕事を行うにあたって必要な大事なことが、全て詰まっている気がするんですよね。

1.自分の仕事を引き継ぐ技術者のことをしっかり考えること

このお話では、海堡を解体するにあたって、ちゃんとした解体手順を技術者のために残しています。システム屋の世界でも、のちのち改修が加わることを意識した上で、設計出来る人は尊敬されます。

それがいつになるのか?誰になるのかは全くわかりません。場合によっては、憎き商売敵になるかもしれない。名も顔も知らぬ、自分の仕事を引き継いだ技術者が困らないように、しっかり責任をもった仕事を行う。

誰に評価されなくとも、きちんとした仕事をする。それがプロフェッショナリズムです。

2.ユーザーの本当のニーズをしっかり考えること

そしてもう一つ大事なのが、『職人たちの世界』だけに目をむけてはいけないということです。

この仕組みがあることによって利益を得るのは、後世のひとたちであって直接の発注者である軍部の要望にはなかったことでしょう。きっとこの仕様は、軍部には秘密裏に、こっそりと裏で入れたものです。『いまは必要とされていなくとも、後世必ず必要となる』という強い信念を持って盛り込まれたのでしょう。

細かな技術的な美しさを追い求めることも大事です。でもそれは、最終的に関係者の利益に繋がらなければなりません。『そんなものは要らないよ』と言われるかもしれない。それでも必要となったときに備えて、最大限対応できる準備を進めておくのがプロの仕事です。

3みんなが利益を手に入れられる仕組みを作ること

最後に素晴らしいなあと思うのは、この仕組み、決してコストが係るものではありません。

きっと建設時も、万一のための一工夫程度のコストで盛り込まれたのでしょう。解体を実行するにあたっても、ほとんどコストはかかっていない。優秀な職人ほど、品質や利便性の高さだけでなく、コストを意識します。

コストがかかるということは、ユーザーに使われなくなる可能性があがる。また技術者からも敬遠され、仮に採用されたとしても、疲弊する割には実入りの少ない仕事になる。

それじゃあダメなんです。

きちんと、ユーザーが受け入れられる価格で、技術者も利益が手にできる水準の手間で出来る仕組みを作れることがプロの仕事なんです。

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ここまで書いちゃうと、できすぎかな?って感じもしますけど、やっぱりプロに期待されていることは、契約書にも仕様書にもどこにも書いていないことを、しっかり考え抜いて、本当に必要なものを追い求め続けることだと思うんですね。

その仕事で満足ですか?

こういう話を書いていると、思い出すのがこの話。

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やっぱ『こんなこともあろうかと』は一度は言ってみたいセリフのひとつじゃん?この一言が言えるかどうかで、いままでにしてきた仕事の価値が決まるような気がするじゃないですか。

勿論、きちんと自分の評価が反映されたお給料が欲しい。これが最重要。でもその次は、しっかりとした仕事をして『さすが◯◯さんの仕事は違う』って言われたいし、そう思える職場で働きたい。どうせなら、あなたに任せた結果、みんながハッピーになれたって言われたい。

繰り返しになるけど、そのためにはちゃんと幸せに生活できるだけのお給料を出すこと。そして、直接結果は見えずとも、プロとしての仕事をきちんと評価していくことが大事なんじゃねーのん?

下町ボブスレーの現場も、どんな感じだったかはわかりませんが、それできちんと後続が育つように、頑張ってほしいなあと思う次第であります。

ではでは、今日はこのへんで。