ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

『病院をサロン代わりにしている年寄り』って本当に居るのかな?

こんにちは、らくからちゃです。

私事ですが、先日祖母が我が家の近所に引っ越してきました。幸いにも、頭の方はまだはっきりしているのですが(たまにぼんやりしてますけど)、85歳の昭和一桁世代ですので体の色んな所にガタが来ており、医療機関の引き継ぎ等で色々と往生しました。

さて高齢者の医療といえば『年寄りが病院をサロン代わりにしている』とか『健康なジジババが井戸端会議をしているせいで医療費が圧迫されている』あげくの果てには『今日は◯◯さんは病院へ来てないけれど、どこか体でも悪いのかしら?という声を聞いた』などなど。そんな医療リソースを食いつぶす"老害"像はメディアやネットでも良く耳目に触れる機会が多いように思えます。

私自身も、そんなものなのかなあとぼんやりと思っていたのですが、実際に足腰の悪い祖母を連れて病院を回っていますと、自力で病院へ行けるなら大変結構なことじゃねぇかくらいに思いはじめてきました。

勿論『そうした人が全く居ないか?』といえば答えはNOでしょう。だいたい、そんなものは悪魔の証明みたいなもんで事実確認は困難です。ただ色んな尾鰭背鰭がついた結果、枯れ尾花がとんでもない化物に見えたりしてないのかなあというのが正直なところです。

今週のお題「私のおじいちゃん、おばあちゃん」ということでもありますし、ざざっと高齢者の医療機関の利用頻度について調べてみたところを整理したいと思います。

高齢者はどれくらい医療機関を受診しているのか?

まず全体像として、病院へ足繁く通う年寄りはどの程度いるか?医療機関の受診頻度について国際比較結果を整理したデータを見てみるとこんな感じ。

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(出典:「われらニッポンの75歳 データにみるリアル」|ILC-Japan)

国際的にみると、"ほぼ毎日から週に1回位"が9.2%と他国と比べても高い状況です。ただデータを見る前は、もっと多くの年寄りが週に1回は病院に通ってるのかな?と思っていたので、そこから考えると少ない印象です。

ついでに、国内の各年齢層別のデータも見てみましょう。

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(出典:平成26年受療行動調査を元に筆者作図)

本件は医療機関を受診した人に対して調査されていますので、『ゼロ回』の人が反映されていない点には注意が必要です。確かに高齢者の受診頻度は高いのですが、月に1回以上医療機関を受診しているのは

  • 0〜14歳・・・44.3%
  • 15〜39歳・・・37.9%
  • 40〜64歳 ・・・ 47.2%
  • 65〜74歳・・・55.5%
  • 75歳以上・・・60.1%

となり"高齢者の外来診療が医療リソースを食いつぶしている"とまで言われることは無いのかなあっていうのが個人的な感想です。

高齢者の時間の使い方

また時系列でも見てみましょう。

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(出典:平成28年社会生活基本調査を元に筆者作図)

上図は、一日あたりの生活時間を何に使っているのか?から『受診・療養』を抜き出して集計したものになります。一番上の線が70歳以上になりますが、今から40年前の高齢者は、受診・療養に一日50分も費やしていたところ、直近の2016年では18分と1/3近くに減少しています。

じゃあ何してるようになったのかねぇ?と思い、(生まれてもいない1976年は、ちょっと想像がつかなかったので...)1996年と2016年で比較してみるとこんな感じ

  1996 2016 差分
睡眠 530 503 -27
仕事 64 50 -14
休養・くつろぎ 127 114 -13
受診・医療 26 18 -8
交際・付き合い 20 17 -3
介護・看護 5 5 0
育児 2 2 0
その他 25 25 0
学業 0 1 1
通勤・通学 3 5 2
テレビ・ラジオ・新聞・雑誌 244 246 2
ボランティア 4 6 2
学習・自己啓発・訓練 5 8 3
食事 119 123 4
趣味・娯楽 39 44 5
スポーツ 10 17 7
移動 16 25 9
買い物 19 29 10
身の回りの用事 81 93 12
家事 71 109 38

 睡眠や仕事が減って、家事や身の回りの用事が増えています。家電も進歩しているはずなのに何故・・・?と思いましたが、子供と同居する比率が減ったことも影響してるのかな?それよりも興味深かったのが"仕事"の部分ですね。

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いまから40年ほど前、70歳以上の高齢者は平均すると一日に1時間半ちょっと働いていましたが、現在では1時間未満です。おそらく以前は、歳をとっても農家や商店主・工場主などの自営業者が、ワークロードを減らしながらも仕事を継続していた影響かな?と思います。2001年を境に、60歳以上の労働時間が増えているのも、65歳定年制などの影響でしょうね。

 高齢者と医療の今昔

さて話が脱線しましたが、ここまでのデータを整理すると

  • 高齢者の全員が、医療機関に毎日通いつめているわけではない
  • 受診や療養にかける時間は、年々低下している

といった感じになります。繰返しになりますけど、『病院をサロン代わりにしている年寄りなんて都市伝説であり皆無!』と言いたいワケじゃないのですが、以前より状況は改善されつつあるのかもしれません。というか、ここまで言われっぱなしなら、何もしないわけにもいかんでしょう。

どう変わったのか?を個人的におもいついた範囲であげてみると以下のような感じ。

1.健康になった

http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2011/zenbun/imgs/z1-1-07.gif

(出典:平成23年版高齢社会白書 第1章 高齢化の状況)

まずは単純に、高齢者の健康水準が改善し、お医者さんへ通う必要が下がったのでは?という説。平均年齢も40年前からは10歳近く伸びていますので、同一年代内で通院が必要になる患者の比率も少なくなったのかな、と。

予防医療なども含めた、全体の医療水準の向上もあるのかもですね。

2.医療費が上がった

今となっちゃ信じられない話ですが、その昔、高齢者の医療費がゼロ円だった時代がありました。が、それは今や昔、現代においては一定の所得があれば現役世代と同等の3割負担となっています。

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(出典:兵庫保険医新聞)

まあ昔は、本当にサロン気分でやってきていた人も少なくはなかったのでしょうけど、いまやるにはコスパが悪い。それに以前よりも介護が充実しており、高齢者のレクリエーションは、ゲートボール以外にも沢山ありますし、病院に『遊びに行く』状況は余りないのかもしれません。

3.保険点数が変わった

あと受け入れる病院側に支払われる診療費の基準も、こうした状況を受けて定期的に改定が行われております。

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(出典:病院入院外医療費における初再診料等の年次推移)

例えば、初診料の点数評価は引き上げる一方、再診料を据え置いたりしております。これは、患者をいつまでも囲い込むんじゃなくて、さっさと治せやコラという意図狙いもあるのでしょうが、高齢者の来院頻度を減らす効果もあったのでしょう。

あとは、介護保険制度の開始と療養病棟の縮小も大きいんでしょうね。

『病院を高齢者の終の棲家にしない』政策は、なんやかんやで着々と進んでおりますので、その分、高齢者の受診・療養にかかる時間は短縮されたのやもしれません。

医療のコストとリソース

そもそも『たいしたことのない年寄りが医療リソースを食いつぶしている』と言われても、たいしたことが無いゆえに、コストはあんまり掛からないんですよね。増大する医療費の大半を占めているのは、外来ではなく入院に係るコストです。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/8/8c/Japan-Health-expendure-NHI_LSE.svg/400px-Japan-Health-expendure-NHI_LSE.svg.png

(出典:後期高齢者医療制度 - Wikipedia)

医療費の側面だけで見れば、原子炉の建設より自転車置き場の話題のほうが盛り上がるパーキンソン凡俗法則よろしく、目に入りやすい問題が話題にされた一面も大きいでしょう。

ただ結局この話って、医療費が云々というより『忙しい私が、なんとか時間を作って病院まで行ったら、暇そうな年寄りがおしゃべりしている中、長時間待たされた問題』のような気がするんですね。

であれば医療リソースの分配の問題になってきます。

コスト面での比率が小さくとも、命に関わる何かが起こったときに、十分な医療アクセスが確保できていないとすれば、それは大問題です。

慢性病を持っている高齢者が予約の上で来院する場合、新患よりも優先されるケースが多い。予約を持っていても、時間に余裕があったり足腰に不安があるため早めに来院してロビーで待っていることが多い。そして年寄りは、初対面のひとでも『ここの先生ってどう?』『あら、あなたも◯◯先生なの?』なんて勝手に仲良くなることも多い。

一見平和そうに見える空間であっても、裏ではまさに死にかかっている人が『どうせ病院いっても混んでるんだろうし、我慢するか』と思っているかもしれない。ただそれって、いかにもいそうな"老害像"を作り上げてみたところで何か変わるのかな、と。

ひとつの解決策としては、一定期間繰返し利用できるリフィル処方箋の導入はアリかもしれません。

病状の安定している慢性疾患の患者が、処方箋を貰うためだけに病院に行く必要がなくなれば、外来診療の混雑解消にも一役買うことになるでしょう。あとは、似たような別物の制度である分割調剤の利用を促進するとかでも良いかもですね。

これで3度目ですけど、幸いにも私自身は『病院をサロン代わりにしている年寄り』という存在に接したことは無いわけですが、そりゃまあ観測範囲の違いもあるでしょうし、存在そのものを否定する気はありません。居るっちゃいるんでしょうね。うちのばーちゃんがそうだよ、って人も居るでしょうし。

でもこの手の話って、人口に膾炙されていく中で、事実と創作が綯い交ぜになっていって、まるで怪談話のように、勢いで色んなうわさ話が、色んな人の想いとともに取り込まれていってるんじゃねえのかなあと思うんですね。個人的には、そんな話を元に論じるよりも、数字とグラフを眺めながら、あれこれ夢想するほうが性にはあうなあと。

あんな話やこんな話、どこまでが実話でどこからが創作なのかも、合わせて考え直してみると、面白いんじゃないのかなと思う今日このごろです。

ではでは、今日はこのへんで。