ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

知らないと損する:「エンジェル税制」という最強の節税方法

こんにちは、らくからちゃです。

「節税」というキーワードは、非常に魅力的なもののようで「1万円儲かる!」と言われても見向きもしなくとも「1万円節税になる!」といえばすぐに飛びつくひとって結構多いみたいですね(笑)。

そうした心理からか、最近「iDeCo」や「積立NISA」といったキーワードを耳にすることも増えてきた気がします。

株式への分散投資は、長期的な資産形成に役立ちます。ただ十分成熟している企業に資金を注ぎ込み続けるだけじゃ次の産業は育ちませんし、将来性のある企業に直接投資したい!という人にとっては活用しづらい仕組みです。

そうしたリスクマネーを本当に必要としているベンチャー企業と、新しいビジネスの立ち上げに協力したいと思っている投資家をつなぐ架け橋として「エンジェル税制」という仕組みがあります。人によりけりですが、

  • 最大450万円の節税
  • 株式売買での課税額全額ゼロ

になります。上手く使えれば、iDeCoや積立NISAがお遊戯程度に見えてくる非常に強力な制度です。実際に活用できる人は限られてくるかもしれませんけど、知っておいて損はしないはず!というわけで、サラッとまとめさせていただきます。

例のごとく素人の日記帳ですので、正確な情報が知りたければ税理士さんか所管官庁へ。また投資するかどうかの判断は自己責任でよろしくです。

エンジェル税制ってなんやねん

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(出典:エンジェル税制のご案内)

エンジェル税制とは、

  • 起業してまもない
  • 研究開発にしっかりお金を投資している
  • 資本金・従業員数が少ない
  • 特定の親会社等を持たない

中小企業に対して投資した場合、その金額に応じて税金を減らすことで、ベンチャー企業への投資を後押ししよう!という制度です。「エンジェル税制」は愛称で、正式には「ベンチャー投資促進税制」。もうすこし厳密には、租税特別措置法第37条の13および13の2および第41条の19、中小企業等経営強化法第7条 を適用した投資。って感じの言い方が出来るかと思います。

御託はいいから、どれくらい安くなるか言いやがれ!とお思いの方に分かりやすく説明すると、こんな感じになります。

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やばくね?

大雑把にわけてエンジェル税制には、

  1. 投資した時点で受けられる所得税の優遇措置
  2. 株式を売却し損失が発生した場合、受けられる所得税の優遇措置

の2つがあります。後者に関して「株式取引で損失が出た場合、3年間は損益通算できるのは当然じゃね?」と気づいた方は鋭い。上場株式であれば、3年間は損益繰越できるのですが、エンジェル投資の対象となる非上場株は、損益繰越も上場株式との通算は不可となりました。

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(出典:資産税FFPニュース #498)

ですので「優遇」というよりかは「待遇改善」に近いかも。もしろ大きいのは「前者」ですよね。

エンジェル税制にはどれくらいの節税効果があるのか?

エンジェル税制の適用対象は、

  • 優遇措置A:課税所得全体を対象とした所得金額の控除
  • 優遇措置B:株式売買での課税所得を対象とした所得金額の控除

の二種類があります。特に大きいのは優遇措置Aですね。所得税は課税所得を元に求めます。税控除されると、その分だけ「稼いだ額」が少なく計算され、税金が安くなります。図にするとこんな感じ?

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優遇措置Aの対象となる企業に投資すると、ほぼ全額が課税所得から控除されます。つまり、稼いでいなかったこと同じになります。

優遇措置Aの場合

所得税の税率は、稼いだ額が増えるほど高くなります。よってどれくらいの節税になるのかは、人によりけりですが、ざっくりシミュレーションするとこんな感じになります。

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100万円投資したケースで見ると、

  • 年収1500万円・・・32.9万円
  • 年収1000万円・・・29.2万円
  • 年収 500万円 ・・・20.0万円

の節税効果が得られます。投資額*限界税率分が戻ってくるので、最高税率(45%)の人であれば、投資するだけでほぼ半分のお金が返ってくる計算になります。ここまではiDeCoに似ていますが、iDeCoは会社員であれば年額約27万円までしか利用できませんが、エンジェル税制は1000万円または課税所得の40%まで利用できます。つまり最高税率(45%)の人であれば、年間450万円まで節税が出来る計算になります。

これはメチャクチャ強力な節税になりますので、その適用対象となる企業は厳しい条件が設けられています。

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まず前提として、優遇措置Aを受けるためには創業3年未満の中小企業であることが条件となります。その上で、年数を経るごとに「研究者の人数」「キャッシュ・フローの状況」「試験研究費の割合」のハードルがどんどんと上がっていきます

本当に起業して間もない会社への投資にしか使わせないぞ!という意気込みが伝わってくる条件ですね。

優遇措置Bの場合

さすがにこのハードルは高すぎますが「優遇措置B」ならば適用可能な企業はぐっと広がります。優遇措置Bは、株式売買で生じた税金に対してのみ控除が可能です。株式売買益の税率は20%ですから、ちょっとインパクトは小さくなりますけど、上手に使えれば株式取り引きでの税金をゼロにできます。

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また控除対象に上限はないので、極端な話、株の売買で1億稼いで2000万円納税する予定の人が、儲けをそのままベンチャー投資すれば2000万円の減税になるって話です。適用条件も、優遇措置Aと比べるとかなりハードルが下がります。

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創業10年未満であればOKで、5年以上~10年未満であれば、試験研究費(宣伝費・マーケティング費用)が収入の5%を超えるといった程度でも適用可能です。

エンジェル税制の投資対象をどうやって探すのか

どうでしょう。中々おもしろいと思いませんか?ただ「よーし、早速やってみよう!」と思ったところで「で、対象となる株はどこで買えるんだ?」というところが最大のハードルになります。

優遇措置AであれBであれ、共通の条件として以下が設けられています。ざっくり意訳すると

  • 特定株主グループ(親族等)からの投資が5/6を超えないこと
  • 大企業の子会社ではないこと
  • 未登録・未上場の会社で、風俗営業等に該当する事業を行う会社でないこと
  • 金銭の払込により対象となる企業の株式を取得していること
  • その会社のオーナーと親族でないこと

といった感じになります。つまり「未公開株」を「新株発行」で投資する。ことが条件となります。なのでぶっちゃけカネがあるだけじゃダメで、コネもある人にしか使えない税制優遇でした。

しかし、状況が変わりつつあります。

昨今、こうしたベンチャービジネスの立ち上げにクラウドファンディングでの資金調達が広がりつつあります。中には、エンジェル税制の適用対象となる企業に、ネット上から投資できるサービスも出てきました。

例えばこちらのファンディーノ など、まさにそうしたサービスのひとつです。現在調べてみただけでも、下記5者はエンジェル税制の対象企業として申請しているみたいですね。

区分 社名 事業内容
A ID Cruise AIを活用し、心理学的なアプローチも用いた広告レコメンドエンジンの開発
A TAAS シュレッダーごみの回収、リサイクル状況等の可視化
A SAIGATE コンテンツ・ライセンス管理へのブロックチェーン技術の活用
B パルソラ スマホ特化型コミックノベルの配信
B MOSO Mafia 売上管理、クレジット決済や予約機能を持ったウェブサイトの構築支援

 ただいくら節税になっても、投資で利益が出ることが重要です。「クラウドファンディング」というと、どうしても海の物とも山の物ともつかぬものへの投資をイメージしてしまいますが、実際にサイトを見ていると非常にしっかりしてるんですよね。

先日、カンブリア宮殿にも出ていた「鯖や」で絶好調の株式会社SABARを率いる右田社長が、新たに立ち上げた「株式会社クラウド漁業」もFUNDINOで3785万円の資金を調達しています。

まあまずは騙されたと思って、案件紹介のページを見ていただきたいのですが、実にしっかり書かれています。

fundinno.com

ビジネスの背景や構築したいモデル、単に夢を語るだけでなく、どうやってビジネスとして成功させていきたいのかのビジョンも、下手くそな上場企業のIRよりもよっぽどきちんと書かれているんですよね。

うまくいくかはさておき、最終的な株式公開までのスケジュールもしっかり考えられているのも良いですね。

投資対象だけでなく、投資家もかなり絞り込んでいるようで、口座開設をしても断られるくらいの人気っぷりのようです。優良案件はすぐに売り切れますし、口座維持手数料は掛からないようですので、申込みだけしといても良いかもしれません。

エンジェル投資はもう少し広げていっても良いのでは?

「個別株へ投資するよりも、時価総額をベースとしたインデックスに投資したほうが、分散効果も効いて良い」というのは、もはや小学生でも知っているくらいの常識となった感があります。

エンジェル投資は、株式市場からの評価がまったく存在しない中で、創業間もない企業に資金を突っ込むわけですから、そうした「常識」から考えれば、最も唾棄すべきもののひとつとも言えるかもしれません。

じゃあ一般人は手を出すべき代物ではないのか?と言われれば、自分が必要と考えるサービスに直接投資を行うことは、単に株式投資によるリターン以上の価値があるのではないかな、と思うんですね。

近年、オープンイノベーションの名のもとに、大企業によるベンチャー企業への投資は拡大してきましたが、彼らの拾いきれないニーズであっても「俺はいけると思うぞ!」と主張し、我々の生活に必要な企業を育てていくプラットフォームを維持することって大切じゃないのかなあと思うんですね。

資金に余裕がないと手が出しづらい領域ではありますが、制度的支援があることも頭の片隅に入れておいた上で、今後の動向も見守っていきたいなと思う次第です。

ではでは、今日はこのへんで。