ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

出世払いと恩送り

こんにちは、らくからちゃです。

早いものでもう街はクリスマスモード一色ですね。今年の冬は暖冬なのか、まだまだコート無しでも出歩けますが、きらめくイルミネーションを見ると年の瀬を実感します。

クリスマスといえば、皆さんいろんな思い出があるでしょう。

嬉しい思い出、苦しい思い出、辛い思い出、楽しい思い出、たくさんの思い出があります。わたしにとって一番忘れられない思い出は大学4年生のころのお話になります。

ある冬の日の思い出

当時わたしは、就職活動も無事に終わり、卒業に必要な科目も殆ど取り終わり、あとはつつがなく卒業論文を書き終えるだけの状況でした。時間には余裕があったので、卒業に必要のない授業を受けたり、興味のある分野の本を片っ端から読んだり、色んな所に遊びに行ったり、アルバイトをしたりしていました。

アルバイトも色んなことをしましたが、ちょっと変わったものとしては大学のIT系授業の授業補佐のお仕事をやらせて頂いておりました。

ざっくり言うと、教授の諸々のお手伝いや、PC操作が途中で詰まった受講生の補助や、試験監督などなどがお仕事の内容になります。時給は1600円と一般的なアルバイトの2倍近くいただけましたし、授業と授業の合間に出来て移動のロスもない。更に、同じ大学の学生や教授とも仲良くなれて、なかなか「おいしい」バイトでした。

年末に最後の授業が終わったあと、教授と他の授業補佐とで反省会という名の雑談を楽しんでいると、教授から「みんな時間あるようだったら、打ち上げにご飯でも食べに行こうよ」と誘っていただきました。

みんな喜色満面で「行きます!!」と言ったのは良いものの、問題はどこに行くのか。

教授に店探しまでやらせるわけにはいかない。でもまさか教授と一緒に、普段我々が腹を満たしている飲放題付き2000円台の焼き肉食べ放題なぞに行くわけにもいかないよなあと考えていたところ、教授から「行きたいお店があるんだけど、いいかな?」とお誘いいただきました。

学校から駅までの坂道を下り、駅前のちょっぴり高級感のある鉄板焼き屋さんに向かいました。美味しいお肉に舌鼓を打ちながら、授業の話から始まり、いまの学生の生活、これからの世の中、恋愛や教授の若い頃の話など、大いに盛り上がりました。時間はあっという間に過ぎていきました。朝まででも話し続けていたいくらいでしたが、終電前にお開きとなりました。

そしてやってくるのがお会計の時間です。みんな普段の飲み屋やりも、ずっと単価が高いのはわかっていました。いくら掛かるんだろうなあ・・・とドキドキしていたら、教授は「いいよいいよ。俺が全部だすよ。」とさも当然のようにお支払いに立ちました。

うちひとりが恐る恐る「後学のために、お幾らくらいだったか知りたいのですが...」とレシートを見せてもらって、驚きビックリ。「こんなにごちそうになってしまってすみません」というと、「それじゃ、出世払いってことで」と笑いながらおっしゃられました。

そのとき、こんなことを言ったことを覚えています「でも僕、先生がお元気なうちに出世する保証はないですよ」と。

いま振り返れば随分とアレな発言ですね。

当時わたしは、今よりずっと将来への不安を抱えていました。まだ何者でもなければ、何者になれるかも分からない。そうした自分への自嘲に加えて、若い自分と老いた教授を比較するのもまた、せっかくの場を作ってくれた方に対して失礼な発言です。

しかし教授はそんな皮肉も意に介さず、笑顔のままでこう答えました。

「何言ってんだい。出世払いってのは、俺に返すことじゃねえよ。俺がいま君にしているように、若者に腹いっぱい食わすことだよ」

出世払いと恩送り

そもそも出世払いとは何か。Wikipediaには、このように書かれています。

経済力の低い若年者などに、金銭的な援助をしたいのにもかかわらず、相手が遠慮をすることがある。そのようなときに、将来出世をした時に返してくれたら良いと言って、明確に期限を設けずにお金を貸すという行為におよぶことがある。このようなお金のやり取りを俗に出世払い(しゅっせばらい)と称することが多い。お金を貸した方が(経済的に没落するなどして)すみやかな返済を求めたときに、借りた方が相変わらず出世をしていない(返済能力がない)場合、泥沼化する恐れがある。

出世払い - Wikipedia

若者はお金がありません。経験を積ませてあげようとお膳立てをしても、相手が遠慮してしまうことがある。そうすると本人のためにならないだけでなく、世の中全体の損失です。

それを避けるため「あなたを見込んでいるからやってあげたいんだ。もし役に立たなかったとしたら私の責任だ。」という形で実質タダにするのが"出世払い"と言われる仕組みでしょう。民法上どうなるのかなんて野暮なこと言っちゃいけません(笑)。

もともと「返してもらう」ことが前提の話じゃないんですよね。そして恐らく教授も、同じことを言われながら、沢山の経験を出世払いで得てきたのでしょう。だからこそ、そのバトンを次につなげて欲しい。そう考えてこの言葉をくださったのでしょう。

さてこうした「誰かにしてもらった優しさを、その人ではなく別の誰かに返すこと」を意味する「恩送り」という言葉があります。

その人に返す「恩返し」と比べると、いまいち日常で使う機会の少ない言葉ですが、日本では古くから「情けは人の為ならず」という言葉で世の中に定着している考え方です。

海外では、2001年に映画化された作品とともに"pay it forward"という言葉が広がったと耳にしました。そういや私が中学生くらいの頃に、ちょっと話題になってましたね。

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与えよ、さらば与えられん

振り返ってみると、私も多くの人から沢山の贈り物を受け取ってきました。

その営みは、人類がその歴史を歩みはじめたときから繰り返してきたことの延長線上にあります。自分が受け取る見返りよりも、世の中や子どもたちの生活が良くなることを祈って積み重ねてきた全てが、いまにつながっています。

「鋼の錬金術師」という作品の最後に、こんなシーンがあります。

錬金術師の言うところの「等価交換」?

いえ10もらって10返してるだけじゃ同じなので・・・
10貰ったら自分の1を上乗せして11にして次の人へ渡す
小さいけど僕たちがたどり着いた「等価交換を否定する新しい法則」です
これから証明していかなきゃいけないんですけど

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(出典:鋼の錬金術師27巻 p177-178)

同作では、最初から徹頭徹尾、自然の黄金律として「等価交換の法則」を繰り返してきました。何かを得るためには、それと同等の価値を持つ何かを犠牲にしなければならない。それが真理であると。

しかし随所にそれに抗う人間たちが出てくる。そして人間の黄金律で真理をひっくり返す。特に、ウィンリィとマスタング大佐の言動振る舞いを見ていると、全て最終話に繋げるための伏線だったことが見えてきますね。そうして読み直してみると、よくここまで考え抜いたなあと改めて思い返される作品です。

さてこうした話は、なにも新しい話ではありません。2000年近く語り継がれてきた人類史上最大のベストセラーにもこんな話がありました。

人々にしてほしいと、あなたがたの望むことを、人々にもそのとおりにせよ。

自分を愛してくれる者を愛したからとて、どれほどの手柄になろうか。罪人でさえ、自分を愛してくれる者を愛している。

自分によくしてくれる者によくしたとて、どれほどの手柄になろうか。罪人でさえ、それくらいの事はしている。

また返してもらうつもりで貸したとて、どれほどの手柄になろうか。罪人でも、同じだけのものを返してもらおうとして、仲間に貸すのである。

しかし、あなたがたは、敵を愛し、人によくしてやり、また何も当てにしないで貸してやれ。そうすれば受ける報いは大きく、あなたがたはいと高き者の子となるであろう。いと高き者は、恩を知らぬ者にも悪人にも、なさけ深いからである。

あなたがたの父なる神が慈悲深いように、あなたがたも慈悲深い者となれ。

人をさばくな。そうすれば、自分もさばかれることがないであろう。また人を罪に定めるな。そうすれば、自分も罪に定められることがないであろう。ゆるしてやれ。そうすれば、自分もゆるされるであろう。

与えよ。そうすれば、自分にも与えられるであろう。人々はおし入れ、ゆすり入れ、あふれ出るまでに量をよくして、あなたがたのふところに入れてくれるであろう。あなたがたの量るその量りで、自分にも量りかえされるであろうから。

ルカ6:31-38

それでは、皆様のクリスマスにも沢山の幸せが訪れますように!

ではでは、今日はこのへんで。