ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

天才と仕事するのがしんどい

ここ最近、天才と一緒に仕事をしている。

協力会社のスタッフで、形式的には私がマネージャーで彼がエンジニアということになる。「プロジェクトマネージャー」なんて肩書を拝命していても、人を選り好みできるほどの規模の案件ではない。また私自身未経験の領域だったため、元のメンバーをそのまま引き継いだ形である。

彼については、引き継ぎ前からかなり沢山の噂と、フロアの端のほうから発せられる令和の上場企業にはふさわしくない前任者の怒号を聞いてきた。彼に対する社内の評価は大変際立ったものであるが、それでも一言でまとめるのならば、「天才」なのではないだろうか。むしろ、そう思わないとやってられない。

*

他業界の方にも、なんとなく雰囲気を伝えるために、まずは例で説明してみたい。

私と彼は、ハンバーガーショップで働いているとしよう。彼はレジで受付を、私はキッチンで調理を受け持っているようなシチュエーションだ。

レジの方からチーズバーガーセットのオーダーが入った。そこで私はチーズバーガーセットを仕上げ、売り場に持っていくと、待っているお客さんはひとり。「チーズバーガーセットです!」と言うと「え、私が頼んだのはハンバーガーセットですよ」という。

おかしいな?と思い、改めて入力されたオーダーを確認してみても、そこにはしっかりと「チーズバーガーセット」と記載されている。つまり私のミスではない。そして、首をかしげながら客さんのレシートを見てもそこには「チーズバーガーセット」と書かれている。

「わたし、チーズが苦手なので、チーズバーガーセットを頼むことはありえないです・・・。」と言われたため、急ぎレジの担当者まで確認する。そうすると、返ってきたのは「ああ、今日、チーズバーガーがハンバーガーと同じ値段の日なので、アップグレードしておきました!」と彼はドヤ顔で答える。

どうしてこうなったのだッ...!

と、ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐ばりに頭を抱えながら、まずは不安顔のお客さんのもとにすっ飛び「どうやら手違いがあったようです。いますぐ作り直します!」と伝え、取り急ぎハンバーガーを作り直し、売り場へ急行し「しっかりしてくださいよ」とのクレームにも堪えながら「申し訳ございませんでした」と頭を下げる。そんな感じの日々である。

早速、彼を絞りあげると「え、今日同じ値段でハンバーガーがチーズバーガーになるんですよ。メッチャお得じゃないっすか?」とまた同じことを喚く。いやさ、たしかにお得かも知れんけどさ、チーズ嫌いな人もいるじゃん。アレルギーとかあったら大問題だよ。何で勝手にそんなことするの?「え、チーズお嫌いですか?僕は好きなんで、よくわかんないっす。」

Oh...あなたが言葉が通じないのは分かった。これから先、そういう判断をするときは、必ずお客さんに伝えることね。と指示しても、むしろ彼から見たら私のほうが「話の通じないやつ」みたいな顔をされるという次第である。

*

さてここからは、実際に起こった話をボカしながら話してみたい。

まず彼には、既存の処理の中から改善対象の処理を選定する作業をお願いした。そして出来上がった資料を顧客に渡したところ、顧客から「これマジで意味分からないんですけど・・・」と突き返された。

中を見てみると、もともとの処理リストの中から、修正が必要ない機能は省略され、分かりやすいように現在の業務での呼び名がつけられていた。その判断は両者とも、天才の彼が善意で行ったものだ。

しかしだ。彼がどういう過程でこの作業を行ったのかが、さっぱり分からない。リストから除外されたのは、修正が必要ないものだったからなのか、それとも別の理由なのか、はたまた単純にミスをしただけなのか。輪をかけてまずかったのが、彼がお客さんの為を思ってつけておいてた現在の業務上の呼び名が、ところどころ間違っていたのだ。更に質が悪いことに、本人ですら何故こうしたのかが、追跡できない状態だった。

プロジェクトとしての成果物であればともあれ、本来こうした実務上の資料まで、いちいちチェックする余裕はない。ただこの手のクレームがあまりに多かったため、細かくチェックするようにしたら、出るわ出るわ。

他にはこんなこともあった。

処理方式を変更し、処理速度のみ改善した処理があった。その処理が、修正前と同様の結果になるかどうかのテスト結果を見ていたときのことだ。作業エビデンス(証拠)を見ていると、何故か途中でデータを手で直接修正している記録があった。説明は無い。

「これは一体何をやったのか?」と問うと「ああ、処理済みのデータしか処理できないんで、処理前の段階に戻しておきましたよ」と。

なるほど、それは正しい。正しいんだけど、なんで何も書かないの?なんでしれっと「データ更新」の一言だけにしちゃうの?と聞くと「え、要ります?分かるでしょ」と彼は答えた。

確かに、これが社内の資料や気心の知れたお客さんであればそれで良いかもしれない。でも散々「彼の仕事は意味が分からない。何がしたいのか分からないので、今の状態が正しいのかどうかの判断がつかない」と怒られている状況下においては、やめていただきたい。そう言うと不承不承、資料に追記をしてくれた。

*

彼に対して「無能」だの「さっさと契約解除しろ」だのという声が社内でも多いのは、重々承知しているし、私だってそう思うときも多い。でも本当に残念なのは、彼は決して知識が無いわけでも、仕事が遅いわけでもない。ほんの少し足らないか、ほんの少し多すぎるのだ。

修正が必要かどうかを判断したり、業務上の処理と紐付けることは彼にしかできなかったろう。また処理済みのデータしか処理できないことが分からず、0件の処理結果でテスト完了とするアホもいれば、「これじゃテストにならないです。どうにかしてください。」と丸投げしてくる無能も数多と見てきた。

それと比べれば、自分の意志で前に進んでくれる彼は、引き継ぎマネージャーとしては非常に頼もしい存在だ。であるがゆえに、本当に惜しいのだ。現場のマネージャーが口を揃えて「不要」と判断しているのに、部長だけが「あいつは、何か持ってるんだよなー」と残しているのは、そういうところを買っているのだろう。

諸説あるが、manage という言葉の語源は、イタリア語の manus という言葉だそうだ。この言葉は、馬を鞭で叩くのではなく、しっかり手で馬を撫でながら信頼関係を築くといった意味なんだとか。もしかして、ある種の発達障害か何かの一種なのかもしれないけど、そういうところも含めて彼の才能を活かせる方向に導くのが、私の仕事だ。

(というか、発達障害にありがちの「こだわり」という観点から言えば、彼の場合は何度「赤信号では道路を渡っちゃいけません」と言っても「車もいないんだから、いいじゃねえか」と言っちゃうタイプで、むしろ我々のほうこそ無意味なこだわりを持っていることが理解できないってタイプなんだけど、これって何かそういう類型があるんだろうか・・・?)

とにもかくにも、我々は皆配られたカードで勝負するしか無い。あと半年ほどは、わたしも含め凡庸なる人々にも理解できるよう、天才の手綱をしっかり握り、振り落とされないように仕事していきたいと思う次第である。

 

そういや本稿を書いてる途中で、こんなものを見つけた。職場においておこうかな・・・。

幼女戦記 【日めくり】心して読め!まいにちターニャ格言集

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