今年は、一足早いのに次々発生する台風から、今年の夏は嵐の多い夏になるのかしら、なんて思っている今日このごろです。
お天気だけでなく、経済の世界にも『シャープの99%減資』だけでなく、『東芝の不適切会計』というストップ安のダブルパンチという大きな台風がやってきてしまいました。
ストップ安の原因
さてどうしてこんなことになってしまったのでしょうか??直接のきっかけとなったのは、東芝側の発表した以下の内容です。
(参考:http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20150508_2.pdf )
GWも明けたというのに、2014年度の決算が、売上高から最終利益まで、まるっと全部計算不能という、とても我が国を代表する製造業の一社とは思えないグダグダな状況となってしまいました。
併せて、
(参考:http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20150508_1.pdf)
2011年から継続的に半年4円で実施していた配当を無配とするなど、大変ヤバそうな感じのする発表も飛び出しました。
『不適切会計』の正体
こんなとんでもない事態に陥ってしまった原因として、東芝は、下記のように説明しています。
当社は、2015年4月3日付け『当別調査委員会の設置に関するお知らせ』にてお知らせしたとおり、取締役会長を委員長とし、社外の専門家を含む特別調査委員会を設置し、自ら事実関係の調査を行い工事進行基準案件に係る会計処理の適正性を検証してまいりました。
本日現在までの特別調査委員会の調査の過程において、一部インフラ関連の工事進行基準案件において、工事原価総額が過少に見積もられ、工事損失(工事損失引当金を含みます。)が適時計上されていないなどの事象が判明しており、また、工事進行基準案件における工事原価総額の見積りの問題以外にも、更なる調査を必要とする事項が判明しており、これらの事実関係の詳細調査及び発生原因の究明にはなお時間を要する見込みとなっております。
(参考:http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20150508_3.pdf )
さて、お分かり頂けたでしょうか?これ、簿記を勉強した人でも説明出来る人は少ないかもしれません。何故なら、メインテーマである『工事進行基準案件』は、日商簿記検定の出題範囲では1級に該当する問題だからです。その割には影響する会社も多く、経理担当者だけでなく、むしろ実務担当者こそ頭に入れておくべき会計処理に係る問題になります。
通常の会計処理
では、『工事進行基準』とは、どういう会計処理なのでしょうか?工事進行基準とは、長期に渡る工事を行う際の、収益(売上)と費用の計上の仕方についてのルールなのですが、まずは『通常』の会計処理について、おさらいしましょう。
業態にもよると思いますが、一般的な『取引』の流れはこんな感じです。さて、いつ『売り上げた』として計上すれば良いでしょうか?好き勝手なタイミングで行ってしまうと、いくらでも好きなように『もうかったもうかった』と言えてしまいますね。
そうならない為に、会計の世界では、収益として計上できるのは、『頼んだ通りのものが届きましたー。特に問題も無さそうなので、振り込んでおきますね。』と、相手が契約完了の意思表明をしたタイミングと決められています。(④のタイミングと同等とみなせるのであれば、③でも⑤でも問題有りません)
④より前だと本当にお金がもらえるのかあやふやですし、逆に確実に貰えるのが分かっているのであれば不必要に『利益隠し』をしてはいけません。
また発生した費用は、収益が発生したタイミングまで在庫として繰り延べ、『収益』と『費用』がひも付き、『利益』が正しく計算できるように調整します。
『工事進行基準』とは何か?
では本題に入ります。
工事進行基準とは、すごくざっくり説明すると、1年を越えるような大掛かりな取引を行う際に、完成していなくても、進捗度に応じて収益(売上)を計上しなければならないというルールです。工事という名前になっていますが、プログラムの開発なども含まれる場合があります。
なんだか面倒そうですね。どうしてそんなことをしなければならないのでしょうか?簡単な例で考えてみましょう。
3年間で、30階建てのビルを建てる計画があります。コストは、毎年100億円ずつ発生し、10階ずつ建設する計画とします。完成の暁には、600億円で引き渡されます。
工事完成基準ですと、まとめて3年目に600億円の収益と300億円の費用が計上されます。1年目、2年目には収益も費用も計上されません。『赤字』では無いのですが、会社としては『何もしていない』のとおなじになってしまいます。
一方、工事進行基準だと、600億円は、予算をベースに按分されますので、出来上がりに応じて収益が計上されます。
一見すると、『合理的』な方法ではありますが、大きな欠点があります。それは、『工事費用の概算』という、見積で会社の利益を求めてしまうことです。今回、東芝の不適切な会計処理となってしまっとのも、まさに『総原価の見積りの甘さ』が原因にあります。
例えば、先ほどの例を元に考えて見ましょう。1年目は予定通り100億円で済んだのですが、2年目から原料の値段が高騰し、最終的なコストとしては800億円と見積もられました。こうなると、300億円の黒字予想から一点、200億円の赤字予想となります。
当然、予想なので、ブレは発生します。額が小さければ、ちょっくらミスっちゃいました(・ω<) で済む場合もありますが、額が大きければ、過去の計算のやり直し(遡及対応)も必要となります。
本当の問題は、甘さを許した体制
実際、どの程度影響の大きな問題があったかどうかは、委員会の報告を待たなければわかりません。今回、ここまで大きな問題となったのは、会計処理においてこういった問題が生じないような監査体制(チェック機構)が弱いと判断されたからではないのでしょうか。
経理担当者は、当然現場の実態については実務担当者ほどの知識はありません。実務担当者から得られた情報を信じて決算を作るしか無いのです。だからこそ、その数値の中に、自分の業績をよく見せるような恣意性や根拠の薄い情報が混ざり込まないような監査体制を作るほか有りません。
個人的には、シャープのように、会社の収益基盤そのものがずたぼろな訳ではないと思いますので、大きく下がっているのであれば、『買い』かな、と思います。
ただ、原発のプラントも請け負うような大きな会社ですので、諸外国からも笑われないよう、ちゃんとやって欲しいなあと思う次第です。
皆様のご理解の一助に役立てば幸いです。
※追記
続編を書いてみました。よろしければ是非。