ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

あるシステム屋さんが平均残業時間一桁を実現した方法

こんにちは。

ここしばらく、システムトラブルの対応で午前帰りが続き、疲れてきてしまいました・・・。直接、トラブルの原因になった訳では有りませんが、エンジニアさんも巻き込んでしまい、もう少し上手く回す方法はなかったのかと、自分の未熟さを反省中です。

さて残業といえば、先生は大変そうですね。ただでさえ、ひとりで何十人もの生徒をみないといけない上、ほぼ無償ボランティアの部活顧問まで行い、その上で親に押しかけられたら溜まったもんじゃ有りませんよね。横浜市で、先制の『ノー残業デー』を設定するそうですが、多少なりとも状況が改善することを期待してやみません。

ただ、個人的にはこの『ノー残業デー』という制度がしっくり来ません。だって、『ノー残業デー』って、その日以外は残業することが前提なワケですよね?更に、こんなニュースも有ります。

正社員と同じ等級制度や人事制度を用いるため、基本給も同じ水準だ。賞与は正社員の7割程度だが、育児や介護のための時短勤務の取得条件は正社員よりも緩める。

どうして残業しないだけで、賞与が減らされなければならないんでしょう?会社の都合に合わせやすい働き方をする人を優遇します、なんてことを大々的に打ち出してしまうのはいかがかと思うんですけどねえ・・・。

 

労働基準法では、労働時間について下記のように記載されています。

第三十二条  使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

40時間以上働いたら残業代ちゃんと出さなきゃダメよ、では無く『そもそも人間を一週間に40時間も働かせたらダメ』が労働基準法の趣旨です。ただ、同法36条の規定により、労使の合意があれば40時間を超える勤務(いわゆる残業)を、『一定範囲内であれば』可能というかたちになっているわけですね。 でも、現状としては、そんな法律なんだっけと言わんばかりに、長時間労働が横行しているように見えますね。

わたしが勤務しているIT業界では、他の業界とくらべても労働時間が長いと言われています。色々と、打開にむけて取り組む会社も増えてきましたが、わたしが見ていて『面白いなあ』と思った取り組みをちょっとだけ紹介したいと思います。

残業を減らそうとしたわけ

今回取り上げる会社は、とある地方のシステム屋さん。電子機器メーカーに勤務していた創業社長さんが脱サラし、父親の工場のシステム(主に受注とか出荷とかの管理)の開発を行うところから事業を始め、地元のツテとコネで事業を大きくしていったような会社さんですね。

その会社が、『残業を減らそう』としたのは、インターネットバブルが崩壊してすぐの頃だったそうです。その頃、専務(社長の奥様)曰く『捨て猫を拾うが如く』経営の傾いた会社を救済合併し、気づけば従業員数は50人を越え、事業内容も社内システムの開発からホームページの作成、宣伝パンフレットの発注に無線LANのネットワーク構築まで、おおよそ『パソコンに関することは何でも』な会社になっていきました。

ちょうどメンバーも事業の種類も増え、『会社として何を目指して行くのか?』を見直す段階でしたが、月間残業時間60時間は当たり前、100時時間超えも珍しくないという、典型的なIT系の会社だったそうです。

そんな時分、従業員が出社すれば必ず見る位置に、社長がデカデカと次のように書いた紙を張り出しました。

 

家族揃って晩御飯を食べられる会社にしよう!

 

何故残業するのか?

残業に対する意識ですが、現業系の部門と間接系の部門で、結構見方に温度差があるみたいなんですね。

間接系の部門では、『残業はコストを増やすだけで恥ずべき物。また、残業代の過小申請はコンプライアンス上問題になる場合もあるので、可能な限り残業を避けよう』 という見方が強いように思われますが、現場の部門ではより多くのタスクをこなすことは、会社への貢献である。貢献している以上、それに応じた残業代くらいは受け取るべきだが、のちのち会社が評価してくれるのであれば、細かいことは気にしないと思っている人も結構な割合でいるんですね。

ここに結構な温度差があって、人事や総務が、いくら『残業やめようぜ!』といっても、『俺たちゃ会社のためにやってるんだ。お前らに言われる筋合いは無い!』と却って反発を受ける例も多いみたいです。

 

さて、件の社長さんですが、『プライベートを充実させることが、エンジニアとしての成長を促す』ということに、強い拘りを持っていました。また、『大きくなった組織を維持するために、まずはこの会社で働けてよかったなあ』という風に考え、『長時間労働の是正』を目標に掲げ、その目的として『家族団欒』を目指すことを宣言しました。

 

小さなことではありますが、これが結構大事なんですよね。ちょうど会社として『まとまろう』としていた時期なので、ただ『残業減らせ』といっても、『仕事の負荷を上げたいのか?』とか『残業代を出し渋っているのか?』と思われるのがオチです。

社長さん、遅くまで残っている人たちに、『俺が作りたい理想の会社』を何度でも説明して回ったみたいですね。その際に、『家族揃って晩御飯』は具体的な理想としてイメージとしやすく、『それ、いいかも』『難しいかもしれないけど、やってみよう』と思ってもらい、社内が一致団結するひとつのキーワードになりました。

具体的に行ったこと

この社長さん、スローガンを掲げるだけでなく、『家族揃って晩御飯』を実現するために、作った制度が中々ユニークなんですね。基本的な考え方としては、最近話題になったこちらと同じ

『残業しない人』に残業代を払うというルール。少し変わっているのが、一律支給じゃなくて、その支給に細かなルールが付いているんですね。ルールは以下の3つ。

  1. 残業時間が20時間未満の人には、過去連続で20時間未満だった月数*5,000円を支給する。(最大20,000円まで)
  2. 部内の最長残業時間が30時間未満であれば、上記に加え10,000円を支給する。
  3. 部内の平均残業時間が10時間未満であれば、上記に加え20,000円を支給する。

最初のルールは、残業時間が20時間未満であれば『残業してない手当』が出るというもの。特徴的なのは、前の月も20時間未満であれば、更に+5,000円と、どんどんと増えていくというルールなんですね。これは、『残業をしない』ということを習慣化させることに効果がありました。カウントがリセットされるのは嫌ですもんね。

それでも、『どうせ続かないからいいよ』という人をが出てきてしまいます。それを防ぐために作られたのがもう1個のルール。簡単に言うと、『周囲に残業をする人がいると、みんなが損をする』という仕組みです。導入当初は、『仕事の仕方を色々指摘されたくない』とか『出来ない人のいる部署には行きたくない』などと色々と紆余曲折はあったそうです。ただ最終的には、『みんなで仕事を助けあう』『負荷が集中しないように作業の標準化を進める』といった動きにつながりました。

最後のルールは、『みんなで生産性を上げる方法を模索する』ためのものです。これは、『周囲に良いアイデアを広げられれば、みんなで得を出来る』という仕組みです。

 

ちなみに、ひとつの部のサイズは、概ね10人前後。何か『改善』をやった場合、その効果が目に見えてちょうど届く範囲になっています。また、これらの『手当』はボーナスの時に一括支給されるルールとなっています。半年に1回、改めて自分の『頑張り度』が目に見えるようにしたわけですね。

また、このルールを実施すると同時に、もうひとつのルールが確認されました。

勤務時間の不正申告は、過多・過少問わず、本人及びその管理者が罰則の対象となる。

こういったルールを作ってしまうと、どうしても『過少申告』する人が発生します。それを防ぐために、本人だけでなくその上司も連帯責任を取るルールが作られました。

残業をしないことによって得られたもの

では、その後どうなったかですが、まず『残業しない働き方』が習慣化されていき、あわせて、『7時にもなったら、みんな家に帰って誰もいない』というような組織の風土となりました。これには、正式なルールではないのですが、社長の言った

管理職たるもの、被管理者の勤務時間中は必ずその働きぶりを確認すべき

 との発言も大きいようですね。部長が、『君が帰らんと俺も帰れん』なんていう話も良くあるそうです。

次に、仕事の効率を高めるためにチーム内で支えあうという文化が作られていきました。また、特定の人に負荷が集中しすぎないよう、いつでも引き継ぎやすいように仕事を進めたり標準化することが尊ばれる風潮が作られました。強制的に『残業やめないと周囲の視線が痛い』文化になると、考え方も変わっていったようですね。まさに、こういった考え方の逆向きの考え方が流行っていったんですね。

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(朝シフト仕事術:「残業は減らせない」のウソ - ITmedia エンタープライズ より引用)

 

他にも、仕事の効率があがるという効果がありました。残業はしない前提で仕事をするために、だらだらとした休憩時間が無くなったり、事前に『あ、こことは取引しないほうがいいな』といった相手を避けるようになりました。当初は、『仕事する気をなくすのでは?』ということが懸念されていましたが、適切な量を段取り良く進める仕事術が広がっていったそうです。

なぜ、あの部門は「残業なし」で「好成績」なのか? 6時に帰る チーム術

なぜ、あの部門は「残業なし」で「好成績」なのか? 6時に帰る チーム術

 

(こんな感じですかね?) 

 

勿論、会社にとっても残業代が圧縮出来たのは言うまでも有りません。更に、『離職者』は数年連続でゼロとなり、採用・教育コストも縮小されました。『家族揃って晩御飯』が実現できたため、奥さんのほうが転職を止めるというような例もあったそうです。あと、新卒採用についても、社長さんが近隣の工業高校・商業高校を回って、意欲のある若者を採用していくスタイルを連ねき通せたのも、『教えあう組織』が背景にあったから実現出来たのでしょう。

 

最後に、会社のビジネスとしても効果がありました。早く帰って地域のお祭りに参加したり、同級生と飲みにいくなかで、具体的な商談からビジネスアイデアレベルまで、色々な『新しい事業』が生まれていったそうです。わりと、地域密着型の商売をされていたことも大きいんでしょうね。

 最後に愛は勝つ

このルールが作られてから、既に何年もたち、会社の組織もかなり大きくなりました。話を伺っていると、最近ではどの部署も平均残業時間が一桁を達成できる割り合いはかなり高いそうです。

地方のけっして『大企業』とは言えない会社ですが、話を聞く限りでは『なんちゃって一部上場』の弊社よりも、羨ましくなるほど成果を上げているようです。お仕事のほうも、『へえ、そんなところにニーズがあったのか』とびっくりするような『ニッチだけど、その分野においては確実に必要とされる』ところに力点を置いてお商売をされているみたいですね。

 

  別の会社ではありますが、こんな会社もありました。

日本一社員がしあわせな会社のヘンな“きまり”

日本一社員がしあわせな会社のヘンな“きまり”

 

この会社もかなり高い利益を上げているようですが、キーワードは『社員が幸せかどうか?』のように思えるんですね。

 

 この仕組みが上手くまわったのは、ルール自体が中々面白かったのもあると思うのですが、それに乗っかった従業員のひとりひとりが『親父さんのやり方についていこう』『こんないい会社を潰さないようしっかり頑張ろう』としたところが大きかったような気がします。だって、残業を減らすだけなら、何も仕事しないのが一番ですもん。社長さんの説いた『家族への愛』と、それについていった『会社への愛』が、良い会社を作った本質だと思います。

 

一度だけ、会社に遊びに行った時、社長室に入れさせて頂いたことがあるのですが、壁一面に社員ひとりひとりの家族写真を張り出して、『これがうちの資産や』と嬉しそうに言っていたのが印象的でしたね。こういう風に考えてくれる経営者が、もう少し増えたら、日本の未来は明るくなるのになあと考えてしまいますね。

 

ではでは、今日はこのへんで。

追記

その後、『残業しない会社』の役員の方と、やりとりした結果を書ける範囲で追記してみました。