こんにちは、らくからちゃです。
先日、こんな記事を読ませて頂きました。
普段は、製造業のお客様をメインに、原価や会計に関するシステムの導入の支援や活用提案をさせて頂いておりますが、製造現場の仕組みづくりのお手伝いをさせていただくこともあります。その時の経験から、
そして生産情報、すなわち製造業の情報化に関わる分野は、カバーすべき範囲が広いのだ。受注管理システムから始まって、生産計画、BOM(部品表)、製造指示、在庫管理、品質管理、出荷管理、進捗管理、現物管理、POP、設計情報管理、と際限がない。それに比べ、流通情報で覚えるべきなのは販売管理、仕入在庫管理、カードくらいでよかった(当時はまだインターネットは普及していなかったのだ)。
どうして同じ情報システムに関わる科目なのに、製造業と流通業でかくも守備範囲の広さが違うのか? それは、「製造業の方が業務プロセスが多くて複雑だから」である。
については、首がちぎれるほど同意致します。しかし結論にあげられている
わたしの想像だが、ITエンジニアが「製造現場を敬遠している」ためではないかと思える。
(中略)
なにせ工場は地方にあるし、行くのは遠いし、おまけになんだか3K職場でごちゃごちゃしていて、スマートでない。ハイテクの最先端技術の好きなITエンジニアが、好んで働きにいきたい場所ではなさそうだ。
については『まあそういう人もいるよね』とは思う一方、別な話も背後にあるように思えます。20台のひよっこが、コメントさせて頂くのは恐れ多い話ではございますが、現場からの小言をぽちぽちと書いてみたいと思います。
製造業のIT化は進んでいないのか
まずタイトルに挙げられている『製造業のIT化』ですが、"進んでいない"と言われてしまうと、少々語弊があるような気がします。
工場では、沢山の電子機器が存在しますし、FAやMESで連携装置や、秤量システムのようなものから、ERPと連動した生産管理システムまで、ITが無ければ完全に仕事にならないような環境です。アンケート調査をみても、ITの存在はビジネスモデルに深く結合されており、他産業とくらべても『IT化が行われていない』わけでは有りません。
(出典:企業IT動向調査2016(15年度調査))
パソコンだって、相当の台数が導入されていて、工場の社員全員が使えますよ!
そう、Windows XPのやつをね(涙)
製造業のお客様の現場では、『これ、教科書で見たことあるやつだ』みたいなものが現役バリバリで活躍しているところを見ることが出来ます。
VB6で書かれたプログラムは序の口として、ハンディターミナルではWindowsCE.netが元気に稼働していますし、吸い上げたデータを突っ込む先はOracle 9i・・・ならまだ新しいほうで黒い画面のAS400が待ち構えている。なんてこともあったりします。
ここまで極端な例は減りつつありますが、『古い仕組みを使っているところが多いなあ』と思うことは多々あります。つまり、IT化が遅れているというのは、『使われていない』というわけではなく、古代の遺跡のようなシステムを延々と使い続けているといったほうが良いような印象です。
古代遺跡の守り人は誰か
古いものが生き残っているのは、ITだけではありません。ITによって動く装置そのものも、かなり古いものを使い続けています。
(出典:第1部第1章第2節 国内拠点の強じん化に向けて:2016年版ものづくり白書(METI/経済産業省))
古い設備を入れ替えずに、大事にメンテナンスしながら使っていく。システムについても、クラウドやモバイルといった新しい仕組みが生み出されても、積極的に採用していくのでなく、古いものと組み合わせながら使われています。
わたしが良いお客様に恵まれてきただけかもしれませんが、日本の製造現場のホワイトカラーの人たちは、みなさん大変優秀です。必要なデータがあれば、SQL文くらい自分たちで書いて抜き出しますし、ちょっとしたプログラムならVBで作ったりもします。
日本の製造業の『十八番』は、現場による『カイゼン』や『QCサークル』といったボトムアップ型の仕組みであるとされてきました。ITに関しても、業務特性にあわせたカイゼンが行われることが求められ、尊ばれました。そうしたコツコツとした改善活動で生み出されたものが、
- 謎のインターフェイス
- どう考えても自社でしか使われない帳票
- 秘伝のエクセル
などに覆われた
ハウルの動く城かな?
と思いたくなるような、ツギハギだらけのシステムでした。
カイゼンの罠
企業がIT化を行う際のアプローチは、大きくわけて以下の2つに別れます。
- パッケージ導入・・・既に出来上がったソフトウェアを利用する
- スクラッチ開発・・・独自に開発する
ソフトウェアを購入し、インストールしてそのまま使えば、導入は簡単ですしコストもかかりません。ただこれだと、他社とおなじ仕組みを使うのでITの部分で『カイゼン』を行って差別化することは出来ません。それを取り入れるためには、オーダーメードでシステムを作り上げるのがスクラッチ開発が必要です。
実際には、機能によって使い分けたり、パッケージにもある程度の改造が出来る余地(アドオン・カスタマイズ)がありますので、どちらか一方のみ、というわけではありません。下図は、矢野経済研究所がまとめた、システム別のパッケージの利用率に関するデータです。
(出典:自社開発システム利用率と次回システム更新時の自社開発導入予定率)
財務会計や人事給与といった分野では、ほとんど自社開発は行われませが、販売管理や生産管理といった分野では、かなり高い割合で自社開発が行われています。財務会計であれば、会計基準や税法を守ったプログラムにする必要がありますし、人事・給与についても、同様に自社開発をする意義はありません。その反面、販売管理や生産管理は、それぞれの企業の仕組みを反映させる必要が有るため、自社開発の比率が高くなります。
一般に、スクラッチ開発を行うとコストはかかります。それでも何故行おうとするのかといえば、『カイゼン』の結果をシステム開発に持ち込もうとするからです。
例えば、『出力する書類をAグループとBグループにわけて、同一グループのデータだけ同じ紙に印刷する仕組みを作ってきた。これは現場のミスを減らすことに大いに役立っている。新しいシステムでも同じように出来ないと困る』みたいなことを仰られるわけですね。
これくらいならまだ、他社でも使えそうな内容ですが、放っておけばモリモリと、オリジナリティ溢れるプログラムが育っていきます。ほかにも
- ○○というシステムに連携出来ること
- 計算は比重を加味して行うこと
- 定貫・不定貫での在庫管理が出来ること
- 製造指図はパレット単位で行われるよう調整されること
などなど、放っておけばどんどんと要求は膨らんでいきます。これらの要求は、独自に積み上げてきたノウハウであり、その企業の組織の中でしか効果を発揮しないものでもあります。また、社内独自の用語や概念、非常に専門的な知識も製造業を相手にするコンサルタントやエンジニアには求められます。スマートでない職場よりも、
応用の効かないスキルを求められること
が、エンジニアを及び腰にしているところは少なからずあるんじゃないのかな、と思います。
さらに言えば、これらの『要求』の中には、お客様自身も意味がよくわからなくなっているものが混ざっている場合もあります。
『"秘伝のエクセル"に書かれた計算式通り、計算してほしい』と言われ蓋を開けてみると、ある特定のパターンのみ、大変複雑な処理を行っている。作ったひとは、既に異動しており、内容についても誰にも質問ができない。ひとまず言われたとおりに作ったところ、後日になって『あれは、もう使う必要ない機能だったわ』なんて言われることもザラです。
真っ当に保守されない仕組みが増えると、システムの開発改修に係るコストは益々かさみ、その結果たどり着く結論が、
え、そんなかかるの。じゃあいいや。頑張ればまだ使えるし。
ITも年々進化しておりますので、新しい仕組みを取り入れれば、パフォーマンスも改善し、使える機能も増えて便利になる可能性があります。しかし一箇所変えると、絡み合った他のシステムにも影響が出る可能性があります。そうしてシステムを複雑化させてきたのは、過去の『カイゼン』の結果だったりするようにも見えます。
長期的な視野なくIT活用は出来ない
そうした『カイゼン』は部分的には何らかの成果があったのでしょう。ただ、将来に渡ってメンテナンスしていくことに掛かるコストまでトータルで含めて考えると、どうだったのでしょうか。
現場に大きな裁量権を委ねた『日本型経営』は、長らく我が国の成長力の源泉と言われてきました。しかし、企業経営がシステム化されゆく中で、各部門ごとにバラバラに行われたカイゼンは、全体最適を阻害する要因にもなりかねません。
設計は、よりフレキシブルな構成の変更を求める一方、マスタメンテナンスを受け持つ生産技術はなるべく早めにFIXを希望する。営業にいい顔したい生産管理は、柔軟に日程変更をしたいが、製造は反発する。品質保証は独自の帳票がどうしても必要だと言うし、工務もメンテナンス計画に必要なデータとしてアレが必要だと言い始める。
困ったことに、そういう『ワガママ』を通す材料として過去の『カイゼン』が持ち出されたりするんですよね。こうなってしまうと、完全にセクショナリズムです。一方、それらの『ワガママ』を聞く相手は情報システム部になりますが、下手すれば総務部がパソコンの管理のついでにやってるなんでこともあります。
ちょっと古いデータになりますが、中々面白いものを見つけました。下図は、日米でのソフトウェアタイプ別の投資額構成をまとめたものとなります。
(出典:IT と生産性に関する日米比較:マクロ・ミクロ両面からの計量分析)
日本では圧倒的に、受託開発が大きくなっていますよね。かつては、内製率も高かったものの、どんどん減少しています。一方、米国では、パッケージの利用とともに、内製率も高い。
内製率が高いということは、多くの要員を抱えた『情報システム部門』があるのでしょう。(雇用習慣の違いはあると思いますが)直接雇用で安定して仕事があるのであれば、専門的な知識を学ぶモチベーションもあがります。また、パッケージ利用率も高いところをみると、なんでも内製しようとしているわけではない。
一方、我らが総務部電算室殿は、要員も権限も小さく、
- その要求は本当に必要なのか?
- パッケージの導入で対応できないのか?
- 人材をどのように抱えていくのか?
といった判断をすることが難しい会社も少なくありません。日本企業のIT化の進展には、こうした点について長期的な視点から判断が出来る人の存在こそが、必要じゃないのかなあ、なんて思う次第です。
ではでは、今日はこの辺で。