こんにちは、らくからちゃです。
システム業界に身を置いておりますと、色んなお客様とお仕事をさせて貰う機会があります。システム構築はお客様との二人三脚。お客様の作業効率が弊社の作業効率に直結することも多いものの、横から『こうしたほうがええんとちゃうの?』とも言い出せず、悶々としてしまうときがあります。
そこで直接は言いづらい『ここらへん考えてみてほしいなー』という点について、だらだら適当に書いてみます。ありきたりのことしか書きませんが、どこかのプロジェクトの燃焼速度が多少なりとも遅くなれば幸いです。
例題
例えば、上司からこんな風に指示されたものとします
マーケの部長が、修理案内の通知を封筒に詰めて送る作業をやってくれるひと探してるんだけど、お願いしてもいい?
宛先と対象商品と諸々が書かれたA4用紙が1000人分くらい来るからさ、宛先が東日本なら茶色、西日本なら白色の窓付き封筒に入れて糊付けするんだって。
よろしくね!
アイドルの始球式並のふんわりとしたボールですので、バットを投げ捨てたくなる衝動に駆られますが、ひとまず打席に立ちましょう。
1.期限(リミット)と資源(リソース)はまず確認
アバウトな状態で作業を押し付ける上司にも困ったものですが、上司のおじさんも色々と忙しいので仕方ありません。
でも忙しいからこそはっきりさせておきたいのが、いつまでに終わらせなければならないのか?と、それを実現するために何を使っても良いのか?です。
ここで重要なポイントは『ちゃんとした答えをくれそうな人』に聞くことです。
作業の期限は上司のおじさんより、依頼元のマーケの部長に直接聞いたほうが良さそうですし、会議室を作業スペースにしていいかとか、他に手伝ってくれる人がいないかについては、上司のおじさんに聞いたほうが良いでしょう。また封筒や糊の在り処は、自分で探したほうが早いかもですね。
悪いけど、明日中に発送できるように終わらせて置いてほしいな
明日なら部屋は終日使ってOK。新人君が手が空いてるから手伝って貰いな。
封筒は十分あるけど、ノリの残量は少なめ。二人同時に作業できるように、二つ用意しておくか・・・。
まずは『期限』と『資源』について正確な情報を手に入れることがスタートラインですね。
2.HOWの前にWHYを問おう
下ごしらえが出来たところで、実際の作業内容を確認していきましょう。
指示の中で、気になるのが『東日本・西日本って何やねん』ってところでしょうな。きっと『名古屋県岐阜市はどっちなんだ!?』みたいな疑問が多く湧き上がると思います。
ここで注意したいのがHOW(どうやってするのか?)よりWHY(何故するのか?)をしっかりと抑えておくことです。
これ、何のために封筒を分ける必要があるんですか?
茶色には東京営業部、白色には大阪営業部の連絡先が書いてある。負荷が集中させず、より近い部門が対応できるように分けて欲しい。
じゃあそんな厳密である必要はないと。
そうだな。半々くらいになるようにしてくれると嬉しいな。
現場で手を動かす人がWHYを知っていないと、もっと良いやり方があることに気がつかないこともあります。指示する側も細かなところまでHOWに落とし込めない場合もあります。支持が曖昧だから出来ない!ではなく、『そういう目的なら、こんな感じで進めようと思います』と言えると素敵ですね。
3.単純動作の連続にしよう
次に実際の作業に取り掛かる前に、作業をもう少し分解して考えてみましょう。
- 東日本か西日本か判断する。
- 封筒を選んで入れる。
- 糊付けして封を閉じる
こんな感じでしょうか。大したことない作業ですね。
でも1000人分繰り返すのは結構疲れると思います。目線や手の動きも、あっちやこっちに行くと疲れちゃいますし(今回は3段階なのでマシですが)『アレ、何してたっけ?』とミスの原因になります。
こういうタイプの作業は、単純動作の連続にしたほうが捗ります。
実際にあった例として『異常値を出している処理結果を修正して処理を再実行』というお仕事がありました。
お客様は、異常値のあるデータを上から順番に探し、対応表から正しい値を探し出して結果を修正し、3ステップほどある処理を実行という感じで行っていました。
これを『先に、異常値のあるデータを全て抽出しておき、全てのデータ修正を行ったあとで、未処理のレコードを上から処理』という手順に替えたところ、倍以上の速度で作業が終わったことがありました。(その後システム化されましたが)
『目標をセンターに入れてスイッチ』くらい、なるべく単純な動作にしたほうが、効率よく作業が出来ますし、頭を使う必要が減る分、精神的な負担が少なくなります。また、作業内容が単純であれば、他の人に指示するときも楽でいいですね。
4.前工程を巻き込もう
作業に入る前に、ちょっとした工夫で大幅に効率が改善されると思われるポイントがあります。渡される『新商品の案内』が、北から順番になるように出力されていたら、入れる封筒を選ぶ作業はすぐに終わりますよね?
修理案内の通知って、どんな順番で出力される?
顧客ID順だなー。それが何か?
いや東日本と西日本で別々の封筒に入れなきゃいけないらしくて、分けるのが大変なんだよね。住所が北から順番になるように出せない?
それは難しいけど、郵便番号順で出力しておくことは出来るよ。
郵便番号で並び替えてあっても、完全に北から順番になるワケではありませんが*1 、かなり作業が楽になりますよね。
作業の効率化を考えると、どうしても自分の作業に着目しがちですが、自分よりも前に作業しているひとに、ちょっと工夫して貰うだけでも随分と楽になる場合があります。
その時も『こうして欲しい』と伝えるよりも『こういうことで困ってる』と伝えたほうが、自分の思いもよらない方法が出て来る場合もあるのでしっかり伝えましょう。
5.ミスすることを前提としよう
丁寧に作業をしてもミスは発生します。大事なことはミスをしたことに気がつく仕組みを作ることが大切です。
今回の例で、最も注意しなければならない作業は何でしょうか?
真っ先に思い浮かぶのは、東日本・西日本に分けるところかな。間違える可能性はありますけど、間違えてもそれほど影響は無いですし、封筒に入れたあとでも正しいかどうかチェックできますよね。
それより、一番"危ない"のは、間違って2枚同じ封筒に入れちゃうこと。住所と名前と買った商品の名前が書かれていますので、個人情報にうるさいこのご時世、他人の購入情報が漏れ出すのは、大変よろしくありません。また一度封筒に入れてしまうと、外から2枚入ってることは見えません。
ひとつの工夫としては、封筒を事前に必要枚数分用意しておき、枚数が合わなかったら確認する方法でしょうか。
全部ひっくりかえしてやり直すのは大変ですので、100枚刻み単位くらいでチェックしておくのが良さそうです。この手の話としては、重量検品といって、重さから中身に間違いが無いかをチェックするような仕組みもあります。
システムでの問題点は、基本的に分岐が存在するところで起こりやすい傾向にありますが、ヒューマンエラーは人間が作業をする全ての箇所で起こりえます。にんげんだもの。ですので、何か問題が起こったとしても、外に行く前に、エラーをキャッチできる仕組みを準備することが大事です。
6.後工程に配慮しよう
ミスを拾う体制も出来たし、爆速で仕事を片すぞ!と取り組む前に、ちょっと考えてほしいのが『仕事が早い』とはどういう状態を指すのか?です。
例えば、あなたが焼き鳥屋さんで
- ビール
- 枝豆
- 串盛り
を頼んだとします。あるお店では、1分後にビール。3分後に枝豆。10分後に串盛りが提供され、別のお店では5分後にまとめて全部やってきたとします。どちらのお店が良いか?
システムの世界には『レスポンス(応答速度)』と『スループット(処理量)』という2つの指標があります。最近読んだ下記の本に、こんな感じの紹介がされていました。
レスポンスとは応答のことで、いかに素早く反応を返せるかを示します。一方、スループットは処理できる量が多いことを示します。
(中略)
たとえていえば、レスポンスは、荷物はほとんど載せられないけど、どても速いF1カーのようなものです。一方、スループットは、遅いけれども多量の荷物を載せられるダンプカーのようなものです。どちらも役に立ちます。
実際には、スループットを改善するために、F1カーを何台も用意したりするのですが、そんな話はさておき。
朝から作業をすれば定時30分前には作業が終わり、発送部門に持ち込むこめます。しかし発送部門では、切手を貼る作業などが有りますので、もう少し時間がかかります。定時間際に1,000通分の封筒を持ち込まれたらとても間に合いません。作業を前倒しするか、事前に半分だけでも完了したものを持ち込むといった配慮は必要でしょう。
お仕事をしていると、まずは終わった分からでも持ってきて!という場合と、最後まで終わらせてからでいいから、さっさと終わらせて!という場合があります。
基本的に、スループットを重視したほうが作業が早く終わって楽です。でもレスポンスを軽視するのは、効率化ではなく傲慢であり『なんか空気読めてないよね』と言われてしまいます。そこのバランスも大事ですね。
7.作業バランスを考えよう
せっかく二人いるので、仕事の割り振りのバランスについても考えてみましょう。例えば、あなたが袋詰を終わり次第、後輩くんが糊付けする方法①を考えました。
逐次作業が終わりますから、発送部門に渡しに行きやすいことがメリット。しかし、あなたの作業スピードと、後輩くんの作業スピードをあわせられないと、手待ちロスが発生します。生産管理で言うところの『サイクルタイムを合わせる』ってやつですね。
あなたも後輩くんも、まずは袋詰を終わらせることに注力する②であれば、作業サイクルをあわせる必要はなく、あなたが600通、後輩くんが400通終わらせても良い。ただし、後工程への最初の引き渡しが遅れてしまいます。
作業サイクルをあわせるのは中々骨の折れる作業です。先後関係が厳しい計画にしてしまうと、最大限パフォーマンスが発揮できない場合があります。このあたりの判断は、作業や作業者の性質、後工程の状況なども見て考えるべきポイントです。
大規模な作業をしていると、ある人のところで業務が滞る一方、他の人は割りとヒマしているということも良くあります。作業状況を確認して、ボトルネックになるひとを作らないことも大切ですね。
最後に
学生時代の試験問題とは異なり、問題文にも習った範囲にもない答えを求められるのがお仕事です。
リミットもリソースも伝えられない。条件は曖昧だし、やたらと工程は複雑。知らされていない隠し機能もあれば、気づきにくい注意点もある。OKと思っていたことも特定の状況下では異なり、思った以上に作業者の効率は悪い。
まあ、だいたいどこもそんなもんでしょ。
ただ試験問題とは異なり、カンニングは禁止ではありません。分からないこと、確認したいこと、心配なことは、周囲の人に(丸写しはダメでしょうけど)質問することが出来ます。ですので是非、自分ひとりの仕事が早く片付くことだけでなく、みんなが上手くいくような回し方を考えて貰うきっかけになれば幸甚の至りに存じます。
なお本例は、わたしが今までに見てきたアレコレをベースにでっち上げた架空の業務です。『んなもん実際にはそんなやり方しねえよ!』といったツッコミどころが満載かもしれませんが、ご笑納頂ければ幸いです。
ではでは、今日はこのへんで。
*1:郵便番号は南にいくほど数字が高くなるのかと思ったら