ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

東京一極集中是正のために地価税を復活させたらどうだろう?

こんにちは、らくからちゃです。

世間では、そろそろお盆休みも終わる頃だそうですが、皆様いかがお過ごしでしょうか?弊社は、通常通りの営業日でしたが、しばらく快適に通勤することが出来ました。

普段は、ジグソーパズルのピースのようになりながら『ZIPファイルの中身ってこんな気分なのかなあ』と思いながら痛勤していますが、『ZIPは可逆圧縮だけど、これ絶対非可逆なやつだ』なーんて思い直す日々です。

さてそういや、先日めでたく当選された小池百合子都知事が『地下鉄を2階建てにしたらいいんじゃね?』という中々笑撃のプランを仰られておりました。

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(出典:杉山淳一の「週刊鉄道経済」:「電車には乗りません」と語った小池都知事は満員電車をゼロにできるか (3/4) - ITmedia ビジネスオンライン)

い、いやあまあ、柔軟な発想を持つことは大事です。間違い有りません。

だけどなんっつーか、時間もお金もどれくらい係るんだろうなあと思うと、もっと別の方法を考えたほうが良いような気がします。そもそも、トンネル掘り直す余地ってあるんでしょうかね?

やはりハード面を改善するのには、時間もお金も大きくかかりますし、まずはソフト面から改善していったほうがいいと思うんですよね。

そう、例えば税制とかね。

東京は税金が高い?

ところで皆さん、お賃金から勝手に引かれている税金ですが、住んでいるところによってどれくらい金額が違うかご存じですか?

実を言うと、全国どこでもそれほど大きな差はありません。給料から差し引かれる住民税(都道府県民税・市町村区民税)は、所得に税率を掛けた所得割と、一人頭いくらの均等割で計算されますが、全国どこでも

  • 都道府県民税・・・所得の4%+1,500円
  • 市町村区民税・・・所得の6%+3,500円

が基本となります。ただ一定の枠の中で金額を増減することは出来ます。具体的な違いについては、下記のサイトが大変分かりやすくて良いです。

均等割の金額が一番高いのは、神奈川県横浜市。県民税が1,800円、市民税が4,400円で合計6,200円。標準額より1,200円ほどお高い上に、所得割も0.03%ほど高めに設定されております。

一方、東京都の税率は標準税率と同じ設定となっています。

次は、会社にかかる税金についてみてみましょう。地方自治体が法人に対して課す代表的な税は

  1. 法人事業税
  2. 法人都道府県民税
  3. 法人市町村民税

の3つがあります。面倒くさいので詳細は割愛致しますが、東京都はいずれも標準よりほんのり高いだけで、だいたい同じ設定となっています。詳細に関しては、こちらをご覧頂ければよいでしょう。

地方財政は、だいたい上記の税金でほぼ半数近くが賄われています。

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(出典:地方税収の構成(平成28年度地方財政計画額))

そして上記を以外にも、地方自治体にとって大きな財源となっているものが、固定資産税と都市計画税です。

固定資産税・都市計画税は誰のもの?

固定資産税は、個人であれ法人であれ、固定資産を持っている際に払う税金です。ここでいう『固定資産』には、土地や建物だけでなく、機械なども対象に含まれます。

都市計画税は、都市として開発していくことを決めた市街化計画区域に不動産を持っている際に払う税金です。固定資産税と異なり機械などは対象に含まれません。

固定資産税は、固定資産の保有と市町村が提供する行政サービスとの間に存在する受益関係に着目し、応益原則に基づき、資産価値に応じて、所有者に対し課税する財産税。

(出典:固定資産税の性格)

小難しい言い回しをするとこんな感じになりますが、

  1. 土地や建物の所有者の視点からは、その地方自治体の行政サービスを受けることになるのだから、利用料として払うもの。
  2. 地方自治体の視点からは、より良い行政サービスを行って資産価値が増加すれば、伴って税収も増えるもの。

といった関係になる税金です。こういった『受け取るサービスに対して負担する』といった性質を持った税金を応益税(応益課税)といいます。東京に家を持っている人は、大阪に税金を払う必要はありませんし、逆に大阪の自治体も東京に家を持っていることを理由に税金を徴収することは出来ません。

例えばガソリン税は、使ったガソリンの量に応じて道路というサービスの料金を払う、という仕組みですね。こういった税制は、受益と負担の関係がわかりやすければ、合理的な徴税が出来る方法ですが、お金に余裕の無い人には辛い仕組みです。

応益税に対し、『払う余裕のある人に負担して貰う』といった性質を持った税金を応能税(応能課税)といいます。代表例は、お賃金があがれば上がるほど税率の上がっていく所得税ですね。

固定資産税・都市計画税は、その性格上、対象となる資産の存在する市町村に収められます。ただし、東京都23区の固定資産税は、一旦東京都に徴収されます。細かい仕組みはこちらにまとめておきましたので、ご興味があれば是非!

ところでこの『固定資産税』と『都市計画税』。東京23区ではどれくらいになるのでしょうか?その結果についてまとめたものがこちら。

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※単位は億円(参考:東京都主税局<都税統計情報>)

エクセルデータは平成23年度までしか公表してくれないという意地悪をされたので、少し古いデータになりますが、こうやって見てみると、千代田・港が群を抜いて大きく、世田谷・大田・江東のような面積の広い住宅エリアも上位につけています。

さて、東京23区の固定資産税・都市計画税を全部まとめると幾らになるのかというと、1兆3,442億円となります。日本全体でも10兆円を超えませんので、日本中の固定資産税・都市計画税の1割以上が東京に23区で生じていると思うと、とんでもねぇ金額です。

固定資産税・都市計画税は高い?安い?

まあなんにせよ、東京は地価も高いですし、狭い土地を有効活用するためビルもどんどん高くなっていきます。そりゃあ税金も高くなりますよね。でもこの金額、果たして高いのか、安いのか?

試しに見てみたのが、東京都心部を中心にビル物件を保有するREIT、NBFの決算資料。

  • 不動産賃貸事業収益 ・・・ 24,725百万円(11%)
  • 不動産事業費用   ・・・ 13,152百万円(19%)
  • うち公租公課    ・・・   2,519百万円

(参考:個別物件収支)

いやー、この資料、ビルごとの収益が細かく載っていて面白いですね。都心5区の所有するビルの決算資料をまとめてみると、公租公課は25億円。関連費用のうちの19%であり、売上高の11%となります。

この金額を見て、どう思うのかは人次第だと思いますが、個人的な感想としては、『あんなにでっかいビルいっぱい持ってて、これだけ儲かってる割には安くない?』なーんて思っちゃうんですよね。

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(出典:NBF日比谷ビル - Wikipedia)

都心の一等地にあるこちらの635億円でお買い上げ頂いた26階建てのビル。毎年お支払い頂いている税金は3億円くらいだそうですが、庶民の気分としては、も少し頑張って欲しいなあと思うんですけどね。

そもそものところ、東京の商業地の固定資産税・都市計画税って、実はディスカウントされているんですよね。

東京の商業地だけ減税するのはちょっとズルくない?

他の税と同様に、固定資産税・都市計画税にも基準となる税率が設定されています。

  • 固定資産税・・・1.4%(標準税率)
  • 都市計画税・・・0.3%(制限税率)

東京23区では、上記の税率のまま運用がされています。それぞれ対象となる資産に対して、税率をかければ、収めるべき税金の金額が計算できます。

但し『商業地』については、特例措置で割引があります。それが『商業地等に係る減額措置及び税負担急増土地に係る減額措置』です。

まずは資料を御覧ください。

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(出典:固定資産税関係資料)

ざっくり言うと、『商業地』にかけられる固定資産税・都市計画税を、各自治体の判断によって引き下げることが出来る仕組みです。それをわざわざ、経団連・商工会議所・東京都から、国に要望として出して、減税を行っています

面白いなあと思うのが、東京都に収める税金なのに、国に『安くしてもいいっすか?』ってお伺いを立てているところですよね。地方自治体の税金は、本来自治体の判断によって上げ下げが出来るはずですが、『上げやすく、下げにくい』仕組みになっています。

自治体間で税率競争が始まってしまうと、力のある自治体に、経済的な余裕のある人が集中し、引っ越す余裕のない弱い立場の人たちの負担が増えることになっています。また、無茶な減税を行い、財政が悪化した場合、国が尻拭いをしなければなりません。

そこで国は、自治体が標準税率を下回る金額を設定しようとすると、地方債の起債やら地方交付税の配分やらで、色々と不利な条件を設定し、自治体が減税をなるべくしないようにと介入してきます

まあそのこと自体は賛否両論あることでしょう。

ただひとつ理解できないのが、そこまで神経質な国が、202億円にものぼる減税見込をすんなり認めてしまっているところなんですよね(参考:平成27年度地方税制改正(税負担軽減措置等)要望事項)

ぶっちゃけ、要望を出しているのが経団連を中心となる『経済界』というところで、きな臭え感しかしませんが、これって明らかな『東京に本社を持つ大企業』への優遇策にしか思えないのですが、どうなんでしょうか。

地価税の復活を考えてみてもいいのかも

 東京都も東京都です。1兆円近い税収のある東京都にとっては、200億円程度、大した金額では無いのかもしれませんが、他の自治体からしたら喉から手が出るほど欲しい額のはずです。

東京都は事ある毎に『うちもそこまで余裕あるワケじゃねーから!』と主張していますが、こんな話を自ら国に持って行っているところをみると、どうなのよ?と思っちゃいますよね。

これはちょっと穿った見方かもしれませんが『商業地が多いほうが財政にとって都合が良いから』なのでしょうか。

近年、自治体の財政を圧迫している福祉に係る行政コスト、老人ホームや保育園、生活保護費に国保自治体負担分等々は、住民の数に比例して増大していきますが、商業地であればそういった負担は軽くなります。

個人住民税を徴収することは出来ませんが、それを余りある金額の固定資産税が得られるのなら、面倒な住民は他都市に押し付けて、高層ビルから入る税収を期待するほうがお得感があるのかも・・・なんて考えすぎでしょうか。

固定資産税・都市計画税は、行政サービスの対価として収める応益税という側面があります(異論もありますが)。しかし仮に応益税だったと考えるとすると、対価として支払うべき『相手』は誰が相応しいのでしょうか?

東京は、そこに住んでいる『住民』より、他県よりやってくる住民の数が圧倒的に多い『昼間の人口』の非常に多い街です。

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(出典:東京都の"昼間人口"、最も多いのは「港区」で88万人・2位は「千代田区」 | マイナビニュース)

東京の地価が高いのは、首都として政府の中枢機関が集中し、あらゆる地域かアクセスしやすいようにインフラが整備され、ヒト・カネ・情報が国中から集中する仕組みが作られた結果でもあります。

となれば、その『対価』を支払うべき相手は、東京都だけでなく日本全体であるような気がします。ということで、東京にでっかいビルを持っているひとガッツリ税金を巻き上げたらいいんでねーの?と思ったわけですが、実はそういった税金は既に有ります。

それが、地価税です。

もともとこれは、地価が大幅に増加したバブル期に、加熱する投機を抑えるために作られた税制です。1,000平方メートル以下の住宅地や、細かい条件の違いはありますが5億円以下の土地には課税されなかったため、実質的には大企業のみに課税された税金でした。

とはいえその税収は、最盛期で6,000億円にものぼるものでした。

この税金、バブル崩壊に伴って、現在に至るまで課税が凍結されています。もともと、地価高騰の対策のための税金なので、当たり前っちゃ当たり前なのですが、そろそろ復活も検討してもいいんじゃないのかなーと思うんですね。

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(出典:主な都市における商業地の「最高」価格の推移

まず東京23区の商業地の最高価格は、低迷を続ける地方を尻目に、既にバブル期を超える水準に有りますので、地価抑制という目的から考えれば、復活もアリのはずです。

ただそれだけでなく、疲弊し続ける地方を支えるための財源として、過密に喘ぐ東京で有り余っている資力を振り分けるというのは、政策的にも納得度は高いものであると考えられます。

東京の繁栄には、そこに繋がる地方の存在があってこそ得られるものもあります。加えて『都心である必要の無い企業』には退出して貰えば、過密の解消に加え、都市としての新陳代謝を進めることにも繋がります。

個人的には、いくら豪邸でもひとの住んでいる宅地にいきなり増税するのは、憲法の保証する居住の自由の観点からどうかな~と思うところもありますが、商業地には、もっとたっぷり課税してもいいんじゃねえでしょうか。

課税の方法次第では、額面以上の政策効果を生む可能性もあると思います。ピケティの主張を引用するまでもないのですが、英国では専門のサイトまで作って議論をすすめているみたいですね。

なにより、広く遍く国民の懐を傷めつけ、我ら庶民のなけなしの小銭を掠め取る消費税の増税よりも、あの経団連のでっかいビルや連合会館の持ち主あたりから、がっつり徴収してして頂きたいと思う今日このごろです。

ではでは、今日はこの辺で。