ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

ふるさと納税のリスクと危険性について考える

こんにちは、らくからちゃです。

先日、確定申告で税金を払ってから、お財布の中身がすっからかんです(´Д⊂グスン。その分収入があったんやろ!と言われましたら、その通りではあるのですが、やはり目に見える形でお金が減るのを見るのは辛いものです。

払う額はちょっとでも少ないほうがいいよね、と思い税金のコーナーへ行ってみると、ずらっと並んでいたのは『ふるさと納税』に関する本。『納税するのに、なんで節税になるねん!』なんて言う人は、もう殆ど居ないと思いますが、改めて整理するとこんな感じです。

ふるさと納税ってなんだっけな

 

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 まず好きな自治体に寄付をします。寄付額分の税金(主に住民税)が自己負担額の2000円を除き全額軽減されます。全額戻ってくるケースの上限額は、支払っている税金の額によって変わります。総務省が家族構成や年収別に大変ていねいにまとめてくれていました。

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(出典:総務省|ふるさと納税ポータルサイト|ふるさと納税のしくみ|税金の控除について)

これだけだと『行って来い』しただけですので何もトクはしません。しかし行った寄付の金額に応じて、各自治体が『返戻品』のメニューを用意しています。最近の人気ランキングを見ていると、食べ物系が人気みたいですねー。

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(出典:ふるさと納税サイト [ふるさとチョイス] | 2017年 ふるさと納税なんでもランキング)

だいたい、支払った額の30%〜40%相当の返礼品が一般的なんだとか。

ってことは、我が家の場合は、2万円〜3万円分くらいお得ってこと!?

やばーい!
すごーい!
超おとくー!!

いまやろう。
すぐやろう。
迷わずやろう、ふるさと納税!!

 

 

 

せやろか?(´・ω・`)

寄附金とは、一方が相手方に対し、任意にしかも反対給付を伴わずして為す財産的給付をいう

さて、茶番はこの辺にしておいて、そろそろ本題に入りましょうか。まー、しかし人気になりましたよね、ふるさと納税。最近は確定申告なしでも出来るようになるわ、総務省が激推しするわ、テレビでもガンガン取り上げられるわ。

『えー!?まだ、ふるさと納税してないの!?』
『ふるさと納税してないなんてかっこ悪い...』
『ふるさと納税しないなんてマネーリテラシー低すぎだろう・・・』

なんて『うっさいわ!』と言いたくなるような煽られ方すらしそうな世相でございます。そんな世間の風はさておき、そもそも『ふるさと納税』ってなんやっけな?ということについて、法的な根拠を求めると地方税法の以下の条文に当ります。

第三十七条の二

道府県は、所得割の納税義務者が、前年中に次に掲げる寄附金を支出し、当該寄附金の額の合計額(当該合計額が前年の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の三十に相当する金額を超える場合には、当該百分の三十に相当する金額)が二千円を超える場合には、その超える金額の百分の四に相当する金額(当該納税義務者が前年中に第一号に掲げる寄附金を支出し、当該寄附金の額の合計額が二千円を超える場合にあつては、当該百分の四に相当する金額に特例控除額を加算した金額。以下この項において「控除額」という。)をその者の第三十五条及び前条の規定を適用した場合の所得割の額から控除するものとする。この場合において、当該控除額が当該所得割の額を超えるときは、当該控除額は、当該所得割の額に相当する金額とする。

 前項の特例控除額は、同項の所得割の納税義務者が前年中に支出した同項第一号に掲げる寄附金の額の合計額のうち二千円を超える金額に、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める割合を乗じて得た金額の五分の二に相当する金額(当該金額が当該納税義務者の第三十五条及び前条の規定を適用した場合の所得割の額の百分の二十に相当する金額を超えるときは、当該百分の二十に相当する金額)とする。

 

第三百十四条の七

市町村は、所得割の納税義務者が、前年中に次に掲げる寄附金を支出し、当該寄附金の額の合計額(当該合計額が前年の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の三十に相当する金額を超える場合には、当該百分の三十に相当する金額)が二千円を超える場合には、その超える金額の百分の六に相当する金額(当該納税義務者が前年中に第一号に掲げる寄附金を支出し、当該寄附金の額の合計額が二千円を超える場合にあつては、当該百分の六に相当する金額に特例控除額を加算した金額。以下この項において「控除額」という。)をその者の第三百十四条の三及び前条の規定を適用した場合の所得割の額から控除するものとする。この場合において、当該控除額が当該所得割の額を超えるときは、当該控除額は、当該所得割の額に相当する金額とする。

2  前項の特例控除額は、同項の所得割の納税義務者が前年中に支出した同項第一号に掲げる寄附金の額の合計額のうち二千円を超える金額に、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める割合を乗じて得た金額の五分の三に相当する金額(当該金額が当該納税義務者の第三百十四条の三及び前条の規定を適用した場合の所得割の額の百分の二十に相当する金額を超えるときは、当該百分の二十に相当する金額)とする。

はい、長ーい。前半分が都道府県、後ろ半分が市町村向けの条文です。

ここで一つおさらいをしておきましょう。住民税の税率は、だいたいどこの自治体に住んでいても、前の年の社会保険料やら配偶者控除やらを差っ引いた『課税所得』に対して10%+5,000円が基本です。(もうちょっと詳しくはこちら→東京一極集中是正のために地価税を復活させたらどうだろう?)

そこから40%分が都道府県に持って行かれますので、課税所得の

  • 都道府県・・・4%
  • 市町村・・・6%

の金額を払っているわけですね。高いね!

ふるさと納税をすると、まず支払った金額から2000円分を差し引いた額にそれぞれの税率を掛けた金額が、支払うべき税額から控除されます。30,000円なら(30,000-2,000)*10%で2,800円税金が減るわけですね。これだけだと寄付すると損です。でも『都道府県や市町村に寄付したときだけ』特例として、所得税として支払った分を差し引いた寄付額のほぼ全額を追加で控除することが出来る。特例控除には上限があり、現時点では住民税所得割分の20%となっております。

北海道庁さんのまとめてくれた資料が分かりやすいですねヾ(*´∀`*)ノ

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(出典:「ふるさと納税」制度による個人住民税の寄附金控除について | 総務部財政局税務課)

はい、そこで皆さんしっかりここを読んでほしいのですが、税金がキャッシュバックされる対象は『寄附金』と書いてあります。

寄附金とは何なのか?

地方税法には、その定義は書いてありません。所得税法や法人税法には色々書いてありますが、だいたいどれも1942年(戦前!)に当時の大蔵省主税局の出した通達にある

『寄附金とは、一方が相手方に対し、任意にしかも反対給付を伴わずして為す財産的給付をいう』主税局通牒 (昭和17年9月26日付主秘487号)

 に則った形で定義されています。

  • 任意・・・売買取引の支払等ではない
  • 反対給付を伴わない・・・何か報酬があるわけではない

ってことですよねー。一切のもののやり取りが禁止されているわけではなく、例えば『お礼状』とか『活動報告』であれば反対給付には含まれません。下記は大分県の作ったNPO向けの資料ですが、こんな風に書かれてますね。

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(出典:寄附金について)

そうですよね。だって、わたしがNPO法人を立ち上げて、10万円寄付して貰い、税金が減ったあとで、10万円キャッシュバックしたりしたら、どう考えても脱税ですもんね

ん・・・?

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(出典:ふるさと納税サイト [ふるさとチョイス] | ふるさと納税とは?)

ふるさと脱税のリスク

ざーーーーっと法律を眺めながら考えてはみたんですけどね。わたしが何か重大な見落としをしているのか、それとも読み違えているだけなのかもしれませんけど、ふるさと納税の返礼品が『反対給付』に当たらない理由っていうのが分からないんですよね。

だって明確に『これをあげるよー』って書いているわけですよ?

それも市長直筆の感謝状とか、地元の小学生の折った折り鶴とかじゃなくて、普通に商業的に一般に売買されているようなお肉とかお米とかパソコンとかが貰えるわけですよ。

これ、もはや『節税』ですらなく『脱税』じゃないんっすかね?

と思うのですが、総務省通達ではこんな解釈だそうです。

ふるさと納税は、通常の控除に加えて特例控除が適用される仕組みであるが、その適用が、地方団体に対する寄附金額の全額(2,000円を除く。)について行われるのは、当該寄附が経済的利益の無償の供与として行われており、返礼品(特産品)の送付がある場合でも、それが寄附の対価としてではなく別途の行為として行われているという事実関係であることが前提となっているものである

返礼品(特産品)送付への対応について

特殊浴場で従業員と客との間に一時的な恋愛感情が発生したり、遊技場で使われている金属球を買い取る物好きが居たりする国なので、深く突っ込んではいけない気もしますが、その続きもございます。

当該返礼品(特産品)を受け取った場合の当該経済的利益については一時所得に該当するものであること。

 受け取った経済的利益があるならば、それは一時所得だからな!!ちゃんと確定申告しろよ!!ってことだそうです。それこそ、どうやって金額を算定するのかは分かりませんが。

なお蛇足になりますが、ふるさと納税で確定申告を裏で勝手にやってくれる『ワンストップ特例』という制度があります。ただこれ『一時所得がある人には使えません』とあります。返礼品があれば一時所得は生じております。課税対象外の50万円以下は無視していいんでしたっけ??とすると、かなり多くの人がこの仕組を利用できないと思うのですが、そこんところ大丈夫なのでしょうか?総務省さん。

政府が音頭を取ってやっている以上、『やっぱあれ、寄附金じゃなかったわ(*ノω・*)てへぺろ』なんて言われる可能性は限りなく低いでしょう。でも、ふるさと納税で、税収が増えるよりも減ることの多い自治体がブチ切れて『こんなもん寄付金ちゃうわ!!控除なんか認められんわ!!』と言い張ったらどうなるんでしょうね??

その場合、寄附金控除がなくなりますので、余計にお金を支払うことになるリスクは、限りなくゼロでもゼロではないと思います。

やはり、この制度を医療費控除や住宅ローン減税と並べて『節税策』として語ることは、なんか違うよなーと思うんですね。

ふるさと納税の問題点

色々と怪しげな点はあるものの、国が主導的に行っている政策ですので、ふるさと納税を行なうことによる直接のデメリットは無いと思います。しかし、視野を広げてみると、実に多くの問題がある制度です。

1.住んでいる自治体の税収が減る

ふるさと納税を行い控除を受ければ、自分の住んでいる自治体の税収が減ることになります。その結果、図書館や病院が統廃合されたり、保育園の建設が進まなくなったりと、行政サービスが低下する可能性があります。

地方自治体の財政力の格差は地方交付税制度で調整されているが、ふるさと納税制度はこれとは別の形で自治体の歳入に影響を及ぼす。減収が東京都で最も多いのが世田谷区で、2016年度の税控除を通じた区民税の減収は16億円を超える見込みだ。

ふるさと納税で割食う都市部-世田谷区の税控除は保育園5つ分に - Bloomberg

特に、都市部なんかには流出のほうが多い自治体も沢山あるみたいですね。住んでいる自治体の税収が減れば、回り回って割りを食うことになるのは、そこに住んでいる住民です。そのことは心に留めておくべきでしょう。

2.税収総額が減少する

単純に、ある自治体から別の自治体に税収が移るだけなんであれば良いのかもしれませんが、返礼品への支払の分だけ、実質的な税収額が減ることになります。

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(出典:ふるさと納税特典に「ThinkPad」「LaVie」 工場所在地の山形県米沢市 - ITmedia NEWS)

例えばこれ。話題になった米沢市が『パソコン』を返礼品としたケース。こちらの商品、市場価格は29万円ほどなのですが、寄附額30万円で受け取れます。さすがに売価で調達していることは無いでしょうけど、米沢市に残る金額はかなり減ることになるでしょう。

3.格差拡大を助長する

しかも減った税収分はどうなるのかというと、住民税をたくさん支払うことの出来る人への返礼品へと化けます。これは税の逆進性を高め、税による所得の再分配を歪めることにも繋がります。

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(出典:利用しているのは誰?-ふるさと納税シリーズ(5)ふるさと納税に関する現況調査結果より:基礎研レター | ニッセイ基礎研究所)

ふるさと納税利用者の数を、課税対象所得が多い順に、第1Gから第10Gまで並べてみると、圧倒的に高額納税者の利用率が高いんですね。居住地の影響なども考慮して考える必要はありますが、これは所得の高い人ほど有利な制度である証左でもあるでしょう。

それでも、ふるさと脱税やりますか?

ふるさと納税は、子供が成長して働いてお金を稼げるようになったと思ったら、都会へと移り住んでしまい、子供に提供した行政サービスの収支が合わない!といった課題から始まりました。そのため『出身地だけに限っては?』という意見もたまに耳にします。個人的には、

  • 学生時代を過ごした思い入れのある街
  • 普段よく行くスーパーがある街
  • 毎年家族で旅行に行く街

みたいなところに寄付できるようにするのもアリだろうし、あまり場所を縛らなくても、とは思います。一定の範囲内であれば、自分の意志で関心のある社会課題を解決するために納税先を決定できることは、非常に大きな意義もあるでしょう。

現状の返礼品競争は、そうした意義を大きく歪めています。総務省は、返礼品の上限を3割までとせよ、なんてことを言い始めましたが、きっぱりと禁止したほうがいいんじゃないでしょうか。

ときたま『地方の雇用創出に大きく貢献している』といった声も耳にしますが、タダじゃなきゃ貰わないようなものの生産量が増えることは、成長なのでしょうか?

また『返礼品がないと誰も寄付なんてしない』なんて声も耳にします。まあ確かに、充実した返礼品を設定している自治体のほうがガッツリお金を集めているのは事実ですが、特産品の返礼品を用意していない自治体でも、それなりの金額は集めています。

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(出典:ふるさと納税制度の現状と課題

例えば大阪市。1万円以上の寄付で貰えるものは、市内の美術館等の入園券。せいぜい価値は500~600円くらいです。ちょっとおもしろいのは、秀吉時代の大阪城の石垣を修復するプロジェクトにお金を出せば、記念コインが貰えます。

案外探してみると、創意工夫を凝らして『お金以上の価値』を提供しようとしている自治体は少なくありません。特産品の返礼品がないと、人は動かないよ、と安易に考えるのもどうかなーとも思うんですね。

さて種々の課題や問題はあるものの、個人的に一番『どないやねん』と思うのは『どないやねんって言う人少なすぎじゃない?』ってところなんですね。これだけ大きくなってしまった以上、与党も野党も規制に向けて動くのは有権者対策としても得策ではないでしょう。これを飯の種にしちゃっている人すらいますもんね。

某ふるさと納税に関するサイトに登録すると、300円くらい貰えるみたいですので、それをお小遣いにしているひとも多いのでしょう。そういや先日、こんな記事を読んだのを思い出しました。

"【情報商材?】ダイレクト出版で無料の本を注文すると何が起こるのか"というチャレンジングな記事の中で行われた『変なセミナーの勧誘がきても無視すりゃいいし、タダなら良くない(あと僕が儲かる)』という主張に対し『個人情報流出とかもっと考えようよ(あとそれで稼ぐのもどうなんよ)』というやりとりがされてたのかなぁ?と思うのですが、比較的本件も近い案件のような気もします。

仕組みを知った上で、便利に活用するのも他人におすすめするのも個人の自由だと思いますが、その裏側については理解しておきたいなあと思う今日このごろです。自戒も込めてね。

ではでは、今日はこのへんで。