ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

奨学金は貸与でも給付でもなくエクイティ・ファイナンスで集めるべきだと思う


こんにちは、らくからちゃです。

先日、こんな記事を書かせて頂きました。要点をざっとまとめますと『大卒と院卒の間に4000万円以上の生涯賃金の差があるのは本当。ただ院卒は、大卒のまま働いていたとしても、賃金が高かった可能性があるので、その全てが大学院の教育効果とは言えない』みたいな感じの内容になります。

ただまあ、データの読み解き方に注意は要しますが、教育には多かれ少なかれ投資効果があるのは事実でしょう。しかし、もう一つの大切な『真実』として、このリターンにはかなり大きな振れ幅があります。ブックマークコメントでもご指摘頂きました通り、あくまで健康に働き続けることが出来れば、という注釈がつきます。

大学院進学の投資収益率12%のウソとホント - ゆとりずむ

なお健康であれば、という条件付きな気もする。病気したら元も子もない

2017/05/16 22:38

b.hatena.ne.jp

どんなにマジメに勉強し、一生懸命働いていても、急に会社が倒産してしまったり病気にかかってしまって借りたお金が返せなくなる可能性は常にあるわけです。学費への投資は、かなりハイリスク・ハイリターンなものであると言わざるを得ないでしょう。

安倍総理や政府は、『教育国債を発行し、大学の教育費を無償化する』といったプランを検討しています。

教育は、長期的に見れば広く社会に投資額以上の効果をもたらします。それなのに、家庭の事情などで進学を諦める人が出てきてしまうのは、社会にとって大きな損失です。じゃあだからといって、全ての大学教育を無償化してしまうのはどうなんでしょうか。

大学は無償化すべきでない理由

この問題について、先日の東洋経済にて、かなり詳細で丁寧な解説が行われていましたので、ご紹介したいと思います。

 

 教育の無償化といえば、高校の授業料無償化が記憶に新しいところですよね。でも、大学や大学院で行う高等教育と、小学校で行う初等教育や中学校・高校で行う中等教育を同じように考えてしまって良いものでしょうか。

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(出典:週刊東洋経済 2017.4.29-5.6 91p)

読み書きや計算といった初等・中等教育は、教育を受ける本人たち以上に、社会全体の利益に直結します。どんな人でも日本語の看板がよめ、ちょっとした計算くらいできる今の社会はこれらの制度の賜物です。大学や大学院で行う高等教育にも税収の増加などを通して、社会全体へのメリットはありますが、基本的にその効果は教育を受ける本人に帰属します。

広く多くの人が学ぶ初等・中等教育については、カリキュラムを固定することによってスケールメリットが得られます。しかし専門的な内容を取り扱う高等教育について、それをしてしまうと、効果的な教育ができなくなりますが、公金を使う以上、無償化するなら授業内容を統一していく必要があります。

初等・中等教育は、狭い学区の中が対象になるため独占が発生しやすいため市場に全て任せるべきではありませんが、高等教育は学校同士でより切磋琢磨しあい競争を行うべきです。

投資に必要な資金の調達方法

でも現在のような貸付型の奨学金しか選択肢に無い状況では、十分なお金があるか借金のリスクを背負うことが出来る人でないと大学に行くことができなくなってしまいます。少し話は変わりますが、日々『投資活動』を行っている企業はどのように資金を調達しているのでしょうか。

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投資というと、凄く大げさな話になりますが、将来より増えることを見越してお金を支払うことです。

例えば、製品を作るために材料を買ってくることも投資(在庫投資)ですし、工場などを建設するような投資(設備投資)もあります。貸し手からしてみれば、返済期限が長いほうが帰ってこなくなる危険が大きくなりますので、コスト(金利)も大きくなります。ですので『いつ返せそうか?』を考えた上で、必要な期間に応じた資金調達を行います。

しかし研究開発に必要な投資(研究開発投資)などは、当たれば大きいものの、上手くいくのかどうか?上手くいったとしてそれがいつになるのかもはっきりしません。こうした投資にに使うお金は、過去に蓄えた内部留保や新株の発行するなどで、返済期限のない方法で調達します。

株式を発行して集めた資金(や内部留保)は、利益に連動して配当する必要がありますが返済義務はありません。上手く行けばそれに応じた利益を配分するが、ダメだった場合は返す必要がない。こうした資金調達方法を『エクイティ・ファイナンス』と呼びます。

学費はどの投資に該当するでしょう?

そうですね。上手くいくかどうか保証のない『長期的な投資』に該当します。そうであれば、学費は、新株発行などを通したエクイティ・ファイナンスで調達されるべきなんです。

学費はエクイティ・ファイナンスで調達すべき

なんだか小難しく聞こえるかもしれませんが、要するに『出世払い』のことです。たくさん稼げるようになれば収入に応じた『配当金』を支払う。その一方で、上手く行かなかったときは、奨学金を払う必要はない。こうした制度は『所得連動返済型ローン』として、他国でも多く制度として利用されています。

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 (出典:週刊東洋経済 2017.4.29-5.6 94p)

日本でも似たような制度として、『猶予年限特例又は所得連動返還型無利子奨学金制度』というものが設けられて居ます。

ですが、返済期限が猶予されるだけであって、海外のものと異なり返済が免除されるわけではありません。更に、成績優秀かつ低収入世帯出身者のみを対象とした制度です。高校時代に成績が奮わなかったとしても、収入を増やす必要はあるでしょう。また、同じように低収入になってしまったとき、親の所得が低かった人だけ猶予されるのも変な話です。そして対象人数が制限されてしまうと、その価値を十分に発揮できなくなってしまいます。

金額や制度設計次第ですが、この制度は上手く行かなかった人の負担を、上手く行った人が肩代わりすることが可能です。上手く行った人の負担は増えるわけですが、上手く行かなかったときの保険にもなるので安心を手に入れることが出来ます。

じゃあこれ、将来的に増える税収見込で行う給付奨学金とは何か違うのかと言いますと、きっちり投資と収益とを紐付けることが出来るわけですね。

市場に救える人は市場に救ってもらおう

ここから先は完全に妄想の私案ですが、株式と同じ資金調達の方法なので、より多くの人から資金を効率的に集めるために、上場できる市場を作るってのもいかがでしょうか?

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まず大学は、投資家に自分たちの学校のカリキュラムを示して資金を調達します。この資金を元に、学生の教育を行います。この時点で学生の負担はゼロですが、ある程度の期間、収入からその一部を税金と一緒に源泉徴収します。そうして集めた資金を元に、もとの出資者へ配当を行います。

この方法であれば、将来収入がどうなるのか分からない中で、学生が学費のリスクを負う必要がありません。また大学のカリキュラムや実績を見た上で、より将来の収入を増やしそうな教育ができそうな大学へ資金を提供することになりますので、大学同士の競争も活性化されます。大学側としても、説得力のある内容であれば、学費を値上げせずとも資金を集められるのはメリットでしょう。

投資家側にも、将来の収入が担保になるため、インフレにも非常に強い金融商品であると言えそうです。また将来有望そうな分野を見越して投資をすることになりますので、人材不足が不安視されている分野に優先的に資金が集まるようになります。

副作用としては、高校が大学進学実績のみを競うようになるのと同じように、大学教育が将来の収入のみをターゲットとした内容になる危険がありますし、そうでない分野に割かれる予算や人員が減らされる可能性があります。

ただ将来税収が増えることを見込んで、赤字国債を発行してお金をばらまくよりは、一定の制御した上で、市場の力を借りてみるのも良いような気がします。市場は常に合理的で効率的に成長を生み出すように行動します。その網からこぼれ落ちてしまう人は、政治の力で救うしかありませんが、基本的に市場の力で助けられる人は市場に任せたほうが低コストです。

リスクは社会全体でカバーしよう

ここまで複雑な設計にする必要があるのかどうかはさておき、奨学金はその性質上、何らかの形で将来の収入に連動するような方法を取るべきです。そしてそれをするには、所得の情報を得る必要があるため、民間企業では難しく、その部分については政府の力を借りる力があります。

『専業主婦になったひとはどうする?』とか『個人事業主は収入の補足が難しいのでは?』などの問題は考えていく必要がありますが、リスクを社会全体で分散していくことが出来れば、よりチャレンジすることが出来る人が増えます。

制度設計の仕方は色々とあると思いますが、社会保険の枠組みを使ってみるのもアリかもしれません。こども保険なんていう、保険でもなんでも無いものを作るよりは、よっぽどマシではないでしょうか。

ではでは、今日はこのへんで。