こんにちは、らくからちゃです。
いつかお金が溜まってアーリーリアイアが出来たなら、もう一度大学に戻って学究の徒になってみたいなあなんて思いつつ、今日もまた通勤電車に揺られております。さて、こんな記事を読みました。
知人の大学の先生が学生に「院卒は学部卒と比較して4000万円も生涯賃金が多い」と教えているらしく、まあそれが本当だとすれば、お金の話しだけで考えれば、おそろしく非効率的な投資だなと思った。
これな中々興味をそそられる情報ですね。よっしゃ、アーリーリタイアなんて言わず、今から大学院に通って、おいらも生涯賃金を4000万円増やしたるで!!と思ったのですが、そんなに上手くいくもんでしょうか?
大学院進学の投資価値
まずは「院卒は学部卒と比較して4000万円も生涯賃金が多い」という情報からして怪しからんところですよね。ガセじゃねーの?と思った人も多いかもしれませんが、この話の出処は、過去に内閣府が発表した『大学院卒の賃金プレミアム』というレポートです。
同レポートでは、各種統計データを解析したところ、大卒と院卒との生涯賃金の間には4000万円を超える差があることを報告しております。またこれは、学費及び教材費が年間100万円と仮定した場合、修士(博士前期)課程では12%近く、博士(博士後期)過程では5%近くの内部収益率となるそうです。
大学卒 | 大学院卒 | 差分 | 修士過程 内部収益率 |
博士過程 内部収益率 |
|
---|---|---|---|---|---|
男性 | 2億9163万円 | 3億4009万円 | 4846万円 | 11.8% | 4.9% |
女性 | 2億6685万円 | 3億1019万円 | 4334万円 | 11.9% | 4.7% |
(出典:大学院卒の賃金プレミアム)
内部収益率とは、合計の差分損益額がゼロとなるように計算する投資収益率(割引率)です。12%の複利で雪だるま式に資産が増えていく訳ではなく、毎年12%で複利で運用されるも、純資産分も合わせて配当されていき再投資は出来ない投資信託。というイメージ。といえば分かりやすいでしょうか。
(出典:サルでもわかるIRR(内部利益率)法の説明 : KaitoBlog)
内部収益率を計算するにあたり『学費以外は入れなくて良いの?』と思われるかもしれませんが、生活費は大学院に通っても通わなくても発生しますので、意思決定会計における差分費用にはなりません。
あと『大学院に通っている間、給料が受け取れないことは機会費用ではないの?』と思われるかもしれませんが、内部収益率は『大学を卒業してそのまま働く』という案と『大学院を卒業してから働く』という2つの選択肢の比較ですので、特にそこは加味する必要はありません。生涯賃金の差で調整されますからね。
加えて言えば『所得の差』をもとに計算されていますので、所得にインフレ率が加味されているのであれば、インフレ率を超える超過リターンということが出来ると思います(ちょっと自信無い)
大学院進学は12%近い投資収益率になるなんて、胡散臭いほど魅力あふれる話ですが、内閣府の偉い先生たちが計算を間違っていない限り『ウソ』は有りません。『ホント』です。
でもね。『大学院教育への投資には投資収益率は12%分の価値があるか?』と言われれば、それはきっと『ホント』ではないでしょう。
『朝ごはんを食べる子供は成績が良い』問題
話は変わりますが『朝ごはんを食べる子供は成績が良い』なんて話を聞いたことはありませんか?よっぽど、お米の消費を増やしたいのか、過去に農林水産省がこんなデータをまとめていました。
(出典:農林水産省/めざましデータBOX)
すっげー!朝ごはんをちゃんと食べてる子供のほうが、断然成績がいいじゃないですか!!こりゃ、遅くまでゲームをして朝は中々布団から出て来ないうちのガキを、叩き起こしてでも口に菓子パンをねじ込んでやれば、アヒルの並んだ通知表ともおさらばかな!?
なーんて解釈してしまうと、たいてい上手く行かないでしょう。
確かに『朝ごはんを食べている子供の成績が良い』というのはホントのことでしょう。しかし『朝ごはんを食べれば子供の成績が上がる』というのは、ややこし言い方になりますがホントでもウソでも有りません。この調査結果だけじゃ分からないんです。
何故ならば『朝ごはんを食べている子供』は
- 遅くまで夜更かししないように教育されている
- きまった生活リズムが保てる自律心がある
- 親の子供の食に対する意識が高い
などなどの、交絡因子と呼ばれる隠れた第三の変数がある場合があるのです。大事なことは、朝ごはんを食べさせるよりも、規則正しい生活を過ごさせることなのかもしれません。
以前、下記の記事でもご紹介致しましたが、ビールの売上が増えたからといって焼き鳥の売上が増えるとは限らないんです。
大学院進学の投資価値についても同じことが言えます。大学院に行くことが出来る人は、大学卒業をしてすぐに働いても大学院に進学しても、結局お給料はあまり変わらないかもしれません。
例えば、大卒の平均年収が500万円、大学院卒の平均年収が600万円だった場合には100万円の差があります。しかし大学院に行けるけど行かなかった人の平均年収が580万円だったとしたら、大学院に行くことの価値は20万円分のプラスにしかなりません。
別に、大学院に行くことなんて難しくないよ。と思われるかもしれません。
ただ大学別の大学院進学率のデータを眺めてみると、有名大学ほど進学率が高いことがわかります。院卒者も含めたデータでしょうけれども、これらの大学出身者は、元から高い所得を得ています。
また(いわゆる)理系出身者のほうが大学院進学率・平均所得が高い傾向があり、院卒者の生涯賃金を引き上げている可能性もあります。他にも実家からの支援や理解が得られやすい環境で育ってきたことも影響するかもしれません。
これくらいの推論は、手許にデータが無かったとしても、まともな大学教育を受けていれば出来るはずです。何を思って『4000万円生涯所得が多い』なんて教えているのかわかりませんが『大学院に行ったほうがお得だゾ!』と思わせたいのであれば、自分たちの教育の失敗を証明しているようなもんなので、辞めておいたほうがいいんじゃないのかなあと思いますね。(客観的な事実として伝えているだけでしたらとにかく)
大学院の価値
レポートを作成した内閣府の偉い先生たちは、そんなことには当然気づいておりますので、『大学院で学んだことの価値』を純粋に測定するため、その他の影響を除外しようと、様々な努力を尽くしています。
例えば、結婚している場合『家族手当』が付く場合がありますよね。そうした影響を除外するために、結婚しているかどうかを調整したりしています。ただどんなに手をつくしても『全く同じ人が、大学院へ行くか行かないかでどれくらい生涯所得が変わるか?』なんて神のみぞ知るところです。
アメリカの調査では、入試のときの成績まで考慮した調査を行っていますが、そこまでやるには同じ人に対して連続したデータを入手する必要があります。これは非常に労力もかかるし、プライバシー的にも細心の注意が必要になります。
また、どこまでデータを集めたとしても、あなたが『大学院に行くべきか?』は結局のところ、あなたが考えるしかないんです。そしてそれは、貨幣的価値だけで判断するべきものかと言えば、そうでもないでしょう。
元記事の中で共感したここの部分。
カネで買えるものは意外と少ない。クルマと家、テレビ、パソコン、PS4、そんなもんだ。それを買うのに4000万円の生涯賃金が絶対に必要かというとそうでもない。家など場所を選ばなければ誰でも買える。そももそ買う必要すらない。なければ困るが、ありすぎても持て余す。
僕が件の先生の発言に違和感を感じたのは、大学院に行く価値を「生涯賃金」というかなりつまらないものに還元してしまったことだ。おなじ1000万を40年間運用するとして、年10%で運用したら自動的に4億円になる。半分の5%であっても、7000万円弱になる。カネに還元して考えたとき、大学院に通う意味は果たしてあるのか、ということになってしまう。
そりゃあ、お金は多いほうが良いです。たくさんあれば安心できますし、お金の力で、やりたくないことをやらなくても済むようになりますしね。
ただお金というものは、手段であって目的ではないはずです。本当に大切なことは、人生において何を成し遂げたいかです。そのためには食い扶持が必要ですので、大学くらいまでは、将来の所得を意識した内容でもいいと思います。しかし、最後の学びの場である大学院での学問は、生涯賃金なんてものをネタにしなきゃいけないほど、つまらないものであってはいけないのは同意するところであります。
ではでは、今日はこのへんで。