ここ最近、広告費を水増し請求していたり、新入社員が過労自殺したりと『電通』という会社の名前をよく耳にします。ただ多くの人が、『広告とかをやっているのかなあ』という漠然としたイメージはあっても、具体的にどんなことをやっている会社なのかイメージがついていないのではないでしょうか。わたしもその一人です。
大雑把にいえば、広告を出せるテレビや新聞といった媒体企業と、広告を出したい企業、そして広告の制作会社とを仲立ちしてプロモーションを成功させる。そんな感じのお仕事でしょうか。
(出典:5つの強み - IR情報 - 電通)
同社サイトからの抜粋ですが、日本の広告業界の売上高の1/4を占め、主要マスメディアにおいてシェア1位を獲得し、特にテレビ広告では売上高1/3近くの広告費を握る超巨大企業です。
また大規模なキャンペーンを手がけることもあり、過去新卒採用ページに掲載された事例をざっとみても、見たことがあるものも多いような気がします。
- JR東海「そうだ 京都、行こう。」
- サントリー「角ハイボールがお好きでしょ。」
- 講談社「進撃の巨人展」
- ボクシング「村田諒太プロジェクト」
- 虎ノ門ヒルズ開業キャンペーン「ぼくトラのもん」
- 東京新聞「東京こども新聞」
- MLB「ワールド・ベースボール・クラシック」
- クリープハイプ「30オトコに、テーマソングを。」
- サークル向けアプリ「サークルアップ」
- 雑誌「東北食べる通信」創刊
- ポッカサッポロ「ふるさとナゴヤとともに。」
- au「カケホとデジラ」
- かんぽ生命「人生は、夢だらけ!」
- 北日本新聞「富山もようプロジェクト」
- 新スーツブランド「NEXT BLUE」
- nepia「鼻セレブ」
- ユニフルーティージャパン「バナナート」
- JR東日本「行くぜ、東北。」
- ミスド「ポン・デ・ライオン」
- FIFA「クラブワールドカップbyTOYOTA」
- 富士山会議「いつまでも富士山を世界遺産にするプロジェクト」
- ギフトショップ「HOTEL JAPAN」
- ラクスル「仕組みを変えれば、世界はもっとよくなる。」
- ギャツビー「ヘアジャム」
- ラクティブ六本木「六本木ハロウィン」
- 葵鐘会「MOTHER BOOK」
- 大塚製薬「POCARI MUSIC PLAYER」
- トヨタ自動車「MIRAI」
- 六大学野球「東京六大学野球応援プロジェクト」
- 日本生命「MAKE HAPPYNING」
- 総合格闘技「UFC JAPAN」
- 森永製菓「おかしな自由研究」
- 将棋電王戦「電王手くん」
- au loves ジブリ「風立ちぬ」
- フリー素材アイドル「MIKA☆RIKA」
- きのこ新生活「菌活ムーブメント」
- JR東日本「Suica」
- JAXA「はやぶさ2応援キャンペーン」
(参考:電通とかいう会社が何の仕事をやってるのか調べてみた)
最近では、2020年東京オリンピックの専任代理店に指名されるなど、公的なイベントでも良く名前が上がります。民間企業だけでなく、お役所もお得意様なわけですね。
電通が過去に関わった公的キャンペーン
厚生労働省
例えばこれ。『仕事と生活の調和推進モデル事業』だそうでうが、厚生労働省の過去の発注記録を見ていますと、労働基準局が電通に対して発注しております。
(参考:公共調達中央監視委員会報告 - 第5回会議審議概要(第二分科会) - DATA GO JP)
『いい仕事しよう。いい人生しよう。』なんて掲げられておりますが、発注先から抜き打ち捜査されるとは随分と皮肉な結果です。
内閣府
他にも『自殺対策強化月間事業に係るインターネット広告の制作・実施業務』なんてのも内閣府から請け負っていますが、過労自殺された方のことを思うと、なんともやるせない気持ちになります。
(参考:内閣府発表資料)
また『少子化対策に係る普及啓発事業』なんてのも同じく内閣府から請け負っております。まずは、若者の命を奪わないような職場づくりから初めて欲しいところです。
(参考:内閣府発表資料)
経済産業省
更に経済産業省からは、『おもてなし規格認証(仮称)に係る普及促進及び当該規格認証に関する実態調査等』なるものも受注しております。
(参考:落札情報(METI/経済産業省))
なんのこっちゃろ?と思い検索してみると、こんなページが見つかりました。
『サービスの品質を比較できるように見える化していこう!』というような内容だそうですが、『従業員が死なない程度の労力でサービスが提供できること』という一文は入れていただきたいと思います。
さすがに、清廉潔白な一点の曇りもない企業だけが入札に参加せよとは思いません。ただ、アホなことを言った大学教授を処分するよりは、異常な労働環境で労働者を酷使する企業に対して、改善が見られるまでは入札への参加を禁止する処分はあってもいいんじゃないでしょうか。
電通にも労働組合はあったそうな
また企業の状況を見ようと、有価証券報告書も覗いていると、普段は気にも留めないある一文がやけに気になりました。
(3) 労働組合の状況
当社の労働組合は、電通労働組合と称し、全国広告関連労働組合協議会に属し、組合員数3,435人であります。また、一部の連結子会社には、各社労働組合が組織されており、組合員数は計2,754人であります。
なお、労使関係は円滑で特記事項はありません。
高橋まつりさんが亡くなられたのが去年の12月。本資料が提出されたのは、今年の3月末ですが、どうやら電通という会社は、社員が過労死していようと『労使関係は円滑』だそうです(!)。
この一文は、どちらかというと労働組合との関係について述べた文章だと思います。同社の組合は、おおよそ半数程度が参加しているそうなので、亡くなられた高橋さんは加入していなかったのかもしれません。ただ同じ釜の飯を食う仲間が命を落としているのにも関わらず、良好な関係を保てるというのは大したものですな。
弊社には労働組合はありませんし、特にそれほど期待も憧れもありません。ただ、こんな時くらい、労働者の代表としてなんか行動してもいいんじゃないの?と思うのはわたしだけでしょうか。
No more karoshi
そういや前に、こんなニュースもありました。
ワタミで過労死した娘さんの両親が、裁判で取った損害賠償金で、『ブラック企業』との訴訟費用を援助する基金を作ったとの話。我が国では、一般人が企業と争うには、大きな手間も費用もかかります。生活の糧も稼がなければならないため、裁判で争うのは、それこそ過労死した遺族くらいになってしまいます。
でもそもそも、弱者である労働者が不当な企業と戦わなければならないのがおかしい。本来はこういった役割こそ、労組が担わなきゃいかんのじゃないんでしょうか。
かつて、すかいらーくで2004年に過労死した男性店長の遺族が『過重労働に見て見ぬふりをしてきた労組にも責任がある』と裁判を起こした例もありましたが、機能不全どころか組合費を巻き上げているだけの組合も少なくはないのでないでしょうか。(参考:すかいらーく過労死闘争の経過)
反戦運動に力を入れる前に、すぐそばから『戦死者』が出ないように、もっと目を配ってもいいんじゃないでしょうか。そういや電通が手がけた案件に、こんなものもありました。
(参考:平成28年度行政事業レビューシート)
一億総活躍だか、一億火の玉だかはわかりませんが、これ以上過労死するひとが出ないように、みんなで考え、行動していくこと。それが一番の弔いになるような気が致します。