ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

ヲタクに恋は難しい?

こんにちは、らくからちゃです。

普段は、誰よりもわたしの思考様式を知り尽くしているAmazon先生がお勧めしてくれる本を読むことが多いのですが、ぶらっと本屋さんで『面白いマンガないかなー』とか考えながら、『おっ』と思ったものをジャケ買いするのも楽しいですよね。

先日、こんなマンガを買ってみました。

隠れ腐女子のOL・成海(なるみ)と、ルックス良く有能だが重度のゲーヲタである宏嵩(ひろたか)とのヲタク同士の不器用な恋愛を描いたラブコメディ。

というストーリーの作品です。手にとった時は知らなかったのですが、pixivで発表されていた作品をコミック化した作品で、このマンガがすごい! 2016にも載ったみたいですね。読みながら、『もやっと』した所は何箇所かあったのですが、全体としてはなかなかおもしろく読めました。

しかしまあ、アマゾンのレビューを見ていても、『もやっと』した人がなかなか沢山いたようで、色々と香ばしいことになっております。曰く、

  • 普通にリア充じゃねーか!
  • 過去に彼氏も居たって、恋愛できるじゃん。
  • 設定がハイスペック過ぎて現実離れしている。

などなど。わたしも、『作者の理想を詰め込んだ感じ』なんて言うコメントを見ながら、確かに現実感より鼻につく感じもするなあと苦笑してしまいました。それと同時に、『ヲタク』というキーワードから連想する若者像について、今週のお題「バレンタインデー」ということもありますので(?)、思ったところを色々と感想と合わせて書いてみたいと思います。

ヲタクは隠すもの?

 感想を書いていく前に、簡単に作品紹介をしてみたいと思います。

まずは主人公の桃瀬成海の設定文を本文から。

お茶出しもろくに出来ない駄目OL、そのうえ腐女子。コスプレBL、乙女ゲーから三次元アイドルなど、好きなモノが多く、そのどれも我慢できない。職場では全力で一般人を取り繕っている。あざとい。家族はおろか親しい友人にもヲタクを隠して生きてきたため、ヲタバレをなにより恐れている。惚れっぽいが男運が無い。ドラマチックな恋へのあこがれが捨てきれない。恋愛経験は豊富なくせに自分への行為には鈍感で気付けない。宏嵩は幼少期(ヲタクに染まる前)からの付き合いで、唯一ヲタクの自分をさらけ出せる、ある意味彼氏よりも大事な存在に思っている。(p18)

 お次は相手役の二藤宏嵩。

ルックスが良くて仕事もできるというハイスペック眼鏡だが重度のゲーヲタ。ゲームがないと死ぬ。基本的に他人に興味が無い、人嫌いではないが用がないなら返っていいですかタイプ。あまり感情が表情に現れないが、表情を殺しているわけではなくこれが自然体。人と話す時間よりゲームしてた時間のほうが長いような人生だったので、友だちが極端に少ない。ヲタクを隠す気も改める気もない。ゲームと煙草とお酒が好き。(酔わないので大量には飲まない)好きな異性のタイプは巨乳。男はみんなおっぱい星人なんだと開き直っている。メールのほうが饒舌でテンションが高い。(p19)

そんな二人が付き合い始めたら?というコンセプトの作品です。

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(出典:【オリジナル】「ヲタクに恋は難しい」漫画/ふじた [pixiv]

随分と相性が良さそうです(笑)。

少女漫画に割りとありがちな、超絶強い王子様と残念なシンデレラって組み合わせの作品っていうカテゴリになるのかなあ。他にも、メジャーなマンガやゲームを愛する一般人以上ヲタク未満の樺倉太郎、演劇や舞台などの三次元にハマっている小柳花子という会社の先輩2人を含めた4人で展開されるストーリーですね。

本作は主人公の成海が『ヲタクであることが彼氏にバレて振られてしまい、会社にも居づらくなって転職をした先に、幼なじみの宏嵩がいた』というところからスタートします。失恋の原因にもなったことから、成海は一生懸命自分が『ヲタク』であることを隠して生きていこうとします。なんか、この辺の展開は『コンプレックス・エイジ』に近いものがありますね。

 コンプレックス・エイジは、将来への不安や家族との付き合い方など、比較的重いテーマにどっしりと取り組んだ作品でした。それと比べれば、本作の主人公たちは、経済的にも恵まれているし、趣味に使えるだけの時間もあるし、上手に生きている。その分、コンプレックス・エイジの重たい感じは無いのですが、『ヲタクは隠すもの』という点については共通性のあるテーマなのかな。

確かに周囲の人と話していても、仲良くなって話を聞いた後で、『え、この人がこんなことやってるの!?』と思うことは割りと珍しく有りません。『普通の人』がヲタクを隠しながら生きている例って少なくないみたいですね。

そこをコミカルに表現したところ『これはヲタクではない』という評価につながっているように思います。でもそもそも『ヲタク』とは何なのでしょうか?

ヲタクという尊称

日本における『ヲタク』という文化にとって、非常に大きな影響を与えたのが『電車男』だったという話を聞いたことがあります。

電車男以前の『ヲタク』と言えば、 非常にネガティブで暗いイメージがつきまとうものでしたが、この頃からある程度、ちょっと変わった人、という位の市民権を得るようになりました。その辺の経緯について、シロクマ先生が非常に丁寧にまとめられています。

ちょうど私は、この時期に学生時代を過ごして来ましたが、この記事はわたしの肌感覚ともよく一致するんですね。一部引用致します。

 オタクという言葉からも、アニメやゲーム等を趣味とするライフスタイルからも、コンプレックスや屈託は大幅に減少し、“ライトなオタク”が現れたと言われるようになった。

(中略)

 「脱オタ」という言葉もその存在意義を失い、過去のものになっていった。オタク趣味を隠す必要性が低下すれば、隠れてコソコソとアニメやゲームを嗜む必要なんて無い。後は、個々人のコミュニケーション能力の問題だ。

 わたしが学生のころ、イケてるイケてないを問わず、ニコ動で『涼宮ハルヒの憂鬱』の踊ってみたを見ている人は割りと沢山居ました。どこにでもいる可愛い女の子が『東のエデン』の感想をいい、クラスのチャラめのお兄さんたちが『化物語』に出ている声優について語る。そんな時代でした。

わたしも、そんな文化にどっぷり浸かっている中で『ヲタクやなあ(笑)』と言われたこともあったなあ。でも自分が『ヲタク』と呼ばれることに違和感がありました。『この程度の人ならいくらでもいるのに』『自分如きがヲタクと呼ばれるのは恐れ多い』という想いがあったんですね。

インターネットの発展で、情報はごく簡単に手に入るようになりました。それに伴い、情報をただ消費するだけでは、とても『ヲタク』なんて名乗ることはおこがましくなったように思います。以前ご紹介したid:RootPortさんの著書から一部引用致します。

ニコニコ動画やピクシブなどの登場する前後で、私達の価値観は大きくこわってしまったようだ。「カッコよく消費すること」が至上の価値だった時代から、「カッコよく生産することが重視される時代になった。商品や情報をただひたすら飲み込むだけでは、もはや"カッコ悪い"とみなされる。創作物や情報を発信してこそ"カッコいい"と評価される―

失敗すれば即終了! 日本の若者がとるべき生存戦略

『ヲタク』とそれになりきれていない『ニワカ』を分けるものって何なんだろうな、と思った時に、やっぱりいちばん大きな要素って、発信力があるかじゃないですか?今の時代に『ヲタク』と呼ばれる人たちって、同好の士と積極的に交流し、自分の意見を語り、創作活動に勤しむ。Rootportさんの定義に従うと、随分と『かっこいい』人種です。

もはや『ヲタク』は、蔑称というよりも尊称として使うような時代に思えてきます。

ヲタクとリア充

ヲタクに生産者としての要素が必要になると、もはやヲタクであるのにコミュ障では居られません。クラフト雑貨のコーナーを見るために、バザーに行く感覚でコミケにぶらっと行っています。ついでにぐるっと一周するのですが『島』の内側にいる人達も、結構割りと普通そうな感じの人も多い。会場を歩いていても、カップルや親子で来ているひとも随分と多いですよね。

先日、矢野経済研究所が面白いデータを発表してくれました

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(出典:オタク市場調査が発表…同人誌市場は757億円、「サバゲー」ブーム到来の兆し、「現在も過去も恋人無」は31.2%など(矢野経済研究所調べ) | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト)

標本の年齢分布などの情報が非公開ですし、回答の精度もどこまで信憑性があるかはわからないのですが、なかなか興味深い調査結果です。

現在も過去も恋人が居ない人の比率は31.2%。以前調べたところ、調査対象の中でかなりの比率を占めている20代男性の『異性と付き合ったことがない』比率は41.6%ですので、比較的優秀な方とも言えるかもしれません。

もうひとつ、年収と消費額という興味深いデータも出てきました。

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掲載されていたデータを元にグラフ化してみました。これを見ると、ヲタクの世帯収入は500万円台後半が多そうです。既婚者でない方の比率の方が多いことも考えると、一人力で得ている収入としては悪い方じゃない。そもそも、趣味にお金がかかるわけなので、ある程度の収入は必要になります。

わたしは、高校生の頃は偏差値40台前半、大学生の頃は偏差値50台後半の世界で過ごしましたが、圧倒的に『ヲタク』は後者のほうが多かったですね。こうやってみると、ヲタクって

  • 同好の士と群れることが出来る程度にはコミュニケーションが取れる
  • 趣味に費やすことが出来る程度には経済的な余裕がある
  • 活動を継続することが出来る程度には意志が強い

ということができます。

わたしの身の回りを見ても、『あ、この人結構なヲタクだ』と思う人には、仕事もでき、合コンでは趣味の話で上手に盛り上げ、周囲からは『インテリ』だと思われている人が何人もいます。そういうのを見ていると、『ヲタク≠リア充』というより『ヲタク≒リア充』って言ったほうが近いんじゃねーの?と思う時が多々あります。

ヲタクに恋は難しい?

ヲタク同士の恋愛に触れた作品は過去に何作かありました。例えば『げんしけん』。

 『恋愛』がメインテーマでは無いのですが、サークル内の人間模様の一環として、何組かのカップルが出てきます。もう『出会いがない』が、時候の挨拶のようになっている現代の若者の環境を考えれば、どっぷり同じ空間で過ごして、共通の話のテーマもある世界は、気に入った相手がいるかどうかはさておきとして『恋を始める環境』としては悪くない。

わたしも妻も、同じ趣味の世界の中で出会いました。今も同じようなことに興味を持って、そんな話をわちゃわちゃしているのですが、むしろ『ヲタク』でない一般の男女って、どんな出会いをしてどんなことを話しているんだろう。恋愛小説や漫画を読んでもいまいちピンときません。

そういったことも含めて考えると、『輪の中に入れないヲタクにもなれない人たち』のほうがよっぽど事態は深刻です。

では本書のタイトルである『ヲタクに恋は難しい』ですが、偽りありなのでしょうか?もしこれに『騙された』と思うのであれば、このタイトルに有る『恋』の何が難しいのか?についての認識の違いから来ているような気がするんですよね。

こんなシーンが有ります。

成海:前の彼氏もその前も、最初の人もそうだったなぁ。ヲタクが原因でフラれたんだよね。今までがそんなだったからさ、今が凄い楽!ヲタクを隠さなくていいんだもん。

(中略)

成海:だからぁ宏嵩も本当は普通の女の子が良かったのかなって・・・。ちょっと思っただけです!はい、おしまい。帰んぞ!

宏嵩:ヲタクだから、楽だから、そんな理由で一緒にいるんじゃなくて。好きなことしてるときの成海が大好きなので、まぁ俺はそんなカンジだから難しく考えなくていいよ。

(p117-120)

一緒にいると居心地がいいのは、付き合い始めるにあたって重要なポイントですが、それだけだと『恋』とは言えません。お互いのことを本当に掛け替えのない存在と認識できるか?当初、成海は宏嵩にむかって、こんなふうに発言しています。

成海:宏嵩はいいんだよ〜。宏嵩とは恋愛なんてする気ないもん。恋人にするのはもったいないでしょ。だーいじなヲタク友達だからね。

(p8)

幼馴染と恋愛関係に発展しにくいのと同様に、あまりにも身近な人って、逆に男女の関係になり辛い。でもそこを乗り越えることが出来れば、『親友兼、戦友兼、ライバル兼、恋人』という、もうこの人なしでは生きられない存在に昇華できる。そんなことをテーマにした作品、という風に考えてみたら、普遍的な話題を扱っている作品、ということが出来るかもしれませんね。

さてこれから、成海が宏嵩を大事なヲタク友達以上(以下?)の存在として認識することが出来るのか?次巻以降も楽しみですね♪

そうそう、ヲタクのカップルと言えば、はてなには有名な先達がいらっしゃいましたね。

夫婦という、恋人以上(以下?)の関係になってしまった場合のお話として『合わせて読みたい』させて頂きますねw

ではでは、今日はこの辺で。