ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

アフターサービスと保守部品の経営戦略

こんにちは、らくからちゃです。

製造業のお客様に現在の経営課題を尋ねると、どのお客様を口を揃えて『在庫の削減』とおっしゃられます。みなさま『うちは管理のレベルが低い』とか『業務が特殊で教科書は役に立たない』とか『現場がついて来ない』なんて随分悲観的におっしゃられます。

安心して下さい。だいたいどこも同じです。

そんな皆様に対し『在庫減りまっせ』と言ってシステムを売りつけているわけなのですが、『全然だめじゃね』と偉い人が怒り心頭になってしまうという耳の痛い話もよく聞きます。もちろんシステムベンダーにも大きな責任がありますが、システムの効果を活かすためには、それに合わせた業務プロセスの見直しも必要となります。

特に在庫を減らすためには、購買周りの業務プロセスの見直しが重要になります。

統合業務パッケージの普及により、MRPやスケジューラを中心とする生産管理システムも導入しているメーカーは少なくありません。なるほど、これらのシステムを使って、需要予測から生産量を求め、それに応じた発注計画を立案すれば在庫も大きく削減することが出来るでしょう。

ただ、こういったシステムの恩恵を受けるのが難しい分野があります。それが『アフターサービス用の保守部品』です。

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保守部品の在庫管理は何故難しいのか?

ここでいう『保守部品』とは、主に修理を行うときに必要な部品です。法律上明確な決まりがあるわけではないようなのですが、だいたいどこのメーカーでも法定耐用年数分くらいは、保持しているようです。

保守部品の在庫管理って、なかなか『正解』が見つからないんですよね。

量産中の製品に利用する部品であれば、需要予測から必要量を計算できます。極端な話を言うと、多少外したとしても、営業努力によって消化し切ることもできるでしょう。

ところが保守部品は、修理が必要になり、はじめて需要が生じます。残っちゃったからといって、押し売り出来るものでもありませんよね。海外との競争の激化もうけ、多くの企業が生き残りをかけしのぎを削る中、製品ライフサイクルは短期化の傾向にあります。

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(出典:2016年版ものづくり白書(PDF版)(METI/経済産業省))

製品の種類が増えているということは、保持しておくべき保守部品の種類もそれだけ増えてしまいます。また品種ごとの需要量が減ってしまう分、需要予測はより困難になります

とくに量産が終わってしまった製品に対する保守部品の扱いはもっと厄介です。

量産が終わってしまえば、サプライヤーへの発注量は減少します。それに応じ、サプライヤーも生産を終了しますので、今後手に入らなくなる可能性があります。ラストバイの際にも、どう考えてもMOQの単位が今後必要となる量を上回るケースも珍しくありません。また内製部品についても、金型を潰してしまえば、再度入手することは困難になります。

とはいえ必要な際に在庫がなく、アフターサービスができないとなれば信用問題にも繋がりかねません。

保守部品の在庫管理の重要性

その一方で、保守部品の在庫管理は上層部から軽く見られてしまいがちなんですね。

数量でも金額でも、量産中の製品に使われる部品と比べれば、保守部品の占める比率は微々たるものです。その為『数字』で判断してしまうと、相対的な重要性は低く見えてしまいます。

しかし特性上、数字以上に『在庫削減』の必要が大きいのが保守部品なのです。

そもそも在庫は何故減らさなければならないのでしょうか?その理由を大きく分けるとこの3つになります。

  1. 維持管理のための費用が発生する
  2. 陳腐化・盗難等のリスクが生じる
  3. 資金が拘束される

それぞれにおいて、保守部品はより注意して取り扱う必要があるんです。

維持管理費用が大きい

在庫を持てば、その分、保管や管理にコストが発生します。保守部品は量・金額で言えばさほど大きくありませんが、とにかく種類が多いのです。ABC分析では間違いなくCグループの『管理を緩める』対象です。

どこのメーカーでも共通ですが、利用頻度の少ない保守部品は、倉庫の奥の方におしやられます。そして『どこに何があるのか』が良く分からない状況になってい場合もあります。そもそも本当に在庫として残っているのかどうかも怪しい、なんて実態もよく耳にします。

適切な管理をする場合、在庫の維持管理に係る費用は『金額』や『専有面積』だけでなく『品点数』に応じても増大します。適切な保守部品の管理を最も品点数を増やしやすいため、注意して扱う必要があります。

破損・陳腐化等のリスクが生じる

在庫を持てば、なんらかの理由によって在庫が使えなくなった場合に、支払った金額が無駄になるリスクがあります。例えば、倉庫が雨漏りをして使えなくなるだとか、そういったリスクを背負うことになります。

また実際に必要とする以上の量を仕入れてしまい、使う見込がなくなった場合にも、その金額が損失となります。特にこれだけ製品のライフサイクルが短くなると、ライバル社の製品によって、保守部品そのものの需要がなくなる陳腐化が生じる可能性も少なくありません。

資金拘束期間が長い

企業経営の基本は、限りある資本にて最大の効果を生み出すことです。維持管理に費用がかかり、破損・陳腐化等のリスクも生じる『在庫』の状態は可能な限り避けなければなりません。

量産品に利用する部材については、ある程度の金額があったとしても、現金化されるまでのライフサイクルは短期間です。一方、保守部品は、場合によって数年間以上、在庫のままとなってしまいます。

まずは、上記のような状況を理解し、例え数量や金額で見ると小さかったとしても、保守部品についてはそれ以上のコストが掛かることを理解してもらう必要があります。

 アフターサービスと保守部品の経営戦略

システムでなんとかするのは難しい割に、いろいろと大変なことが多いって、どないすりゃええねんと、皆様お困りのところかと思います。各社各様の対応策があるようです。

下取りの実施

古い製品が残っていると、その製品に対応した保守部品を保持する必要が生じます。下取りサービスを行えば、古い製品を回収して市場に出回っている旧型機の台数を減らすことができる上、下取りした製品から利用可能な部品があれば、回収して再利用することも可能です。販売戦略だけなく、上手に活用すれば、一石三鳥にもなります。

部品の汎用化

何も保守部品に限ったことではありませんが、出来る限り部品は汎用的なものを利用するようにすることです。汎用部品を使うことができれば、

  • 品目数を減らして管理コストを下げることが出来る
  • 発注ロットを増やすことができ値下げ交渉をしやすくなる
  • 複社購買を行うことができ供給の安全性が上がる

などの非常に大きなメリットがありますが、設計部門は製品の差別化を優先するために嫌がるケースもあります。ただ上記に加え、長期間お客様に愛用してただくためのメリットが大きいことは、強調しても良いでしょう。

貸与図方式での外注

外注を行う際、図面を外注先に書かせて承認する承認図方式を取っている場合、詳細設計の情報は自社内にはありません。そのためサプライヤーが倒産してしまった場合など、再調達が困難になる可能性があがります。

社内のリソースにもよりますが、将来的に保守部品の在庫が枯渇し、再調達が必要になった際のことも踏まえると、可能であれば貸与図方式での外注に出来ないかも検討の余地があるかもしれません。

 

などなど、かなり各社にて工夫しながらやられているようです。どの例についても、部門を横断して取り組むことが重要になってきます。部品の在庫責任は、調達部門が持つことが多いかと思いますが、伝統的な調達業務を改善するだけでは、全体的な在庫の削減は難しい、特に保守部品では難しい。

設計から販売まで含めて、トータルで調達プロセスを捉える必要があります。最近は『戦略購買』などのキーワードで様々な書籍も出ておりますので、メーカーで働くのであれば、購買部門だけでなく、勉強しておいても良いのではないでしょうか。

この本が中々面白かったです。

製造業の現場バイヤーが教える調達力・購買力の基礎を身につける本―バイヤー必読

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ではでは、今日はこのへんで。