ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

ROEとROAとROICの違い

こんにちは、らくからちゃです。

ここ最近、個別株の物色をしております。投資する会社選びをする時に、やはり気になるのは『儲かってんの?』というところ。証券会社のホームページを見ていると色んな『利益率』がでてきますが、これどれを見たらいいの?(´・ω・`) みたいな話はたまに聞きます。

掘り下げるとかなり深い話になるのですが、まずはダイジェスト版として簡単に考え方を整理したいと思います。

利益率が高い会社は良い会社?

まずは簡単な例を挙げてみたいと思います。

今期大幅な黒字となり、お金がジャブジャブ溢れまくっているヒトデ商事。余剰資金の活用を考え、らくからちゃ金融に200万円分の運用を依頼しました。

 そこでらくからちゃ金融は、レンタカー屋さんを始めることを考えました。まず最初に考えるのは、どんな車で商売を始めるのか?いろいろと検討した結果、以下2つの車種に絞り込みました。

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軽自動車なら100万円の売上が見込め、おしゃれな高級車なら125万円。かかる費用はどちらも変わらず50万円。高級車のほうが利益額も利益率も高いわけですよ。この図だけ見ると、どう考えても高級車一択ですよね。

ところがもう一つ考えるべきポイントがあります。それはそれぞれの投資額です。

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軽自動車であれば、100万円で買ってくることが出来ます。一方、高級車は200万円掛かります。一台あたりの利益で見たら利益率の低い軽自動車でも、投資額1円あたりでみれば高級車よりもずっと儲かります。

一年たったあとのヒトデ商事の資産総額は*1

  • 軽自動車の場合・・・300万円
  • 高級車の場合 ・・・275万円

です。売上が大きいことも、利益率が高いことも大変重要ですが、限られた資金で最も多く利益を稼ぐことが一番重要です。こうした『元手をどの程度増やせるのか?』に関する指標を『資本利益率』と呼びます。

借金は損か?

さて翌年は、資金も増えたのでもう一台車を増やすことにしました。ちょうど1台分現金があるので、これを使おうかなーと思っていたのですが、株主のヒトデ商事様から『儲かった分はさっさと配当せよ』と言われてしまい、手持ちの資金がなくなってしまいました。

折角のチャンスなのに・・・そう思っていたところ、みるおか銀行が『お金が要るなら貸すよ!!』と言ってきました。金利は年30%!!どう考えても暴利!!酷い!!でもこれ、やめておいたほうが良いのでしょうか?

整理しましょう。

1.自己資本を再投資

合計利益は車3台分で150万円。これを300万円の投資で達成するので、資本利益率は50%になりますね。

2.配当として還元して何もしない

利益額はそのまま100万円。使っている資金も200万円なので、資本利益率は変わらず50%です。

3.配当として還元+銀行から借金

合計利益は3台分の150万円から利息の30万円を差し引いた120万円。これを200万円で実現出来るので、資本利益率は60%。

 

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この3つのケースでは、3が一番高くなりました。

いくら金利が高くても、増える利益>払う利息であれば会社全体の利益は増えます。また株主から預かった資金を使う必要がないので、資本利益率は更に改善します。*2

もちろん良いことばかりではありません。銀行からの借金は、仮に上手くいってもいかなくとも、利息を支払う必要があるので、事業が上手く行かなかった場合のリスクは増えます。しかし、借金は上手に使うことが出来れば、利益の質を更に高めることが出来ます。

自己資本利益率(ROE)・総資本利益率(ROA)・投下資本利益率(ROIC)

さてここまで、大雑把な概念として『資本利益率』という言葉を使ってきました。株式投資をする場合には、もう少し厳密な用語として、

  1. 自己資本純利益率(ROE)
  2. 総資本経常利益率(ROA)
  3. 投下資本利益率(ROIC)

などが良く使われます。

自己資本純利益率(ROE)

ROEは、今回の例でとりあげたような『株主から預かった資本をどの程度増やせているのか?』を表す指標です。一般的にROEは

  • 純利益÷自己資本*3

で計算されます。イメージし易いものとしては、定期預金の金利に近い感じでしょうか。大きければ大きいほど良いものです。じゃあROEはどうすれば増えるのか?について、その昔デュポンという会社が作った有名な式があります。

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純利益や自己資本といわれでも、現場のひとにはイメージが付きづらいので、その間に『売上高』『総資産』に関する比較的分かりやすい指標を挟んで、

  • ROE=売上高利益率×資産回転率×財務レバレッジ

で計算出来るのだ!ということを明らかにしてくれました。売上を増やすぞ!と言われるよりも、売上=数量×単価だから・・・みたいなふうに分解して説明して貰ったほうがイメージつきやすいですよね。

さてこの数式は、

  1. 売上高利益率をあげる=なるべく利益率を上げて
  2. 資産回転率あげる=それを少ない資産で実現して
  3. 財務レバレッジをあげる=かつ借金の比率を高める

さすればROEは改善するであろう。ということを意味しています。前2つは、基本的に高ければ高いほど良い。なんのデメリットもない指標になります。しかし、最後の財務レバレッジはいかがでしょうか?

借金を上手に使って経営効率を改善することは意味のあることですが、余りにも財務レバレッジを上げすぎてしまうと、経営のリスクが高まります。また配当を増やしたり自社株買いをしたりすると自己資本は減らせます。自己資本は財務政策で、本業の体質とは異なるところで操作することがし易いのもポイントですね。

総資本経常利益率(ROA)

『別に金の出し手は関係なく、持ってる資産から利益を効率的に生めているのかを見た方がよくない?』と考え、計算式から財務レバレッジを外すとこうなります。

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 この数値からは、会社の全ての資産を使って生じた利益はどれくらいの利回りになるのか?が分かります。株主からお金を集めるのか、銀行からお金を借りるのかはさておき、企業全体として効率的な経営が出来ているかチェックするのに使えます。

ただ計算式が計算する人によりちょーっとずつ違ってたりするんですね。分母の金額はみんな総資産を使いますが、分子に使う数字は計算する人によって異なります。東京証券取引所の示している『決算短信・四半期決算短信作成要領等』には『経常利益』を使ったモデルが報告用のフォーマットとして用意されていますが、証券会社のページや四季報などに載っているものは純利益であることもよくあります。

じゃあ本来は何であるべきかというと、分母が総資産なので分子は全ての資産から生み出された全ての利益とするのが理屈として正しい。これは事業利益といいますが、 日本の財務諸表のフォーマットに合わせると

  • (営業利益+受取利息等)÷総資産

となります。

投下資本利益率(ROIC)

お金を出して貰った相手が株主であれ銀行であれ、お金を預かって企業を経営するなら、相応のリターンを上げる必要があります。

ROAは、全ての資産と利益を元に計算するので、分母には誰かから預かっているわけではない一時的な負債(前受金・賞与引当金・繰延税金負債などなど)も混ざっています。分子の事業利益にも、資金を出してくれたわけではない政府へ支払う法人税も混ざってます。

そこで『お金を出してくれた人へ支払う利益が、預かったお金に対してどれくらいの比率で生み出せているのか?』を計算した値がROICです。

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(※ちょっと面倒なので特別損益は考慮しないものとする。 )

一般的な計算式としては、

  • (営業利益×1-税率)÷(有利子負債+株主資本)

などで求めます。

有利子負債と株主資本の額は『利益を生み出すことを期待されているお金』ですので、WACC(加重平均資本コスト)と比較してみると、長期的に本業で利益を生み出せる体質であるかどうかをチェックしたりも出来ます。

ROE・ROA・ROICの使い方

色んな指標が出てきましたが、どれをどう使えば良いのか?と言えば、『ケースバイケース』でしょう。

株主のリターンが見たければROEを見ればいいし、調達している資金全体へのリターンを見たければROICを見ればいいし、企業全体の資産の効率性をROAを見ればいい。

ただまあこれらの指標はすべて、会社の帳簿の上の計算結果に過ぎませんので、どんなに良い数値でも、株価が高ければ相対的に割高になってしまいます。投資手法の中には、W.バフェット氏のように、ROEを最重要指標とする方法もありますが、正直おなじことを日本株でするのもなーと思わなくもない。

2014年に、経済産業省主導で『日本経済がもっと成長するにはどうしたらいいの?』とまとめられた『伊藤レポート』という有名な調査結果があるのですが、この中で日米欧のROEの比較が行われておりますが、日本企業の結果は惨憺たるものでした。

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(出典:伊藤レポート「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」とは - 企業と投資家の建設的な対話(1) | コラム | IR×Web通信 - 野村IR)

ROEが20近いということは(配当を出さずに複利運用すれば)72の法則に従い計算すれば3年ちょっとで資産が倍になります。それくらいのペースで成長してくれるのであれば、ROEをきちんと見て投資する意義もありますが、8%で褒めてもらえる日本株程度であれば、五十歩百歩じゃねえの?と思わなくもないですね・・・。

それでも長い目でみれば、こうした指標は企業の価値を計算するのに役に立ちますし、色んな指標を分解して見れば状況や課題を理解するのにも役立ちます。特に面白いのがROICを要素ごとに分解した"ROICツリー"ですね。

ひとまず、はてなさんの内訳を出してみましたが、それぞれの指標がどのように推移していったのかを眺めると、中々楽しめます(笑)。

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ではでは、今日はこのへんで。

*1:説明の都合上減価償却は割愛

*2:更に言うと節税効果もあるのですが、ややこしくなるので割愛します。

*3:なお東京証券取引所の示している『決算短信・四半期決算短信作成要領等』に従うと、自己資本は、(期初+期末)÷2で計算せよ、となっております。