こんにちは、らくからちゃです。
ふとコンビニに入ると、おでんが始まっていました。コンビニって、だいたいこの時期からおでんを始めるのですが、学生時代5年間ほどアルバイトをしていたため、おでんが始まったのを見ると『もう9月か〜』と季節の変わり目を感じます。
ところでコンビニのおでんですが、一番売れるのは真冬の寒い時期ではなく、開始してすぐの9月や10月頃であるという話はご存知でしょうか?
おでんの販売ピークは、最も冷え込んで温かいものが食べたくなる時期ではありません。「ちょっと寒くなり始めた」「体感気温が急に下がった」という季節の変わり目のタイミングなのです。「何となくおでんでも食べたいな」と多くの人が感じるタイミングが秋の終わりの頃なのです。
とのことだそうで、わざわざ本まで出ています。
コンビニでは、なぜ8月におでんを売り始めたのか (扶桑社新書)
- 作者: 石川勝敏
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2007/08/30
- メディア: 新書
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元コンビニ店員の感想としては、キャンペーンに合わせてオーナーや店員が大量に買わされる購入している影響も大きいような気がしますが、確かにこの時期に良く売れていたような気が致します。
この『おでん』ですが、ありとあらゆる商品が取り扱われているとはいえ、コンビニの店舗の中でかなり異色の存在ですよね。衛生面で問題がないのかとか、店の中が変な臭いになるなどなどいろんな意見があります。
衛生面については、工場で作られたお弁当よりかは落ちるでしょうが、冷蔵庫で一晩寝かせた母さんの手料理よりはマシかな?と思います。また、店の中の異臭は、どちらかというと同じ時期に始まる肉まんのウォーマーのせいのような気がしますね・・・。
それはさておき『おでん』ってコンビニの商品の中では儲かる方なのでしょうか?ちょっと気になったので調べてみました。
おでんの原価
まずはコンビニのおでん。あれって、一個あたりどれくらいの利益になるのでしょうか?コンビニでは発注までアルバイトが行うケースもあり、利益構造は結構バレバレなのですが、こちらを元にセブンイレブンでの金額を表にまとめてみるとこんな感じ。
品名 | 売価 | 原価 | 粗利率 |
---|---|---|---|
こんにゃく | 80 | 32 | 60% |
焼ちくわ | 105 | 44 | 58% |
もっちりちくわぶ | 95 | 40 | 58% |
こだわりたまご | 90 | 40 | 56% |
炭火焼きつくね | 115 | 51 | 56% |
餅入り巾着 | 135 | 72 | 47% |
たこ串 | 280 | 160 | 43% |
牛すじ串 | 125 | 72 | 42% |
昆布巻き | 85 | 50 | 41% |
味しみ大根 | 75 | 45 | 40% |
ここでいう『原価』とは各店舗の仕入原価を指します。粗利率は、(売上-原価)÷売上ですね。更にここから、本部に支払うロイヤリティが引かれます。コンビニ業界では粗利に対して一定の割合を差し引く方式が一般的で、その割合は概ね3割から4割と言われています。オーナーの利益は、そこからさらに各種経費を差し引いた金額となります。
こうやって見てみると、一番粗利率の低い『味しみ大根』でも40%。他の商品の粗利率は30%程度と聞いたことが有りますので、そこからみればおでんは比較的儲かる商品です。
ただこれはあくまで『売上と仕入』の差分にしか過ぎません。おでんの容器の値段やダシつゆの値段は入っていませんし、もっと重要なものが抜けています。それが『人件費』です。
おでんと埋没費用
コンビニのおでんって、結構つくるのって大変なんですよねー(;´Д`)
『秘伝のタレ』状態になっていると思っている人もいるようですが、(少なくとも私の働いていた店では)一日に何度かダシを全て捨て、綺麗に洗って一から作りなおしていました。一から作り直すまでもなくとも、商品が売れれば補充をし、定期的にだしつゆを追加したり、メンテナンスも大変です。そういった作業も『原価』として計算に含めると、実はビミョーだったりします。
例えば、店員の人件費は時給900円(1分15円)とします。一個販売するに、準備作業などの時間も含めて平均2分のコストがかかったとします。そうすると、30円分の人件費が発生し、売価75円・原価45円の『あじしみ大根』では利益が出ません。むしろ、本部に支払うロイヤリティを考えると赤字です。じゃあ赤字なのか?と言われるとそこがまた難しく『店員の人件費は原価として計算するのか?』といった問題が持ち上がります。
というのも、『店員の人件費』は店をあけている限り、おでんを作ろうが作るまいが発生します。 そこで手が遊んでいる店員に作業をさせるのに、追加のコストは発生しません。言い換えれば(店員の手が遊んでいる限り)おでんを店員に作らせたところで人件費は増えません。そのため、店員の人件費は無視して考えることが出来ます。
こういった、意思決定に影響しない費用のことを、経済学や会計学の用語では『埋没費用(サンクコスト)』と呼びます(こういった例で使うことは少ないですが...*1)。その辺の考え方は、下記の本が詳しいので面白いですよ。
「値引きして売れるなら捨てるよりマシ」は本当か?―将来どちらのほうが儲かるかで考える損得学
- 作者: 古谷文太
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
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コンビニのおでんはなぜ潰れないのか?
じゃあ、人件費は無視していいんだ!おでんは儲かるんだ!と言えば、それも断言出来ません。なぜならこの計算は『手が遊んでいる店員』がいることが前提だからです。
もう随分前のことですが、こんな本がベストセラーになりました。
さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学 (光文社新書)
- 作者: 山田真哉
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2005/02/16
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さおだけーさおだけーとか言っているトラック。なんでなくならないのかちょっと不思議ですよね。もう随分と売れた本なので種明かしをすると『金物屋さんが宅配の途中でやっているサイドビジネスだから』ということになります。
これ、おでんの人件費とちょっと似ていますよね。レジ打ちをする間の片手間に行う副業だからコストは無視出来る。この説明『さおだけ屋が潰れない理由』としては正解なのですが、『さおだけ屋がなくならない理由』としてはちょっと不十分なんですよね。
そのヒントが『機会費用』です。
おでんと機会費用
機会費用とは『他の選択肢を取らなかったことで生じた利益の減少』を費用として考える考え方です。例えば"さおだけ屋"で考えてみると、宅配の途中に『さおだけ』のアナウンスを流す代わりに、他の商品の宣伝を流してもいいわけですよね。例えば『クリーニングが必要なお洋服はありませんか〜。お預かりして、明日中にお返しします〜』みたいなアナウンスを流して商売をする選択肢もあります(儲かりそうだ)。
コンビニの話に戻しますと、『おでんを作る』以外の作業を中断することによって失われる利益=『機会費用』となわけですね。
おでんシーズンにコンビニに行くと、店員さんがおでんを買おうとしている人につきっきりでレジが中々進まない事が有ります。そうなると急いでいるお客さんの中には、商品を買うのを諦めてしまう人が出てくる可能性あるでしょう(実際経験ありますし・・・)。
もっと分かりやすい例だと、おでんの機械をおいている場所に別の商品を並べておけばもっと儲かるかもしれません。この『失われた利益』を『費用』と考えれば、『やっぱりおでんって損じゃねーの?』と言えるのかもしれません。
コンビニにおでんは必要か?
またこの話は、『おでん単品』で考えた場合の話です。合わせて飲み物など他の商品も売れるでしょうから、全体の客単価が上がれば利益も増えます。ただ、もとコンビニ店員の目線からいうと『もっと店舗オペレーションを単純化させないとアルバイトがついていけないのでは?』と思うんですよね。
コンビニの業務は日々進歩していきます。例えばフライドチキンなどのフランク類。昔はレンジで暖めたものを並べて販売していましたがが、いまでは多くの店でフライヤーを導入し、店舗内で調理(揚げるだけですが)したものを販売しています。
他にも、コーヒーやドーナツなど新規の商材もどんどん増えていまし、大変だなあと思うのが支払い方法の多様化。
いやこれほんまそれですよ。通常の決済だけならとにかく、
- ◯◯は支払えるのか?
- 残高不足の場合、現金併用は出来るのか?
- 返品時の処理は?
などなど、それぞれの場合の処理も覚える必要があります。ちょーっと幾らなんでも店員に詰め込みすぎなような気がするんですよね。
コンビニの店員って、それぞれの業務が分かれているということはあまりなく、基本的に『総合職』なんですよね。シフト中に『持ち場』を決めることはあっても、レジが混雑すればレジを打ちに行くし、逆に手が空けば品出しを手伝う。下記のような作業を、それぞれが空気を読んで行動できなければ回らない職場です。
コンビニバイトがやらなきゃいけない作業
- 商品(おにぎり、パン、弁当、お菓子、雑貨、カップ麺、飲み物など)が届くたびに棚へ並べていく
- 揚げ物、中華まん、おでん、ドーナツを作る
- フライヤー(揚げ物を入れる器具)、コーヒーマシン、中華まん、おでんの器具を洗う(毎日)
- 床拭き、トイレ掃除
- 箸、スプーン等、消耗品の補充
- キャンペーン用の垂れ幕を貼る、剥がす
- 立ち読み防止のため、雑誌を縛る
- 雑誌が届いた分だけ、残っているのを店の奥に戻してダンボールに詰めて返本する
- 商品の発注、廃棄のチェック
- 商品が入ってくる度、数をチェックして合っているか確認
- 公共料金の支払いの受け付け、
- 宅配便の受け付け
- TOTOくじの発券・払い戻し
- チケットの発券・払い戻し
- フェイスアップ(商品を綺麗に完璧に並べ直す)
ただでさえ少ない『空き時間』はどんどん削られていっているわけで、その中でもおでんって、かなり負担が大きいんですよね。定期的に謎の新商品が出てくるわけですが、当然バーコードはついていないので、その名前を覚える必要があります。
(出典:旬なテーマを深堀り♪コンビニ快走で市場拡大、恩恵を受ける惣菜業界 |レポート|投資情報室|投資情報・セミナー|株のことならネット証券会社【カブドットコム】)
コンビニの店舗数は既に5万店を超え、これからもまだまだ増加のペースにあります。これらの店舗を動かす労働力の確保は、今後重要な課題になっていく気配があります。以前であれば、中国人留学生等が良く働いている姿をみましたが、彼らにも最近は敬遠されつつあるようです。
加盟店になるには、たいてい家族2人(夫婦or親子)で働けることを条件に初期費用で500~700万円取られます。そのうえ、契約期間は最低10~15年を課せられます。儲かると思って、夫婦2人でアルバイトを雇って店を経営しようとしても、近年はコンビニでのアルバイトそのものが敬遠されます。特に中国人留学生の間では、覚えることややることが多くて面倒なアルバイトとしてクチコミで広がり敬遠される傾向が強まっており、日本人アルバイトを確保するだけでも大変な状況です。
今後、店舗数が増えれば増えるほど『コンビニで働いてもいい』と思う労働者の残数は減っていくわけですから、こういった実態も踏まえ、店舗オペレーションの簡素化も必要でしょう。
またそれだけでなく、全店舗一斉のキャンペーンとして行うために、利益が出ない店舗でまでおでんの実施を強制するような体制も問題になっていくような気がします。個人的にはコンビニのおでん、割と好きな方ではありますが、持続的なビジネスとして続けていくには、色々と見直しが必要だと思います。
ではでは、今日はこの辺で。
*1:どちらかというと既に支払い終えた費用は考慮に含める必要はない、といった文脈で使うことも多いが、差額原価の対立概念として、意思決定の際に固定費を含めるか否かといった文脈で使う場合もある