こんにちは、らくからちゃです。
金融市場では前例のないことが起こり続けてなかなかスリリングな日々が続いていますが、皆様いかがおすごしでしょうか。「有事の金」が投げ売られたのを皮切りに、原油価格も一気に1/3になり、REITはほぼ垂直に下落している状況です。
個人的に衝撃が大きかったのが、10年ものの米国債の金利が150年間ではじめて1%を割り、一時0.6%を割り込む状況になったところでしょうか。米国でもこの状況なら、日本はもっとすごいことになってるのかなあと思って調べてみたところ
なんかメッチャ金利上がってた。
債券の価格が下がると金利が上がる
この水準自体は、米国10年債みたいな歴史にない水準ってわけでもなくて、1年半くらい前は割りと普通にあった水準です。ただこれだけの急騰っぷりは中々面白い値動きのような気がします。
多くの人の直感に反するようですが、金利の上昇=債券価格の下落を意味します。前後を入れ替えて、債券価格の下落=金利の上昇と考えたほうがわかりやすくて良いですね。
例えば、1年後に元本100万円に利息5万円が受け取れる債券が額面金額100万円で売られているとすると金利5%ですね。債券の中には、金利が存在しない限りに、額面金額以下で買える「ゼロクーポン債」と呼ばれるタイプのものもあります。
ゼロクーポン債の例をあげると、1年後に100万円受け取れる債券が95万円で売ってるような感じですね。これも約5%の金利を受け取るのと同じ効果があります。じゃあこの債券の持ち主がすぐに現金が必要になり90万円で投げ売りしたとすると、約11%の金利になります。
よって
- 債券価格が下がる(売られる)=金利が上がる
- 債券価格が上がる(買われる)=金利が下がる
という構図になります。金利がマイナスになるのはどういう状況かというと、将来100万円しか受け取れない債券を105万円で買う人が存在するようなケースですね。
二つのマイナス金利
日本の10年物国債は2019年はほぼ大半の期間において金利がマイナスとなりました。それが急にプラ転して上がり続けている理由を考える前に、そもそもなんで金利がマイナスの状況でも買われていたのでしょうか。
話がややこしくなる前に確認しておきたいのですが、
- 日銀当座預金の超過準備のマイナス金利
- 国債のマイナス金利
は密接に関係していますが、一旦別物と考えましょう。本稿で扱うのは基本的に後者ですね。
日銀の行っている「マイナス金利政策」とは、日銀が市中銀行(普通の銀行)から預かっているお金(当座預金の超過準備)の金利をマイナスにすることを意味します。お金を預けてるんだから金利を払っても貰いたいのに、預かり料を要求する!みたいな中々アコギな商売ですな。
なんでそんなことをやっているのか雑に言うと「預金者から預かったゼニを企業に貸して経済回さんとアカンで」とプレッシャーをかけるためですよね。
となると企業が取る選択肢は
- 日銀に預けて金利を払う
- 預金者に定期預金から投資信託にでも乗り換えてもらう
- 安全そうな借り手を見つけて貸し出す
あたりでしょうね。当座預金を日銀券に変更して貰って金庫に保管するのは、保管料を考えれば現実的ではなさげ。あとはゴールドなどの実物資産を買うのも、値動きを考えたらオススメできませんね。
そんなワケで、ここ最近銀行は必死こいて「ついでに手数料もゲットだぜ!」と投資信託への切り替えを進めて来たワケです。まさに一石二鳥ですね。
合わせて進めたのが、なんとか日銀以外の借り手を見つけて貸し出すことです。本来の趣旨からすれば、ちゃんと民間企業に貸して欲しいところですが、何かと厳しいこのご時世に銀行が貸せる企業は中々ありません。そこで銀行は国債を買ってきたわけですね。
なぜ国債の金利がマイナスになるのか
普通に考えたら、満期日に受け取れる金額以上を払って国債を買うようなアホはいません。でも日銀に預けて支払う金利よりも条件がよく、お札を金庫に保管するよりもコストがかからなければ、マイナス金利でも国債を買う経済的意義が生じます。
あとね。過額面金額以上で買った国債を、更に高い金額で買い取ってくれるアホもいるんですよ。
そう日本銀行です。彼らとしては金融機関にはより積極的に一般企業に投融資して欲しいので、国債で持っているのは不本意な状態です。というわけで更にマイナス金利で引き受ける可能性がある。それを見越して高い金額でも取引が行われます。
また外国人が日米の金利差から差益を得るために国債が買われているみたいですね。
例えばアメリカ人が、1ドル100円で100万円分の日本国債を金利0%で買ったとしましょう。為替変動がゼロなら満期時には1万ドルが返ってきますよね。でも1ドル125円と円安になっていたら、8,000ドルにしかならない。
これを避けるには、1ドルの値段を固定する為替予約をかけるんですね。国債を買うのと同時に将来100万円を返す(借りる)契約と、将来1万ドル受け取る(貸す)契約を同時に行います。貸して貰える金利に借りる金利も貰えちゃう。そうすると日米の金利差がそのまま頂ける。なら国債の金利はマイナスでもよくね?という寸法です。
特にここ最近、米国の金利が上昇してましたので、外国人は為替差益での儲けに加えて価格が常に上昇すると見込まれていたため、大変美味しい取引でした。
日銀の財務って大丈夫なの?
さてしかし、コロナショックがおきた結果、こうした状況っていつまで続けられるんでしょうね。最初の疑問は日銀がETFを通して日本株を買い支えているこの状況はいつまで続けられるのか。
ちょっとおもしろいので、日銀の貸借対照表はぜひ見て欲しい。
3月10日現在、株式+株式ETF+REITを3つ合わせて30兆円くらい持ってるんですね。
それに対して純資産は3兆円とちょっとってとこでしょうか。
ちょっとおもしろいのが負債の部に「発行銀行券」があるところですね。我々からみればお札は資産ですけど、発行している主体のほうからみたら負債になるわけです。(そういや昔書いた)
これちょっと株価がマイナスになったら、すぐに消し飛ぶ水準なんじゃね?ついでに大量に抱えた国債の価格が下落(金利が急騰)したら、ダブルパンチでやばくね?このままだと日銀が債務超過になるんじゃね?
中央銀行が債務超過になったらどうなるのかな?なんてのを調べてみたら過去にスイスが必死のパッチで通貨レートをコントロールしてたときにあったそうな。でもここまでの規模で、将来の展望がサッパリ見えないなかでの債務超過がどうなるのかは弊方の理解を完全に超えております。
大事なのは、債務超過になったところで、直ちに日銀の機能が停止することは有りえません。債務超過状態で事業を続けている会社なんてゴマンとあるわけで、日銀もお札を刷り続け、銀行から当座預金を振り込んで貰える限りは動き続けられるでしょう。
でも純資産マイナスの状態で日本株を買い続けられるんでしょうかね。そんなにお札を刷ってハイパーインフレは大丈夫?日銀買い支えへの期待が失われれば、資金は一気に出国ゲートに殺到することになるでしょう。ただでさえ金利差の旨味のなくなった国債も投げ売られ、売りが売りを呼ぶ展開になれば国債金利は急騰しかねませんな。
『マイナス金利』は神話になるか
さて最近、国民1人あたり10万円の給付金を配るだのなんだのと言った話が出てきました。大いに消費は刺激されるべきであり、職を失う、所得が減ったないし失うリスクが上がった国民の生活の下支えは是が非でも行うべきでしょう。
でもちょっと怖いな、と思うのが財政上の懸念を口にする人があまりいないんですよね。当然その規模の財政出動をすれば、大量の現ナマが必要になりますが、資金繰りについて考えているひとはほとんどいない。
誤解なきように書いておくと、私は「財政がやべえ!!」と言いたいワケではない。それより長期に渡るマイナス金利で「どうせ国はなんやかんやで低コストでゼニが借りられるんでしょ」という楽観が国民の中にあるのではないだろうか。そしてそれが崩れたときって相当ヤバくね??と思うんですよね。
かつて不動産価格は上がり続けるなんて「土地神話」があったそうなのですが、国債の「マイナス金利」もひとつの神話になりつつあるんじゃねえのかなあと、ふと思ってしまうときがあるんですよね。
ここから国債金利が急騰すれば、あらゆる政府支出の実現性の不透明感が上がってしまう。そして米国はいま世界中から資金を吸収していますが、この流れが継続すれば更に円の価値は揺らいでいく。
円が安くなれば日本経済になってプラスかといえば、もうとうの昔に貿易立国ではなくなっている以上、むしろ輸入が割高になるのが痛い。あとまあ乱高下するような状況に投資判断もより難しくなるでしょうしね。
(出典:令和元(平成31)年中 国際収支状況(速報)の概要 : 財務省)
海外から入ってくる所得収支は、円の価値が下がれば円建て評価額は増えるでしょう。ただ経済情勢を考えると、そもそも外貨建での所得自体の縮小が著しいでしょうから、プラス効果はさして期待できないかもしれません。
日本国債は国内で消化しきれているから大丈夫!という話は度々耳にしますが、それは日本人が常に海外相手に稼いで積み上げた分厚い対外資産と、更に経常収支の黒字が維持されていることが前提です。所得(海外での利益)が減って、支出(輸入の支払)が増えてこれを取り崩すようなことが始まれば、一気に日本国債への信認が崩れるリスクも顕在化してくるかもしれない。
前の記事で「本格的なショックは起こっていない」なんて書きましたが、これが起これば間違いなく本格的なショックです。
本当に目まぐるしく過去に無いことが起きる日々ですので、何が正しく何が間違っているのかサッパリわかりませんが、何十年か先に「おじいちゃん、コロナショックのときのこと教えて!」と言われた際には、「あの頃はじゃのう」と語れるように、しっかり状況を見ながら、なんとか生き延びたいと考える次第です。
ではでは、今日はこのへんで。