ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

信託報酬0.00%のファンド「Fidelity ZERO」は成り立つのか?

こんにちは、らくからちゃです。

インド人が発見したという「ゼロ」という概念は、多くの人にとって特別の意味を持ちます。

どんなに安くしたところで、1円でもお金を受け取っていれば、規模のメリットを活かして何とかするのかなと想像できます。これが0円だと、一体全体どういうカラクリになっているんだろう?と気になってしまって仕方ないですよね。

そんな非常に気になる金融商品が、アメリカの老舗ファンドから発売されました。その名も

  • Fidelity ZERO Total Market Index Fund
  • Fidelity ZERO International Index Fund

です。

前者は米国内、後者は米国外に対して投資を行うファンドです。少なくとも現時点において、日本国内からは購入することすらできない同ファンドに日本の投資家からもアツい注目が集まるのは、ZEROの名の通り同ファンドの信託報酬が0.00%、つまりタダだからです。

ド―――(゚д゚)―――ン!

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いやあ何とも輝かしいExp Ratio 0.00%の数字(笑)。この発表を受け、インデックスファンドの雄、ブラックロックの株価は5%も急落するなど、市場には大きな波紋が生じています。

www.bloomberg.co.jp

でも、考えれば考える程不思議ですよね。なんでそんなことができるのか?何を狙っているのか?めちゃんこ気になりますよね!あわせてプロバイダーか保険に加入する必要でもあるのかな!?(こら)

特にモヤモヤするのが、この一手を打ってきたのが「そんなに下げたところで、余程の金額を投資してなきゃ年間で数百円も変わらねーんじゃねえの?」と思えるくらい熾烈な手数料引き下げ争いを繰り広げてきたブラックロックやバンガードではなく、ピーター・リンチ率いるマゼランファンドを筆頭に、アクティブ運用で一時代を築いてきたフィデリティが仕掛けてきたところなんですよね。

フィデリティは何を企んでいるのか?

「ほんで、おたく企んどるん?」とブルームバーグが取材してみたところ、フィデリティは下記のように回答しています。(以下しばらく下記記事からの引用です。)

www.bloomberg.com

And that’s just the beginning, because Fidelity does more than manage mutual funds. As Russel Kinnel, director of manager research at Morningstar, told Bloomberg News, “Fidelity has lots of ways to make money from customers once they are in the door.”

えーっとつまり、「お客さんさえ来てもろたら、あとは何とでもなるんや!」ってとこですかね。この部分だけ見ると、いわゆる「ドアノック商材」として使おうとしてるのかなあとも思えなくもないですが、さすがに既存ビジネスを毀損するリスクが大きすぎます。

もう一つ上げられている「ヒント」としては、下記の部分。

The knock-on effects will be significant. For starters, index funds will no longer tolerate paying license fees to index providers for market cap-weighted indexes such as the S&P 500 Index or the Russell 2000 Index. Index providers will have to waive those license fees or watch their iconic indexes become increasingly sidelined when fund companies create their own indexes, as Fidelity is doing and as Schwab and State Street Global Advisors have already done.

 インデックスに連動するファンドやETFを作ろうとすれば、インデックスを算出しているダウやラッセルにライセンス料を支払う必要があります。今回のファンドは、フィデリティ自身が算出するオレオレ指数に基づいて計算されるみたいですので、その分のコストが更に削減できます。

 投資指針はこんな感じらしい。

Normally investing at least 80% of its assets in common stocks included in the Fidelity U.S. Total Investable Market Index, which is a float-adjusted market capitalization-weighted index designed to reflect the performance of the U.S. equity market, including large-, mid- and small-capitalization stocks. Using statistical sampling techniques based on such factors as capitalization, industry exposures, dividend yield, price/earnings (P/E) ratio, price/book (P/B) ratio, and earnings growth to attempt to replicate the returns of the Fidelity U.S. Total Investable Market Index using a smaller number of securities. Lending securities to earn income for the fund.

https://fundresearch.fidelity.com/mutual-funds/summary/31635T708

どちらかというと、スマートβチックな感じなのかな。ぶっちゃけ経費率云々の前に、この新ファンドがどの程度のパフォーマンスを上げられるかが現時点での最大の注目のポイントですね。

ライセンス料が無くなることによるコスト削減効果なんて大したことはないでしょう。しかし同ファンドが大きく注目を集めるようになり、ダウ平均やS&P500、ラッセル2000といった主要インデックスに名を連ねることが出来たら、その効果は同ファンドだけに限られません。

同社のその他のファンドのベンチマークも自社インデックスに切り替えられますし、ライセンス供与により新たな収益源が得られるかもしれません。

改めて考えるインデックス投資

その他にも、大量の資金を集めることができれば、信託銀行は貸株にまわして収益を増やしたりなどもできるかもしれません。でもまあ、そんな微々たるものよりも、株式市場の「インフラ」であるインデックスを支配することは計り知れない価値があるでしょう。

インデックス投資について、いつも不思議だなあと思うのは、みんな株式市場での結果を受け入れ、ある種「成行」で売買してるところなんですね。株は、市場が十分効率的であれば、高すぎれば売られるし、安すぎれば買われ、企業の時価総額は理論価値に近づいていく。

その一方で、売買の結果を盲目的にフォローするだけの取引が増えれば、意図的な価格を提示して実態の伴わない株価で押し付けることが出来てしまう。今回の決断も、その微妙なバランスの中で収益を最大化させる何かの狙いがあるのかもしれませんね。

何にせよ、今後の動向を追うと面白そうな案件です。

ではでは、今日はこのへんで。