ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

参院選 東京選挙区の『定数6名』って多くない? 〜改めて考える大選挙区制の問題点〜

こんにちは、らくからちゃです。

気がつけば、いたるところで選挙ポスターの貼られた掲示板を見るようになりました。わたしは、千葉県から東京都まで通勤しており、両方の掲示版を見る機会がありますが、東京選挙区は掲示板がでっかいですね〜。

 そして『支持政党なし』のポスターの存在感(笑)。いや、笑っている場合ではないのかもしれませんが。

ところで、今年から、参院選の選挙区が変わります。

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(引用:来夏の参院選から実施 | ニュース | 公明党)

今まで、参議院選の選挙区は、都道府県単位に設置されていました。それが、徳島・高知と鳥取・島根が一つの選挙区に合体!更に、東京選挙区は定数が2人増えてなんと12人に!うち半分が改選されるため次の選挙で、東京からは6人の議員が誕生します。

多くね?

いやー、合併した鳥取・島根の6倍ですぜ。勿論、一票の格差の問題から、人口の多い東京から選出される議員の人数が多くなければならないのはわかります。

でもさ、これだけ増えるんだったら甲子園みたいに西と東でわけないの?いや、つーか『一定の地域を定めてそこから出る議員の人数を調整する方法』ってどうなの?そもそも、一つの選挙区から複数の当選者を出す方法、つまり大選挙区制ってどうなん?

ということが、無性に知りたくなってまいりました。そこで、現行の参院選の選挙方式の在り方について勉強してみました。いやあ、選挙制度って中々面白いものですねえ。こちらの本を買ってみたのですが、素人にも大変興味深く読むことが出来ました。

日本の選挙―何を変えれば政治が変わるのか (中公新書)

日本の選挙―何を変えれば政治が変わるのか (中公新書)

 

備忘録も兼ねて、自分なりにまとめてみますので、よろしければ是非!

小選挙区制・比例代表制・大選挙区制

 まずは、我が国で行われている『選挙の方法』について振り返ってみましょう。なるべく分かりやすくまとめてみたいと思います。

小選挙区制

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小選挙区制とは、ひとつの選挙区から一人の当選者を出す選挙の方法です。小選挙区制は、1位だけを当選とし、2位以下は全て落選とする方法です。我が国では、衆議院議員選挙と、一部の参議院選挙区、また『一人だけを選ぶ』という意味では、知事や市長を選ぶ選挙でも採用されている方法です。

メリットは、選挙のコストが安く済むことが挙げられます。300人の議員を選ぶためには、300個の選挙区が必要になります。選挙区がそれだけ多いということは、1つあたりの面積も小さくなるのと同時に、訴えかけるべき相手の人数が少なくなります。その分、市民と議員との距離も縮めることが出来るんですね。

デメリットは、死票が多く発生することです。死票とは、(狭義では)落選した議員に対して投票され票のことを指します。上の例だと、A氏以外に投票された票は全くの意味がない票になってしまいます。A氏とは異なる考え方をしている人の意見は、政治に反映できなくなってしまいますね。

また特徴として、小さな政党は議席を得ることが難しくなるため、政党が大規模化しやすい傾向になります。その結果として、『二大政党制』に繋がり、政権交代がおきやすい選挙制度だと言われています。

ちなみに日本の国政選挙では行われませんが、こういった選挙方式の際には、最低過半数の取得を義務付け、1回めの選挙でトップが過半数を取れなかった場合、2位との決選投票を行うというやり方も、良く見られます。(有名なもので言うと自民党の総裁選)

比例代表制

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比例代表制とは、『政党』に対して投票し、それぞれの政党の獲得した票数毎に議席を按分する方法です。実際に、誰が議員になるのか?には複数の方法があります。

  1. 拘束名簿方式・・・政党が事前に決めた名簿の順位によって決まる
  2. 非拘束名簿方式・・・投票時に候補者名も記載し、その順位によって決まる。

などがあります。

メリットは、死票が少ないことです。小選挙区制では、投票した候補者が落選してしまった場合、一票は無駄になってしまいます。一方、比例代表制では、全体の割合で議席を按分しますので、『端数分』除いて、投じた一票は無駄になりません。

デメリットは、議員との距離が広くなってしまうことです。比例代表では、あくまで『党』に対して一票を投じます。そのため、議員が直接支持者とコミュニケーションを取ったりするモチベーションが下がります。また有権者としても、選挙の際に当選させる議員を選ぶことは出来ないため、成熟した政党政治が実現できていないと政治との距離も大きく開いてしまうことになります。(非拘束名簿方式であれば、多少は関与することも出来ますが)

もうひとつ特徴を上げると、小選挙区制と異なり小さな政党でも1番じゃなくとも一定の票数を集めれば議席を得ることが出来ます。その為、複数の政党が乱立してしまい、政治が前に進みづらくなる危険性もあります。

外国の例では、小党乱立を防ぐため、一定のラインでの足切りを設けている例もあります。

大選挙区制

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大選挙区制とは、ひとつの選挙区から複数名の当選者を出す選挙の方法です。かつて日本では、衆議院議員選挙もこの方式で行っていましたが、その際は『中選挙区』なんて言い方をすることもありました。ただ実態としては、『中選挙区制』も大選挙区制の一種です。(ひとつの都道府県内で選挙区を分ける場合は中選挙区、って言い方をすることにしたんだとか)

現在も、参院選で行われており、今回テーマにした『東京選挙区』もこの『大選挙区制』で選挙が行われます。参院選の選挙方式については、下記にまとめましたので、よろしければ是非!

ただしこの方法は、様々な問題点をもっているようなんですね。

単記非委譲式投票の問題点

この大選挙区制、世界的に見てもかなり『マニアック』な選挙方式なんだそうです。大選挙区制は、参議院選挙や、都道府県・市町村議員選などでも導入されていますが、原則として、1回の選挙で投票可能な票は1票です。この方法では、1位が10万票、2位が2万票で当選した時に、1位に投票された票のうち5万票は『あってもなくても変わらない票』、つまり(広義の)死票となります。

一方、世界的には、ひとつの選挙区から複数名の議員を選ぶことはあったとしても、投票権はその分与えられる方式が多いそうです。大選挙区制について細かい分類としてこんな方式があります(全部ではありませんが)。

  1. 完全連記制・・・選出する人数分だけ投票する方法。
  2. 単記委譲式・・・順位を記入し1位に書いた候補の票が十分な場合2位に回す方法
  3. 累積投票制・・・選出する人数分だけ投票するが同一候補に複数投票可能な方法
  4. 単記制  ・・・ひとりだけの候補者を選ぶ方式

我が国の『大選挙区制』で採用している選挙方式は、『単記非委譲式』と呼ばれる方法となりますが、このやり方には大きな欠点があります。

政党が複数の候補者を擁立しづらい

例えば、当選者を2名出せる選挙区があったとしましょう。ここに、同一政党から2名の候補者を擁立してしまうと、それぞれの候補者で票を食い合ってしまい、1議席も取れなくなる可能性があります。その為、同一政党が1つの選挙区に対して、定数分立候補しづらくなります。

候補者がどの候補に投票したらいいのか分かりづらい

とはいえ、大きな選挙区の場合、同一の選挙区から複数名立候補することも起こりえます。この時有権者は、支持政党の『誰』に投票すべきなのか?という問題が発生します。

個々人の適性を考えて、一番『相応しいと思う人』に投票すべきといえばそうなのですが、その結果として特定の候補者に票が偏ってしまい、自分の主張を実現してくれる政党の議員を、国会に送り込める人数を減らしてしまう可能性があります。

有権者に投票戦略が必要になる

小選挙区制では、1位になりそうな人と2位になりそうな人の中から、好きな方(または比較的『マシ』なほう)を選ぶことになります。一方大選挙区制において、一票の勝ちを最大化するには『当選ギリギリな人』を予想した上で、その中で誰が一番議員に相応しいか?を判断する必要があります。

また、比較すべき人数についても、選挙区そのものが小選挙区よりも広いため、多くなる傾向にあります。

泡沫候補の当選率があがる

特に市町村議会議員選挙なんてその傾向が顕著ですが、

  • 主要政党は定数分立候補しない
  • 有権者の票が(広義の)死票が生まれやすくなる
  • 候補者そのものの数が増える

といった状況から、比較的『なんじゃこりゃ?』といった人も当選してしまう可能性が高くなってしまいます。

小選挙区制は少数派に優しくないは本当か?

こういった問題点が多く抱えておきながら、単純に人口に応じて人数を調整するだけなのは、どうも誠実じゃないなあと思わざるを得ない状況です。

ときたま、『衆議院は小選挙区制、参議院は比例代表制と分けてはどうか?』などという意見があがりますが、これは非常に危険な考え方です。以前の記事でもとりあげましたが、参議院というのは一般の人が思っている以上に、強大な権力を持った組織です。

選挙方式を衆議院と大幅に変えてしまうと、ねじれが発生しやすくなり、国会の審議が大幅に停滞する可能性があがります。その為、あまり大きく投票方式は変えず、『参議院は解散無しで3年おきに半数改選』のところだけを違いとしたほうが良いのかもしれません。

また『小選挙区制は少数派に優しくない』という意見も良く耳にします。確かに、比例代表と比べると、小選挙区制は小規模な政党にとって不利な制度です。ですが、直ちにそれが『少数派にとって不利である』といえるか?というと、どうもそうでもないような気がするんですね。

小選挙区制では、ごく僅かな差にて、議席が得られるかどうかが決まります。そのため、少しでも多くの有権者、つまり少数派も含めた有権者を取り込む必要があります。その過程の中で、同一政党内部である程度意見調整が行われ、少数派の意見を汲んだ公約を立てる作用が働く可能性はあるんじゃないでしょうか。

一方、比例代表制では、小政党も国会に議席を得ることが出来ます。しかしその分、党内が偏った意見で占められることが多く、政権を連立で行うにも意見調整が破談になる可能性が高まってしまうような気がします。

政党政治の意義

小選挙区制にせよ比例代表制にせよ、それぞれ共通するのは『政党』が非常に大きな役割を果たすということです。

政党が果たす役割は様々なものがありますが、選挙に関する大きな役割として『意思決定のための情報コストを下げる』ということです。

一般に、小選挙区制であれば二大政党の候補から、政党または候補者の気に入っている方を選べばよいでしょう。もし、あなたの意見に直接一致しなくとも、まあ世間の大半の人が満足する政策を掲げるわけですから、どちらかよりマシなほうを選べば良い。比例代表制でも、そこまで多くない政党の中から1つを選べば良い。

ただその担い手になる政党が、与党の暴走は食い止めたいものの、野党は乱立した上にいまいち頼りない。その結果として『支持政党なし』のような動きが加速し、人物本位で政権交代の可能性は低く、情報コストは高い大選挙区制のような選挙制度が温存されちゃっているのかもしれません。

参院選ってどうあるべきなんだろうね

もう既に行われることが決まっている選挙はとにかくとして、今後行われる選挙については、その進め方も考えていく必要があるような気がします。

1人区がどうこうとか騒いでいますが少なくとも、『地方では小選挙区制、都市部では大選挙区制』なんて、住んでいる地域で選挙方式が異なるようなやりかたは避けるべきじゃないのでしょうか。

また、非移譲単記式なんていうわかりにくいやりかたは改め、もう少し別の方法を模索するか、いっそ衆議院と同様に小選挙区制に変えてしまうのも有りかもしれません。

投票率が低いとよく言われますが、選挙には大きな『情報コスト』が発生します。有権者が誠実に選挙に参加するには、それぞれの党や候補者がどんなメッセージを出しているのかをしっかりと受け止め、その結果を反映しやすい選挙制度を設計する必要があります。

現在の参院選は、そういった意味で非常に『情報コスト』の大きな選挙制度となってしまっています。候補者も多ければ、同じ党の中から誰を選ぶのかも考えなきゃいけない。

『とりあえず選挙に行け!』というのはごもっともでは有りますが、次の選挙のやり方も、この方法でよいのかどうかは検討をしたほうがいいような気がします。

ではでは、今日はこの辺で。