ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

大暴落のときに個人投資家が考えるべきこと

こんにちは、らくからちゃです。

今年の春は、例年以上に冷え込みが厳しいような気がします。株式相場の冷え込みは氷点下を軽く超え、絶対零度に到達するのではないかと思うような極寒の日々が続いておりますが、皆様いかがおすごしでしょうか。

しばらく株高が続いたからか世間にも強気ムーブが広まっていたような気がします。「つみたてNISA」の後押しもあり、年始には下記のような記事も話題になるなど、庶民でもインデックスで楽々投資みたいな空気感が出てきていたように感じられます。

右肩上がりの米国株長期チャートを見せられて資産運用を始めたひとたちにとって、今回の暴落は予期せぬ出来事であり、青天の霹靂だったでしょう。さてこんな時にどうすべきなのか。

あなたが多額の含み損を抱えることになるキッカケを作った「マネーの専門家」とやらは、概ね「焦って売らないで!!株式は長期的には絶対に成長するよ!!このまま積立投資を続けて行こう!!」とかなんとか言っているかと思います。さてこの言葉を信じるべきか。

暴落とはどういった値動きをするものか

Twitter上に流れている楽観論を見ていると、そもそも「暴落」と言われるような値動きに対するイメージがない人が多いように見受けられます。この言葉からは、一気にすこーんと下がって、そこからポーンと戻していくような印象を受けますが、実際にはもっとジリジリと下げていき、なかなか回復してくれないものです。

下記は、リーマンショック前の最高値(2007年10月9日)から底値(2009年3月9日)までの値動きを示したチャートです。

最高値から約1年半をかけてNYダウは53.7%下落し、元値の回復には5年半の時間がかかりました。リーマン・ブラザーズの破綻した2008年9月15日から見ても、半年間ぐらいは下げが続いて4割ほど株価が下落しました。またこの期間、一直線の下落ではなく所々で反発を繰り返しています

リーマンショックに限らず、概ね有名な「ショック」はだいたい似たような値動きをします。下記記事もご参考になるかもしれません。

www.yutorism.jp
少なくとも数カ月からそれ以上の単位で「もう終わったか」と思っては裏切られるサイクルを繰り返す値動きになります。

そしてもう一つ重要なことがあります。それは「すべての銘柄が理由もなく下がる」ということです。例えばマイクロソフト。2月に記録した最高値から3割近く下落してしまっています。

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予想利益の引き下げなども有りましたが、普段ならこれほど大きな下落を引き起こすほどの規模ではありません。むしろリモートワークの推進でTeamsの利用が広がるなど、今回の件がプラスに働く可能性すらあります。それでも売られるのが暴落です。

みんなが我先に現金を確保しに走る。他の人が売るから、自分も売らなければいけない。そこに業績なんか関係ありません。むしろ含み益がたっぷり乗っていて、売っても損失は出ない銘柄ほど、下げ余地が大きいと判断して売られる傾向すらあります。

こうなると「反発のタイミング」とか「市場に逆行して上がる銘柄」なんて考えるだけ無駄になる可能性のほうが高いのが実態です。

今回の暴落はどんなタイプの暴落なのか

更に言うと「暴落」と呼ばれる事象にも、いろんなタイプに分かれます。

例えばリーマンショックは、金融システムが崩壊しかけた結果、信用経済だけでなく実体経済にも飛び火し、経済に大きなダメージを与えるタイプの暴落でした。似たような金融システムの破裂が原因になった例としては

  • 米国債ショック
  • VIXショック

などの例があげられます。リーマンショックは実体経済にまで飛び火してしまったため長引きましたが、信用経済の世界でのトラブルであれば、出口が見えれば比較的短期で解決します。

実体経済にも大きな打撃が発生して生じるタイプの暴落は、比較的長期化しやすい傾向にあります。例を上げると

  • 世界恐慌      :最大89.19%下落、25.24年継続
  • 第一次オイルショック:最大45.08%下落、9.82年継続
  • ドットコムバブル崩壊:最大37.85%下落、6.72年継続

などの例があります。リーマンショックは確かに大きな危機でしたが、言ってしまえばとんでもなくスケールの大きな取り付き騒ぎです。十分に資金を供給すれば沈静化しやすい。

しかし今回はどうでしょうか。資金さえあれば経済活動を再開できる状態ではなく、お金をばらまいたところで、すぐに状況は好転しないでしょう。例えば東日本大震災の時も、社会インフラが大きなダメージを受けましたが、その後見込まれる復興需要を見込んで、比較的短期に株価は回復しました。しかし今回はそうした「特需」も考えづらい状況です。

そういや世界恐慌のときは世界中の貿易が止まったことで大きな経済的なダメージが出ましたが、奇しくも現在の状況と相似する部分もあります。またトイレットペーパーが売り場から消えたことに、オイルショックとの類似性を感じた人も多いでしょう。こうしたタイプの下落と似たところがあるのかもしれません。

下記でも触れましたが、傷ついた実体経済が回復するには時間がかかるでしょう。

www.yutorism.jp

もっと怖いのが、まだ本格的な「ショック」は起きてないんですよね。

金融機関はいつもどおり営業を続けていますし、大手企業が倒産したわけではない。確かに金融面から見れば、黒田日銀総裁の言う通りリーマンショックほどのことは起きてないんですよね。今の株価にショックが起きた場合のリスクが織り込まれているのかどうかは、誰にもわかりません。

そこまで行かなくとも、これから日本企業の多くが決算を迎えます。そして悲惨な状況が財務諸表に反映される。場合によっては債務超過に陥る会社も出てくる。となると銀行もおいそれとお金を貸せなくなる。新規の投資は削減され、新卒の採用も停止する。そうならないように、企業への貸し出しを何とか支えていくんでしょうけれど、しばらくは厳しい状況が続くでしょう。

そのドルコスト平均法は破綻してませんか?

こうした過去の値動きはある程度参考になりますが、毎日のように過去に例のない事象が起こることから分かるように、株価の値動きを役には立つのかといえば「よく分からん」というのが正直なところでしょう。

ただ過去の値動きを教訓に、同じようなことが起きたらどうするのか?という目線で考えるためには非常に役立ちます

これから起こることは、

  1. 株価は継続的に下落して最高値の50%近くまで落ちる可能性がある
  2. いま買った株は場合によっては最悪数十年含み損を抱える可能性がある
  3. 企業の業績はますます悪化してボーナスカット、最悪リストラの可能性がある

などでしょうか。

こうした状況下にまず行うべきことは「財務状況の継続性の確認」です。いわゆる「ドルコスト平均法」で定期的に株式を買い付けて、長期間売らずに保有する戦略を取っているひとは、いまのペースでの投資がどの程度できるのかを再度見直すべきです。

毎月定額買付を行うのであれば、生活防衛資金とは別に投資予備資金を最低2年分は用意し、例えボーナスカットされようともリストラされたとしても、継続して投資するだけの余力が無いと「景気の良い時だけ買付法」になってしまいます。

またこれから買い増しを検討するのであれば、改めて家計に生じるリスクとそれに耐えられる現預金があるのか、そして本当に今から値上がりすると考えられるのかを十分に検討してからでも良いでしょう。

値上がりする見込みが50%以下であれば、変にこだわって買う必要はないでしょう。仮に半分以上の確率で値上がりすると考えても、生活に必要な資金を維持できない可能性があるならば、例え利益が出そうでも一旦停止する勇気も持つべきです。また「わからない」のであれば、将来どうなるか分からないお金の比率をどこまで持つのかをしっかり考えるべきでしょう。

お金を守る行動を

色んな人の発言を見ていると、まだまだ楽観的に考えている人が多いような気がします。

「値下がりは一時的。長期的に見れば株価は戻るよ!」と主張する人からは、更に一層の下げが続いていったら、そしてそのまま長期に停滞したら、そんな中で収入が途絶えてしまったら。そういう本当に悲壮な状態の中、大幅に評価損を抱えた資産を手放さざるを得なくなるケースへの想定は感じられません。

もしかしたら、その人は本当にそんなこと心配する必要のない人なのかもしれませんし、ただ単にウェブサイトの広告収入が欲しいだけなのかもしれません。

でもあなた自身はどうなのでしょうか。その答えは、ひとりひとりの収入の状況やライフスタイルに大きく依存します。結局、あなたのお金を守ることができるのは、あなたしかいないのです。

株式での資産運用は、場合によって10年、20年と含み損を抱えたまま最後の最後に報われることを狙う運用スタイルです。イメージが付きづらければ、1989年12月29日、3万8957円で日経平均を買ったひとが、どんな気持ちで過ごしてきたかを想像すると良いでしょう。

確かにいま思えば異常な株価だった。でも当時は、このままずっと株価は上がり続ける「神話」をみんなで信じていた。そしてあの時に買っていれば30年たった今もマイナス(配当込みだともう少しマシですが)のままです。確かに、長期的には値上がりしているかもしれない。でもそれはあなたが死んでしまったあとかもしれない。

わたしは「買うな」とも「買うのをやめるな」とも言いません。ただ、あなたの持っているお金がそうなったとしても「まあ仕方ない。そういうときもある」と割り切れるかどうか。それを問い続け、自分で結論を出してください。そうとしか言えません。

かつて「長期的には経済は良い方向に向かっている」という主張に対して、こんな言葉を返した経済学者がいました。

『長期的には、われわれはみんな死んでいる』

と。彼の名はジョン・メイナード・ケインズ。後にマクロ経済学の父と呼ばれるひとです。今まさに彼が残した考えを元に、経済が破滅的なダメージを受けて、回復不可能になるのを避けようと、世界中の金融関係者が必死の努力をしています。

その努力が実を結ぶのを願ってやみませんが、例えどんな状況になったとしても短期的に死んでしまわないような予防線を張っておかなければならないんじゃないのかなあと思う次第です。

ではでは、今日はこのへんで。