こんにちは、らくからちゃです。
先日ぶらっとネットサーフィンをしていたら、こんなニュースを目にしました。
回転寿司のスシローを巡り、投資ファンドが動いているようです。スシローさんは、近所にあって比較的良く行きますので、この買収で経営がいい方向に進めばいいなあと切に願います。
さて皆様は回転寿司と言えば、どこの会社を思い浮かべますか?有名所でいえば、
- スシロー
- くら寿司
- かっぱ寿司
あたりでしょうか。いろんな名前を聞くけれど、実際どれくらい規模が違うのかな?と思って調べてみました。
回転寿司チェーン3社の原価率比較
上記三社について、直近の決算報告から売上高を比較してみますと、下記の通りとなります。
- スシロー ・・・ 1350億円
- くら寿司 ・・・ 1053億円
- かっぱ寿司・・・ 803億円
スシローが断トツのトップですね。また本資料に入ってませんが、すき家で有名な『ゼンショーグループ』の『はま寿司』も1010億円と大健闘。この4社で業界のトップ4と言うことができそうです。
決算書類を眺めながらふと思い出しましたが、『原価率50%』を掲げてスシローが品質の良さをアピールしていたときがあったような気がします。実際にはどんなもんじゃろ?と思って調べてみましたら、
- スシロー ・・・ 48.90%
- くら寿司 ・・・ 45.82%
- かっぱ寿司・・・ 44.33%
と、ほぼ50%程度となり『看板に偽りなし』が証明されました。一般的に、外食産業の原価率は30%程度と言われているそうですので、ずいぶん原価にお金をかけているんだなあという印象です。
なおここで言う『原価率』とは売上に対する『売上原価』の比率のことになります。この中には、原材料費だけではなく、一部の労務費や経費も含まれます。
上記は、くら寿司の単体決算における売上原価明細書(売上原価の内訳を記載した文書)の抜粋です。原料費が91.7%を占めるものの、労務費や経費も含んだ金額になっていますね。
売上原価とは、製造原価から当期に売上として計上した製品に該当する費用のことを指しますが、外食業は製造途中の仕掛品やストックできるような製品もほとんどありません。その為、製造費用=売上原価として考えられ、『寿司』の製造に掛かった労務費や経費が含まれているわけですね。
ここで『ずいぶん人件費が安いなあ』と思った人は鋭い。
この中にはおそらく、厨房で働いている人たちの人件費は含まれていません。これは会計学的に中々興味深いポイントですが、飲食業の店舗スタッフって『製造活動』『販売活動』のいずれにも従事していると言えるんですよね。
(3) 損益計算書上での取扱い
人件費については、各社でその計上区分に違いが出ていることも特徴です。外食産業における人件費は、店舗やセントラルキッチン等で業務に従事する従業員に係るものと、本社等で業務に従事する従業員に係るものに大別されます。外食企業の有価証券報告書等によれば、製造原価明細書に人件費が表示される企業とされない企業が存在しています。これは、店舗で発生する人件費を、売上高と直接対応させて売上原価(製造原価)として捉えるか、売上高と直接対応しない費用として販売費及び一般管理費として捉えるかといった違いによるものと考えられます。すなわち、店舗でサービスを提供するにあたり、従業員の業務は必要不可欠ではあるものの、その業務が顧客の飲食に重要な影響を与えているか否かの判断が、計上区分の違いとして現れると考えられます。例えば、店舗やセントラルキッチンで料理人が調理を行う場合と、食材加工のほぼ全てを納入業者が行い、店舗ではアルバイトがそれを温めるのみといった場合では、店舗での調理を主要業務と捉えるか販売のための付随的な業務と捉えるかによって、人件費の捉え方に違いが生じることになります。
線引きをどこに設けるのかは各社の判断になりますが、おそらく厨房の人たちは『販売活動』を支援するためのスタッフと判断して『販管費』の項目にしているのでしょう。一方、もっぱら『製造活動』だけを行っているセントラルキッチンのスタッフの賃金が売上原価項目として処理されているように思われます。
まあ在庫計上はさず、費用の繰り延べ処理は発生しませんので、区分表示の問題だけであって、大きな意味はないかと思います。*1
寿司ネタ別原価率比較
さて、引き続きくら寿司の損益計算書を眺めていると、また中々面白いデータが出てきました。
案外、調味料に掛かっているコストもバカにできんないもんですねぇ。海苔とかも入っているのかしら。しかし、やっぱり大きいのは『魚介類』に掛かっているコストですね。米や麺類の10倍くらいは掛かっています。
上記にあげた回転寿司チェーンは、一部例外を除き100円均一です。しかし当然ネタによってかかるコストは異なります。実際にどれくらい違うのかについて、『回転寿司の経営学』という本にざっくりとした比率が載っていましたので、まとめてみます。
やっぱり高いのはウニですね〜。ネタだけで80%掛かるのであれば、シャリや人件費のコストを含めれば赤字かもしれません。続いてマグロ、穴子、ハマチと続きます。
逆に安いのは、エビ、玉子、ツナなどのようですね。特にツナに至っては10%程度と、1位のウニと8倍の開きがあります。ツナなんかは、ほとんどマヨネーズだったりしますもんね。
原価率が高いとおトク?
会計には色んな指標があります。その中でも『原価率』はかなり色んな人に興味を持たれているものの一つのようです。かつてスシローが『原価率50%』をアピールしていたように、『原価率が高い』ということは、一般消費者のウケが良いようです。
確かに、原材料に掛かっているコストの比率が大きいということは、それだけ経費や利益を削って材料費を掛けているというアピールになりますよね。
でも本当に『原価率が高い=おトク』なのでしょうか?極端な例ですけど、
- 近所のスーパーで買ってきた材料を使って適当に作った寿司
- じっくり市場で目利きして新鮮で最安値の材料を使って作った寿司
だったら『原価率』が高いのは前者でしょうけど、食べたくなるのは・・・後者ですよね?どんな高級食材を使っていようと、『美味しいかどうか?』ですよね。
わざわざ図にするほどのことでもありませんが、言いたいのはこういうこと。
企業が原価に幾ら使っていようと、それは重要なことではありません。問題は、実際に払う金額に大して、どれくらいの満足を得られるか?です。
にも関わらず『ツナ巻なんて安いものより、もっと高いものを食べなさいよ!』といった話は、良く耳にする気がします。
家で自分でツナ巻を作ったり、もっと高級な寿司屋でウニを食べるのであれば、原価率が高いネタにしたほうが『おトク』かもしれません。でも大事なのは、『その日その場所で食べたいかどうか?』じゃねーのん?と思うわけです。
翌日以後のことも考えた戦略的行動(?)ならばとにかく、単純に『原価率が高いから』自分が本当に食べたいものが何かを忘れて行動するのは、お店だけでなく本人にとっても不幸なことです。
経済活動はプラスサムゲーム
職業柄、いろんな会社の原価データを拝見致しておりますが『え、これってこんなに安いの?』とか『あんなに売れてるのに全然儲かってないんだ・・・』と思うことも稀によくあります。
でもデータを眺めながら思うのは『お客さんが喜んで出してくれるのであれば、原価の何十倍の売価をつけてもそれはズルじゃない』ということです。
そういや中学か高校の授業で、こんなグラフを見たことがあるかと思います。いわゆる『需要と供給のグラフ』ってやつですね。
世の中には同じ商品でも、『どうしても必要で、高くても買っても良い』と思っている人と『まあ安かったら買ってもいいかな?』がいます。それと同様に、『余ってるし安くても売ってあげてもいいよ』と思っている人と『それなりの金額を出してくれるなら売って上げてもいいよ』と思っている人がいるわけですね。
そしてみんな、1円でも安く売ってくれる人・高く買ってくれる人を求める結果、常に同じ価格で取引されるものとします。
その結果、それぞれの線の交差したポイント、上図のケースでは60円で価格が決まります。この時、20円以上で売ろうとしてた人・100円以下で買おうとしていた人は、それぞれ40円分のトクすることになります。
原価の3倍で取引がされましたが、誰も損はしていません。
『原価率が高い=おトク』という損をする考え方
品質の良さを、『原価をかけていること』でアピールしたり、判断の基準として使うこと自体はごく自然なことです。
ただネットでぶらぶら原価について調べていても、
- 原価が高いお得な商品!
- 本当は買ってほしくない赤字商品
のような文章をよく目にします。誰かを騙して儲けようと企む輩の扱う商品は、当然『利益率の高い』商品でしょう。だからといって、原価率が低い=利益率が高い=騙そうとしている商品というわけではありません。
大事なのは、売り手がどれだけ利益を生むことができるのか?ではなく、買い手にとってどれだけの価値があるのか?です。例え原価5円であっても、お客さんが100円の価値を感じるのであれば、堂々と100円で売ればいいんです。
また『売価を下げて利益を減らし、顧客還元』というのも思考停止ですよね。ただ値段を下げるだけなら、誰だって出来る。しっかり頭を使って、同じ値段でもよりお客さんに満足してもらう方法を捻り出す。作業を効率的にして、同じだけ利益を出しながらももっと安く提供する方法を考える。
例えば最近、こんなニュースが話題になりました。
まあ勿体無い話です。ならば『シャリ無しの刺し身盛り合わせ』も、ちゃんとメニューに入れて注文しやすくしておけばいい。同じ値段で提供したところで、お客さんは損をしませんし、お店は米の値段の分だけ得をします。パレート改善ですね。
アイデアさえ良ければ、誰も損せず得をすることが出来ます。
ただアイデアに挑戦するには資本が必要です。資本は利益のあるところに集まり、増大します。利益は『自分にとって良い商品ならば買う』消費者と『可能な限り最小の資源で商品を作る』生産者によって生まれます。
これは『お店が潰れないように、利益が出るものも注文してあげようね』という話ではありません。いくら良い商品を作っていたとしても、限りある資源を効率的に使えない生産者は市場から退出せざるを得ません。
情報の氾濫する世の中ではありますが、自分にとって直接関係のない『原価率』なんて言葉に踊らされず、しっかり自分の目で、耳で、舌で価値のあるものを判断する。それが個人にとっても社会にとっても利益を生み出すことに繋がるんじゃねーのん?そんなふうに思う、今日このごろでございます。
なお本文中でも取り上げましたこの本は中々読み応えがありましたので、よろしければ是非!
ではでは、今日はこのへんで。
*1:・・・とはいえホリエモンのときは大騒動になったんだよなぁ(ぼそ