ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

『企業の現預金課税』のツッコミどころ

こんにちは、らくからちゃです。

選挙が近づいてきたことも有り、テレビやネット上では政治に関する話題が増えてきました。

ふむふむなるほどなあと思わせるものもあれば、なんじゃそりゃと首をかしげるものまで、いろんなものが流れておりますが、ここ最近で一番アアン???と思ったのはこのニュース。 

自民党の高市早苗政調会長は13日夜、BSフジの番組で、税制について「法人税に手を突っ込む予定だ。現預金に課税するかわりに、賃金を上げたらその分を免除する方法もある」と述べ、私案として現預金への課税を検討していることを明らかにした。「一般的な法人税をやるのか、現預金課税をやるのか。どっちにしても賃金が上がる状況をつくりたい」とも強調し、党税調で今後議論されるとの認識を示した。

高市早苗氏、企業の現預金への課税を検討 法人税巡り | 毎日新聞

こんなにも生活が苦しい労働者が沢山いるのに、従業員に還元せずおぜぜを溜め込むとはケシカラン、実にケシカラン!そうだ、労働者に配らず溜め込んでいるのならば、税金として取り上げてやる!!

というお話でしょうか。

内部留保は現金じゃねえから取り上げられねえよ、この会計音痴が!(私はそうとも思わないのですが)みたいに言われてションボリしたのか、ターゲットを現ナマに向けてきたみたいです。

課税対象が現預金であれば「お金が無いから払えない」ということは(直接的には)無いでしょう。ただだからといって、賃上げの方向にお金が向かっていくかといわれれば怪しいところですねえ。

この手の「現預金課税」みたいな話が出てくると「そんなん不動産や美術品みたいな現金以外の資産に変えられて課税逃れされるだろう」といった話が出てきますよね。相続対策として評価額の分かりづらい実物資産に変えるというのはよく聞きますよね。

確かに個人であれば別の資産に変えて持つことくらいしか選択肢が無いわけですが、これが会社であればもっとシンプルな方法があります。借金の返済です。

 

 

多くの企業は、大なり小なり金融機関からの借り入れを行っています。借金には利息がかかりますので、現預金として放置するくらいなら返してしまったほうが良いに決まっています。しかし現金がショートしてしまうと大変ですので、売上高何ヶ月分などと決めてある程度はキープします。このへんは財務担当者の腕の見せどころですね。

さてここで「現金を保有していると税金として取るぞ」と言われると、「じゃあ現預金の保有額を下げるために借入金を減らすか」という選択肢もあるんですよね。

またある程度の規模の企業であれば「コミットメントライン」という契約を結んでいることもあります。これは「一定の手数料を払う代わりに、好きなタイミングでお金を貸すよ」というものなのです。こうした仕組みを使えば「万が一のときのための現金」を手許に残す必要性も下がります。

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無借金経営が出来ている会社の場合、社内の現預金は最終的には株主のものです。現預金として残しておくと税金がかかるとなれば、まずは配当・自社株買いなどでの株主還元をはかるのが自然でしょう。

現預金への課税は、たしかに死蔵されている資金を動かす効果はあるかもしれませんが、それ以上に「社会全体のバランスシートを圧縮する弊害」のほうが大きい気がするんですよね。

東日本大震災やコロナ禍のような誰にも予想できない事態が起きたときに、企業に現金が無いと、銀行からの融資や政府からの支援もすぐには動かないため、資金の手当てが出来なくなり経済が停止するリスクが上がります。

また新規事業に挑戦するときにも、税金惜しさに現預金は残しておかないことになると、都度、銀行や出資者に説明する必要が生じ、機会を逃すようなケースも増えてきてしまうかもしれません。

 

 

日銀も、当座預金金利をマイナスにするまでして市中銀行に資金を流し込み、その資金も民間企業にドバドバ垂れ流しにしている。しかし一向に、家計にまでその資金が流れていかない。そこにフラストレーションを感じているのは、皆同じです。

でも、経済の潤滑油である現預金をへらすような方法は悪手じゃないでしょうか。そんなことを考える今日このごろです。

ではでは、今日はこのへんで。