ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

修繕積立金の「段階積立方式」は"悪"で「均等積立方式」が"善"なのか

こんにちは、らくからちゃです。

新居に引越してきてからもう2ヶ月になりました。ひと通り新生活に必要なものも揃え終え、水道光熱費も「だいたいこんなもん」が見えてきて、家計を安定させるフェイズに入ってくると、毎月支払う管理費や修繕積立金がより大きく見えてきますね笑

さて修繕積立金といえば、id:fujipon さんの書かれたこんな記事を読みました。

僕が住んでいるマンションは、築十数年で、昨年、大規模修繕工事を終えたばかりです。

立地は良いほうだと思うし、修繕も終えて、まあ、しばらくは大丈夫だな、人口が減っていき、みんなが街の中心部に集まりつつある日本で郊外の一軒家に住むより、マンションのほうが便利だし、この先も安泰だろう、と思っていたのです。

 

ところが、マンションの管理組合総会で出された議題は、毎月の修繕費積み立ての増額、だったんですよ。

それもかなり大幅の。ついこのあいだ、修繕したばかりなのに!

そして、まだ新型コロナの経済的な影響も続いているのに!

老朽化していく築十数年のマンションというのは、まさに「日本」そのものだなと思った話。 | Books&Apps

 マンションを購入したのであれば、いずれは私の住んでいる物件でも出てくるかもしれず、将来の自分の話として興味深く読みました。

こうした話はおそらく全国どこの共同住宅でも起こっているのでしょう。

一般的にマンションの修繕積立金は、定期的に見直しを行い、修繕にかかる費用が増えていくのに伴い増額する「段階積立方式」を採用することが一般的です。そうすると今回のように「そんなに増えると払えない」といった人が出てくる可能性もあります。

そうした例も受けてか、値上げが発生しないように最初から多めに集めておく「均等積立方式」にも世間の目が向くようになってきました。

f:id:lacucaracha:20201011104655p:plain

(出典:注目のマンション修繕積立金徴収方式「均等積立方式」、「段階増額方式」との違いは? - マンション管理組合のミカタ

同方式は、国土交通省も推奨しており、こんな風に紹介されております。

長期にわたって金額の変更がないので、増額のための合意形成について度々取り組む必要がなく、国土交通省が推奨している徴収方式です。

比較的築年数が浅いうちは、段階増額に比べて割高になりますが、永住を意識している方にとっては将来的に修繕積立金が大幅に増額することがないので、老後の生活設計にもゆとりを持たせることができます。

将来買い替えなどの計画がある方にとっては、当面の負担額が多くなりますので歓迎されない場合もありますが、中古マンションとして売却する場合には、管理組合が保有する修繕積立金の残高に余裕があり、大幅に増額される可能性が少ないという条件は資産価値の向上につながります。

買主さんにとっては安心して購入できることになるため、段階増額方式のマンションと比較された場合には高く売却できる可能性があり、結果的に負担額が多くなるとは限らないことも。

注目のマンション修繕積立金徴収方式「均等積立方式」、「段階増額方式」との違いは? - マンション管理組合のミカタ

今後、マンションの管理組合でも議論されることは多いでしょうし、段階積立方式から均等積立方式に切り替えていくべきなのか。

こうした意見が出た時に、何を考えるべきなのか整理しましょう。

「段階積立方式」は悪なのか

積立金の段階積立方式は、諸々と評判がよろしく無いところがあるのは事実です。

よくある言い分として「段階積立方式は購入時の負担を小さく見せかけて買わせようとする不動産会社のレトリックで詐欺みたいなもんだ」「本来買ってはいけない人にまでマンションを買わせようとする悪徳業者の使う手法だ」みたいなことを耳にしたことがあるひとも多いでしょう。

そうした一面があるのも事実でしょうけど、なんか「それが全てだ」みたいに言われちゃうと、ほんまかいな、と思ってしまう性分なんですよね。

(だいたい重説でしっかり聞いてるはずやろとも)

均等積立方式のほうが、アリとキリギリスのアリっぽい感じがしてウケが良いのは分からんでもない。無関係の第三者からすれば、将来のためにきちんと払えや、というほうが気が楽でしょう。特に住宅行政を預かる国交省の立場からすれば尚の事。

ちょっとここで思考実験をしてみましょうか。

そもそも修繕にかかる費用を分割払いして集めておく必要があるのでしょうか。分割せずに一括で集めてしまったほうが手間も少なくて良いんじゃねえのでしょうか。そうすると集めるタイミングによって、以下の4つの方式が考えられます。

  1. 一括前払方式
  2. 均等積立方式
  3. 段階積立方式
  4. 発生時払方式

4の発生時払方式というのは、費用が出た発生した瞬間にお支払いいただく方法ですね。当然その時に払えないひとが出ると揉めること間違いなしでしょう。

一方の1の一括前払方式は、(一定額は現行でも払っているでしょうけど)事前に見込額を全額払い込んで貰う方式です。例えば40年間で500万円必要だとすれば、入居時に全額払って貰えば、その金額相当分が回収不能になることはありえない。

毎月の修繕積立金の支払いはなくなるものの、入居時に現金500万円が余計にかかることになる。それじゃあ困る人も多いでしょう。

うーん、じゃあ現行制度では入居時拠出金には使えない住宅ローンを、使えるようにしてもらえば良いんでね?月々の支出の管理も一本化できるし便利じゃね?でもね、ここでマネーリテラシーのある人なら気がついちゃいますよね。

いや、それだと金利の負担が増えるじゃないか。

と。

修繕積立金とファイナンス

支払われた修繕積立金は管理組合の持ち物になりますが、いずれ自分の住んでいる家の修繕にあてられ将来の修繕費負担を減らすことを考えると、間接的に自分の持ち物であるとも言えます。

外部への支払いに消えてしまう管理費と異なり、どちらかというと別口座に移し替えただけ、という捉え方が出来るお金です。そうすると修繕積立金の資産運用がどう行われるのかが気になりますよね。

マンションの修繕積立金は、銀行の定期預金や国債などの固い方法で運用されることが一般的です。

フラット35などの貸付を行っている住宅金融支援機構の発行している元本保証付きの「すまい・る債」なども選択肢として挙げられますが、実にしょっぱい金利です。定期預金よりはちょっとマシかな?くらいですね。

f:id:lacucaracha:20201011112400p:plain

マンションすまい・る債:住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)

マンションの修繕積立金のような「支出時期・金額が確定している」「多数のステークホルダーが存在する」資金は、株式や不動産などでリスクを取った運用を行うことは不適です。

一括前払であれ均等方式であれ、使いもしないのに集めてしまうと、資金を寝かせてしまうことになります。

将来の支出が確定している以上、あまり積極的な運用を取るべきではないんでしょうけど、住宅ローン金利よりもずっと低い運用益しか得られないのであれば、低金利下ではありますが「修繕積立金に払うより繰り上げ返済に回して金利負担を減らしたい」と思う人が出るのも不思議では有りません。

一方で、修繕積立金の不払いは管理組合にとって非常に大きな負担になります。増額交渉を行うことになる理事の労力もですし、もし未払いが出てしまって法的手段を取る必要が出てしまうと、数十万円単位のコストが生じます。

均等方式への移行にあたっては、感情に任せた議論ではなく、

  • デメリット=個人の金利負担の増加
  • メリット =全体の回収コストの減少

キッチリと金額で示した上で、決めることが肝要なんじゃねーのかなあと思うんですよね。

積立金を増やすと何が起こるのか

また「修繕積立金を増やしておけばそのぶん資産価値が増えるので損も得もないはずだ」という意見も「資産価値が増えてしまうから損するかもしれない」という点にも目を向けるべきでしょう。

修繕積立金は、「別の財布」みたいなものですが、それはあくまで物件に紐づくものです。売却時も返還されることは有りませんが、一方でその分物件価値に紐づくと考えることも出来ます。

例えば全く同じマンション・間取りで以下の2種類が売られていたとしましょう。

  1. 3500万円の物件(修繕積立金は一切積み立てられていない)
  2. 4000万円の物件(修繕積立金は既に500万円積み立て済み)

さて皆さんならどちらを選びますか?

両者は同じ価値に見えますが、売買時の仲介手数料が、取引価格*3%などと設定されていると、2を選ぶと15万円も余計に払うことになります。

また売り手の側からも問題があります。

売却金額が、取得費用から減価償却費を加味した金額から値上がりして利益が出た場合には税金が掛かります。この物件が3500万円で購入して、減価償却等は一切発生していないものと考えてみると、1の場合は同額で転売しただけなので利益はゼロです。

ところが2の場合は、修繕積立金の拠出額は取得費用に含まれないため、利益が500万円出たと見なされてしまいます。(簿記的に言うと、修繕積立金は資本的支出ではなく費用的支出であるということですね。)

参考:不動産売却の利益計算で「取得費」になるもの・ならないものを解説します!

赤字にしかならないのであれば気にする人も居ないでしょうけど、現在のように不動産価格が上昇している状況においては、納得行かないと感じる人も多いでしょうね。

整理すると、

  • 買い手:一般的な定率制であれば売買手数料分
  • 売り手:課税所得計算

において、修繕積立金分損をしてしまうということも念頭に入れておくべきでしょう。

修繕積立金減税を検討してみてはいかがか

否定的な側面からばかり書いてしまいましたが、わたし個人としては将来も安心して住み続けられるために、適切な金額の積立金は早期に集めておくべきだと思います。

ただ感情論先行で「反対するのは生活能力の足らないヤツしかおらんやろ」みたいな風に言われるのであれば、それってどーなのさ、と思うんですよね。

マンションだけに限らず、全国各地で空き家の問題が深刻になり、景観だけでなく安全性の観点からも問題が生じています。住宅の修繕にかけられる費用がしっかり積み立てられていないことは、個々人のプライベートな問題に過ぎず、パブリックな問題でもあります。

まず比較的簡単にできそうなこととしては、すまい・る債の運用益に公的な助成をつけたり、戸別の積立金額がしっかり分かるようにしてその金額相当分は売却時に物件価格から差し引くようにするなどでしょうか。

またマンション管理業協会は、以下のような提言を行っています。

(2) マンション修繕積立金支払い額に対する所得税額控除制度の創設
適時適切な修繕工事の実施を後押しするために、各区分所有者への直接的な経済支援により、修繕費用の支出に対する負担感を緩和させる方策も考えられます。
つきましては、計画修繕工事において区分所有者の負担する修繕積立金に対する支援策として、修繕工事金額を各区分所有者の負担割合に戻して、リフォーム減税の対象とする所得税額控除制度の創設を要望します。
とりわけ高経年マンションにおいて、建物・設備の経年劣化による事故等の発生防止、スラム化の抑止、良好なマンションストックの確保を図るための対策として早急な取り組みが必要です。一定年数を経過した分譲マンションを対象とし、長期修繕計画にもとづく修繕工事について(マンション生活の維持に不可欠となるライフラインに関するもの等)の条件を付することも考えられます。

http://www.kanrikyo.or.jp/news/data/20180814.pdf

個人的には、所得の状況がバラバラである以上、所得税額控除みたいな仕組みよりは、一定基準額以上修繕積立金を積んでおくと、固定資産税の減免が受けられる仕組みのほうが良いんでねーのん?と思うところではありますが、日本の将来に関わることですので、しっかり議論検討して欲しいなーと思う次第であります。

ではでは、今日はこのへんで。