ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

厚生年金上限増額で高額所得者は損をするのか問題

こんにちは、らくからちゃです。

新居に移ったのは良いのですが、早速ローンの支払が上手くできるかどうかドキドキしております。さてお金のことに関して言うと、ちょっと気になるニュースを見つけました。

www.nikkei.com

皆様のお賃金からしれっと抜き去られている厚生年金保険料は、頂いているお賃金の額に応じて決まります。その額なんとお賃金の18.3%!!

ただ無制限に持っていかれるわけではなく、上限額が定められています。

月収で62万円相当分で月額11万3460円で打ち止めになります。その上限がちょこっと引き上げられ、月収65万円という区分が設定され、上限に張り付いていたひとは11万8950円になり月額5490円負担が増えるというのが今回のニュースの主題のようです。

月収65万円なんて夢のまた夢の世界のようにも見えますが、単純に12倍すると780万円です。年俸制に移行し、ボーナス廃止&月給に上乗せする形を取るような会社であれば、そこまでとんでもない金額というわけでも無さそうですな。

これだけ見ると「お金持ちも支出が増えて大変だなあ」というふうに見えるじゃないですか。でも実態としては、これで儲かる高額所得者が多いような気がするんですよね。

年金の損得計算

会社員の支払っている厚生年金の受給額は、

  • 一律定額部分
  • 報酬比例部分

から構成されます。沢山払ったひとは、その分報酬比例部分を沢山もらえます。

先程のページにも出ている通り、仮に20歳から40年間この金額を払っていたとすると、年額8万円ほど受け取れる額が増えるとか。

40年間の支払増は263.5万円ですので、金利は一切無視して単純に計算すると、33年受け取れれば元が取れる計算になります。65歳から受け取り始めていたとすると、98歳ですか。キッツー。

ところがどっこい、支払額の半分は会社側が負担してくれているわけです。ただ「折半」をどう考えるのかはなかなか難しく、会社が負担していても、それは労働コストとして最終的にはお賃金に跳ね返ってくることになります。

www.yutorism.jp

ですので、損得計算するならば会社負担分は込みで計算したほうが良いような気もしますが、一旦本人負担分だけで考えてみると、16.5年貰い続ければ元が取れる塩梅になります。65歳から受け取っていれば81.5歳ですか。男性の平均寿命と同じ位ですわな。

ただ損得計算をするのであれば、もうひとつ勘案に入れておいたほうが良いものがあります。

税金です。

年金と税金

年金として支払った金額は、全額社会保険料控除という形で、課税対象から差っ引かれます。つまりその分、『貰っていたお賃金が元から少なかった=かかる税金も少なくなる』という理屈です。

所得税は累進課税になりますので、段階的に税率が上がっていきます。

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ポイントは、税率が上がるのは「課税所得」が基準になります。これは額面のお給料から各種控除を差っ引いた金額ですね。超ざっくりいうと

  • 年収430万円迄 ・・・5%
  • 年収430万円超・・・10%
  • 年収650万円超・・・20%
  • 年収1100万円超・・・23%
  • 年収1300万円超・・・33%
  • 年収2000万円超・・・40%
  • 年収4500万円超・・・45%

って感じになります。余談ですが、年収650万円を超えると一気に所得税率が上がるので、iDeCoを検討するならこの辺りですね。逆に430万円に満たないような人は、節税よりお賃金を上げる努力をしたほうが良さげです。

さて話を戻して、仮に年収800万円くらいの人の年金の負担が増えたとしましょう。そのぶん社会保険料控除になり、所得税の20%に住民税の10%で合わせて30%ほど税金が減る。

とすると損得が分岐する年齢ももう少し手前倒しになり、11.6年、76.6歳まで生きればよい計算になりますね。割りと達成可能そうな水準になりました。

細かく言うと受給時の課税も考慮せにゃならんですし、いまの制度が続くかどうかも分からない中での「皮算用」ですが、手取りが減ってショック!というほどのレベルでもないでしょうし、むしろ美味しいくらいの気持ちで居ても良いような気がしますね。

年金の不都合な真実

一般に厚生年金は、一律定額部分もあるため受給額の差は支払額の差より抑えられ、一定の所得再分配(格差是正)効果があるものと言われています。

現役時代に受け取っていたお賃金と、年金として受け取る金額の比率を所得代替率なんていい方をしますが、もともとの収入が少なかった人ほど所得代替率は高く、年金で同程度の生活は維持できるとされています。

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(出典:厚生労働省資料

まあでももともとギリギリの生活だったものが、その当時と同じだけの収入が貰えまっせ!と言われても、厳しいことには代わりはないでしょう。あと単純な金額計算だけで推し量れないのが、所得別の寿命の格差の問題です。

アメリカでの調査結果にはなりますが、貧困層よりも富裕層が10年から15年寿命が長いといった物がありました。

gigazine.net

まあ皆保険制のある日本は、もう少し状況はマシであると思いたいもんですけど、やはり高所得者ほど長生きをする、言い換えれば老齢年金をより多く受け取ることによって、厚生年金も逆進的なんじゃねーの? みたいな話はチラホラとあります。

年金は、長生きのリスクに備えた保険だとよく言われますが、高額所得者ほどその恩恵に与れる可能性が高いとすると、先程のペーパーにある表現を借りると、こんな塩梅になかなかグロテスクな制度設計になっていると言わざるを得ないのかもしれません。

運良く長生きした人を、皆で助けることは良いことであろう。しかし、長生きの人が所得の高いとすれば、公的年金を通じて所得の高い人が低い人を助ける効果(所得再分配効果)は減殺され、むしろ低所得の人が早く死んで、高所得の人を助けている可能性がある。

 そのへんを加味した上で、年金の再分配効果ってものの実情について、改めて考えたほうが良いんじゃないのかなーなんて思う次第であります。

ではでは、今日はこのへんで。