ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

『儲』という字は「信じる者」とは書かないという話

こんにちは、らくからちゃです。

日々、儲け話を探しながら生きております。そういやアフィリエイト界隈では、Googleの大型アップデートの影響で阿鼻叫喚地獄になっているようですね。

有名アフィリエイターたちは、SNSでのフォロアーをかっさげてYoutuberに転向したり、サロン活動に精を出したりビジネスの多角化(?)に向かっているので、案外影響は少なそうですが、コツコツやっていた人は風前の灯みたいです。

まあ、元から対して儲かっていない私には関係ありませんが┐(´д`)┌

さてこんなご時世ですから「結局儲かっているのは情弱向けの情報商材を売っている連中だけ。儲けるという字は信じる者と書くんだ。一攫千金を夢見る信者から金を巻き上げているやつだけが儲かってるだけで、養分になるんじゃねえぞ」みたいな収益が落ちた人たちの怨嗟が混ざったため息のような話も良く耳にするようになりました。

なるほど、上手いこと言うなあなーんて思っているあなた。騙されていますよ!

『儲』という字は「信じる者」とは書きません!!

その漢字、どういう意味?

そもそも儲ってどういう意味の漢字なんでしょうか。漢字辞典で調べてみるとこんな風に書かれています。

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「儲」の部首・画数・読み方・筆順・意味など
(※あまりお行儀は良く有りませんがスクリーンショットで失礼)

元々の意味としては、皇太子の意味から転じ、将来のために備えておくもの、貯めておくもの。という意味だったそうな。それが日本に入ってきた時に、更に転じて「貯められるほどの利益」みたいになったのでしょうか。

部首でいうと、人偏+諸です。次にこの「諸」という字は、「言」+「者」です。「者」という字は、「●●する者」みたいな風に使うわけですが、それを言い表す絵面は中々無かったのか、同じく"シャ"の音を持つ「煮」から音だけ借りて使い始めたそうです。

諸は「諸々の」という使い方をすることからもわかるように、「多くの」といった意味ですね。言偏をつけて、言上する沢山のひと、といった意味あいになったのでしょうか。それに人が多いと書いて「儲」になった。ざっと成り立ちを追っかけてみると、そんなストーリーが見えてきます。

この話も結構面白いかなーとは思うのですが、今回いいたいのは部首や成り立ちの話ではありません。 それより上の画像をよく見てください。何か気が付きませんか。

え、上の画像を見て何も気が付かない?

ボーっと生きてんじゃねえよ!

(一度言ってみたかった)

儲という字をよーく見てみよう

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あれえ、そういや他の字ってどうだっけ?と思って整理してみました。

今回のストーリーで登場してきた諸・者・煮には点はつきません。一方で、同じ「者」という字を含む漢字の中で、点がつくかどうかはわかれます。賭・渚のように「つくり」として出てくる場合も両方ありますし、箸・署のように「あし」として出てくる場合も然りです。

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林先生に聞いてみたい。

この違い、おわかりですか?

では、儲けるという字を、信じる者だと思っている多くの日本人のひとのために解説しましょう。(なんか混ざってきたぞ)

漢字の物語

なんか長々と話しちゃいましたが、結論はシンプルです。点をつけないのは略字です。

じゃあなんで略字が混ざってしまったの?という話になりますよね。朝日新聞にこんな記事がありました。

 現行常用漢字の「者、煮、暑、署、緒、諸、著、都」はいずれも点のない新字体。古くから手書きでは点を付けずに書かれてきたのを反映したものですが、今回追加される「賭、箸」は表外漢字字体表どおり、点付きの康熙字典体です。

 2字とも、JIS2004で「点無し」から「点付き」に字体変更されました。この字体差は、改定常用漢字表のデザイン差に入っていません。

 当用漢字字体表のとき、国語審議会の安藤正次主査委員長は総会における報告で、

 こういう同類の他字との識別の要素でもない微細な部分のことは、みすごされがちです。したがって、この点の有無は、型式のなりたちの上に重きをなさなくなっております。これを見分け、書きわけさせる要はありますまい。

 と、「者」の点を外した理由を述べています(1948年6月1日第14回国語審総会)。しかし今回は、「他字との識別」のためではありませんが、追加漢字には点が付きました。

「改定常用漢字表」解剖 9 - ことばマガジン:朝日新聞デジタル

清朝に作られた康熙字典には、元々「点付き」が正字として採用され、公式には点をつけた文字が使われていた。戦後、字体が不統一でわけわからん!とりあえず当面の間だけでもコレがオフィシャルといえる当用漢字字体表を作ろうとなりました。その時に「別に困るわけでもあるまいし、どっちでも良くね?」となり、点なしが正字になり、点有りは旧字になりました。

それを引き継いだ「常用漢字」にも、点なしが正字でいまに至ります。

ja.wikipedia.org

「儲という字は、常用漢字の中には含まれておりません。しかし、急速にIT化が進む中、それぞれの漢字を整理してコード化する必要性が高まってきました。そうすると、「普段使ってるんだけど当用漢字には定められていない」ものにも、コードを作るために、字体を整理しなければなりません。

「儲」という字を巡る経緯は、下記のようだったみたいです。

どちらも表外漢字なので、点のあるほうが正字です。
1978年のJISは正字だったのに、1983年のJISが勝手に点のない略字にしてしまったために、1983年~2004年の期間、外字を使わないと正しい字が出せなかったのです。
http://www.asahi-net.or.jp/~ax2s-kmtn/ref/jis78-83.html
JIS83制定時の変更点
字形・字体を変更したもの(254字)
4548「堵」、4C59「儲」

“勝手に略字を作るな”という批判を承けて、2004年のJISでもとに戻しました。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/answer.php?qid=1326736763
JIS2004制定時の変更点
印刷標準字体に変更したもの(168字)

漢字について質問です。「安堵」などの「堵」と、「儲」という字が... - Yahoo!知恵袋

 当初作られた1978年の時点では、有職故実に則り(?)点ありを正字としていたものを、1983年には現実社会での普及度合いに従い(?)点なしが正字として収録された。それが2004年以降、批判を受けて元に戻った。

つまりJIS的には、1983年から2004年までは「信じる者」と書いていたのですが、それがここ最近はそうではなくなってきたということです。

なので元々はそれで正しかった。そのため、全く同じコードでも、フォントによっては差異が生じています。デフォルトのフォントをosakaにしているゆとりずむも、Macでは点なしで表示されるはず。他の端末だとどうでしょう。

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常用漢字のほうでも、2010年に追加された「賭」「箸」は点ありが正字扱いですので、世の中の流れとしては、点ありを正しいとする復古的な方向性に動いています。

一方で、既にもう色んな所で使われている「諸」「署」なんかは変えようがない。だって点ありが正しいとなったら、警察署の看板は全部書き換えなきゃならないことになりますね(笑)

もっと可哀想なのが「渚」

srad.jp

カオスだ・・・。

文字を知るということ

こんな面倒くさい思いをするなら漢字なんて廃止しちまえ!という声は、稀によく聞きます。その是非はさておき「文字や言葉を知る」というのは、文化とそれを生み出した人間を理解するための第一歩です。

正しく相手の思いを知り、コミュニケーションをするためには、道具の使い方をしっかりと学ぶ必要があります。なのに、文学を軽んじる風潮があるのは、なんとも不思議なものです。

最近、政治家から「誤解を招いてしまったこと」への謝罪を多く目にしました。政治家にとって必要な資質とは何か。判断を間違えないこと、間違えないための知識を持っていること。もちろんそれも大事です。

ただ間違えることもあれば、知らないこともあって当然です。そこに無謬性を求めるのは酷です。でもね、言葉で商売する以上「誤解を招かせる」というのは政治家として致命傷です。それはひき逃げにも等しい行為なので、ちょっと速度超過しただけ、みたいな感覚で使わないで欲しいなあとおもう今日このごろです。

ではでは、今日はこのへんで。