先日、所用のため有給休暇を頂いたついでに、新海誠監督の「天気の子」を妻と見てきました。なんとなく思ったことなど感想をかいてみたいと思います。
恐らく平均的な32歳(男性)よりは、こうしたアニメ作品を見てきたほうだとは思いますが、評論家ぶるほどの知識も才能もないごく一般的なオッサンの日記です。ひとまず、なるべくネタバレは無いようにしたいなあとは思います。
映画館にいってまず面食らったのが、その客層の広さです。
平日なので多少は空いているかなあと期待していたのですが、夏休みに入ってすぐという時期もあってか、大量の学生さんで満員御礼に近い状態でした。更にママ世代の人や、60代くらいの夫婦、もっとお歳を召している方も見受けられました。
わたし達自身も「なんかストーリーは良くわかんないけど、キレイな東京の景色やカッコいい音楽が映画館のでっかいスクリーンで見てみたいな」くらいの軽い気持ちで見てきましたので、同じような感覚で見に来た人も多いのかな、と思います。
で、映画館から出てきたときの感想はこんな感じ。
なんつーかアレですよ。
— らくからちゃ (@lacucaracha) July 23, 2019
「天気の子」は、「ほしのこえ」から「君の名は」に至るまで、新海誠の全てを煮込んで煮詰めた感じでした。
新海さんの作品は、たぶん自分の意思でアニメを見始めたころから、わりとずーっと見てきたような気がします。本作はこれまでの作品の中で挑戦してきた色んな技法、雨の表現、ピアノの使い方などなど全部てんこ盛りにしてきやがったな!って感じ。
もちろんそれは、いままでの新海さんの努力の結晶だけど、その端々に日本のアニメ業界が培い、育ててきたものが垣間見えた気がしました。
「00年代エロゲっぽい」なんて感想もあったけど、残念ながら当時のそのジャンルのゲームをやり込んではいなかったので、あまりピンとは来ませんでした。わたしの感想としては「大変よくできた深夜アニメ」って感じかなあ。
前作では恐る恐る織り交ぜてきた深夜アニメの表現技法を「怒られても良いや」と吹っ切って、全面に開放してきた感じって言えば良いのでしょうか。
分かりやすいのは、ヒロイン像とかでしょうか。人によってはそれを「エロゲっぽい」というのかもしれないし、実際にその要素も含まれていると思うんだけど、これってずーっとこの業界が研究してきた正統派ヒロインの姿じゃない?
私は2006年に大学に入学し、2010年に会社員になりました。ちょうどニコニコ動画などでの二次創作も流行し、比較的ライト層の若者にも深夜帯でやっていたアニメが一般化してきた時期にも重なります。東のエデンとか、マクロスとか、そんな作品の話を男女問わず良くしたもんです。
学校や職場で、ただ目の前の現実世界に没頭する日々の中、缶チューハイ片手に空想の世界に没頭できたこれらの作品には、特別思い入れがありますし、おこがましい言い方をさせてもらうと一緒に時代を重ねてきたような感覚すらあります。
前作の感想でも書きましたが、クリエイターと観客をつなぐ「結び」のようなものも、なんとなく感じた気がします。
深夜アニメなんて、視聴者も少ないし市場もさして大きくありません。そんな中で、多くのひとが、自由に、そして意地を張り、みんなで盛り上げてきたわけです。本作の中には、過去の積み重ねてきたレガシーがそこかしこに見えてくる気がするんですよね。
そうして作り上げてきたカルチャーが、これだけ多くの人に受け入れられているのは、とても感慨深いものでもあるし、だからこそ18日の火災で還らぬ人となった京都アニメーション関係者にもぜひ見てほしかった。
新海監督作品の特徴としてよく取り上げられる「絵」への徹底的な拘りは、京アニの得意とする分野でしたね。通っていた大学が、涼宮ハルヒの憂鬱の舞台の近くでしたので、背景の元となった場所の近くを通ることもよくありましたが、良くあそこまで忠実に再現したもんだと関心したものです。
何も京アニの専売特許というわけではないはずですが、彼らの作品に直接間接携わった人たちや、その作品に憧れて努力を重ねて来た人の多くが本作にも関わっており、その功績と影響を一切受けずに来た人は一人としていないでしょう。
ディズニーは、「くまのプーさん」以来すっかり手書きのアニメーションから手をひいてしまい、もっぱらCGばっかり作るようになってしまいました。アレはアレで良いものですけど、職人芸が求められるアニメづくりは一度火を落とす途絶えてしまいます。
絵だけでなく、キャラクター作り、心理描写、音楽などの使い方、あらゆるものが多くの人達の積み重ねてきたもので出来上がっています。本作が多くの人に受け入れられたとするならば、それは業界全体の勝利です。その輪の中にいなければならない人たちが、そこにいないのが、とても悲しいのです。
事件の後、どう考えても辛くなるだけなので、この件に触れるのは意識的に控えていました。でも良かったところ、悪かったところ、感想を整理していると、どうもこの気持が消えないんですね。
封切りを間近に控え、楽しみにしていたひともきっと多いでしょう。
映画館から出てくる人たちの感想を聞かせてあげたかったし、どういう風に思ったのかも聞いてみたかった。きっとクリエイターだからこそ分かること、言えることも沢山あったでしょう。そして本作を受けて、作品作りがどう変わるのか、あるいは何が変わらないのかも見てみたかった。
そんなことを頭に浮かべながら、「愛にできることはまだあるかい」を聞いていたら、亡くなられた人たちへの鎮魂歌にしか思えなくなってきました。
現実は物語よりもずっと残酷です。 だからこそ人は、物語に救いを求めるのかもしれない。そうやって皆さんの紡いできてくれた物語のお陰でいままで前に向かうことが出来た。その価値は、すべての人の心の中に残り続けます。
多分、色んな意見はあることでしょうけども、きっとこれは到達点じゃなくて通過点なんだと思います。
これからもどうか見守って貰えればと思う次第です。
らくからちゃ