ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

コンビニビジネスの諸悪の根源は『ドミナント戦略』と『フランチャイズ制』の相性の悪さじゃねえの

こんにちは、らくからちゃです。

今年度から、働き方改革だかなんだか分かりませんが『45時間以上の残業はNG』とか『有給休暇は最低5日取るべし』とか、良いことなんでしょうが面倒くさい世の中になったもんです。

そんな流れも受けてか、コンビニの24時間営業を見直すべきなんじゃないの?といった話を良く耳にするようになりました。

学生時代、家の近所のコンビニでずっとアルバイトをしてきた(勤続4年!)当時を懐かしみながら色々な議論を聞いているんですけどね。たぶん本当に24時間営業をやりたいなんて思っているオーナー・店長なんてほんの一握りですよ。店舗側からすれば無駄でしかないケースがほとんどじゃないのかなーと思うんですよ。

どうもモニョるのは、なんか議論が核心部分を避けているというか、何故それでも24時間営業を続けるのかというと、コンビニエンスストアなるシステムが『ドミナント戦略』と『フランチャイズ制』という、水と油どころか、塩素系漂白剤と酸素系漂白剤くらい混ぜるな危険な代物によって作り上げられたものだからという点が避けられている気がするんですよね。

  • 不必要な深夜営業
  • 過剰な商品廃棄
  • オーナーの過重労働

これら全ての根幹にも関わる「コンビニビジネスの諸悪の根源」と言っても良いかもしれません。

深夜に客が居なくとも仕事があるって本当?

コンビニの深夜営業の是非といったテーマの議論をすると必ず話題に上がるのは「客がいなくとも店内清掃や商品補充の仕事がある。店はついでに開けているだけで、不必要に人を働かせている訳ではない」という話。

私は早朝(6:00-9:00) と 夕方(17:00-22:00)をメインにシフトに入っていましたが、土日は昼間(9:00-17:00)や、人手の足らない盆暮れ正月は深夜(22:00-6:00)にも働いていました。

確かに指摘されている通り、コンビニ店員は深夜客の来ない時間帯に商品の補充をしたり、店内の清掃をしたりしております。私が、アルバイトをしていた当時だと、

  • 23:00 - おでん什器やフライヤーの清掃
  • 24:00 - 雑誌類の品出し
  • 01:00 - 店内清掃
  • 04:00 - 米飯(お弁当類)などの品出し
  • 05:00 - パン類の品出し 

みたいな感じだったかな。

住宅街の駅前の店でしたが、終電が終わってから始発が始まるまでは殆どお客さんは来ません。そういう時、コンビニ店員は、裏でぼけーっとマンガ読んでたりしています。たまーにふらっとやってきた人が、延々と立ち読みしていると、ずっと売場に出てなければならないので「はよ帰れー」と念を送っていましたね(笑)。

コンビニエンスストアは、必要最低限の面積しか持たない店舗です。

冷蔵の必要な商品は、店頭に出ているものが基本的に全てです(イベント時などはウォークインに在庫を持ったりしますが)。品切れしないためには、高頻度の配送と補充が不可欠です。

また日中は店内に客がおり、作業スペースが確保しづらいため、床やトイレの清掃、菓子類や雑誌などの補充は客の居ない夜間に行う法が効率的です。

しかし加盟店側の立場からすれば

  • 絶対に深夜でしかできない作業があるか?
  • 全ての店舗で深夜での作業が必要なのか?

といえばそうでもないんじゃないのかなあと思うんですね。

深夜営業の面倒臭さ

コンビニエンスストアで働いている人は、時間帯によってタイプが変わります。多分、店舗によっても違うんでしょうけど、私の働いていた店だとこんな感じでしたね。

  • 早朝:学生がメイン・一部主婦
  • 日中:主婦がメイン・一部学生(土日など)
  • 夕方:学生がメイン
  • 深夜:フリーターがメイン・一部学生

学生や主婦は、日中別の活動を行っているため、深夜の時間帯には殆ど入りません。深夜帯に主戦力になるのは「時間は選ばないので時給が高いほうが良い」と考えるフリーターの人がメインでした。

ぶっちゃけ、オーナーは彼らにかなり気を遣っていましたね。

私の働いていた店では、菓子類の補充は夕方勤務の仕事でした。この時間は、会社帰りに立ち寄る人も多く、レジなどの仕事量も多い時間ですので「お菓子の補充は深夜に回せませんかね?」と交渉したこともあります。ただ、オーナーは「いやあ、深夜の人の機嫌が悪くなっても困るしねえ...」と難色を示しました。

夕方の時間帯を希望する学生なんて、幾らでも募集に来ます。2−3日研修してみて「あ、コイツ使えねえな」と店長が判断したら「ゴメンなさいねぇ。あなたが入れるシフトに空きがなくて」とやんわりお断りしたり、中々引き下がらない人には「正直、あなたと一緒に働きたいって子が居ないのよね」と戦力外通告をするくらいの余裕はありました。(そうならないように、必死で教育するのが私のお仕事でしたが・・・)

それに比べると、深夜帯のフリーター層は、採用は困難です。また4−5人体制で行っている夕方帯と異なり、2人体制の深夜帯はバッファも少なく、体調不良者が出るとオーナーが緊急出動することもありました。そしてオーナーが店舗に居ない時間帯だけに、監視の目も行き届きにくくなるため、信頼関係を築くのが難しいという事実もあります。

こうした調整の結果、1時から4時くらいまでは、することもなくぼーっとしてることは多かったような気がします。

住宅街の比較的忙しい店舗でもこの状況なわけです。オーナーから聞いた話によると、オーナー会で仲良くなった工場団地の真ん中にある店舗なんて、もっとすることがなくて、23時以降はシャッターを下ろしたいと言っていたと聞いたこともあります。

じゃあなんでコンビニは深夜営業を止めないのか。そこでキーワードに上がるのが「ドミナント戦略」です。

オーナーが恐れているもの

ところで皆さん、コンビニのオーナーが一番恐れているものって何だと思います?

さっきあげたような深夜の人手が見つからないこと?それともムダな人件費がかかること?まあそんなことは些事に過ぎません。なんなのかというと、近隣にコンビニができること、それも同一チェーンのコンビニができることです。

コンビニなんてのは、基本的にはどこに行っても同じようなもんです。というか同じようになるようにやっています。

本部の人間は「それぞれのお店のファンを作りましょう!」みたいな美辞麗句を並べますけどね。そんな人はごく一部です。

毎朝お気に入りの店員さんに「いつものアレ」といってセッター10mmボックスが出てきて欲しいおっちゃんや、アルバイトをしているお孫さんの顔を立てたい農家のじいちゃんや、「絶対に閉店すんなや」と圧力をかけてくる近隣にアパートを所有している地主以外は、だいたい近くに別の店舗ができればそっちに行っちゃいます。

特に、同一チェーンであれば、セブン銀行もnanacoもセブンカフェも使えますし、取扱商品もだいたい同じなので、普通は近い方に行きます。で、これがさっきから言ってる「ドミナント戦略」なんっすよ。

ドミナント戦略の旨味

ドミナント戦略というのは、もともとはセブンイレブンが導入した店舗を一定地域に集中して出店する戦略です。ただまあ今となっちゃ、大手三社はどこも程度の差こそあれ、ある程度意識しているんじゃないでしょうか。というのも本部側からすれば「フランチャイズ制」と組み合わせることで、ガッツリ儲かる仕組みだからんですよね。

普通に考えれば、同じ看板の店舗を出すなら、お客さんを奪い合うカニバリ(共食い)が発生しないよう、商圏が重ならないようにしますよね。でも多くのコンビニは、その常識を覆し、あえて集中的に展開されています。

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そんなことして大丈夫なの?と言われれば、加盟店側はあんまり大丈夫ではありません。ただフランチャイズを運営する本部は、コレがまた美味しいんですよね。

顧客の囲い込みが可能

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ドミナント戦略の利点として真っ先に上げられるのが『顧客の認知度が高まり、広告効果が大きい』というものです。

誰だって、初めてのお店に入るのは敷居が高いと思いますけど、同一チェーンのお店に行ったことがあれば、前に行ったところと同じ感じかなあと気軽に入ることができますよね。それだけでなく生活圏に同一チェーンを集中させることによって、顧客をエコシステムに組み込んでいくことができます。

例えば、セブンイレブンの場合、大抵の店舗にセブン銀行のATMが設置されています。私が利用している銀行は、セブン銀行ではATM手数料が無料なので、何かあったらひとまずセブンイレブンに行けば良いんだなあとなるわけですね。

ただそうした銀行のカードを作らせるためには、生活圏内にセブンイレブンが大量にあることが重要です。ドミナント戦略が狙っているのは、そうした顧客を取り込み、自社のヘビーユーザーとすることですね。

物流費用が削減可能

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また販売面だけでなく、物流面でも当然店舗が集中していたほうが効率的な配送ができます。

前にも述べましたが、コンビニというのはビジネスモデル上、

  1. 身近な場所にあってコンビニエンス(利便性)を高くする
  2. そうすると店舗は大型化できない
  3. 売り場面積は最小限かつ在庫を店内にほとんど持てない
  4. 常に補充をしなければならない
  5. 高頻度の配送が必要

という仕組みになっています。ですので常に輸送コストとの戦いが生じます。そこで、なるべく集中して出店し、効率的に輸送をする必要があります。

交渉力の強化が可能

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あとこれは表立っては言われませんけど、集中出店を行うことにより、スケールメリットを活かして交渉力を強化することも可能です。コンビニというのは巨大なシステム産業ですので、多数の企業が関連することになります。

お弁当を作ってくれる食品工場や、商品を運んでくれる運送業者なんかはイメージがつくと思いますけど、店舗そのものを建設する工務店やら、その他にも多種多様な企業と関係を持つことになります。

ただでさえ面倒の多い仕事ですので、言うことを聞いてくれる貰うためには一定の交渉力が必要です。そこで役に立つのが、数のパワーです。これだけの規模を安定的に発注するんだからその分勉強してねと迫ることもできますし、いちから新規に取引先を開拓するよりも効率的です。

ドミナント戦略とフランチャイズ制の相性の悪さ

ただね。こうして書いている内容は、殆ど全部、フランチャイザーである本部側のメリットなんです。間接的に、フランチャイジーである加盟店にもメリットはありますが、そこには大きな利害の対立があります。

1.深夜営業

加盟店側からすれば、昼間の人間を増やして、配送スケジュールさえ見直して貰えれば、わざわざ深夜営業が必要なくなる店舗"も"あるでしょう。

でもこれは、本部側からは受け入れがたい要求です。

まず「○○なら24時間空いている」というふうに顧客に刷り込みブランドイメージを作っています。営業時間がマチマチになると「あのチェーン店は、24時間じゃないかもしれないし、別のところに行こうかな」と顧客が流出する可能性が生じます。

また、それぞれの店舗の事情に合わせて物流経路やスケジュールの見直しも必要になります。更に、昼間の時間帯に配送が集中すると、荷降ろしにかかる時間も短縮する必要がありますし、トラックの台数も増やさなきゃならなくなる。

本部としては避けたいところでしょう。

2.廃棄問題

また狭い店舗なのに、多くのコンビニでは賞味期限切れとなり売り切れが出るほどの寮の商品を発注しています。言い直しましょう。させられています。

コンビニという店は、ただ身近にあるだけでなく、スーパーよりも多少割高だったしても、常に欲しいものが手に入ることをウリにしています。ですので欠品(売り切れ)を発生させることは、チェーン全体の信頼を貶める行為であるので、必ず避けるべしと本部からキツく指導されています。

またコンビニでは商品が売れたことによる利益の一部をロイヤリティとして本部に支払う契約になっています。以前、裁判にもなりましたが、何故か廃棄になった分も売れたものと見なし、ロイヤリティがかかるんですよね。

コンビニエンスストアにおける損益計算は、企業会計上で一般的に行われている計算と違い、廃棄ロス(販売期限切れや汚破損などで販売できなくなった商品)や棚卸しロス(帳簿上の在庫と実際の在庫の差)にもロイヤリティーをかける商慣習がある。そのことについて、宮城県内でセブン-イレブン店を運営しているオーナーら5名が、同本部に対して損害賠償を求めた裁判である。

平成17年2月24日、東京高等裁判所は加盟店オーナーの言い分を認めセブン-イレブン本部に約2,243万円の支払いを命じる判決を出す[1]。しかし、セブン-イレブン側はこの判決を不服とし上告。

平成19年6月11日、最高裁判所は東京高裁の先判決を破棄し差戻す判決をし、事実上、セブン-イレブン本部の逆転勝訴となった。

ロスチャージ裁判 - Wikipedia

つまり、売れても売れなくても本部は儲かる。そして「チェーン全体の利益」の名のもとに、廃棄になってでも発注せよと指示している。更に発注量が増えることにより、お弁当工場の稼働率は上がり、本部の交渉力は更に上ると。

この構図がある以上、廃棄は減らんでしょうな。

3.過重労働

集中して店舗展開を行えば、当然エリア内でアルバイトのなり手は枯渇します。少ない人手で店舗を回そうとするから、仕事はよりキツくなり「こんなにコンビニが大変とは思わなかった」と離れていくひとが続出する。

普通の企業であれば経営の危機ですが、フランチャイジーである加盟店のオーナーは、当初支払った加盟金や研修費などを取り戻す必要があるため、そう簡単には止められません。

またコンビニのフランチャイズ契約を結ぶには、通常2人以上、それも家族を巻き込む必要があります。1人で始める!と言われて、その人が倒れて営業停止になったらいかんからだそうですけど、家族を巻き込んでいる以上、簡単に投げ出せるものではありません。

でまあ、アルバイトが急に辞めたからといって「アルバイトが見つかるまでお店閉めますね」なんてこと本部が認めるわけがない。当然「死んでも開けろ」でしょ。通常の雇用契約にはできない、フランチャイズ契約だから為せるワザです。

コンビニビジネスの功罪

とまあ「ドミナント戦略」と「フランチャイズ制」がいかに悪魔的組み合わせなのかを語ってきましたけど、全てが全て悪いことばかりだったのかなー、というとそうでもないわけですよ。

下図は、コンビニの国内絵店舗数推移です。国内のコンビニ数は、これまで順調に増えてきました。

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(出典:【主要7社】コンビニの国内店舗数推移をグラフ化(1983年~))

増えすぎたからこんなことになったんやろ、と言われたらそのとおりです。でもこうして店舗数が増えてきたことで、消費者は近くて便利なところに店舗があるという恩恵を少なからず受けてきました。関連産業だって大いに育ってきたわけですし、消費者に広く受け入れられることで加盟店が受けてきた恩恵だってゼロじゃあないでしょう。

ただ此処から先、更にいままでと同様のやり方を続けていくとすれば、ドミナント戦略とフランチャイズ制の間で生じる歪みはますます大きくなっていくでしょう。

本件に関して、個別の問題に感情的に立ち向かうのではなく、根源にあるコンビニを形づくってきたこの2つの仕組みの有り様については、きちんと向き合っていったほうが良いんじゃないのかなあと思う今日このごろです。

ではでは、今日はこのへんで。