ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

簿記とは何か?10分くらいで分かるようにまとめてみる

こんにちは、らくからちゃです。

今週日曜日は、日本商工会議所主催の簿記検定の試験日ですね。この時期が近づいてくると、一生懸命電卓を叩いて過ごした学生時代を思い出します。

『簿記』は、ビジネスマンでの必須知識にもかかわらず、義務教育はおろか、高校でも通常は商業科でしか教わりません。そこで皆さん、勉強のために簿記検定を受験するのですが、3級でも合格まで100時間(!)もかかるという説もあります。

ただこの時間には、一部の人にしか必要のない知識を学ぶためだったり、計算に慣れるための時間も含まれています。個人的な意見ですが、社会人として必要な『簿記のエッセンス』を学ぶ為に必要な時間は、10分くらいあれば十分なような気がします。

今日はそんな、『簿記のエッセンス』について、ちょっとだけ触れてみたいと思います。ただ思った以上に深掘りしてしまったので、シンプルにしたバージョンとしては、こちらのほうが分かりやすいかもです。

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そもそも簿記ってなんだ?(財務諸表・簿記・会計学の関係)

 簿記というもののは、英検やFPなどと異なり、『そもそも勉強する前に、それが何なのか理解している人が少ない』という不思議な技術です。そもそも名前から何を意味するものか、あまり想像がつかないですよね。

この名前に関しては、諸説ありますが、明治時代に福沢諭吉(1万円札のひと)が『帳簿記入術』として紹介した、一連の経営管理の技術が、『簿記』と略された、という説が有力です。

ものすごく雑にまとめると『帳簿をつけるために覚えておくべきこと』といった感じでしょうか。

では何を学ぶ必要があるのでしょうか。会社は、様々なひとから、それぞれの理由で『経営の状態』に関心を持たれています。

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会社は、そういった多種多様なステークホルダー(利害関係者)に対して、経営の状態を正しく伝える義務(アカウンタビリティ)が有ります。いわば『今うちの会社ってこんな感じです』という状態を伝える通知表のようなものが、『財務諸表』です。

そして、簿記は『財務諸表』を正しく作るための一連の技術、ということになります。(厳密にはちょっと違うのですが・・・)あと、『会計学』という言葉も良く聞くと思いますが、これは『簿記』の根拠となる理論をまとめた学問です。

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会計学の基本

細かな簿記の話に入る前に、すこしだけ会計学の話もしてみたいと思います。

財務諸表は、非常に多くの人に利用される可能性のある資料です。その為、誤解が生じないよう、誰が読んでも分かりやすいように作る必要があります

会計学とは、色んな学者さんがどうしたらより分かりやすいか、そして無理なく財務諸表にすることが出来るか?をまとめた学問体系になります。

例えば、商品を販売すると『売上』になりますよね。では厳密にはどのタイミングで『売上』となるのでしょうか?

  1. 契約がとれたタイミング
  2. 出荷したタイミング
  3. 納品し検収してもらったタイミング
  4. お金を払ってもらったタイミング

基準がないと、皆好きなタイミングで形状してしまいます。そうすると会社ごとにどんなルールで処理されているのかをいちいち調べなければならないようになります。それでは財務諸表を比較するには難しいですよね。

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ちなみに会計学の考え方では、売上を計上する場合の原則は、3番の『納品して検収して貰ったタイミング』とされています。小むづかしい言葉を使うと、実現主義の原則、なんていうのですが、『客観性』と『確実性』をもって、『お金を払って貰えること』が確定したタイミングを売上発生のタイミング、という風に考えます。

こういったルールは、法律で決まっているのでしょうか。実は会計の基本的なルールについては法律には定められていません

財務諸表の作り方に関すしては、

  1. 会社法
  2. 金融商品取引法
  3. 各種税法

などで定められています。それぞれ狙いが違うため若干内容は異なりますが、どれも一番重要な部分については、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(GAAP)に従えと記載がされています。

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『一般に公正妥当と認められる会計処理の基準』とは、法律に定められている部分や、基準として財務会計基準機構(FASF)が定めたものに加え、各民間機関が発表している『こんな時はこういう風にしたらいいと思うよ』というQ&Aによって構成されています。

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ビジネスなんて日々進歩するものですから、いちいち法律が出来るのを待ってられませんよね。またビジネスの形態もそれぞれです。会計の規則は、大前提となる基準や一部法律で定められている部分を除けば、模範解答はあるものの、『常識の範囲内でやろうね』ということを前提として運用されています。

そして細かな部分は『原則』の趣旨に一致する範囲で、業種業態にあうように経営者がある程度自由に判断して行うことが認められています。これを『経理自由の原則』と言います。

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会社とお金の流れの基本(経営学の基礎の基礎)

ルールの一致は図るものの、ビジネスの形態は、会社によってそれぞれであるため、原則に従った上で、細かな部分については最も妥当であると思われる方法でやってね、というのが会計の基本的な考え方です。

しかし、どんな会社であっても、大きなお金の動きは変わりません。

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事業を行うためには必ず資金が必要です。お金は、『一緒に会社を作ってみない?儲かったら儲かった分だけ利益を払うよ!』といって集める方法と『新しく事業を始めるからお金貸してくれない?』といって集める方法の二通りがあります。前者でお金を出してくれる人を株主、後者でお金を出してくれる人を債権者、なんて言い方をしたりしますね。このお金を集める活動を『財務活動』といいます。

そして、集めた資金を元に、お店を借りたり工場を建てたりして、事業に必要なものを揃えていきます。これを『投資活動』といいます。

これで、商売をすることが出来ますね。商売の目的はただ一つ。集めたお金を増やすこと。 安く買って高く売る。これを『営業活動』といいます。そうして儲かった分で、最初に調達した株主や債権者に資金を還元しながら、次の投資にあてる資金を増やしていく。これがどんな会社でも共通のルールです。

もう少しだけ細かく見てみましょう。

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財務活動で集められた資金のことを、まとめて『資本』と呼びます。細かくいうとそのうち株主から預かった『返さなくてもいいお金』である資本金と『過去の儲けの蓄積』である剰余金を、あわせて『自己資本』と呼びます。債権者より預かった『いずれ返すお金』を借入金は『他人資本』なんて呼び方もします。

資本をもとに投資をし、投資されたものを上手に組み合わせて付加価値を生み出して、元手を増やしていく。このサイクルは、どんな会社でも変わりません。

まずは、このイメージを頭のなかに描けるようにしましょう。

簿記の基本は貸借平均(貸借一致)の原則

財務諸表は、『経営の状態』を表すための基礎的な資料です。ですので、『経営』ってそもそもなんだ?というところを理解する必要があります。経営を極限までに単純化すると、

  1. お金(資本)を集める。
  2. お金で物(資産)を買う。
  3. 物を買った時以上のお金で売る。

このサイクルの繰り返しになります。そして、簿記の世界では、資本額の合計は、資産額の合計と必ず一致するものと考えます。これを、貸借平均(貸借一致)の原則と言います。それがどういうことか、説明していきましょう。

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簿記の世界では、集めてきた資本を右側に、その資本に対応する資産を左側に並べて書いていきます。なお、左側のほうを『借方(かりかた)』右側のほうを『貸方(かしかた)』と言いますが、これは深い意味は有りません(あるんですが考えなくて良いです)。右近の橘と左近の桜みたいな決まり文句だと思って下さい。

4月1日、AさんとBさんにそれぞれ100万円ずつお金を出してもらい、商売を始めることにしました。また、Cさんからは100万円のお金を借りました。その時、会社の資産は現金が300万円、資本は借入金が100万円と資本金が200万円ですね。

4月10日、お金は眺めていても増えませんので、まずは商品を300万円分買います。簿記の世界では、資産の金額は、原則として買ってきた時の金額で評価します。これを、取得原価主義、といいます。すると、現金が300万円減って、商品が300万円増えます。

4月15日、買ってきた商品は500万円で売ることが出来ました。200万円の儲けですね。そうすると、300万円の資産(商品)がなくなり、500万円の資産(現金)が発生しました。残った差分は、『儲け』として資本(剰余金)の増加として考えます。これでまた、資産と資本の金額が一致しましたね。

4月20日、Cさんから借りたお金のうち半分の50万円を、利息の10万円をつけて返済します。これで、60万円分の資産(現金)が減り、50万円の資本(借入金)も合わせて減ります。10万円分の差額は、費用として剰余金から支払った、と考えます。

4月25日、今度はお給料を40万円分支払います。40万円分の資産(現金)が減り、お給料は利益から捻出するとし、40万円分の資本(剰余金)を減らします。

4月30日、利益の中から、AさんとBさんに対して、株主になってくれたお礼である配当金を50万円分支払います。これも、利益の中から出しますので、50万円の資本(剰余金)を減らし、50万円分の資産(現金)も減らします。

仕訳と複式簿記

つまり、資産が増加するときは、それと一致するだけの別の何かが増減します。ひとつの行為には、必ずそのインプットとアウトプットがある。この考え方を、『取引の二重性』といいます。

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簿記の世界では、帳簿に記載するべき事項を『取引』といいます。例えば、売買契約を結んだだけでは、まだ帳簿にはなにも書きませんので、取引とは言いません。逆に、商品が盗まれたことが分かった場合、それは帳簿に載せなければならない(資産の減少)ので、取引といいます。

取引別に、資産・資本が増加する場合『本来の位置』と同じ位置に内容を記載し、減少する場合は、逆の位置に内容を記載します。例えば、『商品300万円分を現金で買った』だと、下記のようになります。

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商品も現金もそれぞれ『資産』ですが、商品は『増加』するため本来の位置である借方に、現金は『減少』するため本来の位置と反対の貸方に記載します。

では次、『300万円の商品が500万円で売れた』だとこうなります。

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今度は、現金が本来の位置である借方、商品がその逆の貸方に入ってきますね。そして今回は、ただ単純にものを動かしただけでなく、利益が発生する取引です。発生した差額は、『剰余金』としておけば、全体の貸借にズレは有りません。

この取引別に作られた記録のことを『仕訳』といいます。全ての取引は、『仕訳』に変換されたあとで、処理が行われていきます。こうした仕訳別に作られた結果を集約すると、財務諸表になります。これを『複式簿記』といいます。

仕訳は、現金や商品などの『勘定科目』ごとに行われますが、その定義は法律で定められているわけでは有りません。会計学的に、『こういったものは別々の科目に分けなさいよ』ということは決められていますが、科目名が一字一句まで決められていたり、この場合は必ずこれ、という風に決められている訳では有りません。

交際費や会議費の取り扱いや、法律上定義がはっきりしているものについては、最終的にその形式に合わせなければならないので、それに合わせている例も多いかと思いますが、原則どんな勘定科目を使おうと自由です。

財務3表とその関係

さて、冒頭にも上げましたが、簿記の目的は『財務諸表』を作ることです。財務諸表は『仕訳』の結果を集約することで作ることが出来ます今まで見ていた、『右側に資産』『左側に資本』と並べた表も、既に『貸借対照表』と呼ばれる財務諸表ですが、仕訳をすべて科目別に集計して、借方側にも貸片側にも出てきた科目は、相殺してやれば貸借対照表の出来上がりです。 

ただ、これだけだと『いまの会社の財務と投資の状況はわかるけど、剰余金がどういった理由で増えたのか、営業の状況がよく分からんなあ』ということになります。

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そこで、それぞれの剰余金の増減を、直接剰余金を増やしたり減らしたりするのではなく、一旦『収益』『費用・損失』といった形で、その理由毎に金額を集計します。そして、差分として発生した利益を一定期間(通常一年)ごとに剰余金に振り替える、という考え方を行います。

この、一定期間ごとに作られる、剰余金の増減の内訳を示した財務諸表が『損益計算書』になるわけですね。この考え方にそって、それぞれの仕訳を再度整理しなおしてみると、こんな感じになりますね。

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4月30日に、発生した収益・費用を、すべて取消、剰余金に振り替えていますね。損益計算書を見てみると、この期間の利益は150万円となっていますが、その金額分、剰余金を増加させます。これで、損益計算書上の一定期間の『利益』が、貸借対照表上の過去積み上げられた『剰余金』に振り返られます。

ちなみに、『剰余金の配当』は、株主に利益を還元しただけですので、これは損益計算書には載せません(ややこしくいうと、資本取引損益取引区分の原則、なんていいます)。

あと重要なポイントが、会計上の『利益』が発生していたとしても、剰余金がたくさんあったとしても、借入金を期日までに返済することが出来ない場合、企業は『倒産』してしまいます。例えば、4月18日の段階で、全ての現金を使ってあたらしい商品を買っていたら、借金が返せなくなっちゃいますよね。

借金は、現金で返さなければならないので、その一番大切な現金について、どういった動きをしているのか?をまとめたものがキャッシュ・フロー計算書と呼びます。ちなみに余談ですが、

  • 収益・・・剰余金の増加(商品が売れたなど)
  • 費用・・・意図して発生した剰余金の減少(給料を払ったなど)
  • 損失・・・意図せず発生した剰余金の減少(商品を盗まれたなど)
  • 利益・・・ある一定期間の収益-費用-損失
  • 収入・・・現金の増加(商品代の回収など)
  • 支出・・・現金の減少(借金の返済など)

というふうに呼び分けます。よく新聞などで『増収増益』という言葉を聞くことがありますが、これは『益(売上)も増えて利も増えたよ!』ということを意味しています。

主要簿と補助簿と伝票制

財務諸表、全ての仕訳情報が記録された『仕訳帳』とその結果を集計した『総勘定元帳』から作成します。ところが企業の規模が大きくなり、社員の人数も増えていくと、取引が同時多発的に発生して、仕訳帳を記入するのが大変になります。

伝票制

そこで考えられた仕組みが『伝票』です。例えば商品を購入する際には、こういった『仕入伝票』を記入します。 

チェーンストア 統一伝票 手書用NOあり 5P (100セット入り)
 

 伝票を使うメリットは大きく以下2つです。

  • 複数の担当者で取引の記録をすることが出来る。
  • 伝票を使い分けることで、勘定科目を意識することなく使える。

まず現場の担当者がそれぞれ記入することで、担当者が仕訳帳を持ち歩いたり、都度経理担当者に連絡する必要がなくなります。経理担当者も、伝票が届く都度処理すればいいので事務負担が減少します。

また伝票には、おおきく分けて以下の5種類があります。

  1. 出金伝票
  2. 売上伝票
  3. 振替伝票
  4. 入金伝票
  5. 仕入伝票

1〜3のみを使う方式を三伝票制。4・5も使う方式を五伝票制といいます。例えば仕入伝票であれば、使う科目は常に『仕入/買掛金』となるというふうにルールを決めておけば、集計が簡単になりますね。

補助簿

そしてもう一つの工夫が『補助簿』です。沢山の取引を管理する仕訳帳や総勘定元帳に記入する内容は、手間を考えると可能な限りシンプルにすべきです。

ところがそうすると、『買掛金 100万円があるけど、これってどこの取引先のものだ・・・?』ということが分かりづらくなってしまいます。そこで財務諸表を作るために必要な『主要簿』には最低限の情報を記載し、その他必要な情報は『補助簿』に記載して管理する方法が考えられました。例えばこういうものです。 

弥生 兼用元帳(得意先/仕入先用) 332007

弥生 兼用元帳(得意先/仕入先用) 332007

 

補助簿にはおおきく分けて

  • 補助記入帳・・・仕訳帳の内容を補足するもの
  • 補助元帳・・・総勘定元帳の内容を補足するもの

の二種類があります。補助記入帳については大きく以下2通りの考え方があります。

  1. 主要簿・補助簿併用制・・・補助記入帳は仕訳帳を補足するものである
  2. 特殊帳簿制・・・補助記入帳は仕訳帳を一部代用するものである

それぞれ転記のタイミング等のルールが若干異なりますので気になる方は調べてみて下さい。補助記入帳があれば、取引の内容は、それぞれの補助記入帳に詳細を記録することが出来ます。特殊帳簿制を採用すれば、補助記入帳自体が仕訳帳として機能し、直接その結果を総勘定元帳に転記する方法も採用できます。

また取引の内容を、取引先別等に『補助元帳』に記入すると、取引先別等の情報が分かりやすくなります。

まとめるとこんな感じでしょうか。

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まとめ

エッセンス・・・といいながら、会計の話やらなんやら色々と脱線しすぎてしまいました。(;´Д`) また、もっともっと奥の深い世界がここから色々と始まっていくのですが、もうちょっとその辺も触れたほうが良かったかしら・・・と反省中。(減価償却くらいは触れておいたほうが良かったかもですね。)ただ、本稿で触れた『考え方』は全ての簿記の考え方に共通のものになりますので、頭の端っこにでもいれておいて貰えればいいかなあと思います。

小難しい話はいいんだよ。さくっと分かりやすく説明してくれよ!って人には、こちらのマンガが超絶お薦めです。その魅力についてしっぽり解説いたしましたので、よろしければ是非!

ちゃんと勉強されたいのであれば、この本がいま一番お薦めです。

2時間で丸わかり 会計の基本を学ぶ

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 また、もう少し時間があるようであれば、おすすめできる書籍の一覧を、会計の各ジャンル別にこちらの記事にまとめてみました。よろしければぜひ!

2016年度簿記検定の日程(申込期限・開催日・合格発表・合格証書発送)

なお、2016年度の簿記検定の日程について、下記のページにまとめてみました。

合格発表の日にちとか、結構ややこしかったりしますので、よろしければこちらも是非!

ではでは、今日はこの辺で。

 

2016/06/07 更新:2016年度の日程について 
2016/12/29 更新:主要簿・補助簿について