こんにちは。らくからちゃです。
さて、サラリーマンをしていると、『他所の会社の仕組みってどうなっているんだろう?』と気になることが有ります。大抵、自社の謎ルールを発見したときですが・・・。ただ、聞いてみると、会社間の違いが見えてきて面白いものです。え!お前んとこそんな近距離で出張手当もらえんの!?とかね。
今週のテーマは夏の人事だそうですが、何度かご紹介させて頂いた、『残業しない会社』の友人氏も7月1日付で『常務執行役員 国際化担当』から『執行役員兼システム事業本部長』に転身されたそうです。
『やだよー、ほとんどスタッフ系だったから、ライン系とかむいてないよぅ(´Д⊂ 』と愚痴られておりましたが、しっかり働いてくれればよいかと思います。
そういや、以前書いた記事の中で、こんなコメントを貰いました。
id:diamond523 これはもう残業云々というレベルの話じゃないな。いや残業の有無はそのままマネジメントの成否を表してるということか。残業が常態化している企業は、単純にマネジメントが悪い。
確かに、話を聞いていても、色々な『しかけ』がぽんぽんと出てくる。それも、トップダウンで強制的に押し付けられているというより、社員みんなの総意と創意で作られ、きちんと軌道にのるように『しつけ』られている。
前回は、考えたら『当たり前』のことをしっかりみんなで守る『しかけ』についてご紹介してみました。今回は、そういった『しかけ』と『しつけ』を生み出す『しくみ』について、ちょっと他の会社と違うかなあと思ったところについて、聞き書きをまとめてみます。
組織の形
組織の体系としては、一般的な『事業部制』の会社です。事業部はかなりコンパクトな単位でまとめられています。以前、下記で書いてみたように、残業している仲間が居ないか目が届く範囲の10人くらいに抑えられています。
全部で14個ほどの事業部があるそうですが、その上の組織として4つの『事業本部』があり、それぞれ3つずつ事業部を束ねるという組織構造です。『事業部』と『事業本部』の関係は、会社によってそれぞれですが、こちらでは事業部のほうにパワーがあり、事業本部はそれぞれの事業部をサポートするという体制をとっています。
ほかには、4人いる専務のもと、それぞれの担当領域(財務・総務・人事・企画)ごとに◯◯室というセクションが設けられ、全体の経営を管理。事業本部は副社長兼COOの管轄。2つの直轄事業部と会社全体が社長兼CEOの管轄といった感じの組織構造です。
その他に、社外から『経営のプロ』として招聘した会長を含めた7名体制だそうです。
『うちは、事業部という小さな会社の集合体』というほど、事業部レベルでのマネジメントに力をいれていましたが、その方法が中々面白かったので書いてみます。
『良い計画』の作り方
そうそう、頂いたコメントの中にこんなものも有りました。
id:doas1999 うお、コメントへ言及されてた。聞きたかったのは「各社員、売上とか握って無いのかな?」ということでズレてたけど、順調に成長してて計画は普通に達成するんだろうな。
読解力が足りなくてすみません(´・ω・`) もちろん、どんな会社にあるようにも『計画』は有ります。ただ、聞いているとこの計画の建て方が特徴的なんですね。社内で最も重要とされる『計画』は、『事業計画書』と呼ばれるものだそうです。
『事業計画書』は、それぞれの事業部毎にひとつ(場合によって複数)作成されます。すごい特徴的だなあと思ったのは、『事業計画書』は四半期ごとに直後の四半期単位での計画として見直しが行われます。いわゆる、『年間予算』というものは持っていません。(銀行などに言われて必要なった時は、4四半期分合算して提出するみたいですけど)考え方としては、この辺を参考にしているそうです。
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いわゆる、ローリング予算ってやつですね。あと、実際に現物を見せてもらったことがあるのですが、ほぼすべて『文字』のドキュメントでした。 『それっぽい図表やグラフで誤魔化したような計画はあかん。ちゃんと文字に起こして、読んだ人が腑に落ちるようなものやないと。あと、検索しやすいしな』とのことだそうですが、パワポで作った、誤魔化されまくった何かを見続けてきたので、ちょっと衝撃的でした。
特に所定のフォーマットはありませんので、
- どんな製品をいつまでに作るのか
- その市場の規模はどの程度と考えるのか
- どれくらいの人数が必要か
- 予想される利益はどれくらいか
などなどが書いてあればよいので、各自の判断で書くべきものを書くそうです。
『事業計画書』は、各事業部長が起草し、取締役会に諮られます。勿論、皆さん事前に根回しはかけられるそうですが、実現可能性について喧々諤々の議論をした結果で、『社員』という唯一絶対の最重要資源の分配を決まるそうです。
『そんな作業、年に何回もやって大変じゃないの?』と聞いたことはあります。そうしたら逆に『1年も前に立てられた計画を実行するほうが大変じゃない?』と返されて、『うーむ』となってしまいました。
ちなみに、コメントへの回答は『勿論、売上という単位での計画はあるが、それは事業部長の負うもので個人の負うものではない。あと計画への評価という意味では、外的要因の大きい売上はあまり見ていない。リリーススケジュールの遅れや残業の発生については、計画の妥当性に問題があった可能性が高いため、シビアにチェックする。』だそうですよ。
承認された『事業計画』を元に四半期単位で業績評価や定期人事異動が行われます。そういや、こんなコメントももらっていましたね。
id:masaru_b_cl なんという「アジャイル」な組織だ……
id:inazakira 朝会とか属人化を避けるとかめちゃアジャイルじゃん。
『そうか、今まであんまり深く考えてこなかったけど、これってアジャイルなのかー』と言っていましたが、かなり考え方としては近いものがあると、わたしも思います。
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学び続ける組織をどう運営するか
ただこれ、社員にとっては結構きつい組織運営です。『渋滞の発生分析のために、車の動きの分析をずっとしていたのに、来月からアラビア語サイトの人の流れを分析するSEOを実施せよなんてわけわからん辞令が出たぞ』みたいな例はざらにあります。
世の多くのIT屋さんで残業が減らない理由のひとつが、ここにある気がします。知識や技術がタコツボ化し、必要な時に人材の異動が困難。また人手が足らない時は、派遣社員や外部委託を利用するため、当然知識は会社に蓄積されない。さらに、多額の管理コストが発生し、エンジニアの給料には中々反映されない。
どうやってこの問題に取り組んできたんだろう?と疑問に感じていたのですが、最近その答えのひとつが、『新入社員研修』にあるような気がしてきました。
この会社の新入社員研修ですが、その昔、社員一同で作成した『Golden Eggs Plan』というマニュアルがベースになっています。一般的なビジネスマナー講座やプログラミングの講習もあるのですが、最終的なテーマが『自社システムの改善』。
社内のシステムは、何代目かの社長の『うちはドッグフード屋じゃねえぞ。安くとも、客には自分たちで食ってみて美味しかったものを出す町の定食屋だ』との宣言から、かなり内製化が進んでいます。研修は、その改善やAPIで流し込める何かを作るというのが課題ですね。
新人たちは、先輩たちにヒアリングをし、要件を分析し、仕様をまとめ、スケジュールを引き、本番稼働のための教育を行い、利用後の評価を取りまとめるというところまでやらせられます。『下っ端は賄い料理を作らせるところからやな。良かったら正式メニューに出せばいい』とのことだそうですが、最近では『Suicaのレコードから交通費申請を自動的に起こすもの』などの力作も出ているようです。
『タダでしてもらえる公共工事』『若い子とふれあえる』と、先輩社員は結構喜んで協力してくれるそうですが、接点が多いだけにGolden Eggs Planには、先輩社員としての心得が色々と書いてありましたが、ちょっと心に響いたのがこれ。
『ググれ』と言ってはいけない。
『自己解決力』を高めることよりも、『困ったときは人に助けを求める』ということを学ぶことが第一である。仕事はひとりでするものではない。
問われた質問には、全力で答えよ。その時に、理由や背景、調べ方も含めて、あなた方が先輩たちにして貰ったように教えること。
あー、これなんだなあって。色んな標準化の仕組みとかはあるんだろうけど、『ドキュメントに書いてあります』とか『忙しいんで調べてください』とか言われちゃったら、異動してやっていける気がしないよなあって。もっとその根底に『どこいっても仲間が助けてくれるだろう』『困っている仲間がいたら助けあおう』という風にしつけられているから、風通しのいい会社にもなるんだろうねえ。と思った一文でした。
ストーリーとロジック
最後に、Golden Eggs Planを始めとした改善案が出てくる『社員会』という組織についても触れておきたいかなあと思います。
多分、どんな会社にもある互助会のような組織なのですが、創業社長が『俺はもう随分稼いだ。感謝の気持に。』と大量の株式を譲渡した結果、株式の35%を所有する筆頭株主でもあります。年に1回、株主総会で新取締役候補に投票するかどうかを決める、『社長選挙』なんてイベントもあります。サイボウズさんも似たようなことしてましたね。
サイボウズグループ | ニュース | サイボウズ、従業員持株会の議決権を会員自身による個別投票で行使
社員会には、労働・財務・職場環境・子育て・研究教育・防災・地域連携・クリスマス会実行などなどの委員会があり、社員は1つ以上の委員会に参加することになっています。会社の図書室に置く本から、地元のお祭の出し物まで月に2回のペースで就業後に議論しているそうです。
中でも重要なものが、『業務改善委員会』。業務改善委員会では、新しいビジネスから組織の体制まで、何でも自由に討議をすることが出来ます。まあ、それだけだったらどこの会社にもあるんでしょうけれど、いいなあと思ったのは、必ず社長か副社長が出席して議論を聞きます(参加はしません)。ここで、重要な提案が出来ると、非常に高い社内評価が得られるそうです。
社員会の会長は、形式的なポジションですが、取締役会の会長が兼任することになっています。良い内容であれば、会長を通して役員会にかけられ、計画をまとめた人たちはその計画の実行責任者として、必要な地位と権限が与えられます。
50人の組織であれば、トップダウンで『残業減らそうよ』といって組織の改善が出来ます。でも、ある程度の人数を超えてくると、社員ひとりひとりがモチベーションを持って改善に取り組まない限り、組織としての成長が難しくなります。その為に、ひとりひとりが経営に参加する意識を持つ仕組みを作ること。これが、経営にとって大事なことじゃないでしょうか。
そうそう、そういった社内提案を出すときの手引書みたいなものも社員で作ったそうですが、その中に、こんなことが書いてあるそうです。
誰もが納得出来るストーリーにすること
誰もが理解出来るロジックにすること
きっと、そういったことの積み重ねなんでしょうね。
ではでは、今日はこのへんで。