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ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

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ヴィレッジヴァンガードと株主優待の行方

経済・社会 会計・簿記


こんにちは、らくからちゃです。

先日、こんなニュースを読みました。

ジャスダック上場で雑貨・書籍販売の「ヴィレッジヴァンガードコーポレーション」は、2016年5月期通期連結業績予想を下方修正し、当期純損益が16億3300万円の赤字に陥る見通しを明らかにしました。

(中略)

エスニック雑貨・衣料を扱う連結子会社の「チチカカ」において、客数の減少やセール販売の抑制、冬物衣料の不振により売上高の大幅な下振れを見込むため、売上高・営業損益・純損益ともに前回予想を下回る見通しとなりました。

 『遊べる本屋』で有名なヴィレッジヴァンガードの通期業績予想が、16億円の赤字予想という厳しい結果になりました。さて、こちらの会社ですが、自社で使える優待券をどーんと1万円も提供していることで有名です。

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会社公式ページから引用すると、条件はこんな感じ。

必要単元数:

  • 1単元以上

配布枚数:

  • 1年未満保有   お買物券(1,000円券) 10枚 
  • 1年以上継続保有 お買物券(1,000円券) 11枚 
  • 2年以上継続保有 お買物券(1,000円券) 12枚 

ヴィレッジヴァンガード » 株式基本情報

 自社専用の優待券って、飲食店などでは多いのですが、近隣に店舗が無かったり欲しいものが無かったりと扱いづらいものも多いのんですよね。でも同社は『本』を取り扱っていますし、店舗数も多く、使いやすいのが特徴です。

株価は現在1,500円頃。最低100株からの売買なので、15万円程度で年間1万円分の商品券、単純に利回り計算をすると6.7%程度になります。この低金利のご時世においては、非常に魅力的な内容ですね!

ただそれは、あくまで『株主優待』の存続が前提です。会社が赤字になってしまうという中で、優待券の交付が続けられるのでしょうか?

今日は、その辺について個人的に整理してみましたので、書いてみたいと思います。

ヴィレッジヴァンガードの状況

 皆さんは、ヴィレッジヴァンガード、行ったことあります?最近だと大規模なショッピングモールにはほぼ必ず入居するようになりましたので、中に入ったことは無くとも、店舗の前を通ったことのある人は多いでしょう。

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(出典:ヴィレッジヴァンガード (書籍・雑貨店) - Wikipedia)

こんな感じの、何やら怪しげな商品が並んだお店です。『遊べる本屋』のキャッチフレーズ通り、店舗内には書籍も取り扱っているのですが、いわゆる『サブカル系』の本が多く、普通の本屋さんでは目立つ所には置いてもらえない本もここでは、堂々と平積みとなっています。

しかし、実際に同店の売上構成を見てみると、主力となっているのは『本以外』であることがわかります。

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(2016年5月期第3四半期決算説明資料より筆者作図)

売上高の7割ほどは、SPICE(雑貨類)となっております。その次に多いのが完全子会社チチカカの約2割。同社は、中南米のモチーフを使った衣料や雑貨などの『エスニック』な商品を取り扱い、本体とはまた違ったカラーの店舗展開を行っています。

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(出典:コクーンシティさいたま新都心 | チチカカ 公式サイト TITICACA OFFICIAL WEB)

今回の赤字転落の原因は、この『チチカカ』の不振です。ヴィレッジヴァンガード本体は、第三四半期累計にて営業益ベースで

  • 計画比 -6.6%
  • 前年比 + 51.2%

と中々頑張っていました。しかし、子会社チチカカが、営業益で赤字に転落。さらに、債務超過(資産を借金が上回る状態)となるなど、極めて厳しい状況です。ちなみにこの、債務状況とか赤字とかいう言葉遣いの意味は、こちらをご参考下さい。

さて、今回の『戦犯』であるチチカカ本体は上場しておりません。よって、詳細な決算情報を得ることは出来ませんが、公開されている範囲の中から分析すると、大変厳しい状況が見て取れます。

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決算発表資料より、売上高を

  • 売上原価
  • 人件費
  • 減価償却費
  • その他販管費
  • 営業益

に分解してみました。あわせて(分かりづらいのですが)それぞれの対売上高費を折れ線グラフで示してみました。売上高は伸びているものの、それを上回るペースでコストが増加し、営業利益はここずっと下がり続ける一方です。そして、とうとう今期マイナス化してしまいました。

チチカカについて、気になるデータがもう一つ。それは在庫回転率の低さです。

会計に馴染みのない人には聞き覚えがないかもしれませんので、少し解説しましょう。在庫回転率とは、売上高÷在庫金額で得られる指標です。売れた金額を、持っている商品の金額で割れば、1年間にお店の中の商品が何回分売ることが出来たか?が分かります。

商品をただ並べているだけだと、当然価値も下がっていきますし、管理コストもかかります。(更に財務コストも係るのですが、この辺はややこしいので割愛)企業にとって、在庫をずっと抱えているのは非常にリスクが有るんですね。

さてこの『在庫回転率』。チチカカとその他アパレル系企業を比較してみました。

  • チチカカ 2.76 
  • ワールド 9.44 
  • アダストリア 12.74 
  • しまむら 14.08 
  • ユニクロ 6.47 
  • ハニーズ 7.58

(´ε`;)ウーン…これは酷い。

勿論、ただ低ければいいというわけではありません。商品をセールで投げ売りして在庫を減らして回転率をあげるよりかは、ユニクロのように着実に利益の上がる商品をきちんと売ったほうがいいような気もします。しかしいかんせん営業利益率がマイナスになる状況で、在庫がこれだけ寝ているのは辛い

こんな状況になってしまったのは何故か?それは、親会社であるヴィレッジヴァンガードの経営戦略とその失敗にも大きく影響を受けているような気がします。

ヴィレッジヴァンガードの敗因

上の写真を見てもらっても分かる通り、ヴィレッジヴァンガードというお店は、非常に特徴的な店舗づくりをしています。何時頃からか姿を消してしまいましたが、かつてこんな『戦略』が決算説明資料に掲げられて居ました。

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(出典:2013年5月期第2四半期決算説明資料)

流れの激しいサブカルチャーの分野ですので、本部で集中的に管理するよりも現場に積極的に権限を委譲させたほうが良い。そして『文化』に密接な分野であるため、顧客の中から次の人材を確保した方がいい。

ここまではまだわかります。そして、その結果何が起こったのか。

売れない在庫が大量に発生した(ノ∀`)

確かに、主力商品である雑貨は、生鮮食品のように腐ることもなければ、電気製品のように新商品が出て要らない子になることも少ない商品です。ただ、顧客に『ワクワク』を与えるというコンセプトからすれば、あまりにも長い間同じ商品が売場に並ぶことは避けなければなりません

しかし結果を見る限り、企業のカルチャーとして『在庫』を軽視する文化にあったように思えてなりません。それが、子会社であるチチカカに影響した可能性も考えられなくはないでしょう。

きっと、仕入の判断はアルバイトにもあったのでしょうが、廃棄の判断までは出来なかったんじゃないでしょうか。できたとしても、経営的センスの必要な難しい判断です。

もしかすると、会計の評価システムが良くないのかもしれない。そこに気がついたのか、2013年期に同社は、在庫の評価制度を変えます。

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(出典:2013年5月期決算説明資料)

実際に売れ残って廃棄となる前に、売れるかどうかを判断し、売れないものは評価損を計上する。そうやって、機動的な在庫のコントロールを出来るようにする。その結果は、今季になってやっと成果を出してきました。

本や雑貨を取り扱うヴィレッジヴァンガードコーポレーションが
販売戦略を変え始めている。

従来は品ぞろえなど店長に100%権限を持たせていたが、
多店舗展開による人材不足などから売れ残りが目立つようになった。

その反省からPOS(販売時点情報管理)レジを導入し、
売れ筋を分析するようにした結果、
2015年5月期は既存店売上高が6年ぶりに前年を超えた。

 現場に裁量を持たせるやりかたは、ビジネスモデルとしては良い部分もあったのかもしれません。ただそれは、現場の成長が企業全体の成長にとっての制約となります。ヴィレッジヴァンガードは、いまや全国に387店舗を出す一大チェーン企業となりました。

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(出典:2016年5月期第3四半期決算説明資料)

おそらく人材育成や戦略についても、これまでと同じような方法ではいけない。そのことに気がついたんでしょう。

特に、近年大幅に増えた大型ショッピングセンターに入居する店舗や地方の店舗では、従業員層も客層も、全く異なったセグメントとなります。ある意味、『ヴィレッジヴァンガードらしさ』が必要とされない店舗です。そういった店舗では、POSのデータが威力を発揮します。

ここでひとつ、重要な教訓があります。

ヴィレッジヴァンガードを愛する人たちからは、急速な企業規模の拡大が失敗に繋がった、といった声が聞かれます。どんなセグメントにも通用する戦略はありません。しかし、別のセグメントに進出するにあたって、そのセグメントに応じて『味付け』を変えれば、規模の拡大と品質の維持は両立できる可能性があります

チチカカについていえば、まずはコスト構造から徹底的に見直していく必要があります。粗利率の改善や経費の削減を掲げていますが、こちらもヴィレッジヴァンガード本体と同様に、まずは陳腐化した在庫を徹底的にスリム化するところからはじめるのがいいのかもしれませんね。

株主優待の行方

さて最後に、一部の皆様には非常に興味のある『株主優待』について考えてみたいと思います。

現在、同社の株主は、3万5,000人を超えており、年間4億6000万円もの金額が株主優待費用として計上されています。売上高がざっくり400億円くらいですので、その1%が株主優待の費用として処理される結果になります。

企業が、株主優待を発行する理由は様々です。BtoBの企業などでは、存在そのものを知ってもらうために行う場合もありますが、基本的には株式を長期保有してもらうことが目的でしょう。(なお、株主優待の会計処理は『安楽亭事件』を参照)

特に、同社は創業家が29%の株式を保有しており、株主優待は経営側の安定工作を行うための手段のひとつとも考えられます。

さてここで注意してみるべきは、『銀行』との関係です。オーナーが圧倒的に支配権を持っていますので、経営状況が好調な場合、株主優待の存在に意義を唱える人は居ないでしょう。しかし、経営状況が悪化すれば、貸付金が回収不能となることを恐れた銀行からストップが係る可能性があります。

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現在、同社の銀行からの借入金は増加の一途を辿っています。そしてもうひとつ、厳しい状況なのが『キャッシュフロー』。

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ざっくり説明すると

  • 営業活動によるキャッシュ・フロー ・・・ 本業の稼ぎ
  • 投資活動によるキャッシュ・フロー ・・・ 店舗などの設備の取得
  • 財務活動によるキャッシュ・フロー ・・・ 借金およびその返済

について、現金の動きを説明したものになります。まあなんというか、ここずっと『借りたお金』の金額が『稼いだお金の金額』を上回る状況を続けています。勿論、将来的な儲けに繋がる公算があればそれでいいのですが、チチカカが債務超過状況に陥るなど、銀行としてもオチオチ言ってられない段階に来ているように思われます。

さてこれからどうなるかですが、ここから借入金を返済して自己資本比率を改善していくことが出来るのか?が大きなネックになるような気がします。出店計画を見ていると、前期は純減、今期計画も純減だったものが、一転し純増となっています。企業規模を大きくするには、資金が必要ですので、この様子じゃあ銀行とのお付き合いも長くなりそうです。

まだまだ、優待狙いの投資家にとっては、安心できない日が続きそうですね。もっとも、株主用の在庫処分セールについては、銀行さんも文句は言わないかもしれませんけども。

ではでは、今日はこの辺で。

ヴィレッジ・ヴァンガードで休日を (新風舎文庫)

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