ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

GDPとは何かを小学生でもなんとなく分かるように説明したい

こんにちは、らくからちゃです。

先日、こんな記事が注目を集めていました。

前々からずーっと言っているのですが、日本の一人あたりGDPはもはや先進国の中では高い部類には入りません。わたしが産まれた翌年の1988年には、世界2位の世界最先進国でした。しかし今や、多くの国が日本を追い抜かしていってしまいました。その辺は、こちらの記事にもまとめてみたので、よろしければぜひ!

GDPは、一国の経済状況を図る指標としては、最も広く使われています。当ブログでも、『GDP』というキーワードは繰り返し使ってきました。しかし、どれくらいの人がこの『GDP』という言葉を理解しているのだろうかと不安になってしまうことが有ります。

インターネットで『GDPとは?』とかそういったキーワードで検索してみても、細かな計算式や用語の詳細な定義の情報はたくさん出てきますが、『GDPが増えると何が嬉しいのか?』ということについては、余り触れられて居ないような気がします。

そこで今回は、『結局GDPってなんなのよ』ということについて、数式やら言葉の定義などはすっぽかして、小学生でもなんとなく分かるように説明することを目標に書いてみたいと思います。

国内総生産

さて辞書でもひいてみると、GDPとは『国内総生産』のことであると記載があります。では、国内総生産について調べてみると、以下のように記載されています。

一定期間に国内で生産された財貨・サービスの価値額の合計。
出典:こくないそうせいさん【国内総生産】の意味 - 国語辞書 - goo辞書

 実にシンプルに、『そのままズバリ』な説明ですね。もうちょっと深く考えて行くために、少し例を出して考えてみましょうか。経済学の世界では、喩え話をするのにロビンソン・クルーソーの話を使います。ロビンソンは、ひとりで無人島で生活していましたが、一人だと寂しいので、10人の開拓団で無人島を開拓するお話にしましょう。話ぜんぜんちがうけど、トロピコ面白いよね。

何をするにも、まずは食料を確保しなければなりません。彼らが持ってきたのは芋を樽10個分。まずはこれを育てて食料にしましょう。幸いこの島では、植えた量の5倍の芋を収穫することが出来ます。そこでひとまず樽50個分の収穫を得ることが出来ました。

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で、この島で言う『国内総生産』は『樽50個分の芋』ということになります。あくまで『総生産』なので、増えた量ではなく、実際に作られた量という考え方ですね。

消費と投資

次に、この収穫した芋をどうするのかを考えたいと思います。全部食べてしまうと、次の作付が出来ませんので、樽30個分を今年の食料に、残り20個分を来年の植え付けようにすることにしました。 

経済学の用語としては、『作った期間のうちに使うもの』を消費、『そうでないもの』を投資と言います。

 

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会計学的には『何かを作るために資金を使う』といった意味になりますが、経済学的には『今すぐには使わないけど将来のために作っておく』といった意味になります。投資は、

  • 設備投資・・・企業が買う設備や機械
  • 在庫投資・・・企業が在庫として増やした原料・商品
  • 住宅投資・・・企業や家計が買った建物
  • 公共投資・・・政府による社会資本の整備

 の4つの区分に分類することがあります。ちょっとイメージしづらいのが『在庫投資』ですかね。来年、売ったり使ったりするために、今年ちょっと多めに作っておく。そういったものも、経済学上は『投資』と分類されます。

経済成長

さて、樽30個分の芋しか食べられないのは、10人の開拓団にとってはかなりひもじい生活でした。しかし、生活をより豊かにするために、耐え忍んだだけの価値がありました。前年と同じだけの比率の収穫があったため、植えつけた量の2倍、樽100個分の収穫が上がりました。

この島の国内総生産は樽100個分の芋となりました。前年からみると、2倍の収穫です。この増えた分を『経済成長』増えた割合を『経済成長率』と言います。

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国内総生産は、そのエリアで生み出された『価値』の総額を意味します。この価値が増えるということは、それだけ社会が豊かになった、ということが出来ます。これで開拓団はひもじい思いをすることはなく過ごせるでしょう。

経済成長は、大きく分けて3つの要因で発生するとされています。

  • 労働投入の増加・・・働く人が増えること
  • 資本ストックの蓄積・・・生産に使える投資が増えること
  • 技術革新・・・新しい生産方法や社会の仕組みが生まれること

今回この島では『資本ストック』が2倍に増えましたので、同じ労働量・技術レベルで生産した結果、得られたものの量が2倍になりました。

産業構造の変化

では、来年度も同じようにみんなで仲良く芋を作ろうかなーと思っていたところ、開拓団のひとりが、凄いことを発見しました。島にある木を切り倒して、上手に使えば、なんと樽1個分から樽10個分の芋を作る方法を発見したのです。

しかし今の人数なら、樽100個分の芋があれば十分です。そこでこの島の取りうる選択肢は、この3つです。

  1. 投資の量を前年の樽20個から10個に減らす
  2. 働く時間を半分にするか、半分の人は休む
  3. 手が空いた人は別の仕事をする

1は、我慢しなければならない量が減るのでいいですね。2も、のんびり暮らせそうで良いです。しかし、まだ開拓団は『芋だけの生活』に満足して居ません。そこで、作業をする必要がなくなった人たちは漁師になることにしました。これで、開拓団の職業構成は

  • 農家・・・5人
  • 木こり・・・1人
  • 漁師・・・4人

となりました。

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さて、経済学の世界では、ひとりひとりの個人がよりよい生活を目指して各自努力する存在として捉えられています。その為、より効率よく働ける環境を目指して職業を変えるものと考えています。そうした結果、より必要とされる産業に対し、労働力が移っていくことによって、産業構造の変化が発生し、社会全体の総生産が増加します。

また、社会全体の生産性が低い状態では、生存に必要な最低限の資源を獲得するための産業、この島で言えば農業ですかね、が発達します。しかし、最低限の需要が満たせれば、より効率的に生産を行うための工業や、より贅沢な生活を送るためのサービス業が発展します。この島で言えば、前者が木こり、後者が漁師さんでしょうか。

貨幣

さて、この島の生産量は概ね下記の通りとなりました。

  • 農家(5人)・・・芋を樽100個分
  • 木こり(1人)・・・木を10本
  • 漁師(4人)・・・魚を袋40個分

少なくとも、芋を樽100個分相当作っていた時から比べれば、ずいぶんと成長したように見えますが、いまいちピンときません。単位がバラバラだからですね。そこで役に立つのが『貨幣』です。

木こりの人は、自分で直接たべものを作っていませんので、取ってきた木を芋や魚と交換する必要があります。しかしここで困ったことがおきます。漁師の人は、芋であればほしがりますが、木は特に必要としていません。そこで、手持ちの木を、芋にすべて変えてから魚屋さんに行く必要が有るんですね。

これって、参加している職種が3つだけなのでいいのですが、もっと社会が複雑になったら対応しきれません。そこで、共通の尺度として『貨幣』を導入することにしました。名前は何でもいいのですが、『ペリカ』にでもしておきましょうか。

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これで、いちいち相手が何を欲しくて、何を要らないのかを考える必要がなくなりました。こういった『貨幣』には大きく分けて3つの機能があるとされています。

  1. 価値尺度・・・様々なものの価値の比較が出来るようになる
  2. 決済手段・・・取引の手段として相手を選べず使うことが出来る
  3. 貯蔵保存・・・売りたい時期と買いたい時期をずらすことが出来る

求められている機能から、貨幣となるものには、『価値の比較がしやすいよう、均質で切り分けられやすい』『持ち運びに不便でないよう、サイズが小さくても価値があるほど希少であること』『腐ったり品質が変わったりしないこと』が必要とされています。

さて、現在の貨幣は、そういった『実物』の貨幣ではなく、実体を持たない『信用』の貨幣が広く用いられています。よく、貨幣論の教科書では、『もともと実物として取引されていたものが、あるタイミングで信用として取引されるようになった』というような説明がされていますが、最近『もとから信用として取引されていた』という説を唱え得る書籍が発表されました。中々面白かったです。

また、今回はあまり関係ありませんが、3の『貯蔵保存』機能は、金融の基礎に直結してくるのですが、それは又の機会にでも。

財とサービス

さて、貨幣を使うもうひとつのメリットとして、『形を持たない物』も総生産として捉えることが出来ます。漁師をしていた開拓団の中に、ひとり医学の心得を持っている人がいましたので、この人にはお医者さんになってもらうことにします。

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漁師は一人減りましたが、お医者さんにはみんな受診し、合計30ペリカのお金を支払いました。この30ペリカ分は、産まれた『総生産』に含めることが出来ます。

農家だって漁師だって、『あなたが農作業や漁に出る代わりに、その作業をやってくれていた』と考えれば、すべての産業は『サービス業』です。お店にいって、並んだ商品を買うのは、その商品を作る作業を行ってくれた人にお金を払うのと同じなんですよね。

そして、そうした『サービス』に対して払った金額の増加=作られた価値の増加という風に考えることが出来ます。

付加価値

すべてが共通の尺度で取引されるようになったため、この島の経済の状況がよく見えるようになりましたね。それぞれの生産量を貨幣に置き換えるとこんな感じになります。

  • 農家(5人)・・・100ペリカ(1樽1ペリカ)
  • 木こり(1人)・・・20ペリカ(1本2ペリカ)
  • 漁師(3人)・・・30ペリカ(1袋1ペリカ)
  • 医師(1人)・・・30ペリカ

あわせると180ペリカになります。ですが、これでいいのでしょうか?

農家の人の作った『芋』の中には、木こりのひとの取ってきた『木』の価値が既に組み込まれていますよね。なので、農家の人達が生み出した『実質的な価値』は、差し引きの80ペリカ分になるはずです。

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GDPとは、一定期間内に生み出された『価値』の合計です。100ペリカ分の芋を作ったとしても、うち20ペリカは木こりへの支払いで消えてしまいますので、実質的に生み出した価値は差額の80ペリカになりますね。前年度との差し引き計算は行いませんが、同一期間内において、重複する可能性のある生産は相殺して除外します。

また逆に言えば、最終的に利用される100ペリカ分の金額を集計していくことによっても、GDPを測定することが可能です。

名目と実質

基本的に、物の値段は『需要』と『供給』によって決まるものと考えられます。よって、物の量が増えれば、それに応じてそのものの価値は下がります。例えば、お魚が例年より大漁だったとしましょう。

前年は、40袋分の魚が取れたのですが、海流が変わったせいか、倍の80袋分の漁獲がありました。放っておいても腐ってしまいますので、漁師の人はちょっと値下げしても売り切ろうとしますよね。その結果、魚の値段が下がってしまいました。いままで、1袋1ペリカで売っていたものが、0.75ペリカまで値下がりです。

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さて、この数値だけ見て、島の総生産を計算するとこうなります。

  • 農家(5人) ・・・100ペリカ - 20ペリカ = 80ペリカ
  • 木こり(1人) ・・・ 20ペリカ
  • 漁師(3人)・・・60ペリカ
  • 医者(1人)・・・30ペリカ

合計190ペリカですね。でも、島に出回っている魚の量で言えば、前の年の2倍になっているはずです。そこで、前の年の価格レートで計算するとこうなりました。

  • 農家(5人) ・・・100ペリカ - 20ペリカ = 80ペリカ
  • 木こり(1人) ・・・ 20ペリカ
  • 漁師(3人)・・・80ペリカ
  • 医者(1人)・・・30ペリカ

合計210ペリカですね。こうやって、価格変動が無かったものとして計算された総生産を実質GDP額面そのままのGDPを名目GDPといいます。ただここで『実質』という言葉を使う『じゃあ、名目って何か必要なのか?』と思われるかもしれません。

確かに、物の量で言えば、40ペリカ分成長しています。しかし、漁師さんが受け取れたお金でいえば、20ペリカ分しか増えていません。実際に世の中に増えた物の量というのは中々見えづらいものですが、金額として目に見える名目は分かりやすいものです。また、借金など既に金額が決まっているものもあります。ですので、実質GDPだけ上がっても『なんか世の中良くなったよね感』は弱いんですよね。

例えば、企業の業績にしても、『今期の利益は50%増ですが、実質では100%増です!』といわれても『えー』って感じしませんか?いろいろな判断の基準になる数値が、実質値ではなく名目値で考えられる以上、やはり名目GDPも重要な指標なんですね。

三面等価の原則

さて最後に、この島の現在の経済の状況を、様々な角度から名目値ベースで見てみましょう。まずは作っているものです。

  • 芋 80ペリカ
  • 木 20ペリカ
  • 魚 60ペリカ
  • 医療 30ペリカ

作っているものからみたGDPを『生産面』からみたGDPと言います。あわせて190ペリカですね。次に、誰が作っているのかの観点から見ましょう。

  • 農家 80ペリカ
  • 木こり 20ペリカ
  • 漁師 60ペリカ
  • 医師 30ペリカ

受け取った人からみたGDPを『分配面』からみたGDPと言います。今回は、みんな自営業者でしたが、本来のGDPでは、企業・家計・政府の間での分配を示したりします(今回は経済三主体は割愛してしまいましたので、それは又の機会にでも)。なんにせよ、合計190ペリカです。次に、作ったものをどうしているのかの観点から見てみましょう。

  • 消費 170ペリカ
  • 投資 20ペリカ

今年使いきってしまった分と、来年度に持ち越す分。そういった側面でみたGDPを『支出面』からみたGDPと言います。これも合計190ペリカですね。

国内総生産の計算では、『生産面』『分配面』『支出面』からみた額は常に一致します。というか、するものとして計算します。これを、『三面等価の原則』といいます。

日本のGDP

ここまで『喩え話』で話を進めてきましたが、そろそろ現実世界の話に戻りましょうか。まず、現時点の日本のGDPの内訳を見ていきましょう。

まずは、一人あたりのGDP、総付加価値額を見てみましょう。

 三角ボタンを押していただければ、推移が見れてなかなか面白いのですが、ここしばらくで随分と順位を落としてしまったように思われます。この原因を考えていくにあたって、各産業別のGDPの比較を見てみましょう。経済産業省さんが中々面白い図を出しています。

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(出典:都道府県・産業別の付加価値額)

日本のGDPの多くを生み出しているのが『サービス業』。1982年から比べると、産業全体の生産量は2倍近くになりましたが、一人あたりの付加価値額は全産業最低水準です。一方、二位の製造業を見てみると、一人あたりの付加価値額1.5倍になったものの、産業全体の規模ではあまり変化が有りません。

経済成長は、『労働投入量の増加』『資本の蓄積』『技術革新』によって生じると書きましたが、製造業と非製造業で『技術革新による成長』を比較すると、下記のようになります。

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(出典:サービス産業の 高付加価値化・生産性向上について)

製造業の生産性が伸び続けてきたのに対し、非製造業の成長のペースは随分とゆっくりしたものでした。

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(出典:通商白書2013)

もう少し内訳を見てみましょう。産業別に、アメリカと日本でTFPを比較してみると、比較的ウエイトの低い運輸・小売・卸売といった分野において、成長が大きく遅れていることが見て取れます。特にこの分野は全体に占めるウエイトも大きく、かなり大きな打撃です。

特にこれから、人口減少が避けられない中、より社会が豊かになるためには、大量の雇用を抱えるサービス産業の生産性の改善は大きなテーマになります。もう、『アマゾンが街の本屋を破壊する』なんて言っている場合じゃないと思うんですよね。みんなが、アマゾンくらいの会社をどんどん立ち上げて、生産性を改善していくつもりがなければ、どんどんこのまま置いて行かれてしまいます

今回は、かるーいダイジェストとして書いてみたので、だいぶ論点を取りこぼしながら話を進めてしまいました。また今度、どこかで続きが書ければなあと思います。 

あとは、こういった『経済学の基本』について勉強するのであれば、ちゃんとした教科書を読むのが一番ですね。経済学の教科書って、『◯◯教授の経済学』みたいな形で、著名教授が作っているケースが多いのですが、個人的にはクルーグマンが読みやすくてよいかなあと思います。マンキューやスティグリッツよりかは、ふんわりしていていいと思いますが、いずれにせよ電車で読むにはおすすめできませんな。

ではでは、今日はこの辺で。

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