ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

もう『非正規雇用』って言うのやめにしない?

小学校の低学年くらいだったかなあ。先生が、『外人と言うのは、自分たちの仲間とは違うひとという意味を持つため、差別的な表現になります。外国人と言いましょう。』なんて言っていたことがありました。

『長ったるいから短縮しただけやん。』とは思うものの、世間一般では『ガイジン』というのは、『ジャパニーズ』を『ジャップ』と呼ぶのと同じように、侮蔑的に感じる人もいるそうです。

気がついたら、痴呆症が認知症と呼ばれるようになっていたり、保母さんが保育士さんと呼ばれるようになったり。色んな所で『こういう言い方はやめておきましょうねー』という言葉遣いは有ります。パターンとしては『差別的な表現だからやめましょう』というものと、『誤解されるので変えましょう』という感じでしょうか。

システム屋としての個人的な想いを言ってしまうと、同じキーワードで検索ができなくなるし、そんな言葉遊びをしている暇があるんなら、少しでも相手の抱えている問題を理解することに時間を割いた方が有意義じゃないのかねえ・・・と思わなくも有りません。まあ、あえて世間の流れに逆らうことのメリットは有りませんので、気にせずそのまま使ってはいますけど。

でもやっぱり、こういった『言葉狩り』みたいなことは良くないよね、とは思うんですよね。でも、一個だけ『それってどーなのよ?』と思い続けている言葉があります。

それが、タイトルに書いた『非正規雇用』という言い方です。

正社員とは何か

 わたしが中学生になった2000年代初頭は、いわゆる『就職氷河期』まっただ中でした。当時行われていた『ゆとり教育』では、中学生からしっかりキャリア教育をすべきという方針があったようで、『将来、しっかり正社員として働けるよう、今から何を学ぶべきかきちんと考え、どういった学校に進学するのかを考えましょう!』なんて話を度々聞かされました。

クラスメートたちは、まともに聞いていたのかどうかはわかりませんが、特に疑問をぶつけることも有りませんでしたが、わたしは性根が曲がっていたので、教師に向かって

『そもそも正社員って何?』

なんて、聞いてみました。が、納得の行く答えは返ってきませんでした。それもそのはずで、そもそも『正社員』って法律で明確に定義された言葉ではないんですね。法律用語で『社員』という言葉はありますが、これは世間一般のひとの思い浮かべるものとは違って、『株主』とか『出資者』といった意味合いの言葉となります。

いわゆる正社員の条件とは、

  • 月給制である(時給制ではない)
  • フルタイム労働(一日約8時間*週5日)
  • 社会保険に加入しており、有給等が使える
  • ボーナスが貰える
  • 雇用期間の定めが定年まで

ざっとこんな感じでしょうか?

非正規雇用の種類

そして世間一般では、上記に当てはまらない働き方をする人たちを『非正規雇用』という言い方をするわけですね。ひとくちに『非正規雇用』といっても色んなパターンがあります。

パート

一般に主婦層を中心に、通常の労働者より短時間の労働を行う労働者。アルバイトとの法的な違いはないが、比較的長期間雇用されるものを指していう場合が多い。

アルバイト

一般に学生や高齢者を中心に短時間の労働を行う労働者。いわゆる『シフト制』で、労働時間が変動的な場合が多い。

契約社員・嘱託社員

一般に正社員と同じ時間の労働を行うものの、雇用契約が一定期間に限定される労働者。一般に、一年ごとに契約の更新を行うかどうか判断する。嘱託社員は、定年退職後の延長雇用対象者を指していう場合が多い。

派遣社員

就労先とは別の企業と雇用契約を結び、給与等は所属企業から受け取るものの、指揮命令は就労先から受ける。

 

ちょっと乱暴なまとめになりますが、こんな感じでしょうか。派遣社員については、所属が別企業になりますので、明確に区別することが出来ますが、残りのものについては、『いわゆる正社員』と含めても、明確に区別されるものではありません。

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(出典:「非正規雇用」の現状と課題 |厚生労働省より)

比率で言うと、パートが48.5%と全体の半数近くと最も多く、派遣社員は案外少なく6.4%程度となっています。

非正規雇用って言い方おかしくない?

そもそも、どうして『非正規』と呼ぶのか。『正規』ではないから、非正規。じゃあ『正規』とは何か?辞書をひくとこんな感じに載っています。

正式の規則。また、それに基づいていること。「―の資格」

・・・うーん?アルバイトやパートは、正式の規則に基いていない雇用契約ってこと?んなことないでしょう。

じゃあなんでこんな言い方になったのかねえと調べてはみたものの、明確な根拠についてはよくわかりませんでした。ですので、推測でしかありませんが、『メイン(正規)』に対する『サブ(非正規)』というような意味合いで始まった言い方かもしれません。それとも海外からの訳語だったりするのかも。

前述のグラフにもありましたが、いわゆる『非正規雇用』と呼ばれている働き方をしている人たちは、年々徐々に増加しており、全体で37.5%と1/3を超えており、直近の調査では4割に達しています。

逆に言えば、『非正規雇用』は、ほんの一昔前まで会社にとっても家計にとっても『サブ』の働き方だったものの、もはやどちらが一般的か?を問うことすら出来ない状況です。なおのこと『非正規』なんていう言い方自体、疑問があります。

みんなが正社員になればいいのか

また『非正規雇用』と一口にいっても、それぞれが抱えている問題って違うような気がするんですよね。

まず、主婦層が多いパート社員では、社会保険の適用になるかどうかが最大の関心事でしょう。一方、アルバイトでは、立場が弱く無理なシフト調整を押し付けられやすいところがポイントのような気がします。契約社員であれば、雇用契約の延長が気になるところでしょうし、派遣社員であれば間に入る派遣会社との関係性が重要でしょう。

そういった問題をなくそうとすること自体は大切ですが、 一部の政治家のいうように『希望する人全員が正社員として働ける社会』が正しいのか?と言われれば、うーん・・・と思ってしまいます。個々の企業の需要もありますし、労働規制を強化しても、雇用の萎縮に繋がってしまうでしょう。働き方のニーズだって様々なはずです。

また最近では、『名ばかり正社員』なんて言い方をするようですが、労働条件が非常に悪い正社員の問題も出てくるようになりました。

単純に、『正社員』=良い、『非正規雇用』=悪い という風に考えるのは、色々と見誤るような気がするんですよね。

もう『非正規雇用』って言うのはやめにしない?

本来、パート・アルバイト・契約・派遣というのは、働き方の形態を指す言葉でしか有りません。賃金や待遇は違ったとしても、きちんとした規則に則って雇用契約が結ばれているはずなのに、まるでそれが正しくないことをしているように表現する言い方ってどうなのん?と最近思います。

『非正規』と言ってしまうことで、本来受けることが出来る権利が『君たち非正規だから』と失われてしまっていることすらあるような気がします。また、『非正規』なんて海賊版か偽物のような呼び方をしてしまうのは、社会的にも問題があるんじゃないでしょうか。

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個々の考え方や家庭の状況があって選んだ働き方について、そんな風に言うのは、なんだかなーと思うんですよね。

もちろん、パートやアルバイトといった人たちの抱えている労働条件は改善していく必要も多いと思います。でもそれは、『非正規雇用が悪いから、正規雇用にしよう』といった問題ではなく、個々に解決していくべき課題のような気がします。その中には、いわゆる『名ばかり正社員』の問題も含まれます。

『非正規雇用』って言い方をやめにすれば、なんて言えばいいのか?それは、正規も非正規もない『雇用』です。本来そこは、分けて語る必要のない言葉のはずです。『みんな同じ労働者』という土俵の上に一度立ったうえで、個々の働き方の抱えている問題については、それぞれ個別に議論し、みんなが幸せに働ける社会をめざしていくべきなんじゃないの?と思う今日このごろです。

ではでは、今日はこの辺で。

追記

本件について、id:wattoさんからコメントを頂きました。まずは、コメントありがとうございます。ここに思うところを書いてみたいと思います。

労働者契約法という法律があります。この法律では、いわゆる『正社員』を「無期労働契約」、パート、アルバイト、契約社員・嘱託社員…を「有期労働契約」として、明確に区別しています。

 意図を捉え違いていたら大変申し訳ございませんが、もし

  • 正社員・・・無期雇用
  • 非正規雇用・・・有期雇用

と定義するという話であれば、それは少し違うような気がします。引用されている箇所は、『職場での呼び方はとにかくとして有期労働契約には違いはない』ということを示したものでしょう。

また、

本記事をベースに考えると、パートやアルバイトにおいても、無期雇用の形態はありえるように思われます。実際、工場で長年働いているベテランのパートさんとかは無期なように思われます。本記事で、働き方の分類について分類を定義しているものは、元の調査での定義から引用すると、

「会社などの役員」以外の雇用者を,勤め先での呼称によって,「正規の職員・従業員」,「パート」,「アルバイト」,「労働者派遣事業所の派遣社員」,「契約社員」,「嘱託」,「その他」の7つに区分した。

平成24年就業構造基本調査

 とあります。その他諸々、政府が行っている統計調査は概ねこの『勤め先での呼称』によって行われ、「正規の職員・従業員」以外を「非正規」と定義しているんじゃないでしょうか。

法律用語、というのは狭く取れば法令や政令等になると思いますが、私の知りうる限り、直接条文の中で『正社員』とか『正規雇用』といった語はなかったような気はします。ただ、wattoさんが指摘しているような行政の出した文書や裁判の判例等も、広い意味では法律用語にあたると思いますので、それはそれでひとつの定義になるような気も致しますが。

本件についての個人的な見解をもう少し掘り下げていると、いわゆる『非正規労働者』の待遇の改善は重要な課題であると思います。しかしそれは、正社員化において実現されるべきか?というとちょっと違うんじゃないかな、と。

 もちろん、不本意非正規の問題は考えなければなりませんが、自身の選択として非正規労働の形態を選んでいる人もいます。(もっとも、現状の正規雇用の状況が悪すぎて、非正規を選ばざるを得ないといった側面もあるとは思いますが・・・・。)

そこで、個人的な見解としては、たとえ『主語が小さく』なったとしても、個別の事案にみんなが納得できる解を求めていくべきな気がします。コメントの中にもありましたが、有期雇用・無期雇用で最低賃金を分けるとか、あるいはアルバイト契約時にはシフトに関する詳細を盛り込むことを義務付けるとかetc...

それと同時に、特に正規・非正規で格差の大きい、職場内での訓練など、誰がその役割を担うべきなのか?もあわせて考えないとなあと、思うところでもあります。

もちろん、言葉だけいい改めたところで何かが変わるわけではありません。個人的な希望としては、「正規」「非正規」という語を超えて、「正規雇用労働者も非正規雇用労働者も、同じ労働者として手を携えて、共通の問題の解決にあたろう」と思う次第です。

雑文にコメント、ありがとうございました。改めて御礼申し上げます。