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ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

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国境税とは何か?―関税との違いと『仕向地主義』について



こんにちは、らくからちゃです。

ニュースで頻繁に耳にする言葉の中にも、意外とわかったつもりで良くわからないものってありますよね。トランプ氏がアメリカ合衆国大統領に就任してから良く聞くようになった『国境税』もそんな中の一つではないでしょうか。

あれっしょ、メキシコが困るやつ(゚~゚)

いまいち理屈は良く分からないけど、アメリカに輸出しようとする会社が困る税金、関税みたいなもん?わたしもその程度の認識でしたが、個人的に気になって調べてみましたのでまとめてみます。

国境税調整とは何か

この議論は、元々は2005年ブッシュ政権時に議会共和党から出てきた"Border tax adjustment plan" 国境税調整方式という考え方に端を発しています。もっとも今トランプ氏の考えている内容は随分と違いがありますが、今回はこちらの考え方について整理してみたいと思います。

細かな話にはいる前に、まずは法人税の仕組みについて振り返っておきましょう。

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法人税は、企業の受け取った収益から費用を差し引いた利益の部分に、税率をかけて税額を計算します。んなもん知っとるわ!(゚д゚)と、お叱りの声も聞こえてきそうですが、法人税率って国ごとにどれくらい違いがあるかはご存知でしょうか?

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(出典:法人実効税率の国際比較 : 財務省)

細かな税制優遇やら色々あるので、一律に比較するのは難しいのですが、アメリカの法人税(州税等含む)の高さが際立ちますね。この数値は頭の片隅においておき、国境調整税でやろうとしていることについてご説明しましょう。

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国境税調整では、アメリカの企業が輸出によって得た収益については、収益の計算から除外されます。つまり、税金の計算を行なう際の利益がその分少なくなりますので、税額も圧縮されます。アメリカから海外に輸出する会社が有利になります。

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その一方で、輸入の際に支払った費用は費用の計算から除外されます。その分利益が増えますので、税金の額が大きく計算されます。海外からアメリカに輸入する会社が不利になります。

言い換えれば、外国がアメリカへ輸出する場合、税金が費用に算入されない分だけ法人税が高くなりますので、関税と同じような効果を生みます。むしろ『輸入すれば品目問わず課税』&『輸出すれば減税』という効果になりますので、関税よりよっぽど質が悪いかもしれません。

その利益は誰のもの?

自由貿易こそ国際経済を発展させてきたものであり、それを自国産業にだけ有利なような税制を持っていくのはけしからん!ブロック経済が世界大戦を生み出した教訓を忘れたのか!と声を荒げたくなる気持ちもわかりますが、もう少し考えてみましょう。

例えば、国境をまたぐ取引で利益が発生した場合、それは

  • 商品が売れた国の利益
  • 商品を作った企業のある国の利益

どちらになるのでしょうか?

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両方の国が、『これは我が国で生じた利益なので、税金を支払うべきである!』と主張すると、税金が二重に生じる二重課税の問題が生じます。そうなってしまうと、貿易を行なうモチベーションが下がってしまいますよね。

そこで、色々な国の間で『どちらの税金とするのか?』を約束した『租税条約』と呼ばれる条約を締結しています。日本もアメリカと結んでいます。

日本では居住地主義課税という方式を採用しています。これは、税金は『居住地』に支払うルールです。例えば1ヶ月間ほどアメリカに出張にいってお給料を貰った場合、日本で課税され、アメリカでは課税されません。しかし1年を超えるような駐在員となった場合は、逆にアメリカの税金を払う必要があります。

例えば我が国でも『Amazonは税金を払っていない!!』と問題視していた人が居ましたが、企業の場合は日本国内に恒久的施設と呼ばれる建物を保有しているのかどうかがポイントになります。

日米税務当局の協議の結果、倉庫などの施設は物流子会社のものであり、Amazon本体がサービスを提供しているサーバー等はアメリカ国内に存在するため、恒常的施設を保有しておらず非課税であるという結論になりました。もっとも今は、物流会社と日本法人が合併しましたので、また状況が変わっているのかもしれませんね。

消費税と仕向地主義

一方、我々に身近な『消費税』は、企業がどこにあろうと商品の売れた国で課税されます。これを『仕向地主義』といいます。

私たちが支払った消費税は、企業が他の企業から材料を購入する際に支払った消費税との差額を税務署に納めます。これを繰返していくと、その国で生み出された付加価値に税金が掛けられたのと同じ計算になります。f:id:lacucaracha:20170210020055p:plain

(出典:多段階課税の仕組み : 財務省)

例えば、75円で仕入れた野菜を100円で売る場合、お店の人は農家の方から購入する際に6円分の消費税を支払い、消費者から8円分の消費税を受け取ります。

  • 売上:100円+8円
  • 仕入:  75円+6円

お店の人は、受け取った消費税と支払った消費税の差額、今回の例では2円を支払います。農家の人も受け取った消費税と支払った消費税(ゼロ円)の差分の6円を支払います。

ではこの商品を輸出する際はどうなるのかと言うと、支払った消費税が『輸出戻し税』として国から返され、商品を売った国の消費税がかかります。

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例えば先ほどの例だと、農家に支払った6円分の消費税が戻し税として還ってきます。その一方で、輸出先の国の消費税がかかります。この仕組は基本的に世界共通であり、消費税では既に『国境税調整』が行われています。

例えば身近なところだと、家電量販店でよく見かける『免税』の文字。外国人が日本国内で商品を購入して自国で消費する場合、消費税が掛けない制度なので『梱包が解かれたら分かるように』なんてルールになっています。

共和党が行おうとしていたことは、法人税についてもこの消費税と同じように商品が実際に売買された国を基準にした課税体系に変えようとしたかったんですね。

仕向地主義の狙い

というのも、アメリカには『消費税(付加価値税)』は有りません。『売上税』という似た仕組みが州税・地方税として有りますが、その税率は国際的に見ても高くありません。

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(出典:税の国際比較 | 税の学習コーナー|国税庁)

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(出典:US SQUARE:アメリカ州別の消費税をまとめて比較 - USスクエア(アメリカ情報まとめサイト)

つまり税制上、輸入品からも税金が取りやすい『消費税』の比率が低く、取りにくい『法人税』の比率が高い。そうした不均衡の是正がもともとの狙いにはありました。

『居住地主義』では、企業活動の実態と異なるエリアに税金を支払うように小細工ができます。そのため『タックスヘイブン』とよばれる税率を極めて低くして企業を呼び込もうとする国や、過度の税金引き下げ競争の加熱に繋がる可能性を孕んでいます。

『仕向地主義』を導入すれば、こういった問題を解決するのに役に立つ可能性があります。ただ国をまたがる税金の枠組みにも影響してくる話なので、色々な国同士で調整の上おこなう必要のある事項です。

その辺の話を全てすっ飛ばして『もうめんどくせぇから輸入したときに関税とったほうが早くねぇか?』なんて言い出すのでややこしい話になるわけで、もっとじっくり議論したほうがいいテーマなのに勿体無い話です。

皆様はどう思われるでしょうか?

ではでは、今日はこのへんで。